二人目のプロローグ
「カズー、そっちまとめてトドメ頼むわ」
「おう」
こんな風に、現実でもごくさりげなく、軽い調子で引き受けて敵を薙ぎ倒す、そんなかっこいい強い男であれたらいい。
とは思うけど、なんの嗜みもない無芸な学生の俺じゃそんなのはとても無理だから、せめてゲームの中では頼りがいのある戦士でいたい。
VRMMO。オンラインゲーム。
この世界で俺は、もっと強くなりたい。
昨日寝る直前に、三日ぶりにレベルが上がって、ステータスアップとスキルアップが出来た。
その御陰か今日は身体がひどく軽く、さっきからクリティカルは連発して出るしスキルショットも極めて高性能で出せるので俺はこの上なくテンションが上がっていた。
「やべえな、範囲スキル使い勝手良すぎるな」
「マジ?範囲とか回数増える系は案外地雷って聞くけどな」
「うん、確かに威力は落ちるんだけど…、っ、やべ、MP切れる」
「調子乗りすぎ、カズ、下がってろ。交代する」
悪い、と応じて後ろに飛び退った。半分がとこHPゲージが削れて黄色に変わっている大猿系モンスターに視線を向けたまま、MPポーションを飲むかどうするか、少し迷う。
HPポーションより高価なこの高価な液体は、通常戦闘に使うには惜しいのだ。あくまで緊急用だし、ボス戦用といえる。俺のレベルが上がったので、適性レベルより若干上のモンスターで今日は新スキルを試そう、とリアでも友人のエーリッヒと組んで森の奥まで来ている。時間経過でMPは少しずつ回復するので、このままもう少し粘っても良いか、と考えた。若干苦戦はするが死ぬほどじゃないし。
エーリッヒ、っていかにもな名前つけてるけど、こいつの場合単にリアルネームがエグチノリヒロだから、縮めてエーリッヒなんだよな。うまいことつけやがって、とか最初ちょっとだけ思って口惜しかった。
俺なんてそのままカズホってつけちやったしな。もっとなんか考えるんだった。オザワカズホだから…オカズとか…うるせえ何も言うな。
ここは、限りなくリアルに近い感覚で遊べるという謳い文句で有名なゲーム「TransSpiritOnline」。仮想世界の中。
ガキの頃からゲームは好きだったけど、VRMMOはこれが初めてだ。VRゲーム用のヘッドセットはまだ高価で、小学校から貯めたお年玉貯金で高校になってやっとやっと自分で買えた。VRゲーム自体もまだそんなに数はある訳じゃない。俺がやってるのはこれと、後はシューティングゲームとフライトシュミレーションのやつくらいかな。月額使用料を払い続けても続けたい、と思わせるゲームは今のとここのTSオンラインくらいだ。
幾つかあるMMOの中でもこれが好きなのは、マジであの世界で暮らしてるんじゃないかってプレイ中は思えるくらいリアルに作り込まれてるとこと、自由度の高さなんかが理由だ。
風とか匂いを感じることが出来るのは俺が知ってる限りだとあのゲームくらいかな。
だから、戦闘もかなりリアルだ。リアルでハード。かなり繊細な技量が要求される部分がある。勿論、ただスキル発動して剣を振るうとかだけでも戦闘は出来るんだけど、凝れば凝るほど実は色々工夫が出来るってのが面白いんだよな。
マジでマニアックだと思うんだよな、製作スタッフが。
マニアックといったら、生産職のきめ細かいフォローも売りらしいが、そっちは俺はあまり詳しくない。一応、自分の武器くらい自分で作れたらいいかなと思って鍛冶スキル取ってはみたんだけど、使えるものが作れるようになるまでには膨大な時間と金が必要だとすぐに悟って諦めた。鍛冶師にちゃんと頼んで金払った方が何十倍も安く上がるんだもん、多分。
鍛冶職は尊敬してる。裁縫師もだ。
そういや、調理師もなかなか大変らしい。まあ、食事に関しては俺はゲームの中でまでは拘りないし、それこそ全く詳しくないんだけどな。ちゃんと美味いもんは美味い、らしいよ。
「レアドロップキタコレ!」
「ちょ、牙じゃねーかよ、マジすか先生」
「どーすっか、さすがにダイス転がす?」
「いや、いいよ、順番からいったらリヒのだろ。とっときやがれ」
「イイのかよ、なんか悪いな。…。……よーしわかった、もう一個出るまでやるべか」
「げふぁ」
「なんだよ、ほらカズ、行くぞ次」
「あー俺、毛皮の方でも良い…防具新調したかったし…」
その後、夜狩りに突入した俺達はゲーム内で夜が明けるまで戦闘するハメになった。
リアルタイムだと五時間くらいか。
牙は出なかったが、現レベルでは最上級の防具を作成注文出来る素材の、真っ白な大猿モンスターの毛皮を三つゲット出来て、その晩はわりとニヤニヤして、寝た。