意外&不可思議
予想外
それが今の仁の心を占めていた。
今の彼には魔法は通じにくいし、そもそも魔法を使おうとしたときに生じる魔力の動きで察知できる。
少なくとも仁に通用するほどの強力な魔法ならそれを見逃すはずはない。
さらに言えば人の気配さえも察知できるのだ。不意討ちなんてディアがやったように目に見えない攻撃をよほどうまく隠さないと成功しないはずなのだ。
なのに誰かは仁の心臓へと剣を突き刺したのだ。しかもいまだに仁は誰がどうやって自分に剣を突き刺したのかが分かっていない。
そんな現状を仁は予想外と思いながら脅威とは感じていなかった。
「まさか僕を剣で突き刺せるとはね。まあそんなことができたからといってどうだってことだけどね」
「まあそうであろうな。今の貴様を刺したところで死ぬことはないだろうな。………その剣がそこらへんの普通の剣だったならばではあるがな」
「なんだって?」
ディアの言葉を聞いてその剣をよく見る仁。そして彼は気づいたのだった。彼の胸に突き刺さっていた剣、それは………
「その剣に見覚えがあるだろう?その剣は貴様が折ったと思っていた『破滅の聖剣』だからな」
「そんな馬鹿な!?確かにあの剣は折ったはずなのに!?」
「そう簡単に折れると思われちゃあ困るなあ。仮にも雪白一族全員を使って創られた聖剣の1つなんだよ」
『!?』
仁とディアの会話に途中で入ってきた声。それは死んだと思われていた雪白 透の声だった。
その声が聞こえたとき、ディア以外の全員が透を見た。しかし透の仰向けになっている上半身にある顔にはさきほど仁が部屋を荒らしたせいで色々なものが覆いかぶさっていた。
だが声は曇ることなくはっきりと聞こえた。これはなぜなのかその答えは魔法使いである彼ら彼女らにしても予想のできないものだった。
「おいおい、みんなして何を見てるのさ。僕はこっちだよ」
「………そんな馬鹿な」
「透君、その体は………」
「これは驚いたとかそんなちゃちな気持ちじゃないぜ」
「もう何でもありですねー」
………透の体は『破滅の聖剣』から生み出されていた。そう表現するしかない。
実際に彼の上半身が剣の刀身とつながっているのだ。さらにその刀身からは腰が現れ足が現れたところで透と剣のつながりは切れ、そこには普段通りの透の姿が現れたのだった。
魔法使いが見てもあり得ないという光景。常識から乖離した光景を生んだ透はしかしあくまで普段通りに笑みを浮かべながら口を開く。
「さて、終幕といこうかな?」