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日常へ、立て直そう。その2+ご飯と睡眠は大切ですの巻



 大陸間移動、って、私の感覚だとまだ、かなり大変な旅、という感じだったんだけど。

 ほーちゃんにしろエーリッヒさんにしろ、既に何度も行き来しているようで、大きな街に到着したその後は、迷いなくそしてぜんっぜん気楽な感じで、こっちのゲートで移動して次はこっちのゲートで移動して、と、電車の乗り換えよりカンタンに、次々と進んでた。


 未知のおっかないモンスターが跋扈する大陸から、比較すれば暢気でうららかと言って良い、中級レベル、もしくはのんびりこの世界で過ごしている人達がだいたい拠点としている街、一番大きな大陸の一番大きな都市、まで、ゲートを使えば時間は全然掛からない。

 もっとも、これは、上級レベルの二人だからこそで。

 各大陸のゲートの乗り継ぎがフリーになるためには、それ用のクエストをクリアしなきゃならないので、私なんかが大陸間を移動しようとしたら、そんなお気楽な感じにはならない。

 すごいなあ、と立て続けてゲート乗り継ぎを繰り返している間に、思わず呟いたら、エーリッヒさんはちょっと首を傾げていた。

 まあ、もう、便利さに慣れちゃうとそれが凄いっていうのがわかんなくなっちゃうんだろうね。私だって、初心者の頃出来なかったことが今、何も苦労なくできるようになってるけど、自分凄い、とは思わないもんなあ。当たり前のことになっちゃってるし。もっと凄い人、幾らでもいるし。

「いや、本当はさ、いつもよく一緒につるんでる仲間の中に、魔法専門の奴が居てさ。そいつと組んでたら基本的に、街から街には一瞬で飛べたりするんだよ。だから、正直ゲート潜って、とかってわりと久々で」

「へ…。ああ、そうか、二人だけで普段組んでるとかじゃないんですね」

「流石に、傭兵と剣豪だけでやってくのは無理かな。そうだなー、ギルドは作ってないけど、5、6人よくつるんでるのがいる。魔道師とか神官もいるから、その辺が移動魔法持ってるんだ」

「移動魔法って、私の感覚だとかなりレアっぽいんですけど…」

「あ、そうだっけか…あー、そういえば、獲得レベルが60以上とかだっけ。まあ、何処にでもカンタンに移動できる訳じゃないしな、なくてもちょっとめんどくさいだけだから後回しにする人が多いかもな」

「うーん…」


 ほーちゃんのフレンドリスト、これが多分その、普段一緒に遊んでるという人達なんだろう。一見して、ほぼ男キャラっぽい名前が並ぶ。いかにもむさ苦しそうな感じだ。

 家にほーちゃんが友達数人連れてきて、遊んでたりするのが苦手だったと思い出した。男の子の笑い声が何人分も響くのって、なんか、びびるんだもん。

 ほーちゃんはあんまり女の子と遊ぶことが少なかったので、多分ゲームの中でも同じような感じなんだろうな。仲良く楽しそうにしてるっていうのは、良いことだとは思うけども。

 そういえば、その、フレさんの何人かからコール貰ってる。

 どーしたもんかとほーちゃんとは相談して、とりあえず保留してコールに出ずにいるけど…ほーちゃんと合流したら、相談してお互いの友達との今後の接触はどうするかを決めないとね。

 私は、ヨツバにはちゃんと話すつもりだけど。他の人は正直迷ってる。

 他の人達とはリアでの付き合いがないから。仲良くして貰ってるけど、お店の常連さん、とか、お互い必要に迫られてクエストとかを共同でこなしている、付き合いは長いしそれなり信頼は築けてると思うけど、内容のない雑談とか巫山戯た遣り取りとかは殆どやったこと無いような人とか、だもんで。

 プライベート的な話をそんなにしてなかったので、していいのかどうなのか、と思うと、悩む。

 ……ほーちゃんがちゃんと誤魔化してくれるのか、というのが一番心配なんだけど…。






 たった一日、どころかログインして数時間だけか、離れてたのは。それっぽっちなのに…でも。

 でも、なんかすごく、自分の店までも取ってきた時、店のテントのオレンジ色が見えた時、懐かしくてほっとして、ちょっと涙出そうになった。

 長旅をして、漸く帰って来たような気分で、走り出す。

 お客さんが来てくれてる、しかも見たことないくらいいっぱい!

