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風邪と覗きとラマーズ法

「……兄ちゃん、おはよう。聞こえてたら嬉しいな」


 物音一つない病院の個室。その中で、長い髪をまとめて後ろに括った一人の女が寝たきりの男に話しかける。だが、男はベッドに横たわり返事を返そうともしない。


「もうあれから4年も経つんやな……」


「……お金の事は心配せんでも大丈夫やで。またあの時みたいに、暮らせるようになるまで……兄ちゃんは、どんな事をしてでも私が守ってみせるから――」




 あー……暇だ。夏休みは何もやる事がない。姉さんは仕事、麗華も仕事。そして俺はリビングルームでタンクトップにパンツの格好でアイスを咥えてゴロゴロ。部活も無いしバイトも無い。ニートライフ満喫中です。


 そのうえ、また嫌な夢を見たし……爺さんの言ってた事からすると、あの女は麗華で、ベッドに寝ているのが俺、でいいんだよな……ああはなりたくないな。


「……テレビでもつけるか」


 気分転換にテレビを点けると、アイドルとしての麗華が朝のワイドショーに映っていた。


『工藤ちゃん、今日は何かの告知があるんだって?』


『はい! えっと、あさってからこのチャンネルで芸能プロダクション対抗のアイドル水泳大会が……』


 水泳大会って、今は昭和じゃないんだぞ。けしからん。仮にも未成年だからそういう仕事は控えろよな。

……テレビを見るのはもうやめておこう。液晶の向こうで輝いてる麗華を見ると自分が薄汚れて見える。


 劣等感に打ちひしがれ、何も映っていないテレビを眺めていると、スマートフォンから音楽が鳴った。優希からの着信みたいだ。


『飛鳥君、ぐっどもーにんぐ!』


 スマートフォンのスピーカーから優希の元気いっぱいな声が流れる。


「朝っぱらからうっせえな。それに、無理して慣れない英語を使うんじゃありません」


 微笑ましくなるだろうが。まったく。


「反応薄いなぁ…….」


「……んで、何の用だ?」


『武君が風邪を引いちゃって……熱が39度も出てて、両親も明日の朝まで帰ってこないらしいから皆でお見舞いに行こうかな〜って』


「夏風邪かよ。うーん……まあいいや、それじゃバス停の前で集合で」


 武の家は俺たちの家とは少し離れた場所にある。だからバスで向かわなければならない。武が元気だといいけど……




「武君、しんどいだろうけど開けてー」


 優希がインターフォンにそう言うと、ガチャリと玄関の扉が開いた。


「ん、入ってくれ。悪いな」


 いつもは元気の塊の様な武も、風邪には勝てないのか玄関の扉を開けるとすぐに自分の部屋に戻りベッドに横になった。


「飛鳥も来てくれたのか?」


「ひ、暇だったから仕方なく様子を見に来てやったんだよ」


「ははっ、嘘つけ。バスの中でずっとそわそわしてたじゃねえか」


 身長が俺より20cmも違うからって、俺の頭をわしゃわしゃと撫でてくる雄二。


 ぐぅ……悔しい。もし男に戻ったとしても届かないのが余計に悔しい。190cmオーバーって……デカすぎるんだよ。20cm以上俺と身長差があるんだぜ? 


「そういえばそうですね。五十嵐君、ずっとバスの中で落ち着きがありませんでしたし。五十嵐君も素直じゃないですね」


「う、うるさい! 心配なんかしてないって言ってるだろ⁉」


「拗ねていても魅力的だな、五十嵐飛鳥」


「拗ねてない!」


 口頭ではこうは言ってしまったが、武の事はそれなりに心配しているつもりだ。


「おい、優希達。ちょっと来い」


 4人が部屋の隅でこそこそと何かを企み始めた。何を言っているかは聞き取れそうにない。


「いいか? 俺達がここにいる限り飛鳥のツンからデレへ移行する瞬間は絶対に見る事は出来ない」


「つまり……五十嵐君を素直にさせる為には僕達が一度出て行けば良い、と?」


「そういう事らしいな。俺的には五十嵐飛鳥が他の男といちゃいちゃするのは気に食わないが、一度見てみたいという好奇心はある」


「それじゃ、作戦開始だね……こほん。飛鳥君! 僕達、ちょっとコンビニで何か買ってくるからその間、武君の隣にいてあげてくれる?」


「え、ああ。いいけど……早く帰って来いよ?」


「うん。それじゃ、皆、行こ?」

 

