恨みと噂と新聞紙
暴力描写がほんの少しあります
苦手な方はご注意下さい
「ぅ……」
次に目が覚めた時、俺は両手を後ろで縛られ埃の舞う汚い部屋に監禁されていた。辺りにはゲーム機やパソコンの線が散らばっている。
「お、目が覚めた?」
状況を飲み込めず、周りを見渡していると、低い男の声が聞こえた……あの時話しかけてきた瓶底眼鏡だ。
「て、てめえ、どういうつもりだ!」
両足は色々と不便だからなのか、縛られてはいない。俺は何とか立ち上がり、ふらふらの足取りで男の方へ近づいた。
「どういうつもりって……この状況見て理解できないの? ならそこらへんの浮浪者のおじさんにお金出して捕まえるの手伝ってもらった意味が無い」
男は俺を馬鹿にしたかのように笑い、俺の額を指で強く押した。
「それに、それが理解できたらあんな馬鹿高校に通ってないか」
「……お前、誰なんだ」
男は声を震わせながら俺を睨む。
「僕は君のせいで人生を壊されたんだ」
「俺の……?」
――僕は不知火高校の三年生、新聞部。親友と呼べる友人もいない、彼女もいない。この学校に入った理由も推薦が取りやすいから。
そんな高校生活に退屈していた僕は、生徒や教師の秘密を暴いて退学や退職に追い込む事を生きがいにしていた。この高校の新聞部にはある程度の権力があったから、過激な事を暴露しても咎められることはほとんど無かったからな。
そんな中、ある噂がウチのクラスで流れていたんだ。
『なあなあ知ってる? 二年の五十嵐っているじゃん?』
『知ってる知ってる。あの麗華ちゃんと知り合いのロン毛の奴だろ?』
『……実はさ、あいつ女らしいぜ』
『いやー、冗談キツいわ。女が男子校に入れるわけねーだろ』
『でもあいつの顔ちゃんと見たことあるか? すげえ綺麗な顔してるんだぜ?』
『ははっ、お前そっちの気でもあるのかよ。無いって、無い無い』
そんな会話を聞いてしまった僕は、お前の秘密を暴こうと調査を開始した。だが、お前についての他の噂や情報は、どれだけ探しても喧嘩についてだの、男がやったとしか思えない様なものしか出てこなかった。
しかし、僕も何回かお前の顔を見たことがあった。だからこそ、余計にその噂の真相を突き止めたかったんだ。
そして、僕は考えついた。決定的証拠をカメラに収めればいいのだと。
そこで、お前がトイレに行くタイミングで俺もトイレに入り、盗撮を試みた。そして、決定的証拠を撮影することに成功したんだ。後はこれを新聞にするだけ……ここまでは完璧だった。
しかし僕は生活指導部に呼び出され、カメラの提出を命令された。お前の取り巻きの城戸、あいつが一部始終を見てやがったんだ。
――そして、待っていたのは退学。親からも冷たい目で見られ、大学の推薦は消えた。僕の人生は君という存在に潰されたんだよ。
「……そんなの、逆恨みじゃねえか!」
「何故女のお前が男子校に残り、男の僕が退学になる!」
言っていることが滅茶苦茶だ。明らかに向こうに非があるのに、それを認めようとしない。
「女が男子校に何故入れた……何故入ろう思った……校長に身体でも売ったのか?」
「……黙れ! 俺は女なんかじゃ、ない!」
我慢ならなかった俺は男の腹部に蹴りを入れる。すぐに手足が出るのは悪い癖だとはわかっているが、この状況で何もしないわけにもいかない。
「ぐっ……」
男は少しの間うずくまった後、何事も無かったかの様に立ち上がった。
「……そういうところが、馬鹿だって言ってるんだよっ!」
怒声を発した男は、俺の顔を全力で殴った。重たい音が頭に響くのと同時に、衝撃で意識が飛びそうになる。
殴られた俺は、勢いよく床に叩きつけられた。
「痛っ…………!」
「いくら力のない僕だからって女が両手を縛られていて男に勝機があるとでも思ってるのか? 舐めるなよ、このっ!」
男は俺への恨みを晴らすかの様に俺を殴り、蹴り続けた。
口の中が鉄の味で満たされ、全身に激しい痛みが走る。
「はあ、はあ……」
目が充血して赤くなるほど、殴られた俺は意識が朦朧としていた。
「まだだよ。まだ、僕の恨みは晴れて無い……これからさ」




