振り払う暗雲
「え? わたしに?」
「……うん。まだ、すごく小さいから気づいてないかもしんないけど、これまでと違う思い、どんどんどんどん、大っきくなってってる……」
なんだろ、それ?
わたし自身で分かんないこと指摘してくれたけど、こんなときのかなぼーの言うことって、本人が気づいてなくても当たってること多いのよね。
わたしのやりたいこと。
……バスケ以外で……逆にバスケ以外にわたしが興味あることってことよね……。
「それって、ひょっとしてあれかな?」
しばらく考えてるうちに、わたしはもう一つ興味あること……ちょっとハズかしいから、まだ誰にも話してなかったこと思い出した。
かなぼ〜が転校してきて初めて会った日から、わたしの一番気の置けない親友、一番の仲間だから。
……そして去年、このコがヘンな夢を見だした事件以来、もっと身近に感じるようになったからこそ聞いてみたくなった。
「わたしね、ヘアスタイルに興味あるの。ほら、わたしって身長大きいっしょ。
基本的に視野に入る人の姿って顔より頭なのよ、顔見るよりヘアスタイルで人のこと判断してるとこあるのよね。
だから顔と頭のデザイン悪いのはすぐに分かるのよ」
「……うん。ちい、よくだれかの頭見てること多いし、合ってると思う。
……でも、あれってずっと立ってないといけなかったと思うけど……だいじょぶ?」
へ?
ガーーーン!
そうだわ! そうじゃない!
も〜〜〜! かなぼ〜ったら、いきなり人の希望打ち砕いてくれたじゃない。
はあああああぁぁぁぁ……。
「やっぱりこれも、あきらめるしかないのかねぇ?」
さすがのわたしもこのダブルショックは痛いわ。
どうするかね?
ほんと、マジで。
「……あきらめるの?」
「だってしょうがないっしょ? ずっと立っての仕事なんてできないんだから」
「……犬澤君に、座ったままお店で仕事できる、いい方法考えてもらう?」
「だめよ。お店出るまでに理容師の資格取らないといけないっしょ。
それだと理容学校行くとかしないといけないんだろうけど、授業とかどうすんのよ?
何とかなるかもしれないけど、どうしていいか分かんないわ」
「……んんんーーー」
自分で見つけた上に、打ち砕いといて悩まないでよ、まったく。困った子なんだから。
だけどわたし、ほんとにどうしようかな〜〜〜。
「……ん! じゃあ、こうする……」
「どうするの?」
……って、待ってるのに、かなぼ〜ったら、いつもよりもっと目の焦点があってなくてぼ〜っとし始める。
ほんと、この子どうしたものかね? 最近はこんな状態にも慣れたけど、去年の事件以来、どんどん様子がおかしくなってって驚かされるばかりだわ。
でもあれ? なんだか足元がふわーって感じになって、どう言うんだろ?
あったかくて気持ちいい感じする。
「……んんんーーーん! まずはこれで、いいと思う」
「何がいいのよ!?」
何のこっちゃ? わけ分かんないわ。体が動くんなら思いっきり突っ込み入れてるところよ。
「……少しだけ借りたから。バスケットみたいな、いっぱい動かないといけない運動はムリだけど、何回かやればそのうち立って仕事するくらいならできると思う」
「何を借りたって言うの? 不思議なパワーでも借りたってわけ?」
高足さんじゃあるまいし。
「……不思議じゃないけど、不思議だと思う……」
「……ま、いいわ、あんたの顔見てるうちに何とかなりそうになってきたから。
かなぼ〜みたいなのでも立派に生活してるんだからね。きっとわたしも何とかなるわ」
「……あ〜ちい、ひどい。あたしでもって、あたしはだいじょぶと思う……たぶん」
「たぶんかーーー!」
あはは……やっぱり何とかなるわ。きっと何とかなる。
ともかく早く今のケガ治そう。悩むのはそのあとでいいわ。暗くなるなんて、わたしらしくないもんね。
入院してからは、仁狼君と鈴乃ちゃんを始め、かなぼーはもちろん、順崇君、修仁君に佳月ちゃん。
ついでに舞貴……もちろんバスケの仲間が毎日やってきて励ましてくれてた。
鈴乃ちゃんや、かなぼー、修仁君が骨にいいからって、とってもおいしい海草のおひたしなんか作ってきてくれて、佳月ちゃんは毎日枕元のお花飾りつけてくれてる。
舞貴ったらガラにもなく心配そうだし。
バスケの仲間には、もう知れ渡ってるのか、わたしの足についてとか、治ったらこうしようとかの話題は出ない。
逆にそんな気遣いが伝わってくるぶん、つらいんだけど、そんなことは言えないものね。
仁狼君みたいに、何の遠慮もしてくれないほうがいっそすっきりするけど……それは、フツーじゃムリだものね。
ある日の夕方、二回目の手術するためのレントゲン撮った結果のフィルム見ながら、先生が首かしげてた。
……何よ、なんかあったのかな? やだな〜〜〜。
「智恵ちゃんは、昔からケガが治りやすかったとか、そんなことはない?」
「へ? ううん、べつにそんなことなかったわ。ごくフツーだったけど」
「ううーん。ひょっとして病院食以外の、何か特別なものでもないしょで食べたりしたんじゃないのか?」
笑いながら冗談半分に先生が言うけど……実は……。
「ごっめーーーん先生。ほんとは友だちのくれる差し入れ食べたりしてた」
「スナック菓子とか? 動けない体で食べてばかりいると太るぞ。でも、そうじゃなくて……」
「お菓子じゃないわ、骨にいいっていって、ヒジキとかアラメの炊いたの持ってきてくれるのよ。わたしも早く治そうって思って隠れて食べてたの」
「なるほど。たしかに海藻には良質のカルシウムが豊富に含まれているが、しかし、それでもこれは説明つかないな……」
「先生、もったいぶってないでドーンとどうなったのか教えて。悪化したーなんてこと以外なら、ぜんぜん平気だから」
平気じゃないけど、平気なことにしとくわ。