 すっごい、なにこれ?

 びっくりだ、なになに、みんなうちに並んでるの?マジで?わあ、なんか騒いでるよ。どしたの、どしたの?

 やっぱり、エーリッヒさんが言ってたように、食事に対しての考え方が、変わってきてるってこと?大変な事態になった、って心細くなって、美味しいものが食べたくなってる?

 ……。

 もー!!

 頼って!任せて!一口食べてほっとするような、ごはん作るから!

 なんか、ばふーっと込み上げちゃって、力みかえっちゃって。

 バタバタと走って残りの距離を詰める。

 人の列を、謝りながら掻き分けて、店の中へ。

 怒声も飛んだけど、顔を見ればほーちゃんと私が関係者だとかはすぐわかるんだろう。すぐに収まって、中に入って…あ、ヨツバだ、良かった。

 思わず、すっごいほっとして嬉しくなって、全快で笑ったら、目をまん丸くされて、凄いびっくりされた…そ、そうだよね、ごめん、全く知らない男子にいきなり笑いかけられちゃったね、怖いよね。うー、ヨツバには早く話さなきゃ…あの子に退かれるとかやだよー。

 と。店の奥から、異様な気配。

 ちょ…。

 ────。



 ……。……。










 まあ、そんなわけで。

 私は無事に帰ってきましたよ。

 大量の卵と、私の双子の兄の中身と、私の身体がちょっとだけ無事でなかったけど。




 どうにか、テイクアウト用の卵焼きを作ってお客さんにはそれだけで許して貰い、おまけにつけたスープもかろうじて好評な感じに受け入れて貰って、鍋一杯がなくなり。ほーちゃんの身体での調理では、納得できないものはかなり激しかったんだけど、我慢して、全神経尖らせて、これ以上できないくらい神経使って、料理を続けて。


 ようやく、やっと、ようやく、ほーちゃんと私、一緒になれて、お互い自分の顔を客観的に見て事態を更に確認して腹を据えて。

 客足も緩まり、今度こそ補充した卵もなくなり、お店も一段落したので、一度クローズさせました。

 ふう。


 残ったのは、ほーちゃんと私、あとは事情を知ってるお互いの友達が一人ずつ。ヨツバと、エーリッヒさん。

 移動して、店舗から裏手の自宅の方へ来て貰う。

 ダイニングにとりあえず来て貰って。作り置きのシフォンケーキを出して、お茶を淹れる。生クリームを手早く泡立てて、ケーキに添えて、と。いやあ、ほーちゃんの腕力マジですさまじいわ。生クリーム、あっという間に出来る、腕も疲れない。ブレンダー不要とか…最近高価なやつに買い換えたばっかりだとゆーのに。

 ヨツバは慣れたもんで、ケーキとお茶は遠慮無しに手を出してくれてる。でも。

 やっぱり、ヨツバだって、エーリッヒさんだって、二人とも、改めて私達を見て、ちょっと困っちゃってるみたい。落ち着いて考えるとけっこーろくでもない事態だよね。ゴメンねー、巻き込んで。

 エーリッヒさんは、ほーちゃんに会えて喜んでるのかなんなのか、なんとなくびみょーな顔をしてた。喜んでるっていう感じでもないなあ。ここまで、連れてきて貰って、移動の間にそれなり喋れるようになったと思ってたのに、到着してからむしろ、エーリッヒさんの方がよそよそしくなってる気がする。

 ……なんで、目が合うと逸らしちゃうんだろう。あとさ、たまになんでか、ほーちゃんと話しながら赤くなってる気がするんだけども。うっすら目許がというか、耳朶がというか…気の所為じゃないよねえ。

 むう。

 腐目線発動したくなるからやめてくんないかなー。

 アリかナシかっていったらアリなんだ!私は!!