優希を先頭に、雄二達が部屋を出て行った。何も四人で行く事ないのに。




「よし、作戦成功だね……!」


「ここがもし病院だったら変な目で見られてるだろうな……男四人がドアの前で聞き耳立ててるなんて不自然すぎる」


「まあ、ここは武君の家ですし、ある程度は大丈夫でしょう」


「ん? 及川雄二、ここのドアは隙間から中の様子が伺える様だぞ」


「マジで? あ、本当に見える」


「飛鳥君、そわそわしてるね」


「覗き見はあまり良くないとは思いますが……楽しみですね」




 よく周りを確認して……よし、誰もいないな。こんなとこ、あの4人に見られたら何を言われるか。


「その、大丈夫か?」


「大丈夫、心配される程でもないし。折角来てくれたんだしあいつらが帰ってくるまでお茶でも出すわ」


 無理して立ち上がる武。立ち上がったはいいものの、案の定すぐにこっち側に倒れかかって来た。


 なんとか受け止めたが、男の中でも筋肉のある武は、女の俺からすれば、想像以上に重いものだった。


「武、無理するなって!」


「悪い悪い。ついいつもの調子で……」


 俺と武は自然に抱き合う形になっているが、何故かそんな嫌な気はしない。男の頃なら拒絶反応を起こしてたんだけどな。……体は女でも、心だけはいつまでも男のままで、イケメンでかっこよかった頃の俺のままでいたい。




