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87 掘り出し物があるとは限らない

世の中の英雄譚(ゲーム含む)は困った時にどこかしらか手を差し伸べてもらえる事がある。

金に困れば差し出され、場合によっては持っているものや手に入れたものが色々な事情から高値で取引される事もある。

でも、世の中はそう簡単にうまくいくかと言えばそうでもない。

この場合、別に特に何かを失ったわけではないけれど。


 つまり、ある種の会員制の専門店なのだとムナと言う人物は一言で説明した。

 さほど時間がたっているわけではないが、一行は2階の部屋に案内された。

 その部屋は、ちょっとしたサロンになっている。テーブルとソファ、質素に見えて手の込んだ内装、並べられた茶器が安物ではないのは職人都市ならではと言う感じだ。

「改めて紹介いたします、当メイジャ工房のオーナー兼第一技術者のマイナ。第二技術者のユウナ。

 そして、私が外商を担当しておりますムナと申します」

 優雅な動作をした青年……二人の身長が低いから、余計に目だって見えるから不思議だ。

「ええと……一応、このパーティのリーダーしてます。アインス・ツヴァインです」

「そういえばそうでしたね」

「すっかり忘れてた」

「そういえば、僕は無関係なんだけど……まあ、ドーンがいいって言うからいいけど」

 誰も何も言ってません、などと言う事は言えないので全部しらんぷりだ。

 そして、肝心のドーンは何も言わない。

「煩いよ!

 ええと、ご存知だと思いますけどドーン。ギルド名を『夜明のクリムゾン』とひっつき虫のレン・ブランドンは気にしないで下さい。基本的に」

 なんだその説明の仕方は……と、誰かが思ったかも知れないが一番聞きたいかもしれないムナが聞かないので誰も言わない。

「ギルド上級ランク保持者の『女中王』キャシー」

 呼ばれて、軽くキャシーは会釈する。

「彼はシュースイ。ギルド関係者ではありませんが、今回のパーティ・メンバーです」

 秋水も、言われて軽く会釈する。

「本来、ここにはギルド上級ランクの『聖なる魔剣』のラーカイル先生も居る筈なんですけど……」

「ギルドの上級ランク保持者が、三人も……というより、『聖なる魔剣』が何故……」

 どう言う意味なんだろうという話もあるが、何をしたんだろうと言う気もする。

「ええ、今回は僕達の後見的立場でいらしてるんですが……どうかしましたか、顔色がよくありませんけど?」

「……いえ、どうぞ。お気になさらず。

 こちらも親方様よりある程度の状況はうかがっておりますが……単なる討伐ではないと理解して宜しいでしょうか?」


 逆に気になるんですけど……というより、彼は一体何をしたんですか。ラーカイル先生は?


 ちらりと誰かがキャシーに視線を向けたけれど、仮面でも被っているのではないかと時々思いたくなるキャシーは我冠せずと言う感じだ。ここまで徹底していると、逆に天晴れと褒めたくなる……が、今はその時ではないと言って良いだろう。

「ある程度と言われますと、どこまでお耳に入っていると判断すれば宜しいでしょうか?

 もし……私に何の相談もなく親方様がこちらの内情を口にされていると言うのであれば、当方としても今後については再考をする必要がある可能性を示唆させていただく事が……いえ、勿論この話は私共ギルドと職人都市の最高権力者である親方様との問題であり、メイジャ工房の皆さんとは何ら関係のない話ではありますが……」

 ここ暫くの鬱憤がたまりまくって爆発したがっているのか、アインスの口調は大変滑らかだ。

 もしかしたら、キャシーに何か特訓めいたものでもされたのかも知れない。キャシー曰く「パーティーのリーダーの資質が低い場合、そのパーティを含めたギルド全体の評価へとつながる事になります。特に、変則的ではあるとは言え下級のランク者の下に上級ランク者が三人も着いていると言う事態がすでに問題である以上は、舐められたら終わりと言う見方もございます」と、えらく活動的な動きで語っていたのは、そう昔の話ではない。

