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外見ハナの、カズホの一日。



「いっやー、この力の無さ致命的だなー」


 ぼやくぼやく。だが顔は笑っている。

 ハナの自宅、ハナの身体で中身はカズホ、の見た目ボーイッシュ系の少女は、倉庫のインベントリ画面と手持ちのインベントリ画面を広げ、その前に胡座を掻き、何やら武器を引っ張り出しては手にとって眺め、首を傾げて戻し、また別の物を取り出して手に取る、時折剣ならば鞘から引き抜き、刀身を眺めてみたり軽く振ってみたり、と繰り返し、かなり時間を掛け荷物整理をしていた。

 楽しそうったらない。おもちゃ箱抱え込んでいる小学生低学年男子以外の何物でもない。

 ハナもそこそこのレベルなので、手持ち荷物の限界数はカズホが本来持てる分よりは少ないが、参加者の中では多い方だ。そして、何かの弾みやイベントなどで、ネタ武器やちょっとレアな武器、などが手に入ると処分が惜しくて仕舞ってあったりする(所詮兄妹だった)ので、インベントリの中には様々な種類の武器が、思ったより入っていて、吟味するにも時間が掛かっている。


「うーん、無難なのは長距離型ってことになるけど…俺、弓も銃もマジでダメだったんだよなあ。そもそもあたんねえし。といっても、こんな防御力じゃ2ランク格下のモンスにすらごっそり持ってかれそうだから…。…中距離…ううーん…槍か…一撃に兎に角威力ねーんだろうしなあ…」


 ハナの、余りにも偏っている、本来の自分とは真逆のステータスを眺めつつ熟考してみたが、結局、実際戦闘してみないとどう戦えるのか全く判らん、と考えた時間を無駄にするばかりののーきんぶりを発揮し、もーいいや使えそうな武器は全部持っていこっと、という結論に結局なったのだった。ただ、愉しんだだけだった。悩むのを。

 筋力が余りに低いので、カズホが好んで使っていた大剣はそもそも装備すら出来ない気がする。戦闘職は、高レベルになっているにも拘わらずまだ一次職の剣士のまま、驚いたことに戦闘スキルのポイントが使われないままかなり貯まらせたままになっていた。各種魔法を覚える分に使っているだけだ。正直、もったいなさにカズホは泣きそうになった。

 この1ポイントに血の涙を注いでいる人がこの世には大勢居るというのに。どうでも良いけどそもそも剣士ってなんだ。せめて魔法職とかシーフとか選ばないか、このステ振りしていくなら。興味ないから一番上の選んだだけだろう!

 目頭を熱くしつつまだまだぶつぶつと独りごちているカズホ。

 自分もそういうところが無くはないので何も言う気はないが、何故こうも、己が興味あるところとないところの対応が極端なのか。

 すっかすかの戦闘ジョブの窓に反して、職業ジョブのステータス窓のぎっしり振りのうっとうしさに、貌を顰める。無論、逆なだけで兄のステータス窓も見た感じたいして変わらないのだが。

「基本、ステ弄ろうとは思ってねーけど、ダッシュ系ジャンプ系くらいは押えておきたいなあ…後で聞いてみっかなー。こんなにポイント余ってるならいいよなー」

 ハナは今頃店で鬼のように働いているので、手伝いもしていない兄としては迂闊にコールなんか絶対しない。

 代わりに、といってはなんだが別のフレンドにコールを入れた。エーリッヒだ。

 一狩り行こうぜ、とお約束な声を掛け、もう一度手持ちの武具を手に取り、装備して、外して、仕舞って、とやっている。




「お邪魔しま……、っ…」

 ちゃんと彼は、店にも顔を出してカズホビジュアルのハナに挨拶し、断ってから家に入った。入る際には無論、チャイムも鳴らした。中から女の子の声で、入れー、と返事があったので、出迎えはなかったがカズホならばそんなもんだろう、と思ってドアを開けた。

 エーリッヒに落ち度は全く無い。

 カズホが、自分が今、双子の妹の、女性ビジュアルの姿になってるのだ、ということが頭から抜けていただけで。


 エーリッヒがドアを開けた姿勢で固まっている。

 丁度、防具をどうしようかと試してみているところだった。固まっているのに気付かず、よお、とろくに相手を見もせず適当に挨拶し、これ弱いんだよなー、などと自分本位に初手から喋り掛けている。

「軽装しか出来ねーのが困るよなー。なあ、もっと固くて軽くて値段が手頃な装備ってなんかなかったっけか。こいつ、こう見えて剣士だったりすっから、魔法職のローブなんかは装備できないんだよな。紙でも魔法耐性があればまだましかと思ったんだけど…」

 装備を着ては、外して、手持ちの別の軽鎧を着けたりしている最中、だった。

 ただの、装備変更だ。

 勿論、このような場合、アバターが素っ裸になったりはしない。出来ないようになっている。一番布面積が少ない水着系のネタ衣装だって危なくないレベルの、未成年も参加出来るゲームなのだ、そんな措置は当然だ。

 装備を全部取っ払った場合のアバターは、丈の短いタンクトップとショートパンツだ。

 けして色っぽい格好ではない。

 だが。

 

