海と水着と擬似ハーレム 2
「飛鳥、海行こうぜ!」
「嫌だ」
そう、俺は武達からの誘いを3秒で断っていたのだった。仕方がなかったとはいえ、そんな中、女と海へいってました。なんて許されるはずが無い。
「ど、どうしよう一条さん……!」
「何故私に助けを求めるのですか……⁉ と、とりあえずこのゴムで髪を括ってみては?」
一条さんは咄嗟に鞄の中からゴム紐を取り出した。お嬢様でもこんなの持ってるんだ。
「兄ちゃん、この眼鏡つけたらどうや?」
眼鏡会社のCM用の伊達眼鏡を渡してくる麗華。俺は眼鏡が嫌いだが……今はどうこう言ってる場合じゃない。
「……あんま変われへんな」
「……でも飛鳥君に似合ってるよね」
髪を括って眼鏡を掛けただけでそう見た目が変わるわけがない。
「あれ、結衣さん。どこか行くんですか?」
武、何故こちらに気づいたんだ。そのまま黙って座っていれば良いものを。
「はい、麗華ちゃんが海に行きたいらしいので、麗華ちゃんとその友達と海へ向かっているところです」
「麗華ちゃんもいるんですか⁉ ……って、あの子、飛鳥じゃないですか?」
「あ、あの子は……飛鳥君の双子の妹のあすなちゃんです」
「い、妹……最近の飛鳥にそっくりだな。なあ雄二?」
「ああ……髪ほどいて、眼鏡かけてなかったら見分けがつかねえな……」
こいつらと離れるまで、妹を演じないといけないのか。姉さん……もう少しいい方法あったでしょ。
「あすなちゃん……だっけ? 」
武が馴れ馴れしく喋りかけてきた。俺の演技力を見せつけてやるぜ。
「五十嵐あすなです。初めまして」
普段よりも小さめかつ、落ち着いた声を出す。
「俺は佐藤武。こ、こちらこそ始めまして」
ほう……こいつ、馴れ馴れしく喋りかけてきた割には緊張でガチガチじゃねえか。相変わらず奥手なやつだ。
「飛鳥の妹なんだっけ? そっくりだね」
「そうですか? ありがとうございます……でも武さん、あまり喋ってると膝で寝てる子が起きちゃうので」
アリサを起こしてしまって、吐いてしまったとしたら武のせいだ。
「ご、ごめん! さ、さあ戻るぞ雄二」
「……どうだった?」
「……何かすげえ大人びてるというか。飛鳥とはえらい違いだった」
武は雄二を無理矢理引っ張っていった。なんとかやり過ごせた様だ。 んで、前の方の座席からは西園寺達がこちらを見ている。
「五十嵐君に妹、ですか」
「……双子の妹というものはホクロの位置まで同じものなのか?」
「さあ? 僕は兄弟がいないのでなんとも言えませんね」
声が小さかったので、何を言っているのかはよくわからなかったが、多分俺には関係の無い話だろう。
「兄ちゃん、海見えてきたで!」
麗華は窓の外を見てはしゃいでいる。まだまだお子ちゃまだな。
「おーい、アリサ、そろそろ到着するぞ。起きろ」
頬をぺちぺち叩くと、アリサはすぐに目を覚まし、目を擦りながら周りを見渡した。
「ん……そうか、今は海へ向かっていたのだったな。私が不甲斐ないばかりに申し訳なかった。先輩……膝は大丈夫か?」
「はいはい、心配しすぎだって。これくらい平気だから」
しばらくアリサと話しながら海を見ていると、バスが止まった。目的地である浜辺に到着したのだろう。
浜辺に着くと、バスの代金も払わずに真っ先に麗華が飛び出して行った。
「す、すいません。俺が払いますから」
なんで俺が二人分も……高校生のお財布事情を知らないのか麗華は。
「飛鳥君、大丈夫?」
「大丈夫……ほんのちょっと財布が軽くなっただけだ」
「兄ちゃーん! 早く早く!」
