怪我と感謝と純情心
無事救出された俺は今現在入院中だ。あの救出劇の後、すぐに救急車で搬送された。
診断結果は肩、左膝の骨折に三か所の打撲……全治三ヶ月だ。
「動けないし、体は痛いし、飯はまずいし、やることはないし……はあ、地獄だ」
足が折れてるからロクに動けない。かといって、肩が折れてるからゲームも満足にできない。
今の状況に絶望し、窓から空を眺めていると、病室の扉から希望が生まれるノック音が聞こえた。
『西園寺だ。入るぞ』
「おう、いいぞ」
「失礼する」
西園寺か。一人で孤独感を味わっていたせいか、こいつでも来てくれると嬉しい。
「体は、大丈夫か?」
「大丈夫……ではないかな。どこもかしこも痛いし……あの時、お前も助けに来てくれたよな」
「気にするな。当然のことをしたまでだ」
こいつも真面目な時はかっこいいんだけどな……って、何言ってるんだろ俺。
「で、さ……西園寺……俺の性別ってどっちかわかってるよ……な?」
こないだの一件でバレたならバレたで口止めしとかなきゃならない。
「何を訳のわからない事を言ってるんだ……? 男に決まっているだろう」
「えっ……でもお前、風呂場で俺の体見ただろ?」
バッチリ見られたと思うんだけどな。
「実は、こないだお前と遭遇した時の記憶が抜け落ちていてな……気がついたら保健室にいたのだ」
「そ、そんなに頭強くぶつけたのか⁉︎」
でもまあ、都合の良いように事が進んでるから良いのかな?
「ああ。後頭部から落ちたからな」
「ご、ごめん。そんなに強くぶつけるとは思ってなくて」
「いや、中を確認せず入った俺のミスだ。自分を責めるな。俺こそ、助け出すのが遅れてすまない……こんな痛々しい事になる前に早く気付くべきだった」
そういい、俺に頭を下げる西園寺。助けてくれただけでもありがたいのだから、そんな謝らなくてもいいのに。
「や、やめてくれ。助けてくれただけでもう感謝しまくりなんだから顔上げてくれよ。お前やみんながいなかったら、殺されてたんだぜ?」
みんなが駆けつけるのが後三秒遅かったら俺は間違いなくあの男に殺害されていただろう。
今思い返すと、本当に俺ってヘタレだな、あの場面で腰抜かして動けないって。
「だから、本当にありがとな」
「……ふっ、本当にお前は愛らしい。本当に嫁に迎えたいぐらいに……大好きだ」
西園寺は、そう言いながら俺に顔を近づけてくる。面と向かってそんな恥ずかしい事言われるとなんだか顔が赤くなってしまう。
「さ、西園寺。そういう言葉は本当に必要な時に取っとかないと、価値が薄れるぞ?」
顔が赤くなってる事を悟らせない為、顔を西園寺の反対側に向ける。
ああもう……こんな事で赤くなるなんて、俺はノーマルじゃなかったのか? だから麗華に微塵も興奮しないのか?
こいつは俺が男の頃からスキンシップが激しかったし、女になってからはもっとエスカレートしていた。でも、これまで遊んだりしていて好きって言われたことはなかった。
「何故ずっと窓の方を見ている?」
「そ、そのだな。恥ずかしいといいますか……そんなこと、友達に面と向かって一度も言われたことないから」
本当にそんな理由で恥ずかしいのかどうかすらはっきりしない。よくわからないな、この感じ。
「友達、か」
西園寺が俯いてボソッと何かを呟いたが、何と言ったのか聞き取れなかった。
「そのままでいいから聞いてくれ」
えらく真面目な声で話し始める西園寺。
「俺はお前に初めて会った時、お前の事を好ましく思っていなかった。むしろ嫌っていたくらいだ」
「そ、そうなのか?」
「ああ。だが、お前が俺を西園寺家の重圧から解放してくれたんだ。お前は覚えていないかもしれないがな」
「……俺、なんか言ったの?」
「『お前はお前なんだからもっと自由に生きればいい。それでも伝統だの家系だの親父が気にするなら、俺が文句言ってやる』……とな」
思いのほか恐ろしいことを俺は言っちゃってた。西園寺の親父とか怖すぎて文句言える気がしない。一年の頃は無鉄砲だったからな……やんちゃだった。
「そこから、お前に対する見方が変わってきてな。今ではこの通りだ」
「も、もっとちゃんと考えた方がいいって。俺みたいな男じゃなくてもお前ならもっと美人な女の人捕まえられるだろ?」
いまみたいに、静かに話していれば翔一を越える人気があったかもしれない。
「五十嵐飛鳥、もう俺は稽古に行かなくてはならない。最後に一度、こっちを向いてくれないか」
今そっち見るとちょっと恥ずかしさが物凄いんだけど、だからと言って向かないのも変だよなぁ……男同士だし、何も恥ずかしいことはない。そうだよな。うんうん。
「な、なんだよ西園寺――」
恥ずかしさを押し殺して、西園寺の方を振り向いた時、
――俺は西園寺とキスをしていた。
「ん……ぅ……⁉︎ ん………」
何秒、唇を重ねていただろうか。実際にはそんなに長くない時間かもしれないが、俺にとってはとても長い時間だった。
「……これが、ちゃんと考えた俺の結論だ。西園寺誠也は、何をするにしても本気だ。冗談でこんなことをする男ではない」
突然の出来事に頭が真っ白になった。今まで考えていた事が吹っ飛ぶ程、体が動かせず無抵抗になるほど衝撃的だった。
「病室でするべきではなかったか? はっはっは」
俺がポカーンとしていると、さっきまでのシリアスな西園寺は一瞬にして消え、いつもの西園寺が帰ってきた。
「は、はじゅかしい……」
ただでさえ混乱や恥ずかしさで顔が赤くなっていた俺は、今の一件でゆでダコのように赤くなりぐったりしてしまった。
「い、五十嵐飛鳥⁉︎ 大丈夫か!」
「だ、大丈夫れす」
――その頃病室の外では、
「……なんだよ今の……飛鳥と誠也が…………飛鳥」
花束を持った金髪の男が、扉の隙間から一部始終を覗いていた。




