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6 花開く過去

相変わらずサブタイトルと本文が合っているか自信がありません。

まあ、書けなくなるって事は基本ないので大丈夫なんですけどね。

予測とか打ち立てるのは最初から諦めてますが……。


 午後のティー・タイムといえば、香り立つお茶に一口大に切り分けられた軽食がお供と言うのは普通の光景であって。

 少なくとも、美味なるお茶の芳しい香りを全無視……流石に軽食まで用意する気は仕事中なのでさらさらないが。それでも目を血走らせた上にぎらぎらと一点を睨み付けて僅かに呼吸も荒く、熱でもあるのかと思うほど皮膚がうっすらピンクがかっている学園都市一の美貌を誇る男子生徒の背後にある黒い何かもやっとしたものをお茶請けに反吐が出そうになりながらじっと我慢するものではない……と、誰もが賛同してくれるだろう。

 少なくとも、正式名称をレーヴァテイン・ラーカイル・エクスカリフ……医師ラーカイルでありギルドでは聖なる魔剣と言う恥ずかしい二つ名を持つ優しい顔をした青年は仕事を続けながら思った。

「いい加減にしていただきたいんですがねえ……鬱陶しいんですけど」

 ぼそりと呟かれたのは、彼にしては珍しい「うっかり」だ。

 よほどたまっているのだろう……主に現在の職業的に。

 こういっては何だが、教育機関や教職員と言うのはサービス業であって本来の職業的には正反対な立ち居地になる。少なくとも趣味に勤しむ時間があるわけでもなく、かと言って親御さんからお預かりしている生徒さん達(商品)を安全確実に世間へある程度は使える様に、養育または飼育もしくは調教と言う名の教育を施して世間に出荷しなければならないと言うのは「敵=殲滅許可」な冒険者の世界とは違う。

 異議を唱える人がいるかも知れないが、子供や教育が好きだからと言っても子供は永遠に同じ子供を相手にするわけではない(大人であってもそうなのだ)し、中には良い子も悪い子も居るのだから好き嫌いで出来る職業ではないのだから少なからず割り切ることは必要だ……主に教職員にとっては。

 それでもラーカイルがこの場にいるのは、かつての命の恩人であるドーンを見守る為であり……その事はドーンの両親にも「くれぐれも」と頼まれている。もっとも、その「くれぐれも」の意味が「勝手に手を出さない」とか「本人の意思を無視しない」とか言う条件の下に出された言葉なのだから普通ではないだろう。

 ある意味、子供に対する絶大なる信頼感と。逆に、大人に対する無限の不信感を言われたら否定出来ない気がする。

「仕方ないじゃないか……あれだけ素晴らしく可愛らしく愛おしいんだぞ! この薄いカーテンの壁一枚向こう側にいるんだぞ! 数歩踏み出すだけでこの手に……」

「ああ……はいはい、無駄にフェロモン垂れ流しながら変質的行動はやめてくださいね。

 少なくとも、僕の領域での無体は許しませんよ。ご両親に報告したくなっちゃうじゃないですか」

 思わず両手を握ったり開いたり、わきわきしたりと無駄な動作を繰り返していたレンだが。はたりと動きを止めた。

 「両親に報告する」

 これは、ある意味では魔法の言葉だ。とは言っても、使いどころや回数を間違えると逆にキレられかねないと言う諸刃の剣的意味合いもあるが……両親と言ってもレンのではなくドーンの両親が相手だからだ。

「くっ……!」

 今にも血反吐でも吐くんじゃないかと言う苦悩した表情すら美しいのだから、同じ人類として種別を間違えてるんじゃないかと言う気を遠い目をしたくなりながら思ったとしても、同じ男なら同情はされても否定はされないだろう。

「何と言っても、その結界を踏み越えたら瞬間的に通報されるようになってますからね」

「そんなもの、警備が来る前に学園を抜け出してしまえば……!」

「だから、そんな事をしてドーン様の姿を目撃とかされたらどうするんですか。アナタは……」

「そいつらの両目を全て刳り抜き、頭を切り落としてしまえば……」

「どんだけ鬼なんですか、あんたって人は……!」

 これが学園都市一の美貌と天才とまで評価された生徒の一面だと思うと、内情を知っているラーカイルですら頭を抱えて不貞寝の一つくらいしたくなると言うものだ。もっとも、その功績の半分以上は間接的にドーンの功績によ評価だったりするのだが……。

