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慣れと携帯と大チャンス

 あの野郎に監禁されてから二週間と三日が経った。恐ろしいことに、この環境に慣れ始めている俺がいる。


 この間携帯電話を使おうとして見つかってからは、何も隠せないよう上着を脱がされ、ベランダの窓や入口の扉にギリギリ届かない長さの鎖で足を繋がれている……さらに絶望的な状況に陥っているのだ。


「僕は少し出かけてくる。余計な事をしたら帰ってきたとき、酷い目に合うよ」


「触んな」


「……怖い怖い」


 男はそう言い残し、俺の頭をぽんぽんと叩いて出ていった……恐らく、最近始めたらしいアルバイトだろう。

親からも縁を切られたこいつは、自分の生活する分の費用に加えて、俺の食事代も必要なため、掛け持ちでバイトしないと持たなくなってきたみたいだ。

俺の飯なんてドッグフードと水だけだけど。口をつけて食べるのには最初は抵抗があったが、食べてみると案外いけるものだ。


 二、三時間は帰ってこないはず……最大のチャンスだ、何としても外に状況を伝えないと。


 とりあえず、あいつにとられた携帯電話を探さないと……俺が見る限りでは、携帯電話を破壊まではせず、どこかに隠してあると自分から話していた。俺より賢いっつってもしょせんは高校生、詰めが甘い。


「いてえっ⁉︎」


 立ち上がろうと腰を上げた途端、両足にとてつもない激痛が走った。あいつから受けた暴行で限界を迎えていた俺の身体は、しばらく動いていなかったからわからなかったのか、急に悲鳴を上げ始めたのだった。

 しかし、痛いからといってここで諦めてしまえば、俺はその内あいつに飼い殺されてしまうだろう。


「このっ……!」


 俺は気力を振り絞って何とか立ち上がることに成功した、気を抜けば一瞬で崩れ落ちてしまう。

近くに置いてあった掃除機の長さ調節用の筒を杖代わりにしよう。


 170近くもある女が下着姿で掃除機の筒片手に足を震わせながら歩く……周りから見れば相当滑稽だろうな。まあ、今はそんなこと言ってられないんだが。


「――あった!」


 見つけた。あれはまさしく俺の携帯電話だ。ただ……食器棚の一番上の段の、更に奥の方にそれはあった。なんでこんなにデカイ食器棚使ってるんだよ。

普段なら、足場を作ってそこに乗ればいいだけの話なのだが、足を痛めてる俺にとってそれはとても難易度の高い事だ。


とにかく、近くに置いてある小さな椅子を食器棚の前に持ってきて、それに本や新聞を重ねる。不安定だが、近くにはこれしかない。


まずは腕を作った足場にのせて、腕の力で身体ごと足場の上に乗せる。普段から鍛えてる上に、女の身軽な体なら楽勝だ。


下着姿になって初めて気づいたのだが、全身痣だらけだ。治るの時間かかるだろうなあ。


「ふー……」


 大きく息を吐いて、いよいよ不安定な足場の上で立ち上がる。ある程度の痛みは覚悟しているが、恐らく想像以上の痛みがくるのだろう。

足場はすぐに崩れるだろうし、一瞬の判断が重要になってくる。


 勢いよく立ち上がると、やはり想像以上の痛みが両足を襲った。あまりの痛さに顔をしかめるながら食器棚に目をやると、俺の携帯電話が確かにあった。俺はそれを素早く手に取る――ここまでは計画通り。

しかし、気の抜けた俺はバランスを崩してしまい、その辺りの食器とともに足場から落下してしまったのだった。


「うおっ⁉︎」


 床に叩きつけられた俺の顔に、さらに食器の破片が飛んできた。顔は守れたのだが、腕から数箇所血が出てきてしまった。


 怪我こそしたものの、何とか携帯電話をゲットすることに成功した。

窓からの風景をカメラで撮って、あとは警察と麗華達に連絡するだけだ。


『はい、こちら警察です』


「も、もしもし、警察の方ですか! 助けてください、監禁されてるんです!」


『……そちらの住所はわかりますか?』


「わ、わからないです」


『今はどの電話からおかけですか?』


「犯人に隠されていた俺の携帯電話からです」


『了解しました。こちらの方で探知するので、後少しだけ耐えてください』


 警察には連絡できた……次は麗華達だ。


『……もしもし⁉︎』


「れ、麗華か?」


『兄ちゃん……! い、今どこにおるんや?」


「わかんねえ……今窓から見える景色の写真送る」


『ぶ、無事なんやな?』


「無事……ではないな。体中痣だらけだし」


『そんな……わ、わかった! すぐに助けたるからな!』


 そう麗華と話していると、最悪のタイミングであいつが帰ってきた。


「……やばいな」


 俺は無事、家へ帰れるのだろうか。

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