合流するために。
えっと。
なんか兎に角異常事態だ。
まず、うっかりとはいえ、そして中の人は双子の関係とはいえ、別人のキャラでワールドインしてしまったということ。
そして、ゲームの方もゲームの方で、「イベント」ではなく明らかに何かしらのトラブルが起こって、ゲーム世界からログアウトできなくなってしまった、ということ。
二つが重なってしまって、今、マジでやばくなっちゃってる予感。
ゲームを始める場合、必ず規約に同意した上で登録することになっている。同意しないと参加できない。そして、同意した上で参加している、ということは、その規約に違反した行為を行えば即座にアカウント剥奪、登録抹消となっても文句は言えないということだ。
んで、どんなゲームも大概、規約の中には「登録したアカウントを他者に使用させない、共有しない」とある。
VRヘッドセットを利用するゲームに関しては、本人以外が使えないようにそもそもなっているはずなので、そんな規約は必要ないと思ってたんだけど、今回みたいな状態も無くはないんだと初めて知ったし、私が知らないだけで、なんかこう、データ改竄とかなんか抜け道があったりするのかも知れない。だからちゃんとこのTSOの規約にも、しっかりと「第三者にアカウントを使用させるのは禁止」と明記されている。私もほーちゃんも勿論、それに同意してゲームを始めている。
本来なら、あまりそんな、規約違反とか深く考えず、「あー間違っちゃった、っていうかこんなこと出来ちゃうんだ、双子ってー」程度であっさり入り直しておしまいな話だったろう。お互い、入れ替わるメリットなんて無いと思うし、っていうかやだし。
でも、今は、それが出来ない。入れ替わったままどれだけ過ごさなきゃならないか、判らない。そんなたらたらしてて、いずれGMにばれたらまずいと思う。規約違反だ。垢BANだ。今、GMスタッフとかどうしてるかわかんないけど。
ほーちゃんも、超動揺状態からちょっと立ち直って色々考えられるようになって、まず思ったのはそこだったみたい。
ワールドインしたまま元に戻るとかは全然無理だろう。ぶっちゃけどうしたらいいのか考えてもわかんない、けど、兎も角、入れ替わっていることをナイショにして、誤魔化す為にも合流した方がよさげ。
なんですけども、ね。
フィールドの敵が、ここって私の感覚からすると中ボス並に全部強い気がする。
ちょこっと街の端まで行って、外を覗いてみたんだけど、うろうろしてるモンスターがどれもこれもめっちゃでっかい。人の二倍三倍、いや五倍くらいあるよ。うっそーん。
私が拠点にしてる街の周辺には、まだこんなおっかない魔物いないもん。でかいのだってクマとか猛牛のモンスターとかで、慣れた所為もあるけどそんな怖くない。
でも、あれ、あれなに、頭が三つあるダチョウみたいな鳥とか、頭よりでかいねじくれ角生やした恐竜と蛇のハーフみたいなのとか、なに。目付きイッちゃってるし涎垂らしてるし、いやだー外出るのやだーしぬしぬしぬー瞬殺される。
ほーちゃんにそう言ったら、きょとんとした間抜け声で「あんなの雑魚じゃんか」って返されたけど、あんたにはそーでもあたしには違う!きーっ!
いや、ほーちゃんのキャラなわけだから、ステータスは充分強いと思うのよ、そーゆーモンスターでもカンタンに蹴散らせるんでしょうよ。
でも、中の人は私なんだもん。近接バトルとか避けて生きてきてるんだもん。
『お前って武器は何使ってるの、じゃあ』
「弓とか…メイスだよ。鞭使ったこともあったかなあ…基本援護だもん」
『攻撃魔法は使えるのか?』
「レベル1のを覚えてるだけだよ、対モンスじゃなくて外での煮焚き用に」
『は?』
「火を熾すとか、ジュースに氷を入れるとか」
『……』
「なんで黙るの!?便利なんだよ!」
『いや…うん』
『で、剣は使ったことがないんだな?』
「近接武器はオール触ったことがない。あ、包丁はあるよ」
『包丁っておま…。…いや、アレって一応短刀武器に含まれるんだったか?』
「え、どうだろ。職専アイテムなんじゃないの?鍛冶用の金槌とかでバトルしたとかあんまり聞かないし」
『だよなあ…いや、そんな話はどうでもいい。問題は、どーにかしてお前が俺の身体で俺の持ちスキルと装備で、戦闘で死なずに移動しなきゃなんねってことだぞ、判ってんのか』
「だから、無理だって。いくらほーちゃんの身体とステだって、動くのはあくまであたしなんだからさあ…。全然ピンとこないもん、大剣とか」
『両手持ちの大剣じゃなくて、片手剣でも無理か?確か、むかーし手に入れて売らずに置いてあるレイピアだかフランベルジェだったか倉庫にあると思うんだよ。あの手なら、まあ、軽いし』
「うーん、たいして変わりない気がする…けど、倉庫屋は行ってみようかな。勝手に中、見ちゃっていいの?」
『しょーがねーだろ、この際。つか、俺もお前の持ち物とか見るからな』
