観客席の怪人 怪しい集団(文化祭を楽しみ中)
雪白 透とディア・アーノルドの戦いは終盤に差し掛かった。しかしそれが終盤であると気づけた者は見ていたものたちにはわからなかった。
もはや最初から変わらずに魔法を打ち続けるディアとそれを躱しつつ細工をする透の2人は傍目には透がうまく時間を稼いでいるというようにしか見えなかった。
しかし裏では2人とも相手を倒すための準備を着々と進めていたのであった。
いかんな、さすがに魔法を使いすぎたか。
ディアは魔法を使うときに一瞬力が抜けたのを感じそう思った。いくらここが魔道具によって作られた世界であり、魔力で満ちているからといっても彼女の体の限界まではどうにもできなかった。
しかしそれをわかりながらも彼女は魔法を放つ間隔を空けようとはしなかった。攻撃の手を緩めれば透がすぐさま攻撃に転じることがわかっていたからだ。
そして彼女は『切り札』を使うためにも魔法を使い続ける必要があったのだ。
視点は変わって雪白 透を見てみよう。彼は彼で雨のように襲ってくる魔法を必死に避けながら、また魔法がキングの駒に行かないかどうか気をつけながら駒の説得を行っていた。
しかしそんな気の抜けない状況の中で彼が最も気にしていたのはディアのことだった。彼はディアの体に限界が迫っているのを感じていたし、彼女は体を気遣って攻撃を緩めることもしないと分かっていた。
そしてこのまま戦いが長引けば今度こそ彼女は白髪になると分かってしまった。
普段は国のことを第一に考えるくせに彼のことになると(他にも例外はあるが)全てをなげうって今できる全力を出し切るのが彼女だった。
そんな彼女が好ましくもあったけれど今この場においては非常にやめてほしい悪癖であった。
まあそんなことを言っても彼女が聞くことはないと分かっているので彼は急いで彼女を倒そうとしているのだが。
「と、今はそんなことになっているみたいだよ」
今までの透とディアの戦いを仲間に話していた西洋風の服を着た黒髪の男はそう言って締めくくった。
「なるほどね、しかし透は『聖剣』がないとずいぶんと弱くなるね」
「仕方ないですよ、彼は今まで『聖剣』を使って戦い続けてきたんですから。それに最近は魔道具を新しく作る暇もなかったようですし」
「そんなのは言い訳にもならないだろう。いくら忙しいからといってもそれで戦えなくなるのは本末転倒。そんなことでは何も守れなくなることは分かりきっているだろう」
「それは………」
「まあまあ、とりあえず透を伸してからそういうことは話し合おう」
そう言って彼女たちは学校内を歩き回る。………両手いっぱいに出し物で手に入れた戦利品をもって。