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76 売った喧嘩を追加で売る方法

今回のポイントは、誰が誰に売ったか。

と言うか、サブタイトルをつけてから本分を書くのですが。気が付けば毎度中心点からフォーカスがずれてる気がします。

あれれえ?(その言い方はちょっと問題フラグが立つかも知れません)


 その話は、ある意味で唐突に始まった。

「と言う訳で、武器とか防具とか買いに行くから」

 アインスはともかく、秋水の目が点になった瞬間だった。

「なんでアインスもびっくりしてるのさ?」

 唐突なレンの言葉に驚かされるのは、実の所を言えばそれほど珍しいわけではない。

「それは話が唐突過ぎるから、ではないでしょうか?」

 ついでに、フォローをしてくれるキャシーがいるのも珍しくなければ。平然と様子を見ている様にしか見えないドーンはあいも変わらず通常運行だ。

「前に言っておいたと記憶しているが?」

「本気だとは思っておられなかったか、それとも頭の中で必死に計算をいているかのいずれかでしょう。

 不必要な計算はございますが、条件反射ですから」

「計算?」

「はい、いかに安く仕入れるかを財布の中身と算段されておられるのではないかと……」

「アインスは情報ギルドじゃなかったかな? 商人ギルドではなかったと思うけど?」

「兼任する方もおられますから……アインス様の場合は育った環境の成せる技ではないでしょうか?」

 一見すると「なるほど」と頷いているように見えるが……知っている人は知っている。

 あれは「ああ、そう」的な意味の頷きだったりするのだ。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 どんがらがらどっしゃぁぁぁぁぁぁあん!


「うわあ……アインスが壊れた」

 目も当てられないと言った表情をしたのは、秋水だ。

「的確な表現でございます、秋水様」

 あいも変わらず無表情でキャシーが応えるが、実の所を言えば半分以上は否定する要素がないだけの相槌の様なものであって褒めているわけではないと言うのが味噌だ。更に味噌なのは、秋水はキャシーのそんな意図をきちいんと認識している所だろう。

「この場合、頭と中身とどっちかな?」

 見も蓋もない事を言うのは、レンだ。

 何気でもさり気なくでもなく、基本的に酷い言い草かも知れない。

「どっちも……かなあ?」

 ただし、それに反論する事もなく肯定すらしてしまっている以上は秋水も似たようなものだろう。

「先に心配しろよ!」

「「あ、生きてた」」

 状況から考えて、半分近くはたまり場になりつつある秋水の部屋に集まっている。そんな所で、いきなり頭を抱えてごろごろ転がり、寝台の脚に頭をぶつけてピクピクとしていたりするアインスを見れば当然と言えば当然の反応ではないだろうか……などと、誰かは思った様だが誰も何も口にしなかったりする。

「アインス様、あまりはしゃぐのもいかがなものではないかと……アインス様が個人的に職人都市の皆々様に蔑みの目で見つめられる分にはいかようにも構いませんが、それが秋水様にまで至る事となりますと……流石に温厚な私としても『それなりの対処』を考えなければならないのではないかと思うのですが。

 ……おや、どうかなさいましたか?」

「「「いいえ、何も」」」

 懸命な男子三人は、これまでの経験則から「自分で温厚とか言っちゃう人が本当に温厚なわけないじゃん」とか思ったりしたが、流石に口にするだけの度胸は無い様だ。もしかしたら内心を悟られていたりするかも知れないけれど、そんなものは実際に口にしなければ逃走経路は幾らでもある。

「左様でございますか……どちらに致しましても、この度の依頼に関しましてはアインス様「だけ」が何の情報を現在はお持ちではない以上。備えるだけ可能な限り備えるのは常套手段であると進言させていただきます」