「ああ……いえ、言い方が悪かった様で申し訳ございません。お詫び申し上げます。

 私共も足の下で何かが起きていると言うのは重々承知しております、ですが詳しい内容とまでなると様々な要因から足枷を嵌められている状態ではなかなか……公的に聞き及んでおりますのは、ギルドに職人都市市庁舎から依頼がかけられたと言う事実のみ」

「ムナ、珍しく動揺激しいなあ……」

「当然の事、『聖なる魔剣』は禁句……」

 よく見ると、ムナだけではなくマイナとユウナも顔色を悪くしている。

 ここまで住人に顔色を変えられるほどの一体何を、あの温厚そうな笑顔と眼鏡と白衣に彩られたラーカイル医師は行ったというのか……住人がそこまで激しく反応していないのは、もしかしたら学園都市では日常的に着ている事もある白衣を出先だから着ていない為か。市庁舎で引きこもりよろしく、研究を楽しく行っているからなのかのどちらかなのか、それとも両方なのかは判らないけれど。

 ムナは、どうやらラーカイル医師がこの職人都市に訪れていると言う事を聞いて動揺してしまったために失言をした、と言う事の様だ。と言う事は、この都市の入り口である門での事は噂にならなかったと言う事だろうか?

「そうですか……私共は現在、この職人都市の怪異を調査しております。

 結論から言えば、貴方達に結果を伝える事を許されてはいない状態の為に口外する権限を持ちません」

「と言う事は……私たち都市の住民は『最悪の事態』を含めた否定形の認識をせざるを得ませんが?」

「どうぞ、私達が親方様に許されているのは『都市の調査』である事だけです。それ以外は何一つとしとして洩らす事を禁じられていると言うだけの話ですから」

 事実であるから、間違いではない。

 ただ、現在の所は親方に報告をして返事を待っていると言うのが事実としては正しい。ギルドにも何らかの報告をして、その内容について検討を測っていると言う状態だろう。さっきの今で返事など来ると言うのは考えにくいし、仮に上層部で打ち合わせなどをしていると考えた場合からしても何一つ知らせが来ないと言うのも考えられない。

 たまに、上層部間の取引で色々な事が知らない間に終わっていたり続いていたりしている事もままあるが、かと言って忘れられる可能性は『夜明のクリムゾン』と『女中王』に『聖なる魔剣』と言うギルド上級ランク保持者が揃っていて後回しにしたら何が起こるか、想像が出来ない無能が揃っているわけではない。

 と言うのが、キャシーの弁だ。

 上下の差と言うものの激しさは、どんな世界のどんな職業にあってもあるものである。

「それが、何か?」

「ええ……当社の品を扱って頂く事、当然ギルドの上級者に目をかけていただく事は大変名誉な事ではありますが……逆を言えば、それだけの『問題』が生じていると私共は判断せざるを得ません」

「構いませんよ、私共は大都市への調査依頼であるならば現地である程度の品の調達は出来る筈だと言う認識の下で来ています。だからこそ、次の動きに合わせて装備を整えるだけですから……それとも、現状で確信が持てない不確かな状況では私共に売る事が出来る商品は存在しないといわれますか?」

 なかなかに嫌な言い方ではあるが、実際問題としては他に言い様が無いのも事実だ。

 彼ら、現地の住民が懸念している様に。どうやら、この都市の足元には姿形的に形容しきれぬ生物の存在を目撃したのは事実で、しかも秘匿命令が出ているのも事実。ただし、口止めはされているが市民に疑われぬ様にしろと言う命令までは出ていないので、ありのままに口にするしかない。

 彼らの身の上を考えると「これだから汚い大人は……」と言いたくもなるが、その理由が「好奇心に駆られて殺到した住民が水死するのを防ぐ為」である事を知っている以上は強く言う権利があったとしても言えない。

「……仕方がありませんね」

「では……」

「では、お帰り下さい」

「……………は?」

 多少の沈黙を持ってアインスの口から出たのは、たった一言だった。

「聞こえませんでしたか? お帰り下さい」

「………意図が測りかねないのですが?」

 ちらりと目線と言うか、意識だけをアインスはカーラに向けたけれど。

 とうのカーラと言えば、優雅な動作で出されたお茶を飲んでいるだけだった。

 あのドーン大好きなレンですら、いつもの様にドーンにかいがいしく世話をやいたりべったりくっついてると言うわけでもない状態だと言うのに……ちなみに、その状態が通常の筈だがひどく違和感を感じるようになったらおしまいである。

