表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/34

朝と登山と赤甲羅

 早朝4時。ほとんどの奴は疲れ果てて寝てしまった中、俺と武、そして敗北から立ち直った雄二と西園寺は極秘裏に持ち込んだゲームをしていた。


 その名はスーパー丸男カート。いい歳こいたおっさんやでかい亀、ゴリラが車に乗ってバナナや甲羅を投げ、爆走するゲームである。


「おい武、アイテム取るなよ……!」


 もうとっくに消灯時間は過ぎている為、小声で話さないとすぐ山中先生が起きてしまう。静かにしなければ。


「勝負にそんなもの関係ない……!」


 性根の腐ったような顔で笑う武。


「武。前バナナ置いてあるから気を付けろ」


 雄二が警告したと同時に武はバナナに引っかかり回転しながら後退していった。


「ふっ……馬鹿め。五十嵐 飛鳥。俺の愛の甲羅をくらえ……!」


 後ろから赤い甲羅が飛んでくる。

「あっ……⁉ 何すんだよ、この……!」


 俺も負けじと赤甲羅を投げる。その甲羅は見事なアーチを描き西園寺に直撃した。


「ふふっ……五十嵐飛鳥からの愛の甲羅か。悪くない、これで俺達は相思相愛……」


微笑みながら現実の方で足を絡めてくる。こいつ本当にあの西園寺家の御曹子か?