俺の財布を軽くした張本人、麗華は古風な旅館の前で飛び跳ねていた。変装も何もしないものだから、周りに人が集まり始めている。
「わわっ⁉ 麗華ちゃん、そんなに目立っちゃだめだよ! 人だかりができちゃうよ!」
「あ、そっか。ごめんごめん」
優希は珍しく強引に麗華を旅館に連れ込む優希。こんなところに人だかりができれば、むこうの人にも迷惑がかかる。優希は人に対する気遣いやおもてなしのテストなら満点を取れるだろう。
そして館内。
「ふざけんな! 優希ぐらいよこせよ!」
何故かは知らないが、部屋割りは俺が一人部屋に決定していた。わけがわからん。
「駄目です。飛鳥君と優希君が同じ部屋に一泊だなんて、飛鳥君が間違いを起こす事は間違いありません」
優希を除く横の三人、麗華、アリサ、そして一条さんまで頷く。
誤解している様だが、俺は貧乳なんぞに欲情はしない。するとしたら身内ではない巨乳の年上お姉さんだ。あ、姉さんはないけど。
「僕は別に飛鳥君とでも良いかなーって……」
「うふっ……優希君?」
俺を気遣ってくれたのか、ありがたい言葉を投げかけくれた優希だが、姉さんの笑顔に威圧され黙り込んでしまった。姉さん、恐るべし。
こうして俺は、一人部屋になってしまった。俺も女なのに……寂しくなんかないぞ。寂しくないもん。
「先輩、皆海へ行ってしまったぞ? その……部屋割りの事は忘れて、今は楽しまないか?」
「……そうだな」
俺はアリサになだめられながら浜辺近くの更衣室へ向かった。ここまで来たらもうビキニで泳いでやる。今年はこの胸のせいで一度もプールに入っていない。他の奴等が泳いでいるのを傍から眺めてもちっとも面白くない。俺は忍者の如く、早く着替えて浜辺に飛び出した。
「優希君、ヤドカリ!」
「あ、本当だ。……えいっ」
浜辺へ向かうと、ヤドカリを突ついて虐めている水着姿の優希と麗華を目撃した。なんて可哀想な事を……ヤドカリは両側から貧乳共に木の棒で突かれ、ふらふらと左右を行ったり来たりしている。
俺はヤドカリを虐める悪ガキ共の背後にゆっくりと近づいた。そして思い切り二人の尻を叩いた。二人が変な声と同時に背筋を伸ばす。
「きゃん⁉」
「ヤドカリを虐めるな! こんなに可愛いのに可哀想だろ!」
「ヤドカリが可愛かったものだからついいじめたくなっちゃって……ごめんなさい」
ヤドカリを解放する優希。まったく、動物を虐待するとは何事か……でも、可愛いものをいじめたくなるのは同感だ。
優希から滲み出るいじめたくなるオーラは異常だ。
「ウチもその事については謝るけど……女の子のお尻叩くのはセクハラやで? 変態!」
「変態⁉︎ これは懲罰だ」
俺は麗華の腹が俺の膝に乗るように麗華を担ぎ直し、尻を叩きまくった。
「ぎゃー! 何すんねんアホ!」
「うるせえ、誰が変態だ! アイドルならもっと色気出せや!」
「お尻はアイドルに関係ないやろ! 叩かれすぎで赤くなったらどうすんねん!」
じたばたと抵抗する麗華を押さえつけひたすら尻を叩き続ける。俺が男の姿だったらこの時点で通報されているだろう。でも今は女。周りから見ればちょっと変な事してるようにしか見えない。
それに、優希は男、麗華は妹みたいなものだからセーフだ。少々おかしな理屈だろうが、俺は気にしない。この世界は俺を中心に回っているんだからな!
「……問題あるに決まっているだろう。先輩はその年で前科者になりたいのか?」
ため息をつき、麗華側に味方するアリサ。なぜだ……それなら、麗華のベッド無断侵入&抱きつきもセクハラに入るんじゃないのか!
