海と占いと老舗旅館 2
「おかえり兄ちゃん! 占いどうやった?」
「うん……なんか色々あったけど、とりあえずは行って良かったと思う」
「……んで、優希君はなんで顔真っ赤なん?」
手で顔を覆って喋ろうともしない優希に疑問を抱く麗華は、俺の方を見て首を傾げた。
「あー……優希の事については触れないでやってくれ。さっきまでもっと酷かったのがようやく落ち着いたんだから」
「ぁぅぅ。さっきの事は忘れてよ……」
「はぁ……兄ちゃん、また優希君をたぶらかしたんか?」
たぶらかすって。また人聞きの悪い事を。
「おいおい、俺からじゃないからな? 今回は優希から抱きついてきたんだ!」
「ん? "抱きついて"……って。それに、"今回"はって事は前もあったって事やんな?」
五十嵐飛鳥十七歳。またまた墓穴を掘ってしまいました。
「あ……えっと、だな」
「麗華ちゃん。今回は僕から飛鳥君に……その、抱きついたというか、飛鳥君は悪くないんだ」
優希は今だに顔が真っ赤だ。自分から抱きついたのが余計に恥ずかしかったのか? どこまでも男とは思えない奴だな。
「優希君から? ふっ、そんな嘘がウチに見抜かれへんとでも思ったか!」
「え、嘘って……本当の事だよ!」
「うんうん。わかってるで。兄ちゃんに言わされてんねやろ?」
「おい、俺は何もしてねえぞ! 冤罪だ、冤罪!」
「はぁ。兄ちゃん、正直に白状したら? もう全部ばれてるんやで? ただでさえ恥ずかしがり屋な優希君がこんな恥ずかしい事できるはずないやろ?」
ぐっ、悔しいがこればっかりは日頃の行いだな。必死に訴えても耳も貸そうともしない。狼少年状態だ。
「だから麗華ちゃん、飛鳥君は悪くないってば! 確かにいつも抱きついてきたり撫でてきたりするけど」
「……その件については反省します」
でも仕方が無いんだ。仕方無いんだよ。笑顔の優希を見てるとどうしても手が伸びてしまうんだ。
「そ、そうか。兄ちゃんから……か」
すると、さっきまで少し怒っていたはずの麗華が急に表情を暗くし、前髪を弄りだした。
「あ、麗華ちゃん、その……」
しまった、と言ったような表情で手を口に当てる優希。
「優希君だけそんなんずるいわ……ウチだって。ウチだって兄ちゃんに褒めてもらうために頑張ってんのに! 小学生の頃からどんだけ頑張っても、アイドルになって有名になっても、兄ちゃんは……なんでウチには冷たいん?」
「……麗華」
麗華がここまで溜め込んでいたとは知らなかった。いつも底抜けに明るいから不満なんかないと思ってた。
「麗華! ごめんなあああああ!」
「わっ……ふふっ。もっとや、全然足りへん」
俺は麗華を自分の胸に抱き寄せ、荒っぽく撫で回した。塩を含んだ麗華の髪の毛はぐしゃぐしゃだったが、麗華は笑顔だった。機嫌を直したようだ。、
「んじゃ、姉さん達も待ってるはずだし……ほら、麗華、戻るぞ」
俺は麗華に腕を組まれたまま歩き始めた。腕に少し柔らかいものが当たっている気がしないでもないが、所詮はちっぱい。俺は気にしない。
「えへ、えへへ。兄ちゃん、大好きやで。今までも、これからも――――大好き!」
この時、麗華の顔はテレビでも見た事のないほどの笑顔に満ち溢れていた。
「れ、麗華ちゃん。勘違いしてるみたいだけど今回はその……僕から抱きついたんだよ」
「えっ」