「佐藤武、許せん……!」


「落ち着いたらどうですか? 男の嫉妬は見苦しいですよ」


「……そ、それもそうか。嫉妬はされる側からすれば迷惑極まりない」


「……? 妙に説得力がありますね。嫉妬される相手でもいたりするのですか?」


「嫉妬深い許嫁が一人、な」


「へぇ、初耳ですね。って、許嫁がいるのにもかかわらず五十嵐君と添い遂げようなんて馬鹿げた事を考えているのですか?」


「ああ」


「即答ですか」




 うーん、あいつら遅いな。コンビニなんてすぐそこにあるのに何してんだよ。


「なあ、飛鳥。別に俺の手を握らなくてもいいんじゃないか? 嬉しいけど」


「あ、悪い。なんか手が勝手に……」


「そ、そうか」


 互いに何を話していいのかわからず、気まずい沈黙が流れる。何で俺は武の手を握っちゃったんだ。こういう沈黙は苦手なんだよな。一分一秒が長く感じる。


 姉さんにテスト結果を見せた時もこんな感じだった。姉さんの溜息から始まる沈黙は冷や汗が止まらなかった。


「うーん……空気が重いね」


「でもなんかいい感じじゃね?」


「西園寺君……! 落ち着いて……!」


「わ、わかっている……西園寺家の後継者を舐めるな」



「飛鳥も嫌なら見舞いに来なくていいのに」


「別に嫌なわけじゃない。さっきはあいつらが茶化してきたから、その……なんていうか」


「飛鳥でも俺なんかを心配してくれるんだな〜……」


「武。お前が自分自身の事をどう思ってるのかは知らないけど、この際はっきり言っておく! 俺はお前が思ってる以上にお前の事……し、心配してるんだからな!」


 友達が高熱出してるのに心配しない奴がいるとすれば……そいつは酷い野郎だと俺は思う。


 ちなみに、麗華は俺が中三の時、俺が風邪を引いて学校を休んでいたら早退してまで看病してくれた。確か号泣してたっけな。過保護といわれてもしょうがない。


「……飛鳥!」


 少しばかり恥ずかしかったので、武の顔を見まいと顔をそらそうとした。するとその時、顔がぐいっとベッド側に引き寄せられた。


「飛鳥……心配してくれてありがとうな! 俺は嬉しいぞ!」


 武はさっきまでのぐったり具合からは想像できないほど力強く俺の頭を抱きしめる。


 ドアの向こうから何か揉めてる声がするが、気にしない。というか、気にしてる余裕もない。


 武が頭だけ抱きしめるものだから、床に膝で立っている状態だ。


 このままでは窒息する。でも俺は何か打開策を見つけて見せる。男の胸板なんぞで死んでたまるか。どうせ死ぬなら女の胸で死にたい。麗華やアリサみたいな絶壁はお断りだけど。


 だけど……こんな状況、どうすれば助かる事ができるんだ? いくらもがいても武の胸板に頭を擦り付けるだけだし。


 でも、何もしないよりかはマシか。


「このっ……!」


 ぬ、抜けねえ。こいつ、無駄に筋トレしてるからなぁ……女の力じゃ厳しい。




「ん? 雄二君、飛鳥君がこっちにお尻向けてじたばたしてるよ」


「ぐへっ、飛鳥いいケツしてんな……」


「木刀を突き刺すぞ及川雄二」


「落ち着いてください。今日は佐藤君のお見舞いに来たんですよ……編に暴れて悪化させたらどうするんですか!」




「はぁ……はぁ。死ぬかと思ったぜ」


「むしゃくしゃしてやった。反省している」


「なんだその犯罪臭漂う動機は。それに、お前さっきまで完全に病人だったじゃねえか! なんで急にいつも通りになってんだよ!」


「いや、まだしんどいぞ? 今一時的にげんきなのは飛鳥を抱きしめて飛鳥成分を取り込んだからだ。飛鳥成分が尽きれば、また元通りになる。そんな事も知らないのか? 常識だぞ?」


