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夜、走る。



 夜。


 食事の後、リビングのソファに寝転がり、ステータスウインドウを開いて今の自分の能力数値を眺めていたカズホは、そのままうとうとと寝入ってしまっていたらしい。

 そんな風に転た寝してしまったからか、夢の中でもやっぱりゲームの中でそしてカズホはフィールドでモンスターに囲まれていた。戦闘中。

 ただ、身体は元の自分のものだ。華奢な少女の身体ではない、ちゃんと細くても頑丈で、多少の無茶にも応えてくれる自分が一番知っていて自分が一番信頼している、自分の身体。

 久し振りに取り戻した自分の身体が嬉しくて、カズホはにやにやと込み上げてくる笑いをそのまま自分に許した。

 ゲームの中でも夢って見れるんだな。

 何処か、現実感がそのままで、そんな事も頭の隅で考えていたが、今は我に返るよりこのまま悦に浸りたい。さあ、いつも通り、愛剣を装備し複数モンスターを相手に華麗に立ち回ろう。ぶっ潰して、叩きのめして、弾き飛ばしてやろう。

 と、自分の身の丈より大きな剣を装備しようとして。出来ないのに気付く。

 この武器を装備するのに必要な筋力値に達していない、とメッセージが出た。

 あれ?

 そんなはずは。だって、俺の身体だろ、ちゃんと。

 ハナの身体じゃないのに、なんで。

 ステータスを確認する。自分の名前、自分のレベル、自分の――能力ステータスが、ハナのものに変化していた。どうしてだ。自分の身体に戻れたはずなのに――――。

 なにこれなにこれなんでなんでなんで。いや、待て、これ、なんだ。ステータスが更にみるみる変化していく。

 高かった敏捷度の数値なども、減り始めた。三桁だったのが二桁になり、更に一桁、ゼロ――――。全部ゼロだ、何もかもが。俺の、俺のステータス。

 視界が回る、ぐるぐると。ステータスウインドウも周囲の景色も、カズホ自身の手足も。その貌も。貌?何故貌が見える。いつの間にか、中空のカメラから撮影された画面を見ているような視界になっていき――――


「わああああ……うぉぁあああおわ!?」

 



 叫びながら目を覚ましたら、自分が目の前で幽霊のような無表情で、剣を片手にぬぼっと突っ立っていたので、更に叫びがグレードアップし驚きと恐怖でソファの上、飛び上がった。

 正座の形になって、数秒。

「……なに、うるさい、ほーちゃん」

「は……はははははははなこさん…」

 無表情が、微かに眉を顰めたものになって、ぼそりと一言発する。こうやって、感情を見せない無表情でいると、俺の貌ってなんか神経質ぽいというか。普通にちょっと怖い。

 妹だった。外見が俺の妹だった。ゲームの中だった。……夢だった。寝てた。夢だ、夢。さっきまでのは夢ですよ。今のこれが現実――――いや、現実じゃないや、ややっこしいな。

 思わずステータスを確認した、開きっぱなしの窓で。

 ああ、ハナのステだ。俺のじゃない…ちゃんと、筋力はダメダメだけど器用さが異常な高さを示している、特長がありすぎるハナのステータス。

 確認してほっとして……いや待て、ほっとしてるとかそんな場合だったか、もう一度よく見てみろ。


「……………」

「………………」

 俺の身体の双子の妹が、なんか怖い顔して、家の中で刃物握って俺を見下ろして突っ立ってるんですがどうしましょうか!!

 ホラー!?スプラッタ!?サイコ!?ちょ、ちょちょちょ。

 いや待って待って、俺ダメなのそっち系ダメなの許してマジで。

 違うよね?違うよね?そーゆーんじゃないよね?


「ダンジョン」

「――――はっ!?」

「……ダンジョン、行く」

「……はいぃ?」

「ダンジョン、行くって、言ってたでしょ。行くんだったら、迷惑…かけたくないから、先にあの、予習しておきたい…の。もうちょっとましに戦闘出来るように、と思って」

「はあ…」

「だから、行こう?」

「はっ?」

「だから、外、ダンジョン、でもどこでもいい、行こう、戦闘のやり方教えて」


 めっちゃ思い詰めた顔で、剣握った手をふるふるさせながら、なに言ってんだろうかこいつ。戦闘の予習ってなにそれ。

 まあ、慣れてない身体で慣れてない戦闘しようってんだから不安になるのは判るけど。

 でも、迷惑掛けたくないって殊勝なこと思ってんのに今付き合わせるとかそれってどういう事だよ。こんな時間に夜狩り行くぞとか急に言われる方がよっぽど迷惑だって――――いやちょっと待て。

