幸せな喧噪
「お花、新しいのに替えておいたから……」
「あ! ありがと佳月ちゃん。毎日だとお金もったいないからいいのに。
それにわたしってガサツだから、あんまり花なんて似合わないっしょ?」
「そうでもないよ。今日はカンパニューラにスプレーマムを添えてアクセントにホオヅキをあしらってみたの。
本道じゃないけど雰囲気が良かったから」
「ごっめーーーん。名前いわれてもぜんぜん分かんないわ。
でもほんと言うと佳月ちゃんの持ってきてくれる花って、どれもステキだわ」
「ありがとう」
「な、何よ〜! あんたに良さなんて分かるの?」
「あれ? 舞貴には分からない?」
「え? え? ええ、もちろん分かるわ。
なんてったって佳月は偉〜〜〜い華道の先生に教えてもらっているんだから」
「なんだ、舞貴分からねぇのか」
「分かるって言ってるでしょ!」
分かってない、あんた絶対分かってない。
「ところで仁狼君にも聞きたいんだけど、前にわたしに向けて左手差し出して何かやったっしょ? あれ何なのか教えてよ」
「おう? あれか、あれはただのまじないだ。早く治るようにってな。実際早く治るんだからいいじゃねぇか」
仁狼君はあからさまにとぼけてくれる。
逃がさないわよ〜。
「あの、智恵ちゃん。左手って……」
佳月ちゃんが何か知ってるのか、仁狼君とわたしを見比べながら尋ねる。
「あのね、わたしが入院した直後に仁狼君たらいきなり左手見ろって言ってわたしに見させるくせに、何も起こらないのよ。
だけどほら、こうやって急に治ったじゃない。何やったのか知りたくて」
「それは……天凪君、それって舞貴ちゃんのときの……」
佳月ちゃんが今度は舞貴と仁狼君を交互に見比べる。
「な、何? 佳月。私のときって?」
「憶えてない舞貴ちゃん? 舞貴ちゃんが治るきっかけになった日の三日前に、天凪君が舞貴ちゃんの顔の正面に左手を差し出して何かやったこと。このあいだ本多さんにもやってた。
結局、何をやったのかとうとう教えてもらえなかったけど……」
「そ、そうなの……あのときは、私よく憶えてない……」
舞貴のときも仁狼君は何かやった。わたしのときと同じことを。
それってたぶんただのおまじないじゃない。きっと何かあるに違いないわ。
「さっ! 白状しなさい! 仁狼君、何やったの?」
ビシッと指差す。
うーーーん、久しぶりに決まったわ。
さっきのかなぼーのときより調子いいもの。
みるみる回復してるみたいね。
「だからあれは……」
「サツを」
仁狼君のうしろから、順崇君がつぶやく。
何? さつ?
「そ、そうなの智恵ちゃん。こんなの言っても信じられないだろうから言わないようにしてたの、知ってるかな?
日本だと気功とかで知られてる仁狼ちゃんの生体エネルギーを治癒の力に変えて智恵ちゃんの足に送り込んだの」
いつもの鈴乃ちゃんらしくない、今、思いついたみたいな説明してくれても、何のこっちゃ? さっぱり分かんないわ。
「生体エネルギー? って、何?」
「ほら、個人それぞれが持ってる精神的エネルギー……修仁ちゃんなら詳しく説明してくれると思うけど」
「え? そっちの話? だったら聞かないでおくわ。修仁君方面ってさっぱり分からないもの」
とにかくかなぼーと同じよ。きっと。
そっか、高足さんがやってくれたあれもそうなのかも。
「やっ! 相変らず騒がしいね」
「あーーー! 修仁! 聞いて聞いて。さっき先生から聞いたんだけどね……」
わたしが言うまえに、舞貴は大げさな身振りつけて説明してくれる。これで話が大きくなってさえいかなきゃ、便利な代弁係なんだけどね……。
「はいはい、舞貴ストーップ! 誰もあと三日で退院なんて言ってないっしょ」
「だって、先生が退院早まりそうだって言ったじゃない」
「だからって、どーして三日で退院できる話になるのよ?」
「智恵ならそれくらいで治ると思って」
「「治るか!」」
仁狼君と同時にダブル突っ込み!
んふ。まったく、わたしって幸せよね。