こんなことに。
VRゲーム用ヘッドセットというのは、使用者の身体的なデータを予め読み取って記憶する、という機能がある。どの程度のレベルかはっきりと公表はされていないが、簡易な生体認証レベルだとされている。
個人データを記憶し、その上でゲームを起動した際にIDとパスワードを入れさせるのだから、データ盗用はかなり難しい、とされている。
生体認証が、実際は何を持ってそれと認識しているかは不明、だが、今回、双子程度では誤認してしまうらしい、というのが明らかになった。明らかにしてしまったのは、コレが初なんだろう。
うっかりと、ヘッドセットを間違えて、カズホはハナのIDでもって、ゲームにインしてしまっていた。
「なんでアップデートインストールが既にされてるんだろうなー、とは一瞬思ったんだよな…」
呟いた声が女の子の甘いそれなので、声を出す都度に面食らう。
身長体重体型が、双子だから似通っている、とはいえやはり数センチは違うので微妙に違和感がある。
目の前に手を翳す。
女の子の手だな、と思う。思うけど、でもこう、それでももうすっごくどうしようもない違和感というほどでもないのがまたある意味変だった。
だって、爪の形とかそんなに違和感感じないんだもん。
指の長さとかちょっと違うかなーとか、節のところがちよっとなめらかっぽいな、とは思うけれど、肌の質感とかはそんなに馴染みがまるっきり無い、という感じでもない。
自覚とか全く無かったが、矢張り双子って双子なんだ。とか思った。
さーてと。
「どうしよう……」
まさかこんなんできちゃうとは思わなかったから、ちょっとこのまま遊んでもみたいんだけど、興味あるけど、でもやばいよな。土下座もんだ。
イチカは当然こんなの厭だろうし、めっちゃ怒るだろうし、んでもってこれって何よりもはっきりと規約違反だ。
速攻落ちないと。…って、えっと、じゃあ、俺のヘッドセットってもしかして今イチカが使ったりしてんのか?まさかあっちはあっちで俺のIDでインしちゃってたりとかないよな。
フレンド欄を、ちょっと躊躇いながらも開けてみる。ゴメン、覗き趣味じゃないんだけどさ。他のフレンドみたりしないから。まさか俺がいたり、しないよな。
あー、つーかこれ、また落ちて入り直してたりしたらイベントのスタートダッシュに遅れ取りそうだよなー。くっそー、なんだよもう、なんでこんな事に…って俺か。
俺がヘッドセットリビングに置いておいたのが悪いのか、あー、でも俺ちゃんと自分の持って部屋に戻った筈なんだけどなー、間違えたんかなあ。
あ。
フレンドリストが並んでいる。
そんなにフレンド、多くない。
俺も人のこと言えんが。だけどイチカ、おめー客商売してんだろ、いいのかこんなフレ少なくて。
いや、そんな話はどうでもいい。
いるじゃねーかよ、俺。
俺っていうか……これ、じゃあ、つーことは、こっちがイチカってことなのかな…あ。
リストの中、「カズホ」が、明るい字で表示されている。イン中だ、と示されている。
俺の記憶に残っている街に。いるようだった。
仄かに明滅しているようなそれ、何となく呼気に合わせているかのそれは、双子の妹の不安な気持ちがそのまま表れているような気がした。