「な……お前まで俺の敵になるのか⁉ 薄情者……!」
「薄情者もなにも、社会の常識だろう」
アリサに見放され、一対三の劣勢に追い込まれていたところ、女神が降臨なされた。
「大丈夫ですわ……私はあなたの味方です。飛鳥さんは生き物を守っただけで、飛鳥さんになに一つ非はありませんわ」
「い、一条さん……!」
一条さんはこの前に比べたら随分と物腰が柔らかくなったような気がする。
「馬鹿な事やってないで、遊ぶなら遊ぶで早くしないと日が暮れますよ」
俺達が余計な事をしている間に姉さんはパラソルを地面に突き刺し、着々と準備を進めていた。
「飛鳥君達は先に遊びに行っても構いませんよ? 姉さんがこの辺りの準備はしておきますから」
「さすが姉さん! よっ、年長者!」
俺は悪気があったわけじゃないて、姉さんだけ二十代だとか、そんな事を言うつもりはなかったんだ。ただ……ただ、姉さんをおだてようとしただけなんだ。
だが『年長者』のワードが姉さんの逆鱗に触れたのか、満面の笑みを浮かべ青筋を立てている姉さんはどこからかおぞましい見た目の釘バットを取り出した。
しかもそのバットは、どう見ても金属バット。釘を金属バットと合成するのは容易ではないはず……どうやったんだろうか。
「結衣さん、落ち着いてください! そんなので殴ったら飛鳥君が死んじゃいます!」
俺と姉さんの間に割り込んで優希が必死に姉さんを止めようとしてくれている。
「なら、その時は飛鳥君と一緒に死ぬまでです」
怖い、怖いよ姉さん。俺がまた三途の川を渡る事になるかもしれない事態なのに、麗華とアリサは浜辺で城を作って呑気に遊んでやがる……今だけ麗華やアリサになりたいなあ。
「飛鳥さん、優希さんが止めている間に対策を練りましょう……!」
「し、仕方ない! 一条さん、武を呼んで来てください!」
武ほど扱い易い奴はそういない。その上、今はあすなちゃんモードだから……思いのままだ。
「わかりましたわ! 私にお任せください!」
それから10分後――俺はあすなとして作ったキャラを演じていた。
「武……さん! 助けてください! お、お姉ちゃんが!」
「結衣さんがどうしたんだ……怖っ⁉」
釘バット装備の姉さんを見て、驚き後ずさる武。
「あ、あの……結衣さん? 事情はよくわかりませんけど、罪を犯したら飛鳥にしばらく会えなくなりますよー……なんて」
「会えなく……?」
「そ、そう。飛鳥LOVEな結衣さんにとって飛鳥に会えないのは苦痛でしょう?」
「そ……それはそうですけど……」
「それに、飛鳥からの信頼も失いますよ?」
そして姉さんはしばらく考え込んだ後、姉さんは殺人バットをしまった。武の勝利だ。
「あ、ありがとうございます! 武さんが来てくれなかったらどうなっていたか……」
あすなちゃんモードとは関係なく、今はとても感謝している。
「い、いや……俺は別に……」
「それでも私、武さんに凄く感謝してます。ありがとうございます」
でも、これ以上あすなちゃんモードは精神的に辛い。仕方ない、武には悪いが気絶してもらおう。
俺は武の腰辺りに抱きついた。ぎゅっと強めに。すると武は予想通り鼻血を噴き出し、浜辺の砂を真っ赤に染め上げたのだった。
「……姉さん、さっきはごめん」
「いえ、姉さんこそ取り乱してすみませんでした」
なんとか姉さんと和解することができた。……撲殺されなくて本当に良かった。本当に。
「なんとか助かりましたわね飛鳥さん……」
「そ、そうだな……」
「兄ちゃーん! そいつ捕まえて!」
一件落着して、ようやく泳げると思っていたら、今度はアリサと麗華の後輩組が面倒事を引っさげてきた。アリサは小動物のような目で俺に近づいて来た。
「先輩、麗華が私の事を海に沈めて虐めるんだ……」
「な、なんちゅう性悪女や⁉ そのアホが涼しい顔してウチを海に沈めてくるんや、兄ちゃん騙されたあかんで!」
かと思ったら、そんなに面倒でもなかった。二人の間では小競り合いが続いている……微笑ましい。
「海で沈め合いは危ないからやめなさい。さもないと二人とも裸にして男子更衣室にぶち込むぞ?」
「ご、ごめんなさい! 男子更衣室は嫌やわ……ていうか、今日謝りすぎやな」
「……すまなかった先輩。麗華などに流されるとは、私もまだまだだったようだ」
「麗華などってなんや! アリサのアホ!」
「なっ、アホと言ったな! 少なくともお前よりは賢い!」
その後もギャーギャー二人で騒ぎながら、水の掛け合いをして楽しんで……いたのか? いつの間にか下の名前で呼ぶ仲になっていたのは良いことだ。
まあどちらにせよ、これでようやく海に入ることができる。
「飛鳥君! 海に入る前にあそこ行こう?」
優希が指差す方向には、怪しげな占いの館らしきテントが張ってあった。
「……え〜」
「駄目……かな?」
上目遣いは卑怯だよな。そんな事されたら断れないに決まっている。
「いや、駄目じゃないぞ。さあ行こう!」
優希に頼まれると断れない自分が憎い。別に優希は可愛いから憎くないけど……早く海に入りたい。
こうして、海へ来たのにまだ水にも浸かっていない俺は優希と共に占ってもらいに行くのだった。




