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77 根付いている人が一番強い

サブタイトルの元ネタ、実は某スタジオの空浮いちゃう話です。

いや、なんでそっから出てきたのかが判りません。

誰か教えてください。


 職人都市とも呼ばれるこの町は、町中を水路が走っている。目に見えないだけで建物の下は浮島に浮いている部分もあるので、その下も海と繋がって水路が入っていたりする。

 その為、基本的にレイニアス・シティには「地下」と言う概念がない。自動的に「水中」に変換されるからだ。

 だからこそ、水路は満潮時刻になると完全に水没する仕様となっているし、水路は基本一方通行なのは潮の流れにも関係しているからだと言うのもある。流石に、完全にと言うわけには行かない部分もある。それでも、大きな荷物を運ぶような業者は基本的に牽引船と貨物船を用意し、一定周期でぐるりと回って配達場近くに居る別の牽引船に引き渡すなどをして時間のロスを減少させる努力は怠らないそうだ。


「今回の最大の問題は『時間』なんだよね」

 司会進行はアインスでお送りしております、と言う感じだがこれには理由がある。

 他の誰も秋水への状況説明をしたがらなかった、と言うのもあるがキャシーは「目当ての職人がおりますので先行して話をつけ……依頼をして置こうと思います。アインス様、皆々様をくれぐれもお怪我などを負わせぬように先導してきてくださいませ」と言い残して消えた。文字通り消えた。

「時間?」

 ラーカイル医師はせっかく入手したサンプルを存分に研究していたらしい……秋水が死に掛けた数日間には無精ひげと疲れ切った疲労感から漂うフェロモン的な何かを漂わせていた関係で「お前は部屋から出るな」とレンに半ば監禁状態にされたらしいが……そのあたりの事を死に掛けていたと説明された秋水はよく知らない。と言うより、全く知らない。

「まずは、水路を埋めるほどの水の問題でしょ? それから、僕らの持ってる道具関係。これは、場合によっては命に関わるから簡単に壊れる様なものは使いたくないと言うか意味がない。

 そこまでは、いい?」

 実際の所を言えば、秋水は腹が痛くなって熱くなったと思ったら。

 次に目を覚ましたら数日たっていました、と言う漫画や小説の世界ではよくありそうな状態だったのだ。

「ああ、うん。大丈夫」

 しかも目を覚ました時は特に違和感を感じなかったので普通に起きようとしたら、完全看護体制でキャシーには老人介護よろしく寝台から起き上がるどころか寝返りを打つだけで色々言われてしまい、ついでに眠りこける始末。

「とは言っても、完全に特注してるほど時間があるとも思えないし……」

 どうやら、職人都市から依頼された内容には時間制限でもあるのだろう。

 少し難しそうな顔をしているのはもしかしたら秋水が死に掛けていた時間も含まれるからなのだろうか?

「セミオーダーとかなら、どうかな?」

 秋水にしてみれば、眠ってる間に一体何があったのか意味不明の砂漠に放り出されたかのような孤独感に悩まされていた状態だ。しかも、やっと起き上がる許可が出たのは良いがその間の時間の流れもまったくつかめず、ようやく「さて説明」と言う瞬間にレンの「買い物」発言だ。

 タイミングとは怖いものだが、出鼻を挫きまくるにも程がある。

「せみ?」

「完全武装ってこの場合は必要じゃないと思うんだよね」

 この世界では普通に鎧が存在するが、かと言って街中で見かけるかといわれるとそうでもない。

 少なくとも、学園都市は騒乱防止条例があるので私闘は禁じられている。学園都市支給の制服や品々にも禁則事項として定められているので見る事は基本的にないが、ギルドの試合場では見る事も出来るし学園都市の外側に出ればちょっとした遠足気分で依頼をこなしている冒険者ギルドの人たちも居るのでゼロではない。

 それでも、完全武装フル・アーマーと言う事は基本的にない。

 耐久率は随一だが、まず一人で着られない。必ず二人から三人以上の手立てが必要となるし、加えて一人で行動するにもかなりの制限がかかる。そんなのを水没前提で考えた場合、自殺行為ではないと言われたら被虐趣味かと疑って差し上げるのが親切と言うものだろう。

