敗北直前
赤井 萌を自分に引き付けることに成功した透は自分がどうやって逃げるかを考えていた。
『滅びの聖剣』を使えば致命傷を与えられそうではある。しかし元々は自分よりも圧倒的に格下だった彼女が自分よりも強くなっていることを考えると実際には実力的に差のなかった黒羽 仁と出会ってしまった場合ただでさえ強くなっているのに仲間を殺された憎しみでよけい手が付けられなくなってしまうことを考えると殺すというのは最後の手段にしておく方がいいだろうと思う。
「というか本当に何をしたらこんなに強くなるのかなあ?王国からの情報じゃあこんな強化はできそうにないと思うんだけど」
「あんたのせいで、あんたのせいでええええええええええええええええええええ!!」
「ここまで来ると軽くホラーだよね。まあ呪い殺される気はまったくないんだけど」
軽口をたたきながらも周囲を注意深く観察する透はどうにか安全な逃げ道を見つけようとするが赤井の攻撃によってそれは邪魔されてしまう。
赤井の動きを止めようとしても予知能力でもあるのかそのための行動をしようとした瞬間に透にとってされたくない動きをしてくるためそれすらできない。
真っ当に聖剣を使って斬りあいをしてみれば予想以上の腕力により軽く吹き飛ばされる始末でどうにも八方塞がりなのであった。
「………どうやら蓮たちは無事に転移できたみたいだからひきつけておく理由もないんだけど。引き離す手段が見当たらないってどういうことなのかなあ」
「死ね!!死ね!!死ねええええええええええええええええええええええええ!!」
「今のところ彼女は腕力でも剣の腕でも魔法の威力でも僕を上回っているみたいだしなあ。もしかしたらこのパワーアップには時間制限があるのかもしれないけどそれが5時間とか1日とかだったら何の意味もないし。本当に厄介だなあ」
いまだに透が戦えている理由は赤井の速さは前からあまり変わっていないからであり、もし透でも反応が遅れるほど速く動かれた場合なすすべなくやられてしまうだろう。
それほどの窮地の中、彼はあることを思いついたのだった。
「まったく、まさか君がここまでやるとは誤算だったよ」
「………」
「だんまりっていうのはやめてほしいね。まあ喋れなくなっているのかもしれないけどそれにしたってもう少し反応が欲しいよ」
「………」
「君は彼の言う通りあの時に殺しておくべきだったのかもしれないね。まあ私たちは誰もそんなことを言い出すことはないと思っているけど。でもそんな私がそう思うほどに今の君は外れているんだよ」
「………」
「だからこそ君には選ばしてあげたくなる。これから先、どんな選択をするのか見せておくれよ」