荷物とパンツと目覚まし時計
『朝やでー、起きろ兄ちゃん! 朝やでー、起きろ兄ちゃん!』
目覚まし時計の音が部屋中に鳴り響く。
目覚まし時計の上部にあるスイッチを手探りで押そうとするが、なかなかスイッチを押すことが出来ない。
「んー……」
何とかスイッチを押し、音を止める。
この目覚まし時計は誕生日に麗華からプレゼントされた物で、電子音の代わりにあらかじめ録音されてある麗華の声が時計から流れるよう設計されてある。
オーダーメイドらしいが、無駄に種類の豊富な目覚まし音に腹が立つ。だが、朝から麗華の元気な声を聞くのは、なかなかにうるさいので助かっていたりもする。
「よい……しょ」
重い体を起こし、部屋の隅のクローゼットから白いサラシと洋服を取り出す。寝ている間に必ずと言っていいほど汗をかいてるからな。着替えないわけにはいかない。
ちなみに、サラシは洗濯中に使う時もある為三枚置いてある。これって結構蒸れるんだよな。圧迫感もあるし、できればこんな物つけたく無い。
タンクトップを脱ぎ捨て、胸にサラシを巻く。流石に5ヶ月も経てばこの作業にも慣れてしまう。白いドクロのマークがプリントされた、中学生時代に好んで着ていた黒Tシャツも、線の細くなった今なら難なく着れてしまう。
Tシャツも着替え、下の制服を履こうとしていると、姉さんが部屋に入ってきた。
「飛鳥君、まだトランクスなんて履いているんですか? せっかく姉さんが女の子用の下着を買ってきたのに。腰をゴム紐で縛ってまでトランクスを履きたいなんて……変わった子ですね」
「誰が変わった子だ……あんなの履けるか! なんでよりによってシマシマのと黒の二種類しか買ってこなかったんだよ……恥ずかしいだろ!」
姉さんが買ってきたパンツの中には、水色の可愛らしい縞パンツとセクシーなお姉様が履いてそうな黒い紐パンツしか入って居なかった。そしてその二種類が2セットも入っていたのだ。
「何を恥ずかしがる事があるのですか。さあ……お着替えしましょうか、飛鳥君?」
「お、おはよう、飛鳥君」
優希は、震えた声で俺に朝の挨拶をしてきた。
「な、なんでそんな辛そうなんだ?」
優希の足元に目をやると、ほんの少し押せば倒れそうなほど、ぷるぷると震えていた。こういう時にはいたずらがしたくなってくる。
「か、鞄が重いんだ……」
そういう思い出は俺にもある。終業式の時持って帰った荷物を始業式の時に一度に学校へ持って行くと、重すぎて死にそうになる。
ましてや、ただでさえ非力な優希が女になったんだ。俺以上に負担がかかっているに違いない。
「……筋力無さすぎだろ」
「ほっといて。早く行こう飛鳥君。僕の足がおかしくなっちゃう前に」
「で、電車までの我慢だからな? 頑張れ優希」
手伝ってやりたいところだが、俺だって重いのは嫌だ。最近筋トレしてないし、疲れたくない。
そして車内。普段の車内とは思えないほど空いている。空席だらけだ。優希は座席まで辿り着くと、限界を迎えたのか大きな溜息と共に崩れ落ちた。そして少し間を開けて優希が口を開いた。
「で、飛鳥君。なんでそんなにそわそわしてるの? トイレ我慢してる?」
「そ、そわそわなんてしてないぞ? きっと鞄が重すぎて目がおかしくなってるんだろ」
ふっ……朝から姉さんのオモチャにされるとはな。姉さん、力強すぎだろ。簡単に押し倒されたし。
もう気づいてはいるだろうが、俺は現在進行形で女用のパンツを履いている。しかも今着ているドクロTシャツと同じ色の方だ。違和感が半端じゃない。
「そんなことないよ! 僕、視力両目とも1.2あるもんね。遠くの物までバッチリ見えるよ」
またいつもと同じように無い胸を張る優希。自虐してるようにしか見えないぜ。
「んじゃあそこの広告なんて書いてあるか読めるか?」
「えっと、カサカサお肌に潤いを、かな? あ、麗華ちゃんが出てるCMのやつだね……ほんと、麗華ちゃんは飛鳥君と違って輝いてるよね」
「ほう……生意気な事を言うのはこの口か」
優希の両頬をつねって引き延ばす。もち肌だなこいつ。ずっと触っていたくなる肌触りだ。
そうこうしていると、電車が駅に到着したようだ。優希はもう一度重たい荷物を抱え、歩き始めた。
「く……はっ……」
「頑張れ優希!」
そして我らが不知火高等学校に着いた。外からみると……なんともボロっちい校舎だ。建物の隅はペンキが剥がれて黒くなってるし、不知火高校の看板もすっかり錆び付いてなんて書いているかわからない。
俺たちは正門をくぐり、教室のある三階へと足を進めた。優希は息遣いが荒く、なんかこう……性的だ。
「やっと着いたぁ……」
優希は自分の机に重い鞄を下ろし、中身の整理を行う。中からは、大量の教科書や参考書が出てきた。いちいちこんな量を持って帰ってたのか?
「二人とも、おはようっす」
「あ、おはよう武君」
「おはよう武」
俺たちを見つけた武が近づいてきた。そして軽い挨拶を交わす。
そしてチャイムがなり、運動場に出て校長の長ったらしい話を聞き、再び教室。
「さて、お前ら急な話だが一つ言い忘れていた事がある」
教卓の奥の椅子にドッシリと座り、俺たち生徒を見る山中先生。
「明日はテストだ」
「えええ⁉」
最悪なことに、明日は実力診断テストが待っているらしい。言い忘れって……そんなのありえねえぜ。
「家に帰ったらすぐに勉強しろ! 特に五十嵐、城戸! お前らはこの高校でも一二を争う大馬鹿だからな。その分周りより多く努力しなければならない」
「……はい」
勉強か……姉さんに教えてもらう事にしよう。
「優希、今日は俺の家に泊まれ。勉強するぞ」
「え、う……うん。飛鳥君が勉強なんて珍しいね」
「良い加減テストでいい点を取らないとな。姉さんに殺される」
「そ、それじゃあ後で荷物を持って向かうね……」
勢いで勉強するとは言ったものの、どうすれば良いのか…………何としても60点は取らないとな。




