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恋と布団とお悩み相談

 布団の中は暑い。お風呂上がりな上に、少し泣いてしまって頬が熱いからか、余計にそう感じる。


 僕だって、自分自身がおかしくなり始めてるのはわかっている。前まではこうはならなかった。男に戻りたいと切実に願っていたからだ。だから散々悩んだ……男に戻りたいのかどうなのか。

飛鳥君なら、僕の悩みをちゃんと聞いてくれると思ってた……でも、結局ダメだった。


「優希君、どうしたん?」


 僕が一人で布団に包まっていると、新幹線で大阪からついさっき帰ってきた麗華ちゃんが布団をめくり話しかけてきた。


「目、赤いけど……泣いてたんか?」


「麗華ちゃんは悩みなんてなさそうだよね。いつでも底抜けに明るくて」


 つい、麗華ちゃんに八つ当たりするような形になってしまった。


「……悩みなんてウチにもいっぱいあるよ。アイドル活動について、とか。兄ちゃんの事とか」


 こんなに明るい麗華ちゃんでも悩みは多いというのは意外だった。もしかすると、アイドル活動をしていて悩みを抱えるのはアイドルにとっては当たり前なのかもしれない。


「仲の良いアイドルの友達と喧嘩したときはテレビでも失敗が多かったし……あまり言いたくないけど、ネットで嫌な事を書かれる事もあるし」


「……そっか。皆がみんな麗華ちゃんを応援しているわけじゃないもんね」


 インターネットでは、匿名なのをいい事に人を傷つける発言をする臆病な人が多い。もしその対象が僕だったら耐えられないと思う。


「兄ちゃんと結婚するとは言ってる……したいけど、出来るとは思ってない。兄ちゃんにはもっと良い人がおるやろうし、大好きやからこそ幸せになってほしいんや」


 へへっ、と笑う麗華ちゃん。どうしてこんな悲しい事を言うんだろ。好きな人に幸せになってほしいのは誰でも同じだけど……だからって諦めちゃうのは良くないよ。


「後はアイドル辞めてからの不安、とかな。高校も行ってないから……」


 麗華ちゃんはアイドル活動が忙しすぎたからか、高校受験をしていない。将来に不安を覚えるのも仕方ないと思う。


「ごめん、愚痴っぽくなってもうた……でも、悩んだりした時は誰かに相談するだけで少しは楽になるで? 恥ずかしい話やけど、ウチもたまに大泣きして結衣さんに話し聞いてもらってるから」


「……本当?」


「うん。悩み事あるならこのスーパーアイドル、麗華ちゃんに任せとき!」


 麗華ちゃんは僕の横に座り、顔を覗き込んでくる。


「……実はね、僕最近おかしいんだ。男の子の僕が女の子の僕に飲み込まれていくというか」


 近頃はクラスの友達が教室で着替えているだけでも恥ずかしくて見る事もできない。女風呂に入るのも抵抗が無くなってきたし、女の子の服を着せられても何も思わなくなってきた。むしろ、可愛いなと思う事もあるくらいだ。


「僕にとって男の子じゃなく、女の子の方が過ごしやすいのかもしれないんだ。だけど、飛鳥君はそれが変だって……おかしいって。それでちょっとキツく当たっちゃって」


「で、優希君はどっちで生きて行きたいん?」


「え?」


「だから、男か女か。どっちでこれから過ごしていきたいん?」


「そんな急に……」


 僕は男の子だ。そんな事、17年間も生きてきたんだからわかっている。でも、今は女の子で僕は女の子の生活に満足している。


 男の子の頃は女の子と間違われるのが嫌で仕方がなかった。皆も僕が女の子みたいだからって、気を遣ってあまり話しかけてくれない事が多かった……そのせいか、性格もどんどん暗くなっていってた。けど、そんな中で一人話しかけてくれたのが飛鳥君だった。


 そんな飛鳥君に嫌われるのは嫌だ。

それでも、僕は――



「――僕は女の子として、生きていきたい」



「それじゃあ、何も悩まんでも良いやんか!」


「……え?」


 僕が馬鹿だからだろうか。麗華ちゃんの言った言葉にすぐ反応できなかった。


「女の子として生きたいんやろ? 別に兄ちゃんがどう思おうとそれは優希君の自由や」


「それは、そうだけど……でも」


「大丈夫。兄ちゃんはそんな事で人を軽蔑したりせえへんって!」


「そ、そうかな? でも飛鳥君は僕の事変だって……」


 この耳でしっかりと聞きすぎてしまった言葉だ。忘れられる訳もない。


「じゃあ聞くけど、何で優希君は女の子として生きたいんや?」


「女の子になる前から飛鳥君の事は大好きなんだけど、女の子になってからはこう、大好きの感じが変わったというか……麗華ちゃんと飛鳥君が仲良くしていると、なんだかチクっとするんだ」


 最近は、麗華ちゃんと飛鳥君がじゃれ合っているのを見ると、目を逸らす様になってしまった。ずっと見ていると胸が苦しくて見てられないからだ。


 麗華ちゃんが嫌いなわけじゃない。むしろ好きなんだけど、麗華ちゃんに対して悔しいのか悲しいのか、よくわからない感情を抱いてしまう。


「でも、この感情を失いたくない。そういう時は苦しいけど、その代わりに飛鳥君と一緒にいる時はとっても幸せなんだ」


 飛鳥君と一緒に遊んでいる時はとてもぽかぽかする。心の底からリラックスする事のできる時間だ。


「ふっふーん。さすがスーパーアイドル麗華ちゃん、その原因がわかってもうたで。優希君はズバリ……兄ちゃんに恋をしてるんや!」


「こ……い? こっ、恋⁉︎」


「そう。恋や」


 ドヤ顔でそう言い放つ麗華ちゃん……なんだか頭が混乱してきた。


「ち、違うよ! 飛鳥君は僕の親友で……大事な人で……あ、あれ?」


「だから兄ちゃんにどれだけ嫌われたとしても、こっちからどんどん積極的に仕掛ければええんや」


「で、でも喧嘩しちゃったし……」


「兄ちゃんも今頃優希くんみたいに後悔してるはずや。すぐ仲直りできるって」


 とりあえず、明日飛鳥君ともう一回話をしよう。わかってくれなくてもいいから、とりあえず僕の今の気持ちをちゃんと伝えなきゃ。

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