六日目………諸事情によりまだ収録は始まりません(友人)
いきなりスタッフの皆さんに囲まれ逃げ場をなくした僕。いったい魔道具に詳しいからといって何をさせるつもりなのか。
そして僕から離れて謝るポーズをしている圭介が憎くてしょうがない。絶対に後でなにかしてやると決意を改めた後、もうしかたないとスタッフの人から詳しい話を聞くことにした。
「それで、僕が魔道具に詳しいのがどうかしたんですか?」
「実はですね、このラジオだけがというわけではないんですが通信用の魔道具を今より普及させたいんですよ」
「どういうことですか?今でも通信用の魔道具は1人につき1つは持っているものでしょう?」
僕の知っている限りでは通信用の魔道具は1人1個、仕事で使う人ならばそれ以上の数を持っていてもおかしくはない人気な魔道具の1つのはず。
けして今より普及させたいなどというようなものではないはずだけど。
「それは重々承知しています。しかし私たちが言いたいのは所有数ではなくその使い方なのです」
「使い方ですか?………もしかして非常時の緊急モードのことですか?」
「おお、知っていましたか!!」
通信用の魔道具には災害などが起こった時のために緊急モードというものが存在する。
この緊急モードがなければそもそも売りに出せないほどの機能ではあるのだけどここ20年ほどは大規模な災害などはないのであまり意識されていないのだ。
それをどうにかしたいと思うのはラジオという災害時に発信できる情報源としてなのか。
まあ僕としてもそういうことには協力したい。とくに飲み水を空気中の水分から作り出す術式はどの属性色を用いても発動できるようにしてあるために刻んだ刻印が少しでも欠けたりするとうまく発動できないので少なくとも半年に一回はメンテナンスを受けてもらいたい。
というわけで僕の心は決まったのでそれを伝えるとスタッフ全員がすごい嬉しそうにしながらまた後日連絡を取るということで互いに名刺を交換したのだった。
「しかしよく考えてみるとラジオの関係者に魔道具技師はいなかったのかな?」
「そもそも魔道具技師になれるほどの人なら最初から魔道具を作る会社に就職するでしょう」
「まだまだ魔道具技師は需要を満たしていないんだねえ」
これから先、どれだけ魔道具技師が増えるかで国としての差が出てくるのかなあと現実逃避を含んだ考えをするラジオ収録3分前だった。
ちなみにこの収録が終わった後に圭介のアルバムを水樹さんに渡すということで僕のささやかな復讐は終わるのだった。