 なんだ飛鳥成分って。そんなの常識でもなんでもない。


 でも……少しでも武が元気になるならそれはそれでいい、かな。


「なら……もう少し弱く抱きしめてくれ。苦しい」




「あれ、飛鳥君が抵抗しなくなったよ」


「……遂に死んだか?」


「佐藤武……佐藤武ぃ……佐藤武ィィ!」


「……もういいです。僕はどうなろうと知りませんし、止めもしません。好きなだけ暴れればいいじゃないですか」


「ああ……唯一の誠哉君ストッパーが折れちゃった……」


「あ、でもドアは閉めてくださいね。そこだけは譲れません」


「わかっている。お前達は引き続きここで覗き見しているといい」




「佐藤武! この俺が成敗してくれるわ!」


「っ⁉ な、なんだ西園寺か。びっくりしたぁ……」


 武に撫で回されたりされるがままで、少し眠たくなってきていると、急に西園寺が物凄い剣幕で突入してきた。


「せ、誠哉⁉ 帰ってきてたのか⁉」


「佐藤武。今すぐ五十嵐飛鳥をこちらに渡せ」


「嫌に決まってんだろ」


「ふっ……そうか。なら無理矢理にでも奪うまでだ!」


「あっ! てめえ!」




「今僕達危なかったよね? もう少し壁に隠れるのが遅かったら絶対ばれてたよ」


「そうですね……まったく、西園寺君もタイミングぐらい考えて欲しいものです」


「そんなことよりお前ら見てみろ。二人の飛鳥の取り合いだ……ぐへっ、面白くなりそうだな」


「……雄二君。今日の笑い方なんか変だよ? 変態さんみたい」


「優希、男は誰だって変態さんなんだよ。化けの皮を剥がせば誰だって醜い野獣or紳士なのさ。もちろん飛鳥だってな」


「そ、そんな事ないよ! 飛鳥君は雄二君とは違うもん」




 俺は、武に弱く抱きしめられてたせいか、すぐに西園寺に引き剥がされてしまった。


 そして武は飛鳥成分とやらが切れたのか、再び最初の状態へ戻ってしまった。


「五十嵐飛鳥、俺達はずっとドアの向こうからお前が何をするか見張っていた。もとい覗いていた」


「いや、別に助けなんて求めてないし」


「いや、俺にはわかる。お前は心の中で助けを求めていたとな」


「だから求めてないってば。それに、覗いてたって……どういう事だ?」


「しまった」


「しまった。じゃねえよ馬鹿。それに、俺"達"って事は……あいつらも居るって事だよな?」


「な、なんの事だ? あ、待てドアを開けるな、そっちには未知の生物がうじゃうじゃと」


「黙れ」


 溜め込んだ怒りが爆発しそうになりながらも、なんとか部屋の入り口まで持ちこたえ、一気にドアを内側に引いた。


「ぐえ」


「ふぎゅ」


「うぐっ」


 すると、コンビニに行ったはずのデカブツとちっちゃいのとメガネが部屋の中へ倒れ込んで来た。


「お前ら、どういう事か説明して……くれるよな?」


「あ、飛鳥君? 顔が怖いよ……」


「ほ、ほんの出来心なんだ! 決して飛鳥が武をどういう風に心配するのかとか、飛鳥の武に対するデレが見てみたいとか、そんなんじゃないんだ!」


 ほう? こいつはよほど叩きのめされたい様だ。俺は武を友達として心配なだけ……そう、心配なだけだ。


「また余計な事を……! これ以上余計な事をすれば五十嵐君に」


「君達にちょっと話があるんだ。武以外はちょっと来てくれるかな?」


「ひいっ、飛鳥君の口調がおかしくなってる……⁉」


「武、こいつら絞ったらまた後で……来るから」


「お、おう」


 こうして俺は四人を連れて武の家を一時的に出た。この四人には少しお灸をすえる必要があるみたいだ。


「さて……ゆっくり……ゆ〜っくり話を聞かせてもらおうかなぁ?」


 武の家の隣の公園で雄二達を問い詰める。


 雄二は後ずさりしながら徐々に後ろの建物の壁へと近づいていく。馬鹿め、そっちは行き止まりだ。……俺よりは成績良いけど。


「あ、飛鳥。落ち着け、な? ヒッヒッフー」


 ここでボケてくるか。ムカつくな……だけど仕方ない。本人が望んでいるようだし、素晴らしいツッコミを入れてやろう。どぎついストレートでな。


「それは……ラマーズ法だぁぁぁ!」


「ぎゃああああ!」


 雄二はパンチをまともに受けると、漫画の様に空の彼方へと消えていった。西園寺と翔一も同様に空の彼方へと消えていった。


 ただ、優希だけは可愛いから強げんこつ二発で許してやった。優希は可愛いからな。うん、仕方ない。そして優希はそのままフラフラしながら帰って行った。




「武、ただいま」


「げほっ……おかえり。あれ、雄二達は?」


「ぶっ飛ばした。優希はげんこつで済ませたけど」


「そ、そうか。やっぱりお前は病気とやらで見た目声も変わっちまったけど飛鳥なんだな……げほっ」


「そ、そりゃそうだ。俺は五十嵐家長男の五十嵐飛鳥だ!」


 今は次女だけど……すぐに長男に戻ってやる。そして無駄に重い胸ともおさらばだ。


「って、俺の事なんかどうでもいいんだよ。咳……止まらないのか?」


「こんなの一日あれば治るって。大丈夫大丈夫!」


 俺が公園に行く前と比べて随分咳き込んでいる気がする。やっぱりアホどもに制裁を加えないでここにいたほうがよかったのか? だとすれば……悪化は俺のせい……? 違うか。あれ、やっぱりそうかな?


