白の交渉
クレセントさんにサインを描いた後、ようやく落ち着いてきたので話を再開する。
「ではアリスト王国からの情報を伝えさせてもらいます。私の連絡を受けて宝物庫を調べた結果、聖剣と自動人形の劣化コピーと呼べるものがありました。これにより今までの検査を騙していたようです」
「劣化コピーというのはどの程度のものなのかな?」
「剣として使えるし動かすこともできるというレベルです。ただ力はなくとも聖剣の波動などが一緒であり詳しい検査をしなければわからないように作られていました」
「なるほどな。では私たちも所蔵しているものを調べる必要があるな」
「そうね、連合は各地に倉庫があるし数も多いから大変そうだわ」
簡単な検査ではわからないつくりというのは厄介だな。詳しい検査をするということはそれだけ人数が必要だ。しかも今回はすべての魔道具や聖剣を調べなくてはいけない。そうなるとこちらが調査にさける人数も減ってしまう。ここいらで恩を売ってみようか。
「雪白君、君なら偽物か判別できる魔道具か何かを作れないかな?」
「実物を見ないと何とも言えませんね」
「ではアリスト王国に聖剣のレプリカを貸してもらえるように交渉しよう。それを見て作れるようだったら連合と王国の分も合わせて作ってほしい。当然その分の金は払わせてもらう」
「わかりました」
やられたなあ。これで僕でなく徳治のジジイが連合と王国に恩を売ったことになる。しかも僕の作った判別用の道具の出来が悪くても評判が下がるのは僕だから手を抜くこともできない。さすが黒羽を滅ぼせなかった原因になった男だ。
「じゃあ次は私からの報告ね。あの機会と融合しかけた男はノイマー・フォン・グレーデル。連合の貴族院議員ラスター・リン・グレーデルの次男よ。今回のことについて彼は知らなかったと言って関係を否定しているわ。親の偉さを自分の偉さだと勘違いしている奴で、そんな自分と結婚できるのは女性にとって名誉なことだとか言ってる大馬鹿よ」
やけに馬鹿にされてる人だなあ。まあ余計なことをしただけですぐに死んじゃったから僕もよくわかってないんだけど、やはりバカだったのか。
「いつ組織に参加したのかは不明、というのもこいつの行動範囲が無駄に広すぎてわからなくなっているの。いつでも組織が接触する機会はあったわ」
「ではその線からたどることもできないか。全くと言っていいほど手がかりがないな」
「雪白さんは何かわかっていることはありませんか?」
「さあ?どうして僕に聞くんですか?僕はただの高校生ですよ」
「あのギルドに所属している人にただのなんてつけられませんよ」
「そう言われても残念ながら僕が言えることは何もないですね」
「ちょっとあんた、さっきから調子に乗ってるんじゃないわよ。いくらギルドが強いからってここで協力しないなんて許さないわよ!!」
「僕たちは襲われたとしても撃退できる自信があります。だからここであなたたちに協力することにメリットはあまりないんですよ」
「なにを」
「ではどうすれば協力してもらえるのですか?」
「そうですね………僕から聞いた『みんなでワイワイはしゃぎ隊』に関することを誰にも伝えない。それと『石化の聖剣』と『転移の聖剣』をもらえるなら協力してもいいですよ」
「それは少し取りすぎではありませんか?」
「それならこの条件をのむなら僕の聖剣の力を話しましょう」
さあどうする?
「アリスト王国はその条件を受けます」
「私も受けよう」
「なっ!?そんなあっさり受けていいの?聖剣を2本も渡すことになるのよ」
「そのことよりも彼の聖剣について知るほうが大切だと思いましたので」
「………そういうことならユーラシア連合もその条件に従うわ」
「では皆さんの同意をいただいたので、契約遵守の魔道具『指きり千本』を発動します。これにより今の条件を破ることはできなくなりました」
「では聖剣についてから話してもらえますか」
これでとりあえず利益はできた。黒羽や会長たちにも見学させた意味はあったかな。
「僕の聖剣『破滅の聖剣・ワールドエンド』の力は刃に触れたものを限界以上に強化または限界まで弱体化させるというものです」
「しかし『転移の聖剣』には触れていなかったのでは?」
「それは聖剣とは関係ないので話す必要はありません」
「そうですか」
これで聖剣についてはおしまい。後は影縫についてわかったことを言えば………
「では他に持っている聖剣について教えてください」
………やられた。