勇者&研究者
透たちがのんびりと話しているのと同時刻。
黒羽 仁たち、勇者一行とアリスト王国からの脱走者たちはある場所に全員が集まっていた。
とはいえ勇者パーティは仁以外は無色透明の液体に満たされたカプセルのような装置の中に入っているのだが。
そしてその装置の前で仁とスティフ・サーリーが話し合っているのだった。
「さすが勇者様。あの黒羽 悠弥と雪白 透をあっさりと殺すとはすばらしい強さだねえ」
「………そんなことはどうでもいい。心たちの方はどうなっているんだ?」
「もう少しで最終調整が終わるよ。やはり雪白一族で作った『愛情の聖剣』と聖剣の中で最強のうちの1つに数えられる『勇者の聖剣』の2つを混ぜたんだからそう簡単には使えるようにはならないのだよ」
「そんな御託はどうでもいい。みんなは無事なんだろうな?」
「ええもちろんですとも。きちんと彼女たちのままですよ。この私がきちんと保証しましょう」
笑顔で胸を張りそんなことを言うスティフに対して仁はその感情が抜け落ちたような顔を変えることなく気になったことをさらに聞いた。
「黒羽 悠弥と雪白 透は殺せてもまだ黒羽 徳治を殺せるほどの力ではないだろう。それはどうするつもりなんだ?」
「それについては雪白 透が所有していた『破滅の聖剣』を新たに混ぜることで解決しますよ」
「あの聖剣か。どこに今あるかは分かっているのか?」
透は赤井が殺したと思っている仁はもう透から聖剣の場所を聞くことはできないと思っているためスティフが知っていないとかなり面倒なことになるのだと考えていた。
が、仁の心配は杞憂で済むのだった。
「ええ、わかっていますよ。『破滅の聖剣』だけでなく、その他の所有されていた聖剣の場所も私は知っているのですよ」
「そうか。それで?そこはどこなんだ?」
「それはですねえ………」
なぜか長いためをつくるスティフ。仁がイラつき始めてきたところでようやくその続きを語りだした。
「雪白 透の家ですよぉ!!」
その内容を聞いて仁は一つのことを決めた。
それが今の自分には不可能ではないと思いながら、自分は何をしても許されると思いながら。
仁は自分から蓮を奪った透を。その存在していた形跡をすべてなくそうと思った。彼の住んでいた家も彼のことを知る人も、彼に関わる何もかもを完全に、完璧に、やり残すことなく消すことを決意したのだった。
………その思いも何もかも、いまとなっては何の役にも立たず、簡単に変えられてしまうものに成り果てたことに気づくこともなく。