 いや、それどころじゃなかった、今は。

 その話はあとでヨツバとしよ…じゃなくて。


 今後の、話。


 とりあえず、まず、この事態が実際のところどうなっているかを、もう少し把握するのは必要。本当にログアウトできないのか、そして、バトルで死亡した場合どうなるのか。

 本来はあくまでゲームなのだから、デスペナはあるにしても死んだきりというのは有り得ないはず、なんだけど。何せ、世の中にある小説なんかの中では、デスゲーム化しちゃうというのが、こういうケースではお約束、なので、まだ怖くて試してみようという人も現れていないっぽい。試してダメだったらと思うととても出来ないよね。

 運営側から、何らかの説明があるべきなんだけど、それも未だにない。

 ほーちゃんやエーリッヒさんは、ゲームの外側からの介入が、現在出来ていないのではないか、と言ってる。運営、制作側からの説明がないのは、そもそもその手段を絶たれてしまっているのではないか、と推測していた。

 ただ、ゲームの内側にいる運営──ログインして、内部で見回り巡回、トラブルの調整などをしている人も少なからずいるはずなので、今後全くその人達が動かない、というケースはないだろう、と二人の話は続く。

 二人は、面識のあるGMもいるみたいだった。流石に連絡を取って探して状況を聞いたりなどは出来ないみたいだったけど、それなりに、実際話しての信頼は持っているらしい。

「外部と連絡が取れなくて、勝手に情報公開して良いかどうか、まだ判断出来てないんじゃないかな。でも、この状況が続けばもう、何処かで決断するだろうから。そのうちちゃんと、公開出来る情報は公開する…と、思うんだよな」

「あとは、地道に人の噂を収集してくしかない。そこは、落ち着いたら始めよう」

「事情通な人と繋ぎ取らないとだね。一般参加者でも何か知ってる人はいるかもだし」

 

 情報収集のためには、色んな人と会ったり連絡を取ったりしなきゃなんないわけです。

 で、次に重要な懸念事項。私とほーちゃんの入れ替わりについて。

 これは、今後は、内密ってことで頑張りましょう、ということになった。

 多少怪しまれるのは当然だと思うけど、そこはどーにか、お互いがフォローするということで。

 だから、しばらく、ほーちゃんはこの街で暮らすことになりました。

 幸い、私の家はお客さん用に小さなベッドがあって、そこで寝てもらえるし。

 ほーちゃんは、自分が拠点にしてた街から離れてしまうのは不本意だったろうけれど、そこは何も言わなかった。エーリッヒさんも、落ち着くまでは付き合うから、と言ってくれた。…ありがとう。ごめんなさい。

「あたしも勿論、出来ることがあったらなんでもするからね。…お店はちゃんと続けるんでしょう?料理は、どうするの?」


 そこです。


 二人でやってくのはしょうがない。まあ、何とかなるとは思う。

 ただ、やりたいことが違うんだよね。

 ほーちゃんはフィールドに出てばっこばこやりたいわけだし、私はごはん作ってケーキ焼いて、お店に並べてお客さんに振舞いたい。

 ……どっちがどっちをやるべきなの?

 って、そこが悩むとこというか。だって、身体に合わせて動いた方が本来の効率としては良いはずなんだよ。でも、中身に合わせても、ゲームの仕様として、スキル発動出来ない訳じゃない。でも。

 ほーちゃんの身体で料理したりするというのもかなり厳しいんだけど、それより、私の、戦闘のことはぜんっぜん考えずに今までレベル上げてきてるキャラで、フィールドでがしがしバトルするとか、は、それこそ自殺行為──デスゲーム化の不安がある現状、文字通りに。だと思う。危険。だめだめ、だめ。

 でも、私がほーちゃんのレベル上げするのもなんか無理っぽいよー怖いよー。


 相談してたら、いつの間にか夜が更けていた。

 話ながら途中、ごはんも出して、結局結論は出なくて。

 ヨツバは泊まりたがったけど、もうベッドがなくなっちゃったし、私は一緒に寝たかったんだけどそしたら一応男女同衾になっちゃうので、ナンカあったりするはずもないけど、やっぱ嫁入り前の女の子にそんなことさせちゃダメかなー、と思って、エーリッヒさん共々近くの宿屋へ移ってもらった。

 

 七時にログインして、七時間か八時間。それくらいしか経ってないのに、矢鱈と疲れた。

 ベッドは普段なら、実際眠ることも出来るけど基本一瞬で体力回復させるためだけに存在する───長時間ゲームで寝るとかは勿論、初めてだ。

 他の人はどうしてるんだろう。

 全員ベッドで眠れてるんだろうか。初心者の人ってどうしてるんだろう…いるのかな…いなくはない、よね…。


 ぼんやり考えてたら、いつの間にか意識が途切れてた。

 ゲームの中で、夢は見なかった。…と、思う。多分。



 


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