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パンツと鬼と林間学校

「……はぁ」


「飛鳥君、元気出して! もう来ちゃったんだから、どうせなら楽しもうよ!」


「ま、そうだよな……よーし!」


 俺達は林間学校という何一つ嬉しくない行事に参加させられ、バスの中で揺れているところだ。


 林間学校といえば一般的には山でクラスメイトと一夜を過ごし、協調性を高めるということ。だが、何故か不知火高校では二泊三日である。金の使い方がおかしいんだよな。こんな所じゃなく、学校内の設備に気を配ってほしい。うちのクラスなんか黒板クリーナーも無いんだから。


 だが、あいつらと寝泊まりするという事は風呂、就寝、全てにおいて注意しなければならない。風呂で胸、もしくはアレがついていない事を悟られるとその時点で女だとバレるし、何故か風呂の後は浴衣を強制される。何が旅館のマナーだ。底辺高校め。


 そして浴衣で寝るとなると浴衣がはだけてしまえばアウト。とても厳しい条件だが、退学はしたくない。とにかく細心の注意を心掛けよう。


「ダウトォォォォ!」


「はい、残念。馬鹿かよ」


「う、うるさいぞ武! ハンデだハンデ」


 だが、今はトランプの最中。

それもしているのは"脱衣ダウト"だ。脱衣ダウトというのはそれぞれの番が5周した時に一番カードを持っていた人が一枚服を脱ぐというもの。これを何回も繰り返し、誰かが全裸になったら終了だ。

不知火高校では定番ゲームになっている。


 おそらく俺と優希を脱がす為に勝負を仕掛けて来たのだろうが、挑発されたからにはやるしかない。なるべく今は余計な事は考えずにポーカーフェイスを貫き通そう。


「……むぅ」


 今、ダウトをしているのは、俺、優希、武、そして俺の友達であり、不知火高校一の秀才であり、数少ない常識人、眼鏡の二枚目久保 翔一。


優希は学年一の大馬鹿だ。この手の勝負でこいつに負ける事は無い筈だ。


武は実力では五分五分か少し此方が上というとこだ。まだ勝てる。既にパンツ一丁だし。

が、翔一は何で不知火高校に通っているかわからないほどの秀才。隙をつかないと勝機は無い。


「じゃあ、僕はダイヤの6」


 優希は色々と表情にでやすい。今も明らかに目が別の方向を向いている。これは……ダウトだ。


「ダウト」


 案の定カードはスペードの8だった。甘いな、優希。


「何で分かったの飛鳥君……」


 カードの枚数が増え落ち込む優希。次は俺の番だ。


「それじゃあ7で」


 わざと少しにやついてみる。


「あ、ダウト!」


 やはりな。優希が食いついてきた。


「残念だったな。ほら、受け取れ優希」


 俺は優希の額にカードを押し付けた。


「あうっ」


 間抜けな声だ。……優希の後ろの奴等が優希を見て可愛いだの、妹にしたいだの騒いでやがる。あいつらもう末期だな。


「じゃあ俺は8だな」


 まだ溜めておこう。まだ一枚しか溜まっていない状況でダウト発言は馬鹿のする事だ。


「それでは、僕が9ですね」


 ……こいつは何を考えているか全くわからない。


 この調子の騙し合いで勝負は長期戦にもつれ込んだ。あの後、誰もダウト発言をせず、場にカードが随分溜まっている。今、場のカードを貰うと痛い。


しかし、優希が出した筈のカードは5。不幸な事に俺は6を一枚も持っていない。俺の嘘がばれない事を祈るしか無い。


「……6だ」


「ダウト。甘いですよ、五十嵐君」


「んがあああああ!」


 そういうわけで、俺の希望は一瞬で打ち砕かれた。俺はカッターシャツを脱ぐことになった。ボタンを外すたびに歓声が上がる。


「うるせえぞお前ら!」


 くそっ、何か凄く悔しい。こうして俺は白シャツ一枚になった。サラシを巻いていても少しの膨らみは残る。なるべくばれないよう、胸の前に腕をやる。


 それに、まだ負けたわけじゃない。翔一のやろう……今に見てろ、ギャフンと言わせてやる!


