合流するために、その3。+可哀想な胸の巻
ほーちゃんのリア友でもあるらしいエーリッヒさんは、最初、巫山戯てるのかと思ったらしい。まあ、そりゃそうだ。
コールして、取り敢えず事情説明しようとして、でもなんかよくわかんなかったようで、ちょっと待てって言われて、待ってたら五分と掛からず向こうから探して、来てくれた。
色抜いてない普通の黒髪、割りとぼさぼさと伸ばしっぱなしの髪はリアでもこんな感じなんだろうか。外見は、本人のものをわりとリアルにスキャンしてアバターイメージするらしい、ので、中の人とのビジュアルは近いと思うんだけど。…ちょっとこう、怖い?かな?
ほーちゃんより背が高い。
手足が長いからかな、余計大きく見える。うーん、肩幅があるのかな。ひょろっとしたほーちゃんと同じ程度に細身だけど、でも何となく妙に威圧感…馴染みがないからなんだろうか。全体的に骨っぽい。顔も、なんか骨…や、骨じゃないか。でもごつっとしてるんだもん。まるみのあるとこがいっこもないような顔してる。目許もきつい気がするし。うー。
私が馴染みがないってのに、向こうはガンガンに「ほーちゃん」に馴染んでるわけだから。
基本的に、あっちが取ってくる距離が近い。遠慮なしなんだもん。びびるよ。
何気なく手を伸ばしてきたり、顔近付けてきたり。そもそもこっちを見る視線が遠慮ない。不躾というかお構いなしというか。そういう男子の視線って、判りやすくいやーな色が混ざってるものだけど、そういうわけでもないから余計にかえって違和感というか。不快にもなりづらいというか…でも、困るというか、うーん、怖い。
私がびびって距離取ると、きょとん、としてから、「あーそうか」と困ったような顔をした。
説明で納得しても、まだぴんとは来てないぽい。友達の中身が、その妹なんだっていうのが。
まあ、目で見えてるのはいつもの慣れ親しんだ仲良しなんだからそりゃそうだろうけど。
「さっき話したけど、まあ、そんなわけで装備変えよう。まず盾はいらんだろ。それが一番重いしな…基本、タゲは俺が取り続けるから、もうそこまで堅くしなくていいだろ」
「え、さっき話した?って…あの、でも、私」
「話したじゃ…あーいや、そうか、違う、カズ…カズホと話したんだけど、今のあんたの装備は、ちょっとやりすぎて身動き取るのが辛くなってるから。もう少し軽くしないとダメなんだよ。ちょっとインベントリ見せて。盾仕舞って…防御アップと、状態異常耐性のアクセ持ってたろ。あれを…オラ、早く」
「えっ…え、あ、はい、あ、……え、どれ…」
「鎧も脱いで。オラオラ、ぐずぐずすんな、何やってんだよカズ」
「わ…私、ほーちゃんじゃな……、────ひゃう!」
中身が別人の女になってる、と判ってても話しているうちにどーしても抜けちゃうんだろう。判ってるけど、判ってるけど、だからって装備剥ごうとしないで!
留金を外そうとする指が、脇に伸びて、押えようとした大きい手が、む、胸に。
むねっ!がっちり、掴んだッ、押え付けたッ、ぎゃああああ!!
ほーちゃんの胸だけどっ!まったいらの男の胸だけど!
でも触られてるっていう感覚は私が味わっちゃってるんだあああああ!!
「いやあああああ!」
ぼごぁ!
「ぐあっ!?」
しょーがないじゃないか、男子にあんながっちり胸触られたのなんて、生まれて初めてだったんだから!
街中では、殴っても何してもHPに影響が出るようなダメージは与えられない。でも、触れ合いは出来るので、殴った蹴ったはできるのだ。ただ、PKにならなくても変ないじめや精神的苦痛に発展しないよう、プレイヤーが望めば相手の拳とかが空振りするようになっている。殴ろうとしても擦り抜けてしまうのだ。
同様に、これはセクハラ対策にも、なる。
まあ、擦り抜け設定に切り替えないとダメなので、どーしても最初の一発は喰らっちゃうんだけど。ちなみに、セクハラは喧嘩より重罪と見なされてるので、あんまり話を聞いたことはありません。てゆーか、もしかしたら、あらかじめ異性プレイヤーに断り無しに触れようとした場合、部位によっては触れない設定が為されてる、とかそういうのがあったりするのかもしれない。全年齢のゲームって、特にそういうのは神経質らしいから。
ぁ、更にちなみに、放送禁止用語を大声で叫ぼうとすると、その単語がカエルの鳴声に変化するらしいです。これも噂でしか知らないんだけど。
余談が過ぎました。っていうかね、性的なトラブルとかは、ホントあんまり基本的には聞かない。少なくとも表面にはあんまり、出てこないね。
余談…が、多くなりすぎたのはワタクシが今、現実逃避したくなっちゃってるからだと思われます。すいませんすいません。でもでもでも。
ううう…。
ごめんなさい、殴っちゃったよう…。
同性プレイヤーなので、勿論、胸に触ってもどーってことないので全く何ごともなくばっちり触れちゃうわけで、だけど中の人は私なのでショックはでかくて、反射で手が出ちゃって、勿論擦り抜け設定なんてされてないから吹っ飛ぶくらいにぶち当たってしまった。
痛みはなかったとは思うけど。そーゆーものなんだけど。
申し訳ない、とエーリッピさんは真面目に謝ってくれたけど、どっかしら理不尽なものは感じていたかと思います…。
ま、まあ、そんなこんなで、あとは、私も大人しく、言われるがままに、着替えて。
「ええと…。イモートさんには悪いんだけど、俺、どーしてもこう…見た目がカズだから、間違えるっていうか、普段と同じようになっちゃうと思うんだよね」
「はい…それはそうですよね…」
「や、敬語すげー違和感あって困るっていうかふざけんなやっていう気分になんだけどそれは仕方ないのか…いやうん、あのさ、だから、俺またあんまり考えないで触ったりしちゃうかもしんないから…あ、あのっ、な、言っとくけど、変なつもりとか全く無いから!マジで!!」
ずい、と慌てた顔で詰め寄られてわああ近い近い顔近いって!
「わかってますわかってます!」
「そ、そか、ならいいけど。……いやでも、俺は変な気ないけど、そっちはやっぱその、いやだったりするわけだろうし、あー、だから、あらかじめ、触れないような設定しといてくんないかな。確か個人相手の設定とか出来るはず…」
ブラックリスト設定みたいなもんだろうか。初めて知ったけど…普通ならあんまやんない設定だし。あー、これか。うーん…。
「擦り抜け設定しておくっていうのもなんだか申し訳ない、んですけど…。ええと、取り敢えず、じゃあ、慣れるまで…?」
「あー、そうだね」
設定、した。
試しに触って貰うと、すかすかっと手が肩を擦り抜ける。うっわ、おもしろ…。
こっちからは触れるのか。これってどういう仕組みなんだろうなあ、変なの。
……。……いや、申し訳ないと思ってるんですよ!ちゃんと!珍しい状況を面白がるのが先になっちゃったわけじゃないですよ!ほんとだよ!いやちょっとうそかも!すまん!
「……。……ま、じゃあ、準備良かったら、行くか。まずはこっから一番近い大きな街に。ポータルゲートルームがあるから、そっから飛べばあとはすぐだ」
「うん、よろしくお願いします」
うん、と頷いて、エーリッヒさんがやっと笑った。
私も少しほっとした。




