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海と占いと老舗旅館 1

「あのー……すいません」


 俺が渋々テントの中に入ると、そこにはロウソクの火に照らされ、不気味な笑みを浮かべた老人が座っていた。


「ようこそおいでなさった……この時刻にこの場所へ占いに来たという事は……貴女は五十嵐飛鳥様に城戸優希様、でございますな?」


「……な、なんで俺達の名前を?」


 俺はこんな老人に一度も名前を教えた記憶など無い。だが、老人は俺の質問が聞こえなかったかのように淡々と言葉を重ねていく。


「貴女達の名前も……貴女達がここへ出向かれる事も随分と前からわかっていた事。お二人には……男性では無くなってしまわれたことで悩まれているのではありませんかな?」


 優希はサーカスを見ている子どものような純粋な顔で首を縦に振った。優希はともかく……何者だこの人は。


「では……少し占わせて頂きます」


 老人はタロットで俺達を占い始めた。俺は極力占いなんて信じないクチだが、この人の占いは的中する気がする。


「ほう……貴女達は二人とも同じカード、"星"の正位置……希望や期待、明るい将来を表しております」


 女性が壺で川に水を注いでいる絵柄のカードを手に取り、俺たちの方へ差し出す。


「……五十嵐飛鳥様、城戸優希様。貴女達が女性である事によってご自分の未来……そして、他人の未来をも良い方向へと変える事ができるようです」


「ほえ? 未来……ですか?」


目をぱちくりさせ渡されたカードをじっと見つめる優希。


「あ……あの、それってどういう意味ですか? ……僕達が女の子になっているおかげで僕と他の人の未来が変わるって」


「ふむ、例えば……お二人は近頃、おかしな夢を見たり……してませんかな?」


 今度は机の上にある水晶玉を使い何かを占い始める老人。


「あ……それなら俺、見た事があります。寝たきりの男がテレビを見てました」


 あれほど気分が悪くなる夢はなかなか無い。まさしく悪夢だ。


「僕は女の人が一方的に男の人を責めてる夢を見ました」


それを聞くと、老人はにやりと口角を上げた。


「その男性は恐らく…………貴女方自身でございます」


 そして、俺達にこう告げた。あの寝たきりの男が俺だって? ……冗談じゃない。


「貴女達にとって人生の節目――そう、今年でございます。今年、貴女達は女性ではなければ解決できなかった問題や危機、女性である事で逃れる事の出来る偶然の事故に直面しなさるはず」


「その夢は、貴女達が節目を迎えた時、男性だった場合の末路の一つでございます」


 いわば、バッドエンドだな。俺達が女である事で……避けられると良いんだが。


「その時が来るまで、男性に戻る事は難しいでしょうな」


 今年……もし何かが起こるのだとすれば、俺は何をどうすればいいのだろう。


「ふむ……私に占えるのはここまでのようです。しかし、貴女達は実に面白い……これからどうなるか非常に楽しみでございます。お代は頂きません……私も面白い物を拝見させて頂きましたから」


「本当ですか? ありがとうございます!」


 俺はここぞとばかりに前に出てお礼を言う。人を幸せにする魔法の言葉。それがタダだ。


「……それでは、また会える日まで」


 こうして俺達はテントを出た。……なんというか、変わった人だったな。とにかく、その節目の時期が来るまで……俺は女だとバレるわけにはいかない。


「飛鳥君、もしその時が来たら二人で助け合おうね? 僕たち友達だし……」


 優希はどこか不安そうな表情だ。恐らくさっきの占いの事だろう。


「わかってるって。お前がピンチの時は俺が守ってやる……俺達は親友だからな」


「…………飛鳥君!」


 感極まったのか、俺は優希に抱きしめられた。……柔らかい。


「僕、嬉しいよ。飛鳥君に親友だなんて、そんな風に思ってもらえて」


 落ち着け俺。優希は男、優希は男なんだ。優希は男……優希は男。優希は女……あれ、なんかおかしいな。いや、おかしく無いのか?


「ゆ、優希。その……恥ずかしくないのか? 俺は恥ずかしくてたまらないんだが」



――その後、しばらく顔をトマトように赤くさせ、下を向いた優希が目も合わせてくれなかった事は言うまでもない。

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