 そして、三十分後、俺は下の制服を強奪されパンツ姿で半泣きになっていた。ちくしょう。


 そして更に30分後、武が負け、裸になっていた。しかし、運が悪くその瞬間に不知火の鬼が降臨して武が血祭りに上げられたのは記憶に新しい。


 そして、旅館に到着すると同時に武は鬼の指導を受けたのだった。気を失う寸前、武が最後に遺した言葉はというと……


「飛鳥。お前が俺を部屋に運んでくれ。それと後一つ……飛鳥の膝枕を……おれ……に」


 そう言い残すと武は微笑みながら気を失った。……南無三。願いは叶えてあげよう。


「飛鳥君! ここが僕たちの部屋だよ!」


 俺の手を引っ張り笑う優希は元気だが、今の俺は武を部屋に担いで行く途中だ。ただでさえ元々183cmもある武を担ぐのは大変なのに今は女、力も無いし余計に疲れる。その証拠に既に膝が笑っている。


「城戸君。五十嵐君が困ってますよ。その辺にしておきましょう」


 流石秀才眼鏡。俺のピンチが感知できるのか。


「……分かったよ」


 少し不満なのか頬を膨らませた優希だが、翔一に連れられ部屋に入っていった。


「ふ……んぅ……重、たい」


 思わす吐息が漏れてしまう。それほどこいつは重いのだ。それを俺は何とか部屋に運び込んだ。


 そして、部屋で武に膝枕をしてやっていると、違う部屋の男子…及川 雄二がやって来た。こいつは武より大きく、1m90cmはある。

武と並んで変態度は高い。ついでに馬が合うのか、武とは仲が良い。


「飛鳥達、風呂行こう……ぜ……⁉」


 ああ、また要らぬ誤解を。めんどくさいな。


「武、起きろ! 何でお前だけそんな羨ましい事になっているんた!」


 え……こいつもそういう系の奴か。


「んー? どうし……」


武が起きたみたいだ。


「起きたか? 武」


 いくらこいつがしぶといとはいえ山中先生の拳骨10発は常人では到底耐える事はできない。それもあってか、俺は武が目覚めて安心している。


「こ…これは…夢? 夢なのか?」


 こ……こいつ寝ぼけてやがる。


「飛鳥ぁ! 俺に温もりを!」


 俺の膝からどいたかと思うと、こっちに向かって突進してきた。そして何をしたかというと、……俺の胸に顔を埋めたのだ。心配した俺が馬鹿だった。今の俺は白シャツ一枚しか着ていない。

サラシを巻いているとはいえ少しの谷間ができる。その谷間に器用に顔を挟んだのだ。


 逃げようにも腰を引き寄せられているので逃げれない。これ、訴えたら勝てるだろ。


「ちょ…何してんだよ⁉ 雄二、助けて!」


 そう、この状況で武を止める力を持った者は雄二しかいない。優希は顔を赤くしているし、翔一は無視して本を読んでいる。


「任せろ!」


 そう言って俺に引っ付く武を無理矢理引っ張る雄二。


「ぐえっ、痛い痛い! 痛いって!」


 俺を羽交い締めにして引っ張る雄二。それに負けない力で俺の腰を引き寄せる武。これは俺だけ鯖折りの体制になっている。腰の骨が悲鳴を上げている。


「……はっ⁉」


 ようやく我に返った武。そして今、自分の置かれている状況を見ると同時に大量の鼻血を撒き散らした。俺の服が血で赤く染まった。最悪だ。


「お前何やってんの⁉︎」


そう言いながら武に近づく雄二。


「待った。雄二、そいつは俺に任せろ」


 俺があいつから本音を聞き出してやる。


「武君、君は一体俺に何をしたのか、覚えてるかな?」


 あくまで優しく。優しく本音を聞き出す。


「えーっと……セクハラ?」


 こいつ、自覚症状があったのか。なおさら許せん。


「だ、だって起きたら可愛い子の膝枕だぜ? 全くモテない俺からすれば天国じゃないか!」


そう良いながら今度は俺の胸に手を当てる。こんな事ばっかするからモテないんだ……佐藤武、許すまじ。


「男なら緊張もしないし恥ずかしくもない。最高だぜ!


「…………この、ばかぁ!」


俺は武の急所を思い切り蹴り上げた。


「……⁉  いっ……てぇぇぇ!」


へへん。ざまあみろ。


「雄二、助けてくれてありがとな」


「なに、今回は武が悪い。礼はいらねえよ」


 そしてこの騒ぎで何故か山中先生が天井から出現して、三人とも拳骨をくらったのだった。あの先生は神出鬼没である。


「痛いぃ……俺はなにも悪くないのに……」


 ついうずくまってしまう程の痛さの前に俺達は叫ぶ事すら出来なかったのであった。

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