「何が愛の甲羅だ……! は、な、せ!」」


 結局、この間に武と雄二がゴール。俺は西園寺に水に突き落とされ4位になってしまった。


「しかしそろそろ丸男カートも飽きてきたな……もう2時間もやってるぜ?」


 そう、俺達はさっきと同じ様なやり取りを二時間も続けているのだ。流石に飽きてきた。


「……トランプでもするか?」


 そう呟き、トランプを取り出す雄二。


「そうするか……」


 同意する武。それじゃ、俺もやるかな。


「俺はもう寝る。明日も早いのでな」


 ついに寝ようとする西園寺。三人でトランプとなると少し面白くない。ここは一つ誘惑するか。


「……西園寺、寝ちゃうの?」


「……仕方ない、参加する事にするとしよう」


「そんじゃあまずはババ抜きだな〜」


 そう言いながらトランプを配る武。


 だが、そんな俺達の後ろに、目を光らせている鬼が立っているとはその時誰も知らなかった――



――そして、気が付くと既に日が登っていた。そう、朝が来たんだ。


「ぅ……頭痛いな」


 何故か俺は激しい頭痛に襲われていた。


「おはよう、飛鳥君」


 優しい声で話しかけてくる優希。朝、この声を聞くと癒される。


「もう朝ご飯の時間だよ? 歯磨きして早く食べに行こ?」


 何があったんだっけか、全く思い出せない。取り敢えず歯を磨いて朝飯を食いに行く事にした。


「朝飯は……目玉焼きに味噌汁と白飯か、普通だな」


 朝飯を食べに、宴会用の部屋に移動すると想像通りの朝飯が出た。


 そして向こうの方を見ると頭を押さえながら朝飯を食べる武と雄二、周りの迷惑も気にせず木刀の素振りをする西園寺。目の下に大きな隈の出来た翔一の姿があった。


「飛鳥君。僕、こんなに食べられないから……貰ってくれない?」


 遠慮がちに笑う優希。だが俺はそんな事許さん。


「駄目だ。そんなんだから身長も高くならないんだ。はい、口開けて!」


 俺は無理矢理優希に朝飯を食わせることにした。こいつは少々体が弱っちい。


「うぅ、意地悪。あーん……」


 口を開けて食べ物を待つ優希。可愛い。


「ほれ、たんと食え! 沢山あるからな!」


10分後


「ふぇ……お腹いっぱいだよ飛鳥君」


 こいつの胃はどれだけ小さいんだ。友として心配だ。


「よし、お前ら! 今日は体力増強登山を行う! 昨日の様にゆっくり休めると思うなよ!」


 山中先生が頭に響く大声で全員に呼びかける。嘘だろ? 朝っぱらから登山なんて。


やはり他の生徒からもブーイングが起こる。


「文句のある奴はかかって来い! もし俺を負かす事ができれば登山は無しにしてやる!」


 山中先生がそういった途端に生徒達は沈静化した。やはり不知火の鬼は恐ろしい。


「開始時刻は午前10時だ。それまでに用意しておく様に。なに、登山する為の道具はいらん。いるのは体力と持ってきた荷物だけだ。良く覚えておけ!」


 はぁ……朝から鬼畜だな、山中先生は。


「僕、着いて行けるかな?」


 不安そうにこっちを見る優希。


「大丈夫。もし着いていけなくなっても俺達でフォローするから。な?」


 恐らく優希は一番最初…いや、二番目に着いてこれなくなるだろう。その時は俺達が担いで山を登ろう。


「うん……ありがとう」


 照れ臭そうに微笑む優希。何度も言うが、可愛い。


「さて、集合の時刻まで後1時間。部屋でテレビでも見ようぜ。」


 そう言いながら雄二を連れ部屋に戻る武。


「俺達もそうするか、優希……翔一、お前はどうする?」


 睡眠不足なのか、机に突っ伏している翔一に問いかける。


「……少しでも多く寝させてください」


 ああ、そうか。確か優希が腕にくっ付いてたせいで全然眠れなかったんだっけか。


「翔一君が寝不足なんて珍しいね……それじゃ、行こう飛鳥君!」


 翔一をほっといて俺達も部屋に向かった。そして部屋に向かう途中、どこからか大きな声が聞こえる。


「ったく。うるせえな、騒いでる奴の顔が見て見たいぜ」


 そう呟きながら部屋の前に立ち、扉を開けようとすると、中から途轍もない騒音が聞こえる。何事かと思い部屋に入ると


「うおお! 麗華ちゃーん!」


 顔が見てみたいとは言ったが……さっきの大きな声の正体がわかった。ここの男子達だ。知り合いとして恥ずかしい。


「やっぱり麗華ちゃんは可愛いな!」


 こいつらが夢中になっているテレビに映る女は大阪出身のトップアイドル、工藤 麗華。


 そしてテレビでその工藤 麗華の生ライブが行われていたのだ。


「あの大阪弁が堪らん!」


 目が虚ろな雄二。危ないな……俺は今一つ工藤 麗華を良いとは思わない。


「おいお前ら……ちょっと声のボリューム落とせ。外まで丸聞こえだぞ?」


 テレビを見ていた武がこっちをじっと見てくる。


「……っていうかさ、飛鳥って本当に男かぁ? 体の線も細いし。腰もくびれてるし、声も高い……何より顔! 銭湯で倒れてから妙に女っぽいんだよなぁ……急に髪伸びたし。いい匂いするし」


 へ、変態め。ていうか、今その話かよ。退学は嫌だ。ここはなんとか乗り切るしかない。


「だ、だから……ほ、ほら! あれだ、あの時から俺、薬飲んでるんだ! 前にも優希が言ってただろ? 副作用ってやつだ!」


 駄目だ、多分今の俺挙動不審だ。


「なら、どんな薬飲んでるんだ?」


「あ……ぅ……」


 返す言葉が見つからない。


「あ……飛鳥君は男の子だよ! 薬は持って来るの忘れただけで!」


 俺をフォローする優希。ありがたや……ありがたや。


「男? いや、女?」


「いや、男だろ……女子が俺らと同じ風呂に入ってくれるとは思わないし」


 周囲の男子たちが議論を始める。俺の事を女だ、というような声や男だ、という声が飛び交う。


「お、おい。そんなことより、皆……時間」


 青ざめた顔で時計を指差す雄二。雄二が指差す時計を見ると時間は10時30分を回っていた。


「あ……やべ」


 皆、一斉に顔が青くなる。そして集合先へ向かうと山中先生が微笑んでいた。こ、怖い。


 そして拳骨をくらった男子60人は渋々山を登り始めたのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