暇と余韻と生き地獄
2015年早々食中毒でダウンしてました^_^;
あれから一時間が経った。未だに頭の中がぐちゃぐちゃで何を考えればいいのかわからない。もう最近色々ありすぎてちょっと疲れてきた。
「うん、そもそも冷静に考えれば非常識なんだよな。友達とはいえ他人に急にキ、キスするなんて」
少しドキッとしてしまった俺をぶん殴りたいくらいだ。こんな事じゃ駄目だ……どんどん俺じゃない、別の人格に支配されていってる感じがする。
男にチュッてされて赤くなる……こんなの俺じゃない!
ウルトラグレイテストなイケメンでモテモテ……これこそ俺だ、最後のは幻想が80%くらい入ってるけど。翔一がモテて俺がモテないなんて、世の中の女の見る目も落ちたもんだぜ。
ドキッとしちゃったのも女の方であって俺じゃねーし、ちげーし……って、誰に言い訳してんだ俺は。
満足に寝返ることも出来ず、景色の変わらない天井を眺めながらひたすら考えを巡らしていると、また病室の扉からノック音がした。
『兄ちゃーん、入っても大丈夫?』
一瞬また西園寺が来たのかと焦ったが、扉の向こうから聞こえる高く可愛らしい声から、西園寺では無いと判断できた。
呼び方や言葉のイントネーションからして、おそらく麗華だろう。
「すぅ〜はぁ〜……よし。もう入っても大丈夫だ」
心を落ち着かせるため、一度深呼吸をしてから麗華を招き入れる。
「……って、誰だお前」
「ひどっ⁉︎ 麗華や!」
「あっ、麗華か。全く気づかなかったわ」
麗華は特徴であるポニーテールを下ろし、女物のハンチングキャップに赤いフレームの眼鏡をかけている。変装としては完璧で、俺でも言われるまで気づかなかった。
「ほーん。似合ってるぞ」
「へへっ、ありがと」
こないだ仕事が終わった麗華を事務所近くまで迎えに行った時、あいつは一切変装せず事務所前で俺を待っていたのだ。当然もの凄い早さで人が集まってきてしまい、連れ帰るのに四十分ほどかかってしまった。その後、家に帰ってから小一時間ほど説教したのが効いたのだろう、それからは本格的に変装をはじめたらしい。
やはり人は服装と髪型で随分とイメージが変わる。いつもは活発そうな麗華も、眼鏡をかけて髪を下ろしているだけで大人しい清楚な子に見える。
「兄ちゃん見つけた時下着姿やったけど、何か嫌なことされたりしてない?」
「ちょっと殴られただけだって。これくらいへーきへーき」
「嘘つくな。ちょっとじゃ無いやん……その怪我、見てるこっちが痛そうやもん」
「ぅ……確かに痛いです。けど、あいつに監禁されてた期間に比べたら天国みたいだ」
いやぁ、辛かった。今になったから笑い事にできるけど、あれは二度と経験したくない。
「そっか。何日で退院できるん?」
「三ヶ月ぐらい」
「てことは、しばらくはあの部屋に一人か……寂しい」
いや、それくらい我慢しろよ。こいつは昔から何も成長してないんじゃないか……胸もちっさいままだし。
「……よし、一緒に寝てくれるか結衣さんに頼んでみるわ」
「あ、あんまり迷惑かけんなよ? 姉さんも忙しいんだから」
「わかってるわかってる」
麗華はそう言い、ロケの帰りだったのか、お土産として広島のもみじ饅頭をベッドの横の小さな机に置いた。
「これ、広島行ったからお土産。兄ちゃん、また次の仕事あるからもう行くけど……大丈夫?」
「何がだよ」
俺がそう聞き返すと、麗華はあははっと笑った。
「いや、兄ちゃんの事やから病院で夜一人やと怖くて寝れてないんちゃうかなーって」
「う、うるせえ」
「あれ、図星?」
ちょっと怖いだけだ。ほんのちょっと。固定されていて動けない俺が襲ってくることはないと判断した麗華は、小馬鹿にしたような目で俺を見た。
「お前……怪我治ったら覚えとけよ」
「そ、それじゃもう行くわ! また今度お見舞い来るわ!」
そう言い残し麗華は逃げるように病室を出て行った。逃げるなら最初からすんなっての。
「はぁ……ほんと生き地獄だなあ。何すりゃいいんだよ」
騒がしい麗華がいなくなったせいで、来る前よりも静かになったように思える。
「俺、男なんかにキスされて……っといかんいかん」
こうして何もせずボケーっとしているとまたあの木刀馬鹿の事を思い出してしまいそうになる……これ以上余計なことを考えないためにはどうするべきか。
「寝るか」