「う……」


 ぐさり


 何かが刺さったかのような動作をしたアインスが、苦悩の表情を浮かべながら再び床とお友達になってみたりする。

「あの場所に辿り着けなかったしな、判らなかったんだって?」


 ぐさり


 更に、何かが刺さったかのような反応をする。

 どうやら、意外と細かい芸を最近は覚えた様だと秋水は変な視点から感心した。

「と言うよりも、秋水様が死に掛けてる真っ只中に色町でモッテモテだったそうですが……何人食いまくったんですか?」

「一人も食ってません! と言うより、食われかけたのはこっちです!」

 がばちょと上半身だけを起き上がってこちらを見たアインスは、何か黒い記憶の扉でも開けたかの様に半分涙眼だ。と言うより、一体どんな目に合わされたと言うのか。

「え、人が死に掛けてる最中にそんなイイ目見てたの?」

「ぐはぁっ!」


 ぐさぐさぐさ


「見事なコンボでございます、秋水様」

「うん、今のトドメは中々だったね。シュースイ」

「え?」

 秋水自身は冷や汗が流れる気がしないでもないのだが、これが無意識なのだから別の意味で恐ろしいとキャシーとレンは思っていたりするが。やはり、そんな事は対象者に聞かせる事が無ければ知られる事はないのだ。

「何をしてるんですか、さっきから……」

「……て、ラーカイル先生っ?」

 まさしく「何時の間にっ?」と言う反応をしたのは秋水一人だけで、アインスは明後日の方向を見つめて「どうせ俺なんて……」と粘着質のある物体の様になっているし、キャシーもドーンもレンもラーカイル医師が現れたのは予定調和とばかりにまったく気にしていない様子だ。

「うん? キャシーさん、いつまで愚図愚図しているんですか?」

「キャシーとお呼び下さい、ラーカイル様。

 大変申し訳ない事でございますが、説明をお聞きになっていただけないアインス様と。そのアインス様の反応が大変面白……増長……ではなく、愉快……と言うのも異なりますが……」

「つまり、アインス君でつついて遊んでしまって遅くなっていると解釈しますけど?」

「概ね正解でございます」

「正解なんだ……キャシーってどこまで本気なんだろう?」

「それ、概ねじゃないんじゃないかな……ああ、ほら。アインスがかなり鬱陶しい状態になって来てるし。

 アインス、しっかりしないと負けるぞ!」

「何に負けると思ってるわけ、シュースイの場合?」

「……運命、みたいな?」

「ナニソレ」


 むっくり


 文字通り、そう言う擬音がぴったりと合う動きでアインスがおきだした。

 ちょっとだけ着いた寝癖があったりするが、本人は至って気にしない。

 見かけが綺麗形の可愛らしいだけあって、非常に残念な部類に入る……と思いきや、この庁舎に訪れて僅か数日ではあるが。圧倒的な人気を誇るレンなどは別としてもアインスにも多少の好感度は向けられている様ではある……不憫的な意味ではあるが。

 顔は綺麗系の可愛い、動作はちょっぴし緩慢的な動物っぽい動き。これで愛嬌でもあれば話は随分と異なるのだろうし、実際に色々な人に会って話を聞くだけならば十分役には立つのだが……いかんせん、頭の中身は常人レベルに過ぎないのが不憫中の不憫とでも言うべきか。

 状況さえ……と思った者がいないでもなかったが、それは言うだけご意見無用と言う所だ。

「あ、起きた」

「アインス、そろそろ正気に戻った?」

「あのねえ……常識に疎いシュースイはともかく……いや、考えてみたらどいつもコイツも常識には疎いんだよな、うん……」

 壊れたのは継続しているのか、口から吐き出される言葉は物騒な事この上ない。明らかに死亡フラグの乱立かっ? と秋水はこっそり思ったが、誰も反応をしない所を見ると非常識とか常識がない事については自覚でもあるのだろうかと、これまた死亡フラグが簡単に乱立する的な危険発言を頭の中では盛大に行われていたりする。

「え……」

「気にする事はないよ、シュースイ。

 こう言っては何だけど、この場合はある意味においてアインスは『一般常識人の代表』みたいなものだからね。

 世間一般で言う所の常識と、最高位近似値の貴族の後継者筆頭候補、ギルド上級職の手に職を持つ二人に研究室持ちの常識に距離感がある事くらいは知っているつもりだよ?」

 はあ、そうなんですか……とでも言いたい気がしないでもないが。

 そうなると、とりあえずレンは己が一般的な市民から比べたら非常識の塊であると言う自覚があると言う見方が出来なくはないと言う事になる。なるのだが……。

 何故か、どうにも不安要素が胸のあたりをぐるぐると渦巻いている様な気がしてならない。

「お気になさる事はございません、秋水様。

 貴族と言っても幾つもランクはございますが、限りなく一般庶民に近く。ちょっとした中堅どころの商人よりもはるかにお金に縁のない生活を送っていらっしゃるアインス様の場合、限りなく王家に近いレン・ブランドン様よりは一般市民の感性により近い生活をお過ごしになられておいでなのでございます」

