接近&覚悟
「………うわっ。なんかずいぶんと暗い気配が近づいてるなあ」
「これは仁かな?」
「もう来たの!?と言うかこんな夜遅くに来るなんて何を考えているの!?」
「何も考えなくても問題はないと思っているんじゃないのかな」
仁が近づいてくることに気付いたのは夜の1時を過ぎたころだった。いつ襲われるかわからないために時間を決めて夜の見張りをしていたのが功を奏してずいぶんと早くに気付くことができた。
「それじゃあ蓮、できるだけ早くみんなを起こしてくれるかな?いちおうここにつくのを遅らせるための仕掛けを色々とやっておくけどどうせほとんどが聞かないだろうからね」
「まかして!!」
「透君、私が仕掛けを作動させるから君は仁と戦う準備をしておきなさい」
「悠弥さん?」
「私はもう仁に負けているからね。まだ君の方が可能性としてはあるだろう?」
どこか悲しい目をしながら悠弥は透にそう告げた。
本来なら自分で止めたかったのだろうに、よりにもよってかなりの迷惑をかけている相手に頼み込まなければいけないという事実が彼を落ち込ませていたのだ。
だが頼まれた透の方も表情は明るくない。透にいたっては仁よりも弱いはずである赤井に負けたのだ。
どれほどの準備をしても届かないのではないかと思ってしまうのも仕方がないだろう。
だが2人はそんなことをそれぞれ考えていながらも諦めようとは思っていなかった。
たとえ実力で負けていようとも、不意を衝いて、相手を騙して、人質をとって、どんな汚い手を使ってでも勝つという意思がそこにはあったのだった。
そしてそれは黒羽 仁がいまだ手にしていないものでもあったのだった。
「みんな起きて!!仁が来たわよ!!」
「それはまたずいぶんと早く来たものだな。これはもしかすると本当に3日しか持たないのかもしれんな」
「それを確かめるためにも頑張ってしのいでいきましょう」
「おいおい瞬。凌いでいくなんて消極的な考えじゃああっさりと負けちまうぜ。ここはぶちのめしてやろうって想おうぜ」
「奈々ちゃん、その言葉遣いはダメですよー。ここは女の子らしくぐちゃぐちゃにしてあげますよーって言わないとー」
「それのどこに女の子らしさがあったんですかねえ。それで蓮さん、師匠たちは?」
「時間稼ぎ用の仕掛けを動かしているはずよ」
「そうか、では行くか」
『おう!!』
そうして今回の事件は終わりに近づいていく。その結末は誰にとってのハッピーエンドになるのか。
それとも誰も幸せにならずに終わるのか。
………答はまだでない。