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髪と疑問と車椅子

「外出許可、もらったぜ!」


 あれから順調にリハビリを続けていった結果、俺の足は杖があれば歩けるレベルにまで回復してた。

回復はしたのだが、何しろ肩も骨折してるわけで……車椅子生活を余儀なくされているのだ。


「悪いな、優希。車椅子押してもらって」


「僕が好きでやってるんだからいいの」


 俺の車椅子を押しているのは優希。俺のこと心配しててくれたみたいで、自ら立候補してくれた。嬉しすぎて涙が出そうだ。

外出できるのは今日の18時まで。それまでに回りたいところは回ってしまわなければ。


「どこ行く?」


「んー……散髪いきたいかな。髪も伸びっぱなしだし」


「オッケー。任せといて」


 そう言った優希を信頼して車椅子に身を委ねていると、俺のいつも通っている散髪屋ではなく、小洒落た美容室へと連れて行かれた。


「ゆ、優希? 何ここ……入りたくないんだけど」


 俺はこういったオシャレな場所が大嫌いだ。だから、繁華街の服屋にも一人で入れない。

自意識過剰なのかもしれないが、あいつ場違いじゃね? みたいな目で見られてそうで怖いからだ。


「ダメだよ。飛鳥君は女の子なんだから、もっと髪の毛にも気を使わなきゃ」


「ぅ……」


 車椅子に乗っているため逃げることもできず店の中へ入れられてしまった。


「いらっしゃいませ……あら、城戸さん!」


「こんにちは。今日はこの車椅子の子の髪切ってほしいんですけど」


「あら……この子、すごい怪我してますけど、かわいいですね」


「ですよね⁉︎」


 自分で自分を褒めるのは恥ずかしくないんだけどな。人にこう褒められるのはやはり照れ臭い。


「お客様、本日はどのような髪型に? 最近のおすすめだと――」


 わけのわからない用語をペチャクチャと話していく店員さん。同じ日本語とは思えない。


「え、えーっと」


「店員さん。とにかく可愛い感じで!」


 困っている俺のようすをみかねたのか、優希がフォローをいれてきた。


「わかりました! そうですねぇ……思いきって短くしちゃいましょうか。肩ぐらいまで」


 鏡を見て、俺の髪の肩の少し上のところで擬似的にカットするように指を挟む店員さん。


「え、あ……そ、その……任せ、ます……?」


 特に理想の髪型も無かった俺は店員さんに任せることにした。とにかく、変な髪型にさえならなければそれでいい。




「良い! すごく良いよ飛鳥くん!」


「そ、そうかな……ま 、やっぱり髪の毛は短い方が男らしいよな!」


 結論から言うと、俺は腰辺りまで伸びていた長い髪を肩の少し上くらいの長さまでバッサリとカットした。なんだか、女になって1日目のことを思いだす……次の日の朝から急に髪の毛が伸びたんだっけ。


 正直、前の髪型より気に入っている。髪の毛は短いにつきるな。


「それじゃ、次はどうするの?」


「んー……武だけお見舞い来てくれてないし、あいつに挨拶しときたいかな」


 他のみんなは来てくれたのに、武だけは来てくれなかった。都合が合わなかっただけかもしれないが、一応会っておきたい。


 俺と優希は、談笑しながら武の家へ向かった。武の家に着くと、俺はインターホンを押そうとした。


「と、届かねえ」


「もう、無理しちゃダメだってば! また骨折れたらどうするの?」


 優希は俺を座らせ、インターホンを鳴らす。くそぉ……インターホン一つ満足に押せないとは、情けねえ。


『はい』


「武くん、開けて!」


『なんだ、優希か。ちょっと待っててくれ』


 1分後、武が家の扉を開いた。久しぶりに会う武は、何一つ変わっていなかった。


「……飛鳥⁉︎」


 俺の顔を見て、気まずそうに顔をそらす武。ここまで露骨にされると、心にズキっとくる……俺、何かしたかなぁ。


「た、武……なんで顔そらすんだ?」


「……いや、お前が悪いわけじゃないんだ。ちょっと、な」


「いいからこっち向けよ。せっかく久しぶりに会ったんだし、ちゃんと顔見たいんだ」


 武と会うのは……2ヶ月ぶりかな。あの時助けに来た武を見たっきり、声すら聞いてなかった。


「か、髪切ったんだな。に、似合ってると思うぞ」


 なんだかぎこちないな。顔は俺の方を向いているが、目は明らかに泳いでいる。


「……なんだよ。もういいもんね、ちょっと様子伺いに来ただけだし。行こうぜ優希」


 何か嫌われるような事をした記憶もないし、久しぶりにあって緊張してるのかもな……また退院したら来よう。


「武も、何か悩んでるなら相談してこいよ! 友達なんだからな」


 俺がそう言い、この場を去ろうとすると、武に止められた。何か話があるみたいだ。


「……飛鳥」


「なんだ?」


「俺の見間違いか何かだと思うんだが、お前――」



 その時の武の表情はとても苦しそうだったのを覚えている。



「――誠哉とキスしてなかったか」



 この瞬間、俺の全身から血の気が引いた。

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