謝罪と朝と仲直り
「――ごめんなさい」
次の日の朝、飛鳥君は長い髪が乱れるほど深く頭を下げ、僕に謝ってきた。僕が全く状況を飲み込めずにいると、腰を曲げたまま頭だけ僕の方を向けた飛鳥君が泣きながら僕を見上げた。
「……優希の気持ちも考えないで、本当にごめん!」
「えっ……え?」
「昨日の夜、飛鳥君がなんだか落ち込んでいるようでしたので、私が少し飛鳥君とお話ししたんですよ」
昨日の夜……やっぱり、飛鳥君を傷つけちゃってたんだ。
「そこで俺は自分の犯した過ちに気がついたんだ」
飛鳥君は床にひざまずき、頭をぐりぐりと床に擦り付けている。いわゆる土下座だ。せっかく今は美人なのにそんな事をしているだけで台無しだ。土下座なんてされてと気が引けるだけだし。
「あ、飛鳥君! やめてよ、僕も飛鳥君にあんな事言っちゃったし……その、ごめんなさい」
「いやいや、悪いのは俺だ。自分の価値観を他人に押し付けるなんて!」
自分を自分で痛めつける飛鳥君。床に頭をガンガンぶつけている。
「いや、悪いのは僕だよ! バカだなんて、人の事言える立場じゃないのに……だから床に頭をぶつけるのやめて!」
「もう、うるさいなぁ……今日は昼間仕事無いんやからゆっくり寝さ……せ……兄ちゃん⁉」
余程僕達が騒がしかったのか、腹を立てていた麗華ちゃんだったが、床に頭をぶつけている飛鳥君を見て、顔を青くし飛鳥君の側へ近寄った。
「兄ちゃん落ち着いて! なにしてんの⁉」
そして数分後。
「これで良しっ……と。もうっ、例え飛鳥君が男の子だったとしても今は女の子なんだから、顔に傷なんて作っちゃ駄目だよ!」
床に頭をぶつけた事により擦り傷のできた飛鳥君のおでこに絆創膏を貼る。
「ぅ……ごめん」
落ち込み、体を小さくする飛鳥君。女の子にしては高身長なはずだが、今は僕より小さく見える。
「なあ優希」
「何? 飛鳥君」
「俺、優希が女で居たいんなら反対しないから。お前の思う方に行ってくれ。俺は応援する」
「……うん。僕の事、ちゃんと考えてくれたんだよね……ありがとう飛鳥君」
「べ、別に礼を言われるような事じゃねえよ。でも、その……ど、どういたしまして……?」
飛鳥君の顔が真っ赤なのは飛鳥君が俯いていてもわかる。耳まで赤くなっているからだ。
「飛鳥くんっ……可愛い!」
僕は俯いて床を飛鳥君を見てたまらなくなり、強く抱きしめてしまった。すると飛鳥君は小さく声を漏らした。固まって動かなくなった飛鳥君の体の内側から来る心臓の鼓動が僕まで伝わって来る。
「ゅ……優希。恥ずかしい、から……は、離して」
「飛鳥君はいつも僕にいじわるするもん。だからやだ」
僕がそう言うと、飛鳥君はじたばた暴れはじめた。それに負けまいと僕はそれ以上に強く抱きしめる。
「ひとまず、仲直りおめでとう! でも、イチャイチャするにしても周りに人おること考えてな?」
「あっ」
さらに数十分後。
「さて、それじゃ行くか優希」
落ち着きを取り戻した飛鳥君は筆記用具やらを入れた鞄を担ぎ玄関のドアを開けた。
「うん。行こう、飛鳥君」
――今日から僕の女の子としての生活一日目が始まる。