「そもそも、そんな事をしてドーン様が気づかないわけないじゃないでしょうが……あんたどんだけドーン様の事を馬鹿にすれば気が済むんですか……」

 酒でも呑まなければやってられないと言う気分になりながら、ため息も出ないとはこの事かとラーカイルは思う。飢えた狼よろしく、このまま放置しておけばどうなることやら……思わず、真剣に様々な計算を始めている己を発見してため息をつきたくなった。

「馬鹿になんて誰がするものか! ドーンの可愛い姿は舌っ足らずな子供の時から今の無邪気な言動に眼鏡と長衣で隠してあるにも関わらず、かもし出される胡乱気な様子まで全てが愛おしい! と言うより、その魅力がわからないようなやつ等こそ馬鹿にしてしかるべきだ! だというのに、そんな絶対防御を掻い潜って溢れ漏れ出すドーンの可愛さはどうしてくれるんだ!」

「無茶言わないで下さいよ……彼らに見る目があるって事で喜ばしいことじゃないですか。とか言って、それでも近づく奴らは情け容赦ないじゃないですか……」

「当然じゃあないか、ドーンの愛らしさ、可愛らしさに気が付くだって?

 無能なだけじゃ飽き足らず、そんな事をする様な輩は……」

「冗談抜きで本気で止めて下さいね、ドーン様を起こすような真似はさせませんから」

 話していて勢いが付いたのか、目に見えてどんどん表情が厳しいものに変わっていく……レンだけではなく、自分自身もそれに釣られている様な気がしてラーカイルは内心あわてていた。

 思わず、気力が高まってドーンの休んでいるだろう結界の境目にあたるカーテンのゆれを確認してしまう程度には慌てた。

 いかに簡易的な結界とは言っても、ある程度は使用者の気力や体力が回復しない限り。また、管理者である医師か許可された人物以外は立ち入ることも破る事も出来ない代物……と言うのも、万が一学園都市の中で犯罪行為が行われた場合に一時的に加害者や被害者を隔離する役目も担っているからだ。こうしておけば各々のプライベートも保てるし、何より監視の目が少なくて済む。

「アーヴァイン……貴様……!」

 目が血走って怖いです……と言うのを飲み込み、医師は可愛い命の恩人を守る為に医師としての仮面を脱ぎ去る準備をする。

「その偽名は辞めてくれませんかね……ある意味では偽名ではありませんが」

 冒険者の時に使っている名前なので、確かに間違いではない。ついでに言えば本来の正式名所の一部に組み込まれている名前なので、やはり間違いではないが貴族でも何でもない一介の冒険者となる事を自ら選んだ時に名前を分散化する事で正式な名前である真名を隠したと言う意味がある。

