1日が終わり また朝が来る
悠弥さんが僕たちを転移させた場所は黒羽家本家の庭だった。ついこの間に紅家に行ったけれどパッと見ただけで紅家よりも多くの防犯用魔道具が確認できる。
しかし噂ではこの本家に次ぐほど厳重な場所から勇者が逃げたのだからあまり安心するのはよくないだろう。
と、警戒をしているとここに来てから何やら確認していた悠弥さんが僕たちに話しかけてきた。
「しばらくはここで生活してほしい」
「ずいぶんといきなりですね。そもそも悠弥さんは僕が勇者に負けると思っているんですか?」
「………」
僕の質問に悠弥さんはなぜか答えない。答えないことが僕の問いを肯定することになっていると分かっていながら黙るしかないのだろうか。
「お父さん?透君が仁に負けるとは思えないのだけど、なにか透君が負けると思ってしまうような情報が入ったの?」
「それについては家に入ってから話そう。みんな案内するからついてきてくれ」
そうして家の中に案内された僕らはやけに広く感じる部屋へと連れて行かれそこで悠弥さんの話を聞いたのだった。
「………なるほどな。黒羽 仁の脱走を手伝ったのはアリスト王国からの脱走者達か」
「しかも噂の聖剣について新しい発見をした人たちだっていうのは意外だよね。いったいどうしてそんな人たちが逃げてきたのやら」
「そのことについては徳治さまが確認をとっている。遅くとも明日には理由がわかるだろうし、うまくいけばその新発見についての情報も持ってきてくれるだろう」
まああの人は有能なんて言葉がかわいく見えるほど才能にあふれた人だから、たとえ王国の腕利き外交官たちが相手でも情報を聞き出すのはわけないだろうね。
しかし意外なのは黒羽家がどうにも聖剣の新発見、その内容をしらないということだ。
いったい何を発見すれば国から逃げるほどのことになるのやら。しかも逃げた先で『勇者の聖剣』の持ち主を助けるなんて偶然で済ませていいことじゃあないよね。
「でも1つの国から逃げた上に黒羽家の防衛網を突破した人たちですから油断はできませんねー」
「この中では私が一番弱いですから足手まといにならないように気をつけますね」
「まあそれほどの相手だというならこの中では悠弥さんと透君にディアさん、それと蓮さんぐらいでしょう」
「ここもかなり厳重な警備があるけどそれを信じすぎてみんな気を抜かないようにね」
その日の話はそれで終わり男女別で寝室に案内された後はご飯を食べて風呂に入り眠ることができた。
けれど僕はそのことをよかったと思うのではなく、なぜか不吉だと思ってしまったのだった。