「……ええと? つまり、アインスも貴族?」

 どうにも、遠まわしに言っているのか直球で言う気にならないだけなのかは不明だが。

 何やら、秋水には理解出来ない話に過ぎないのか。それとも、単に秋水もまとめて馬鹿にされているのだろうかと言う気がしないでもない。

「はい、恐らくはヒエラルキー的にはかなり下、それも下、どちらかと言えば一般家庭のかなり下層の方々よりも更に下という程度ではございますが、それでも煮ても焼いても召し上がっていただくことの出来ない無用な長物的な貴族のご子息でいらっしゃいます」

「よく判らないんだけど……そんなヒエラルキーの頂点と最低点のご子息二人が同じ学校の同じ教室のクラスメイトって、あっていいのかな?」

「何かいけない事でもございますか?」

「……イジメ、とか?」

 何やらよく判らないが、イメージ的に経済とか地位とか、そう言う観点からすれば同じ教室で同等の教育を受けさせようとすれば自動的に弊害が訪れるものではないかと言う気がしないでもない。

「中には、そう言う事をされる方もおいでになるでしょう。否定は致しません。

 当然の事ながら、その様な事をした場合は全て記録されますので退学も辞さない覚悟をお持ちになるべきである、としか申し上げる事は出来かねますが」

 秋水は学園関係者と言うわけではないので知らなかったが、色々な意味で生徒たちは支給された制服や学校指定の品物によって多方面にわたり監視されていると言っても良いのが日常だ。

「じ、実験動物……」

「……何かおっしゃいましたか?」

「いえ、なんでも」

 ぶんぶんと首を横に振る秋水だったが、記憶と照合して考えた場合の学園都市の状況とは公営や私営企業が町全体を使ってやりたい放題的な実験施設となっている。様にしか見えなかったりする。

 そこを「監視されている」と見るべきか「保護されている」と言う目で見るべきか悩むのは秋水の過去の問題であって問題だと思っている者が存在するかどうかすら秋水にはいまいち不明だ。

「一定以下の攻撃などは制服の効力によって無効化されますし、当然個人差はございますが。

 他にも、一定以上の魔力を学園都市で使用する事は禁じられておりますので魔力を使用する際は記録されていると見て間違いないでしょう」

 言われた言葉を租借して、よく考えてから秋水は口を開く。

「となると、制服を着ていると多少の怪我は何とかなる?」

「あくまでも物理的な結果に対しては効力がございませんが……しかも、少々攻撃力が強められただけで防御の魔法は破壊されますし」

 どちらかと言えば、争いが起きた場合の警報的な役割の方が近いのだそうだ。

 これには一応の理由があり、自然に物理的な攻撃や事故などが起きて全方位系の物理力にも効果のある結界などが展開された場合。子供が大きくなって制服や学園都市と言う束縛から逃れた後、己が守れていたと言う事実を理解する為に命に関わる様な結果的な行動に出るのを防ぐためでもあると言う。

「結果的行動……?」

「例えば、健常者であれば立って歩く事は可能です。しかし、健常者である事が学園都市のフォローあってと言う場合はいかがでしょう?」

「助力が無くなった途端、歩けなくなる?」

「その様に認識していただければ宜しいかと思われます」

「だから、今のうちに依頼をこなす為の支度をして来る様にキャシーには言っておいたんだが……」

 ラーカイル医師がため息を零すのも、無理ないかも知れないと秋水は思った。


学園都市には沢山の学校が乱立していますが、ドーンとレンの通っている学校はどちらかと言えば冒険者を養成する事に重点を置いてる学校です。レンの場合、どんな学校に放り込んでもドーンが苦労するのは判っているのでドーンが過ごしやすくするのを前提で選ばれたのです。

レンにとって、ドーンが居ない学校に行く気はゼロだったのでレンが入学した時には色々な意味で物議を醸し出したものです。

ちなみに、基本的に転校制度はないのでハーレム要員が中途入学をしてこないと言う利点があります。


では、次回予告。

「足りない時間にショッピング、だけど不満でも全体行動に逆らっちゃいけません。と言うか、まだ買い物に辿り着いてないんですけど」

と言う状況かも知れません。

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