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合流するために、その8。+待ち合わせは混雑中の巻

『ヒューゴの街に到着しました、サー』

「おーう、おっつかれー。あとは、街から街の移動が殆どだからもう大丈夫だな。や、結構掛かったな、ちと心配してたわ。…なんもなかったか?」

『んー。まあ、一応無事だな。ま、ちょっとパラライズナーガとエンカしちゃったけど』

「────げ。まじすか。…あー、すまん、あいつ役に立たなかったろ。独りで倒したんか、かなりきつかったんじゃねえの」

『やー、それがさ…いやー、おれ、調理人を激しく見直したわ』

「あ?」

『うん、色んな意味で。パラライズナーガはちゃんとイモートも一緒に倒したんだよ。や、むしろイモートが殆ど頑張っちゃってた感じで。なんつーか、わりとすげーかも。お前のイモート』

「……あいつ、戦闘苦手で全然ダメだっていってたんだけどな。ふうん…。そうか、まあ、なら良かったけど」

『ああ。まあ、じゃあ、あとはそっちに着いてからな。…そういや、ガイと清十郎とかに連絡したか?あ、つか、できねーか』

「そーだよできねんだよ…つか、あんま、入れ替わってること他の奴には言いたくないから、その辺しばらく誤魔化したいんだけど」

『へ?あいつらには言わねえの?』

「うーん…ずっと一緒に遊んでるけど、リアは知らないしな。そこまで信用して良いのかわかんないからさ。ずっと秘密にしとくかとかはまだわかんねえし、そもそもいつまでこの状態続くかがわかんねーし」

『ふうん。なんか大袈裟じゃね?』

「規約違反状態なんだぜ、今。……こんな事でアカウント抹消されたら立ち直れねー」

『あ?あー…そうか。成る程』

「ま、そういうことで」


 コールを切って、うーむ、と顎を撫でつつ小さく唸る。

 なんかよくワカランがどーにか無事でハナとは会えそうだ。…あいつ、なんだ、何がどーしてどーなってる?わりとこう、ガキの頃からたまに読めないというか変にスイッチ入る時があるというか、基本女だから所詮俺にはワカランというか…だけども。

 まあ、合流できそうで良かったって事でいっか、取り敢えず。

 で。

 会えたとして、この後どうするか、だなぁ。────ハナのフレには事情は説明して良いのか悪いのか、まだ聞いてないし、そういえば。

 今のところ、お互いのフレから安否確認だろう、コールが来ても出ないようにしてる。

 心配してくれてるのが判るから申し訳ないんだが、どーしたもんか、ってまだ答え、出てねえし。

 さっきはああ言ったけど、俺の、エーリッヒ以外のフレに対する誤魔化しっていうのも、ぶっちゃけ出来るかどうか判らん。やるのは、ハナなわけだし。俺だって、女の振りして過ごさなきゃならんのかよとか考えると無理くさい気が凄く、してる。

 なるべく一緒にいてフォローし合うってのが正しいんだろうな…。……め、めんどくせえな。


 その後、もう一度、今度はハナとコールを繋ぎ、落ち合う場所を決めた。

 この街にあるハナの自宅兼店舗で、ということになったので、なんだかんだで一時間と掛からず、街から街へ転移ゲートを潜り継いで到着するだろう、と俺ものそのそと動くことにした。で、店って…どっちだよ。

 マップを開く。

 自宅はピンクと白の交互の明滅で表示されるはず…あ、これか。こっちか。逆だった。

 ウインドウを広げたまま歩く行為はあまり褒められたものではないとされている。他人の窓を覗くのはマナー違反、ってのが基本モラルだから、逆に、自分の窓を無防備に広げておくなってことだな。一応、よっぽどくっついて覗き込まない限り、脇から見ても紗がかったぼやけた感じにしか見えないようにはなってるんだけども。

 そんなわけで、一度広げたウインドウは消して歩く。

 幸い、俺はハナと違って方向音痴ではないので、一度マップを見れば大概道は覚えられる。ハナの店は、メインストリートからは若干奥まったところにあるが、行き方が難しいというほど遠くもなく。石畳の上を足早に進み、あっという間に到着した。


「……え…」


 妹だからこそ、ゲームの中ではあまり接触せずにいた。だから、店を持ったという報告は受けていたが、実際来たのは初めてだった。

 予想通り、こぢんまりとした、多分一番レベルの低い価格の店だ。

 まあ、正直、飲食店ってだけで、店を持つまでになれたというのは実はすげえ話だと思ってる。武器や防具、薬師なんかと違って、基本儲からないし客が少なくてスキルが上がりづらいからだ。装飾なんかもデフォルトのままだし、NPC店員も雇ってないぽいが。

 ……。────店自体は、予想通りだったんだけど。


 小さい店。間口は二間程度で、オレンジ色のテントが目を惹く。そこに【おいしいごはんとおやつの店**のんの**】ってのと、単純な花のイラストが白抜きで鮮やかに描かれている。あ、「のんの」ってアイヌ語で「花」の意味なんだってよ。可愛くてかゆいっす。

 イートインは出来なくもないが、お持ち帰り推奨って感じの店なんだろう。一面硝子張りの奥、はどちらかというとショーケースの方が目立っていた。テーブルもあるぽいが。

 店の奥までは、あまりよく見えなかったんだけど。なんか、うん、見づらいというか。

 ……人が。

 店の前、やったら多くて。

 なんだ、これ。

 ────客か?