「ふむ…………よし、決めた! 武、俺が泊り込みでお前を看病してやる!」


「え……けっ、結構です!」


「うるさい。決めたからには俺が看病するんだ」


「駄々っ子かよ。お前高校生だぞ⁉」 


「いいから病人は安静にしてろ。今姉さんと麗華に連絡するから」


「聞く耳持たずってか」


 姉さんに電話すると、これまたすぐに許諾を得た。男同士だからかな? 麗華は電話の向こうでギャーギャー喚いてたみたいだけど。


「なんてこった……まさか結衣さんが許すなんて」


「だって不純じゃないしな! 看病だからな!」


「どこで威張ってんだよ。だから馬鹿なんだ」


「はいはい。ツッコミはもういいからおとなしくしろ。今のお前にならなに言われたってなんとも思わないぞ」


「むむ……1日同じ部屋って考えるとお前でも女として見てしまいそうだ」


「なら早速風呂……は無理、だな。風邪引いてるし」


 だとすれば……とりあえず姉さんから聞いたとおり汗拭いてやるか。汗まみれじゃ気持ち悪いだろうし。


「えっと、バスタオル、バスタオルっと……あった。武、服脱げ」


「やだ……私、大ピンチ⁉」


 武が女の真似すると化け物以外のなにものでもない。吐き気を催す。優希レベルになってから出直して来いって感じ。


「殴るぞ。気持ち悪い」


 俺は武に拳を見せ、犯罪級の行為に自重を促す。


「ごめんなさい。で、でも汗なら自分で拭けるぞ?」


「自分じゃ気づかないところがあったりするだろ? 背中も拭きにくいし」


「まあ……そうなの、か? なんかくすぐったい感じもするけど……ま、任せた」


 覚悟したのか武は上の服を脱ぎ、ベッドに座った。


 こいつは俺の自慢の肉体に匹敵する程の肉体の持ち主だ。


 今現在その肉体を失っている俺からすれば嫉妬の対象……のはずなのだが、何故かその嫉妬の対象を見てみると顔が火照って仕方が無い。


「う……⁉」


「ははっ、顔が赤いぞ? 俺の風邪がうつってたりしてな!」


 ち、ちくしょう……! ハーレム物の主人公みたいな事言いやがって……モテない癖に。金髪の癖に。モテないくせにいいいいい!


 自惚れに聞こえるかもしれないが、俺は麗華に好かれている。だから、どっちかっていうとまだ俺の方が主人公に相応しい、はず!


「だ、大丈夫だ! さっさと終わらせるぞ!」


 そうだ。これくらいなんてことはない。男の裸なんて水泳の時間にいくらでも見てきたはずだ。落ち着け飛鳥。


「にしても、まさか夏休みに風邪引くとは思ってもみなかったな。お前らが来てくれなかったらどうなってたことか。ありがとな」


「……だ、黙って座ってろ!」


「痛っ⁉ ちょっ、強く擦り過ぎ! 痛い痛い!」


「へっ? ああ、ごめん……」




 ――そして次の日。


「ごほっごほっ!」


「飛鳥君……大丈夫ですか?」


 次の日、俺は風邪を引いていた。理由は明らか、昨日張り切って看病を続けたのだが、武が寝静まった後、疲れてしまって武の横で寝てしまったのが原因だ。


 家に帰る時、クラクラして立てないもんだから今度は武におぶってもらったんだが……あれは屈辱だった。


「大丈夫……ちょっと風邪引いただけだから」


「そうですか? 取り敢えず、今日一日安静にしてなさい。明日になっても治らないなら病院に行きましょう」


 くそっ……武の奴、よりによって看病してやった人に風邪移しやがって。


「風邪を引いた以上、今日の夜ご飯はお粥で決定ですね」


「そ、そんな⁉」


「我慢しなさい。風邪を悪化させる気ですか?」


「うぐぐ……もう二度とお見舞いなんて行かねえ!」




 ――こうして、俺は夏休みの一日を棒に振ったのだった。今日一日の収穫は……お粥はまずい、という事を再認識した事だけだ。


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