 ちなみに、胸部や腹部など部分的な鎧の事は言うまでもなく軽装鎧ライト・アーマーと呼ばれるのが一般的だ。素材の軽さや汎用性の高さでは定評があるが、いかんせん防御力は格段に劣るという欠点は致し方が無いだろう。

「部分的な防具とかをつけるにしても、どうしたって仕立てるのに時間がかかるなら体だけ測ってもらって時間制限でお任せとかどうかな? 餅は餅屋。この都市の専門家が居るのならば、この都市なりの戦い方を教えて貰いながら見合った道具を作ってもらったほうが良くない?」

「もちや……?」

 どうやら、この世界には「餅」と言う概念は無さそうである。お米やご飯はあるのに残念な事だが、それも納得できなくはないと秋水が思ったのは長粒米だったからだ。概ね、おかゆ状態にして離乳食として使われる事が稀にあると言われて落ち込んだのは言うまでもない。

「けどさ、そう簡単に上手く行くかな?」

「え、どういう事? 自分達の足の下の事で俺達来てるんだから、事情を話せば町の人達も手を貸してくれるんじゃないの?」

「と言うより……アインス、もしかしてシュースイは知らないんじゃないの?」

「は?」

「ああ、そういえば言ってなかったかも……」

「え、ちょっと……?」

「アインス……人の上に立つならば基本的事項だろう、それ?」

「まさかシュースイが来るとは思ってなかったんですよ、ギルドどころか学園都市に在籍してるわけでも無かったし」

「言い訳にしては下手すぎくね?」

「まあ、そうですけどね」

「て言うか、二人ともそろそろ人を無視で苛めるのやめてくんない?」

「「ああ、そう言えば」」

 秋水が内心で「この野郎……」とほの暗い感情を浮かび上がらせてしまったのは、言うまでもない。

「シュースイ、この都市の名前は知ってるよね?」

「……職人都市? レイニアス・シティだっけ?」

「そう。で、職人ってどんな人物がなるか知ってる?」

「……さあ? 俺、この世界の職人って会った事ないからわからん」

 レイニアス・シティには、大きな道路や橋はない。一方通行のみに限定された水路から船に乗って流されるのが一般的な移動方法だ、これはこれで急いでいる時には慌てるものではあるが、小さな路地並みの水路であればその限りではないので自力で船を操れる人や個人で配送を請け負う人物などで「当たり」と呼ばれる人がいたりすれば裏水路では結構のデッド・レースが行われる事も少なくは無い。

「……アインス」

「いや、だって本当。最初は全然知らなかったし!」

 何を言っているのか秋水には判らなかったが、狭い船内だ。立ったり暴れたりしないからマシではあるが、だからと言って船内に漂う何とも言えない冷たい空気に関しては……何とかしてほしいと秋水は思う。

 レンは、顔はこちらに向けているが他人のあからさまな目が入らない密閉に近い空間であると知っているだけに隣に座ったドーンをキャバレーのセクハラ親父よろしく撫でまくっている所が別の意味で秋水とアインスからやる気やら気力やらを奪いまくっている事に気がついているのかいないのか、どうでも良いのだろう。

「ええと……まず、この都市が親方が最初に作った話は知ってる?」

「そういえば、そんな話してたかな? 昔は人があんまり居なかったから、イル=スさんが間に入ってとりなしていたりしたこともあるとかって言ってたな」

 秋水の言葉に、何となく何とも言えない表情をしたアインスとレンではあるが……無視する事にしたらしい。

「それは割と都市として制定されてからの事だな……元々、この土地には親方が一人で住んでたんだ。隠れ里みたいなものだったと言われているけど、実際には隠れ里から逃げ出して一人で人気のない土地に住んでいるのが発見されたのが、そもそも親方が歴史に顔を出してきたというのが事実らしい」

 長衣でぐるぐる巻き状態になっている、その上から抱きしめたり撫で付けたりして何が楽しいのだろうかと誰かがうっかり考えたりしないでもないが、趣味は人それぞれだと脳裏から排除を試みる。

「なあ、シュースイ。判ってるか?