「えっ…」
『えっ、じゃねー、しょーがねーだろう!俺だって何もしねーわけにいかねんだから』
「……。……そうだけど…。……メッセとか見ないでよ…」
『そんなん見るかバーカ!』
「あ」
『あ?』
「ほーちゃん、だったらお店開けて!お弁当とか作って並べて!ぁあっ、仕入れ!卵が売り切れる!…あっ、そうだ、今日のデイリークエやらないと!!」
『……。……』
ばかだろ、と言われた。
自分でも言ってからちょっと思った。
街の中に倉庫屋っていうのがある。そこに行けば、どの街でも個人倉庫の中身の出し入れが出来る。
いかにも田舎町という雰囲気の、ちょっと歩けば端から端まで行けちゃう、メインストリートも短くてNPCショップしかないような小さな街。
それでも、現在の最前線だからか、プレイヤーの数は多かった。
いかにも高価そうな、強そうな武装で身を包んだ人達。
ほぼ攻略組なんだろう。
今、インしているプレイヤーは多分、殆どがこのゲームにはまってる人達だと思う。メンテ明けを待ちかねて、速攻インして、そして落ちられなくなっているような面子なわけだから。
一番人が多くなるのはまだ数時間あとだ。七時って、社会人にしたって学生にしたってちょっとまだ早いもんね、晩御飯直後だからまだ親に怒られたりしそうだし、仕事が終わってない人とかも多そうだから。それでも入ってきてるっていうのはやっぱ、かなりはまってるってことじゃないかな。私もそうだけど。
今、落ちれなくなって途方に暮れているプレイヤーは、多分、全プレイヤーの半分も居ないだろう。十分の一とかそれくらいかも知れない。
で、多分、通常より廃の確率が相当上がってる、筈。ライトプレイヤーはメンテ開けるのそわそわして待って、速攻飛び込んだりとかあんましないし。
今、この世界に何人くらいいるんだろう。
わかんない、けど。
ただ、そんなわけで、いつもより多分人口は少ないと思うにも拘わらず、トッププレイヤーの殆どが拠点として居るんだろうこの街は、やたらと賑わって、いた。
倉庫屋も銀行も、道具屋も。
状況的にアイテム見直しとかしたくなるんだろうし、補充とかしたくなるだろうし、みんな考えてることは同じらしくて、どこも列が出来ている。
私もその列に加わりつつ、あーもう、ここで今露店作って、食べ物屋やったら超儲かってスキルポイントがっさがさ上がるのに、なんて。
つい考えちゃってた。
で。
回復魔法も補助魔法も持ってないほーちゃんなので、あらゆる薬をインベントリに突っ込んで、武器は取り敢えず倉庫にあった「疾風のフランベルジュ+3」てのを装備して、街から慎重に一歩出てみた。
デスゲームの可能性はそうっとう高い、怖い、だからヤバイと思ったら速攻逃げられるように転移アイテムとか、超貴重な身代わりの聖符とかも持って、装備も考えて、攻撃上昇特化の装備からガチガチタンク向け装備に変更して、玄関ドアかよ、ってな盾を持って、鎧着込んで、ぎっしゃぎっしゃがしょがしょ全身から軋む音立てつつ歩いて。
ごめん、そんでもやっぱり駄目でした。
や、ほんとゴメン。
違うんだ。
10メートルも進めず、モンスターの前で心折れて街に引き返しちゃったんだよ。
お、重かったし。自分が。
『いや、絶対無理は出来ないし、身体竦んでる状態じゃ戦闘もろくに出来なかっただろうし、イイよ、しょうがねえよ』
と、ほーちゃんは言ってくれた。けど。
デスゲームなのか、死んでも復活できるのか、それが判れば。リアルで死なないと判ったら、もっと、せめて普通の気持ちで戦闘できると思うんだけど。
何処かで誰かが死んだ、その結果を待ってみるというのも、流石にデスゲームの可能性がある状況ではそもそもそれに期待するのは人としてどうかと思う、ので、したくない。
現状が周囲にばれないように合流しようとしてるんだから、あまり悠長なこともしてらんないし。
だから、ほんとに、頑張って勇気出して行かなきゃなんだけど。
ほーちゃんは、それだけガッチガチ装備ならクリティカル喰らわない限りまずやばいダメはないはず、と言ってくれてるんだけど…。
バトル慣れしてない私はそもそも、ダメ数値がどうだとか関係なく、もーなんかモンスターが怖いんだもん。
どうしよう。ほんとにどうしよう。
『………あのさ』
「ん?」
『俺のフレンドリスト、開いて』
「え?」
『多分、そん中にいる「エーリッヒ」って奴もインしちまってると思うから。で、近いとこにいると思うから。』
「うん…」
『しょーがねーから、そいつと合流しろ。で、PT組め。護衛頼んで、送って貰え』
「……。……ほーちゃん、でも」
『そいつ、リア友だから。しょーがねー、話す』
「……」
ぐだぐだと締まりがなくてどうしよう。
やっと取り敢えず次、ボーイミーツガール一人目、かな。
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