 ドーンやレンの両親もラーカイルをアーヴァインやヴァイスと呼んだりしている。

 しかし、今はその名で呼ばれたいわけではない事情がある。

「邪魔を……」

 声のトーンが目に見えて下がって行き、あわや一触即発か……実際に今の己の装備でどれだけ立ち向かうことが出来るかとラーカイルが思った瞬間。


 トントン


 ノックだ。

「失礼しますわ」

 ノックの直後に入ってきたでは、基本的にノックの意味がないと言う発言が出来るものはこの場に存在しなかった。

「あら、レン・ブランドン様ではありませんか!」

 学園一の有名人と言っても過言ではないレンを目に入れてしまったのは、ある意味では仕方がなかったのだろろう。何しろ常日頃では見ない状況だ。

「ミス・アンレーズ……どうしてこちらに?」

 つい今さっきまでの「すでに何人かヤッてます」と公言はばからない形相から一転。

 爽やかな風とまたたく光の似合う、学園都市一の美少年であり女子生徒(一部女教師含む)の王子様が、そこにはいた。

 ラーカイルは内心だけではなく実際に遠い目を仕掛けていたのは、別に女子生徒に無視される形になったからではない

 単に、命の恩人の幼馴染に対して理不尽な思いをぶつけたくて堪らなくなっただけである。

「私は医薬術での関係で、少し……レン・ブランドン様は、どうしてこんな所に?」

 アンレーズと言うのは三人娘の一人。アンレーズ・フォン・ブーリン伯爵令嬢。

 正当なる当主と正妻の間に生まれた彼女は、実家の評判を悪くは聞かないがそこまで良いと言うわけではない。

 とりあえず、お金には困っていないらしく胸を強調する最新の流行を取り入れた豪奢なドレスをよく着ている……流石に今は学校の制服を着ているが、所詮は坊ちゃんお嬢さんの金持ち学校なだけあってデザイン性は悪くない筈だが改造でもしているのか無駄に胸が強調されている衣装となっている。

 教職員も生徒もそうだが、意外とこの制服は重要なアイテムの一つだ。

「こんな所とはご挨拶ですね、ミス・アンレーズ」

「あら、失礼しますわ」

 何しろ、制服の色や形で本人の身分証明にもなるし場合によっては所持している権力や位置情報などを学園側で把握したり出来るとか色々とオプションが付いているのだ。

 ちなみに、その手の事については一般市民にも存在する場合がある。それに該当しない場合はゲストパス的なアイテムを所持するのがこの都市での決まりだ。

「レン・ブランドン君とは昔から少々付き合いがありましてね……医薬術についての質問ですか?」

「ええ、そうなんですけど……」

 もちろん、それを堂々とまたはこっそりと破る者が居ないとは言わない。

 リリィなんかも校則無視の筆頭近くに上がっている……レンが絡んでいると格段に比率は上がるのだが、それ以外の場合には普通の貴族程度の暴走しかしない。

「どうやら、レン・ブランドン君が気になる様ですね……レン・ブランドン君、こちらはもう構いませんよ?」

 言葉の外側に「その女子生徒を連れて出て行ってください」と言う台詞が見える気がしたら、即効で医師に襲い掛かる事をお勧めする。ちなみに、ラーカイルには関わらない方が人生を多少は静かに過ごせるのは言うまでもない。

「え……?」

 鳩が豆鉄砲を食らったかの様な顔をしたレンは、思わずと言った風でアンレーズを見てからラーカイルを見つめた。

「残念ながら、今は一人休んでいる人がいる為に手が離せないんです。かと言って、これからの時間を一人でお返しするには吝かではありまえんし……レン・ブランドン君は紳士ですからね」

「まあ、レン・ブランドン様が御自ら私をお送りいただけるんですの!」

 疑問符すらついていないのですね、などと口にする人は誰も居なかった。

「あ、いや……」

「素敵ですわ! ありがとうございます、レン・ブランドン様!」

 提案したラーカイルはこっそり思う……提案したこちらには礼の一つもないですか、ああそうですか。

 でも、それなら今すぐさくさく出て行けこの野郎共。と思っていたかどうかは定かではない。

「そうそう、これからしばらくこの部屋は立ち入り禁止となりますので」

「判りましたわ」

「ちょ……!」

 恋に目のくらんだ女の子は、己にとって都合の良い事しか脳みそに刻むことはない。

 と言うのは、普通によくある話だ。だから、アンレーズはうきうきとしながら手を伸ばして来て。

「あら、いけません。

 私、まだ荷物を教室に置いたままですの。申し訳ありませんが、こちらで少々お待ちいただけませんか?」

「なら……」

「それならばレン・ブランドン君、教室までお送りしては?」

「とっても素敵な提案ですわ、先生!」

「いい加減に……!」

 だから、常日頃の王子様オーラが出てきっていないとか。

 口調が慌てて少々乱暴になっているとか、ましてや表情が引きつっているとかは一切目に入れていなかった。

 ただ、脳裏のどこかにその情報は入っていたかも知れないけれど。


ラーカイル先生、眼鏡はオプションです。

ラーカイル先生、白衣は標準です。

ラーカイル先生……強いのか弱いのかよく判りません。たまにぶち斬れます。斬首って感じです。人気より信頼度の方が高い、それがラーカイル先生なのです。


ちなみに、どよんと澱んだ感じにしてもらいたなあと思うのですが「女の子は可愛い」が基本精神のためかどよんとなってくれません……あれえ?

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