「情報の一つも持っていないから、と言うのもありますが……当工房では皆様にお出し出来る程の品はございません。

 せっかくいらしていただきましたが、お役に立てる事は何一つないかと……」

 にこやかな笑みである、恐怖心すら感じる。

 事実、ムナは最初にラーカイル医師の話を聞いて流石に顔に張り付かせた笑顔にひびが入ったけれど、その後は始終笑顔を向けていた。

「傲慢なんですね」


 ぴしり


 何かがひび割れたかのような音がした気がしたが、実際には物理的な影響があるわけではないという事なのか……それとも、視界に入らない所で動いてると言う事なのか、その辺りはよく判らない。

「実力を持っている者の権利です」

「でも、貴方のものではない」


 ぴしり……ぴし……


「残念ながら、この様な相対に関しては私に一任されておりますので……」

「素晴らしいですね、傲慢ぶりが」

「……まさか」

「本人及び当事者を目の前にして、何の前置きも無く『帰れ』の一言で何もかもが終わると思い込んでいる。

 いやあ、私にはとても真似が出来ない傲慢な為政者の奢り高ぶりさを久しぶりに拝見させていただきまして……懐かしさのあまり、感慨もひとしおです」

 地方で、貧乏と一言で言い切る事が出来る。ちょっとした一般市民の方がよほど金を持っていると言う貴族の長男でもなく産まれ育った身の上では、それはもう苦渋を舐める様な日々を過ごしてきたと言う。

 商人には騙されるかの様に上から見られ、もしかしたら領民にも蔑まれていたのかも知れない。

 どうしてそこまで、と言う気もするが禄に作物も育たない様な土地で住民を満足させるような治め方が出来る領主と言うのはなかなか存在するものではない。数少ない美点と言えば、特に貴族階級の高慢な意識を植え付けない育て方をしてくれた事と言えるが……単に、そこまでまわせる金がなかったからだと言う話もある。

「下手な前置きなど、不要であると思いまして……」

「そこが貴方の傲慢で高慢な思い込みである、と申し上げたら……真実をつきすぎて嫌味にもなりませんかね?」


 アインスの笑顔が怖い……君はそんな子ではなかったのに!


 誰かが思ったかも知れないが、同じ程度。もしかしたら、アインスは不機嫌なのかも知れない。

 または、恐怖心に駆られているのか。

「はっきりと仰っていただいても構わないんですよ、ムナさん」

「……何をでしょう」

「あえて言うならば『第一技術者とは名ばかりで工房に出せる作品など作れたためしが無い、第二技術者とは名ばかりで破壊するしか脳がない、どちらかと言えば今は工房の収支ではなく他の店舗への手伝いや別の仕事で工房とは名ばかりの何でも屋をしている為に正規の仕事が出来ない』とか?」


 ぎり……!


 あからさまな空気の変化に、ここは悲鳴を上げるべきだろうかと誰かが考えた。

 結果的に言えば、誰も上げなかったけれど。

「一体、どこからそんな出鱈目な話を……」

「私、これでも情報ギルド所属ですので」


 ぎりぎりぎり……!


 誰か、絹のハンカチを歯で引きちぎってませんか?

 言いたくなるほどの音が聞こえた気がするが、これは聞こえて良い音なのか否かを考えると少々恐ろしいものを感じるのが不思議だ。


黒アインス光臨中…よほど色々と溜め込んでいた様です。

君、そんな子ではなかったのに…!

そんな子に育てたつもりはないのに…!


いや、育てられた覚えないし。とか言われそうだけど。


では、次回予告。

「善意には善意を、悪意には悪意を、行為には行為をもって返す……そこに駆け引きがあれば当然指し示す手札が存在する。さて、貴方の手札は?」

概ね、そんな感じになる。のかな?

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