 いきなりその格好で迎えられ、動揺しない男子がいるだろうか。いやいない。


 素っ気ない格好でも、腕や脚が剥き出しなのは事実で。タンクトップの丈が短いので細っこい腰回りと小さな臍も見えている。滑らかな印象のデコルテ、浮き上がっている鎖骨。

 街を歩けばその程度の露出なら山ほど見掛ける。夏休み中なら尚更だ。だが、室内で他に誰も居ない状況でこんな無防備な姿を見せられると、ちょっと。

 流石にそこまでリアルには作らないよ!だって子供もやれるゲームだし!という製作の主張が聞こえてくる程度には適度にあちこち略してはあり、でもやっぱりちょっとここだけは拘りたいんだだって俺マニアだし!一週間寝てないからもう何やってるかわかんないやあははは!という製作者の声が聞こえそうな程度には動けば何となく、タンクトップの内部の微妙な形状、が判断できるというか揺れるというか、そんな感じ。


 ほんの数秒に過ぎなかったが、色々と取り返しがつかない思いで、エーリッヒは慌てて視線を逸らす。ぐわっと逆上せたように血の色が首筋から顔全体へと昇る。髪を掻きむしり、喚いた。

「ふざけんな、カズ!お前、イモートの身体使ってんだから、少しは考えろ、装備替えは今後人前でやるな、バカクソハゲ」

「ハゲてねえ!!――――って、あーそうか、まー、うん、気ぃつけるわ」

 何せ、妹なので気にならないのだが、だが、妹だからこそ適当に扱う気にはならない。怒られて成る程、ととりあえず素直に頷く。改めて友人を見れば酷い動揺振りで、両方の耳朶まで真っ赤になっている。なんつーリアルな、と思いつつも何故そこまでになっているのか、は、ちゃんと理解しては居なかった。軽くて強度もそこそこ、一番バランスが取れている手持ちの防具を改めて身に着ける。着けながら、思いっきり、流した。やっぱりよくわかんないので。


「着た着た。……で、わりーけど、ちと付き合って。どうせなら経験値入ってくる程度のレベルのやつ相手にしたいんだわ。でもこいつ、レベルのわりにひ弱過ぎっからさ、危なくねーよーに、ある程度のタゲ取りして欲しいんだよ。……この辺だとさー、いっそダンジョン入っちまうのが一番早いかな。どの辺りがオイシイと思う?」

 失態を、全く無かったこととして済ませようとしている。ハナが今の話を聞いたらどれだけ激怒するか、想像すれば判りそうなものだがそんな事も全く考えていなかった。

 無駄に揺さぶられて削られたエーリッヒも、ハナのためにもなかったことにしようと咳払いして。改めて、向き直る。

「レベ上げはいいけどさ、このトラブルが収束したら昨日のメンテ前の状態まで巻き戻されるんじゃねーかっていうのが今、もっぱらの噂だぞ。何人かと連絡取ったけどそう予想している奴はやっぱり居た。レベ上げとかボス攻略とか、しても無駄なんじゃないかって…まあ、実際、どれだけ長引くか判らんが、「ログインできないユーザーへの保証」ってのもあるわけでさ」

「現状で、ログインできない金返せとか叫ぶバカなんて…や、いそうか、いそうだな、ははは」

「俺らへの、この後の対応がどの程度のものになるかとかは判らん、つーか、どの程度深刻なんかがそもそもわかんねーからな。無事に現実に戻れるようになった後……そもそも、このゲームが続くかどうかが怪しい。むしろ終了の可能性の方が高いだろ。巻き戻りより俺もそっちの方がありそうだと思う」

「あー…そーいやそうだなあ」

「…………」

「?」

「で、それがなにか、みたいな顔してんじゃねーよ。…判った判った、レベ上げな。回復役居た方が良くないか、それなら」

 諦め顔で、エーリッヒは少し笑った。カズホは少女の顔で口を尖らせる。

「なんだよ、いーじゃん、無駄になるとかなんねーとかそんなんどーでも良いんだよ。ギブミーバトル!――――え、回復…って清十郎呼ぶの?来てくれるかな、こんなとこまで。格下相手になっちゃうぜ」

「暇だからなんでも声掛けろって言ってたぞ。お前、コール入れたんだろ?お前っていうか、ハナさんがだろうけど」

「うん、昨日の夜、一応フレにはざっとやっといた。バレねー程度だから短くだけど」

「聞いた聞いた、なんかちょっと変だったけど大丈夫かって言ってたぞ」

「えっ、そんな拙いことしなかったと思うんだけどな。…つーか、清十郎になんつって呼ぶの?ハナのレベ上げにつきあえってか?」

「あー、そうか。むしろ頼るならハナさんが狩りしなきゃなんねーとかそういう場合、なのか…?いや、まあ、取り敢えず声だけ掛けるわ、コールするってもう言ってあるし」

「まあ、清十郎いてくれんならもー何やってもいーやとか思えるけどなー」

「……。……お前、ハナさんの身体で無茶すんなよ。…あ、清十郎?うん、俺――――」


 回復役が来てくれるなら、と、いそいそとまた荷物整理をし始めるカズホだった。

 ポーション類を潔く倉庫に片付け、空いた分にもう一つ武器を押し込む。

 にんまり笑ったそれは、バトルジャンキーの気持ち悪い笑みだったが、生憎小作りの少女の顔だったので、ある意味残念なことに傍目には愛らしかった。



 

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