 この一帯は、かつて都市なんて欠片も無かったんだ」

「……うん? 何が言いたいんだ、レン・ブランドン?」

「つまり……どうやって生きてきたんだろうね、親方はって事だよ」

「……アインス? 何か誤魔化してたりする?」

「いや、そうじゃあなくて……都市がないって事は一人しかいないって事。お金があっても欲しいものは買えない、仮に買おうとすれば遠出をしなければならないって事は判るよね?」

「まあ……そうだろう、ね?」

 察しが悪い自覚はあった……レンがドーンに向ける労力を欠片でも向けてしまう程度には察しが悪いのだろうと認識してしまう。

「つまり……だ、親方はこの都市で最初の職人って事だね。しかもオールマイティの」

「……なるほど」

「親方に言わせると、可能な限り秘密裏に行動して欲しいと言うのが依頼の原則なんだってさ。都市レベルでの怪異を都市の協力無しで何とかしろなんて……無茶無謀ってもんだっての判ってて言ってるから性質悪いんだよね。こっちだって情報ギルドに報告義務だってあるのにさあ……」

 ぶつぶつ煩いよ、などとレンは言っているが。それはギルドからと親方からと両方の圧力に苦しんでいるアインスの状況を理解出来ないからと言うのもあるし、その意味合いの理由が理解出来ていないからだと言う見方もある。

「やっぱり、観光都市としても存在してるから?」

「その辺りは問題じゃない、どちらかと言えば観光云念は近年になって急に台頭してきた事で最初から想定していたわけじゃないから親方も頭が痛い事ではあるらしい」

 と言うよりも、親方にしてみれば外貨を稼ぐことよりも都市内部の人達の生活を安定させる方が永遠の課題扱いになっているので手も回らなければ目も届かず、部下の誰か達が勝手に推し進めた結果で何の因果か偉い人の避暑地とされる事もあるとかないとか。

「あれ、そうすると何で親方さんはそんなに町の人達に知られるのを嫌がるわけ? 危険だからって言うのは理由じゃないよな? 観光に力入れてないなら?」

「そうだな……じゃあ、シュースイの知ってる職人ってどんな感じ? イメージでいいから」

 言われて、秋水は少し記憶を巡らせて見る。

 どこか、なんだか一部あやふやな点が会ったり無かったりする気がしないでもないのだが。記憶を掘り返す努力をしてみると実物ではないものを見たと言う記憶が脳裏に浮かぶ。

「例えば……妥協って言葉を知らないとか?」

「うんうん」

 別に全部が全部ではないが、どうにも薄利多売系の機械や工場で作られるものよりも「職人」と言うくらいだから手作業で作ってる様な気がする。しかも、ミクロン単位で誤差は許せないタイプだ。

 一人で何もかもをやっているのならばともかく、もし他に手を出そうとする人が居たら即座に「うざい」と言われる系統だろう。

「それ、頑固って言わないか? ねえ、ドーン?」

 人形遊びに見えなくはない……と誰かは思ったかも知れないが、そんな事を口にする愚者が居なかったのは幸いだ。ここで、キャシーやラーカイルがうっかり口走ってしまった日には水路へ落っこちる様なイベントが生じる可能性が高い。非常に高い。

「つまり……要するに、親方は非常に言いづらいんだけど『せっかく我慢して書類仕事してるのに、他の奴等が協力って名前の好奇心で調査にちょっかいを出すのがずるい』って事がね、あったり……」

「ええっ? そんな理由?

 確かに、邪魔くさくてたまんない程度に気を使ってるのか判らない群集を相手にするのは嫌だけどさあ……」

「しかも最強」

「あ、イル=スさん投げ飛ばしてる時点でそれは判る」


世の中には色々な人が存在しているので、あくまでも職人=頑固って言うのは仕事中の事で印象です。誰もかれもそうだとは思ってませんからねー?

親方はやりたくも無い事を一人でやってるのに、好奇心とか自分の領域でわけの判らない者が土足で踏み込むような真似をしていると言う事で燃え上がる職人の皆様の行動が予測できたが故の八つ当たりです。

意外と心狭いですねー。


では、次回予告。

「買い物にまだ辿り着かない、何故だ!それはそれぞれが勝手に動いてるからだ!展開は決まってるはずなのに!!と言うわけで、少し慣れてきた秋水の周囲的な駄洒落じゃない話」

なのかなあ?

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