「誰に迷惑掛けたくないって?」

「えっ…?――――あの、今日の…清十郎さん、私も一緒だといいね、って、言ってたよね?」

「……あ?」

「えっ」

「……」

「い、言ってた、よ?ね?……言ってた、と思うんだけど」

「えーっと、それで、ダンジョン行くって言ってんの?」

 ハナが、目を丸くしてぱちぱちと瞬きを繰り返す。俺の顔しててもこの表情見せると元々の妹の顔が簡単にダブって思い出せる。まあ、確かに似てるしな、俺ら。

 俺が、昨日ダンジョン行こうって散々誘った時はいまいち返事はっきりしなかったクセに、なんであんなちょろっと清十郎に言われただけで行く気満々になってんだろうか、この女。

 いや、まあ、行く気になってくれたんならいいけど…。んで、実際ハナを連れ出す時に清十郎も来てくれるのは安心出来るしな。

 しかしなー、いーけど、気ィ使いすぎじゃねえの、こいつ。

「あの…、そうだ、ほーちゃんも、エーリッヒさん以外には秘密にするなら、あたしがあんまり戦闘へたくそなの困るでしょ?だから、慣れておかないとって」

「ま、そうだけど」

「今のままだと、かっこわるいと思う…んだもん。エーリッヒさんはもう知ってるけど、さ」

 こいつでもカッコつけてえとかはちょっとはあるのか。

 ふーん。

「ん、わかった。だけど、日が暮れてからのフィールドは少し魔物がランクアップして強くなってっから、気をつけんだぞ。あ、あと、したら俺もちょっと相談したいことあったんだわ」

「なに?」

「ま、取り敢えず行くべ」


 街の外に二人で出て、ダンジョンまでは行かなかったがフィールド状、月明りの下で暫し夜狩りに勤しむことになった。

 エーリッヒが仕込んだ【ファイアブレード】はまあまあ使えるようだったので、あとは背後や横からの攻撃に対応出来る旋回しながらの攻撃スキル、【トルネードショット】を繰り返しやってみるようにさせつつ、俺は俺で相談して、というか許可を取り、極基本的な戦闘スキルの【ダッシュ】と【ジャンプ】を覚えさせて貰った。

 このスキルを育てればハナは今以上の凄まじい動きが可能になるはず。

 ついでに、ハナにもダッシュとジャンプの重要性を覚えて貰いたくて、戦闘しつつ草原上をしばしスキルを使いつつ駆け回ってみることにした。


 ダッシュスキルは、走りながら使うと発動した瞬間、動いた側に1~数メートル程、瞬時に滑るように移動出来るというスキルだ。クールタイムがあるので、使い続けることは出来ないが、繰り返し使い続ければただ走るだけとは段違いの速度で移動することが出来る。スキルは基本どれもそうだが、使い続けることでレベルを上げることが出来、強力なものになっていく。徐々に一度の移動の距離が長くなり、クールタイムが短くなるので、レベルカンストすると相当に、「飛ぶように早い」と言える程度にはなる。戦闘時もこれを組み合わせることで敵の攻撃を避けつつ、しかも攻撃のコンボスキルを伸ばすことも出来る便利もの。

 実は、これを持っていないプレイヤーはそもそも存在しないだろう、と言われるくらいのものなので、ハナが取っていなかった事に関しては腰が砕けそうになっていた。ま、気付いた時は既に、ハナの戦闘をとことん無視したステータスがいい加減判っていたので、最初に気付くよりまだショックは小さかったんだが。

 ちなみに、当然俺はとっくにカンストしている。移動距離も自分である程度調節しないと一瞬で10メートルくらいブースト移動してしまうレベルだ。

 徐々にレベルが上がって慣れていく、ものなので、通常は問題ないのだが、いきなり最高レベルの【ダッシュ】をやらされたハナは、思いっきり灌木に激突して一回転して頭から埋まっていた。


「……拝むのやめて、助けて」


 二人でフィールドで戦うのは面白かった。

 ハナに、俺の身体でどう戦うのが一番遣り易いか、という、本来自分が一番良く判っているが言葉にするのが難しいそれを悩みつつ伝えるのも、ハナの身体がいかにピーキーで扱いづらく無茶苦茶で、全く使えないがもしかするとかなり面白い、というのを実際の戦闘で教えていくのも楽しかった。まあ、ハナは余り自分のステータスの戦闘時の使い道、というのに興味なさそうだったけど。

 身体の使い方、武器の扱い方、攻撃、防御、スキル発動をまごつかず出来るように慣れろと繰り返し使い続ける戦闘。

 血の繋がりがあるからこそ遠慮無しに言える、出来ること。

 互いに互いの身体をよく知っているからこそなにも言わなくても伝わる部分が大きいのも面白かった。

 気がついたら相当夜更けまで遊んでしまって。


 気がついて、夜が明ける前に急いで帰って、慌てて寝た。

 【ダッシュ】で街まで帰ったら、ハナの方がずっと早く家に着いて、当たり前なんだがちよっと口惜しかった。



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