 これ、全部?


「ハナ!何してたの、何処にいたのよ!ずっとコールしてたのに反応ないから、心配してたんだよ!ねえ、大変、見てこれ、ほら、早くお店開けないと!」

 俺に気付いて、女の子が一人、たったか駆け寄って飛びついてきた。捲し立てる科白が頭に入ってこない。

 誰?

 いや、ハナの友達、だよな。

 ……目がくりくりしてる。小動物系。

 俺より…じゃなかった、ハナよりちよっと小柄か。

 皮素材のワンピースと軽鎧が合体したみたいなカッコ。背中に曲刀二本背負ってる。

 双剣使いか。

 かわいいな。


「ちょっと!何ぼんやりしてんの、人の話聞け!」


 ぎょ────!

 ぼんやりしちゃってたのは俺が悪いが!だがしかし胸を鷲掴みにするとかやめて!女の子がはしたない!!っていうか妹の胸とか意識させないでお願いだから!!


 ハナの店の前は、凄い人だかりが出来てて、NPC店員もいなくて店が開いてなかったもんだから、なんかその人らはずっと待ってた…ぽかった。

「おっ、来た来た、マスター、女将、シェフ!」

「良かったー、インしてると思ってたよー」

「店開けるんでしょ?早く早く、お腹空いちゃったんだから」

「ハナっちのミートパイが食べたいんだよね、ある?カレーパンでも良いよー」

「あたし、マフィン!」

「私はいつもの焼き魚定食が食べたいんだけど…これじゃあゆっくり中で食べられないわね」

 どわっと囲まれて、口々に話し掛けられて。親しげ…常連客とかかな…いや、ちょっと待って、寄らないで。

 正直、これほど狼狽えたってこと、このゲームの中でも、いや、人生においても、今までなかったと思う。

 最初に話し掛けてきたリスだかハムだかに似てる子が、人の中もみくちゃにされだした俺の腕にぎゅう、と絡み付く。はっ。なんかぷよぷよんな感触が!

 異性アバターでは味わえないが、同性同士だとなんでもアリか!揉むのも逆に自分のを押し付けるのもアリなのか!!あっ、だめ、やめて、鼻血出る。

「騒がないで、お店、開けますから!ほらっ、ハナ、こっち!突っ立ってないで鍵開けて!────在庫、あるんだよね?手伝うから、販売始めようよ、お店開こう?」

 み……店って。

 鍵って。

 あ、これか。


 正面ではない、脇に入ったところにある小さな扉に引っ張られつつ手を翳せばロックが外れ、中に入れた。

 ふわん、と入った途端、甘い香りがする。食い物の匂いだ。へえ。

 店の中を思わずぼんやり突っ立って眺めてしまっている間に、ハナの友達らしいリス子が、ちゃきちゃきと開店の支度をし、ショーケースの中身を確認し、正面の硝子扉のロックを開ける。

 ショーケースの中には、総菜から甘味までひどくランダムというか、まとまりがない、というか、ただ妹の好物ばかりが並べられていた。


 この手の店舗用に用意されているショーケースや冷蔵庫は、その中に入れておけば時間が止まり、腐ったりということがなくなる。いつでも新鮮なものを販売できるのだ。ケースから出したら時間経過が始まるので、買ったら大概のものは早めに食べないとダメなんだけどな。


「ハナ?今日はテイクアウトオンリーって事で良いよね?……びっくりしたよ、ここに来ればハナに会えるかと思って来たら、凄い人なんだもん。どーしたんだろうね、今日は」

 首傾げないでくれ、可愛いから。つか、なんでわからんのだ、おい。

「どーしたもこうしたも…そりゃ、そうだろ、ログアウトできなくて、何が起こるかわかんないとか、なって…そしたらまず、食糧確保って、思うのは不思議じゃない…」

 しかも、味気ないNPC販売の「食料」ではなく、ちゃんとオリジナリティが出る、調理人が作る「食事」を、求めようと考える人がいるんだ。

 今はまだこの人数だけど。

 この人達は「敏い人」である気がする。この先、夜が明けても、明日になっても明後日になっても今の状況が変わらなかったら。

 この店は、もっとすげえことになるんじゃないか?

「?何ぶつぶつ言ってんのよ、ほんとあんた、こんな時でもぼけぼけだよね。ま、ちょっと安心したけどさ。はーいっ、どうぞ、今日はあるものだけでごめんなさーい!売り切れ御免な感じです、並んで下さいねーっ」

 おい。

 これ、ハナが作った在庫、売っちゃっていいのか?

 今ならもっと吹っ掛けても売れるんじゃね?

 つか、「ハナが作った」料理って、もうここにあるだけなんだぞ。

 俺、こんなの作れる自信ねえんだけど。

 調理スキルって、どーやんの…そっからなんだけど、俺。

 

 なんて、ちょっと考え込んでいる間に、飛ぶように商品は売れていく。

 まとめてごっそりと買っていく人が殆どで。

 はた、と気付いてストップかけようとした時にはもう、遅かった。


 あああああ。


次でやっと兄妹合体できる…といいな。

なんでこんなのびのびるのか。


ルビ打ちってこうやったらなるのか!

と、知らずにやっちまってました。

そういうつもりはなかった。ので修正。

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