表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/108

67 デートスポットは地下迷宮で

デートの定義って、なんですかね?


「ええと……ありがとうございました?」

「どうして疑問系なのかは、聞かないで置いてあげるわ」

 笑っているミイヤに、何故か疑問系でお礼を言う秋水が居る。

 これは、単にドーンが一言も声を出さないからだ。

 今まではレンが先に全てを行っていたからドーンが口出しをする暇もないのだろうと思うほど、レンのタイミングは絶妙だった。あまりにも隙が無ければ澱みもない、一体何からドーンを守っているつもりなのだろうかと感心すらしていたのだが……そこにドーンが慣れきっているのは問題だ。

「お土産も沢山貰ったし」

「気にしないでいいわよ、わたしの方だって沢山レシピ貰っちゃったし……これで学園都市にも送ってやれるわ」

「あれ、学園都市に知り合いでも?」

「そうよ、わたしの家族が居るの。本当なら着いていってやりたい所だったんだけど……うちの人がこっちにいるから、どうしても離れがたくて」

 つまり……実家は学園都市だが惚れた相手が居るので職人都市で頑張って踏ん張っている、と言う所だろうか? どちらにしても、女の子の一人暮らしはなかなか大変なのではないだろうか?

「あら、同情してくれるの? 嬉しいわ。でも、わたしこう見えても結構強いのよ?」

 うふふ、と可愛らしい笑みを浮かべている……浮かべてはいるのだが、何だろうか?


 妙な圧迫感を感じる……。


 くん、と引っ張られる感覚がして見れば。

「そろそろ時間みたいね……また会えるかしら?」

 時間と言うのが何なのか秋水には判らないが、判っている事は一つある。

 一つの事が判っていれば、大抵の事は何とかなるものだと秋水は知っている。

「大丈夫じゃないですかね?」

「え?」

「ドーンは、滅多にしゃべらないけど嘘もつきませんよ。知ってる限りじゃ」

 くん、と最初は引っ張られていたが、くいくいになっている。

 時間が差し迫っていると言うのならば最初から事情を教えて欲しいものだと秋水が思ったとしても、恐らくは同情表程度ならば買うことは出来るだろう。

「……そうね、確かにその通りだわ。

 生きてたら、また会いましょうね。少年」

 可愛らしい笑顔だとは、思った。

 だけど、それだけではないのだと思った。

 例えるのならば、まるで長い年月を生きてきた……。

「てドーン、痛いって……!」

 思考を中断されるほどの痛みをもたらされて、そうなった秋水はついぞ気が付く事はなかったのだ。

 もし、その先の言葉を頭の中で思い浮かべていたとしたら。ましてや、それを声に出していたとしたら。

 一体全体、どんな目に合わされていたかなど。

「……船は?」

 行きと帰りでルートが異なっている事に気がつかないのか、船着場についた秋水の額から汗が流れていた。

「ちょっとドーン!」

 これってどういう事なのさっ! とでも言いたかったのだろうが、その前にドーンが指で示した場所を見る。

「公益船着場……で、いいのか?」

 船着場と思わしき場所には、看板が出ている。小さな船とレイニアス・シティの紋章的な意味を持っている図柄ではないかと思うのは、町の入り口や市庁舎、市庁舎に入る前に乗り込んだ船等のあちこちに同じ図柄が描かれていたからだ。

 そう長くはない二人きりではあるが、秋水はドーンの僅かな反応よりも「無反応は肯定」と言う事にした。

 どう見ても、その方が時間の短縮になるし問題があるならば何か言ってくるだろうと判断した。

 つまり、それほどまでにドーンの反応を見分けるのは忍耐とか力量とかが必要なのだ。

「……これって?」

 すうっと音も無く現れた船は、公益船というだけあって特に装飾があるわけでも無ければ不思議なことに人が乗っている様にも見えない。見えないだけで人が操縦している可能性はあるが、現れた船は数人が乗れる程度のもので他にはこれと言ったものは何もない。椅子があるだけでテーブルもない。大波の一つでも来れば、あっさりとざっぷんと沈むかも知れないがそこまで広いわけではない河川には大波も来る様子はないから、日常で使用するにはこれで良いのだろう。

 無言でひょいと乗り込んだドーンの後に続き、ちょこんと座り込んだドーンの手には先ほど作って持ってきた幾つかの食べ物がある。飲み物もあり、手渡された秋水は「食べろって言ってるのかな?」と思いながら無言で食べ始めた。

 味そのものは先ほど食べたから知らないわけではないが、移動して食べる事を考慮してなのか小さく片手で食べられる様に形状がアレンジされている。飲み物は先ほどよりどろっとしていない、紫色の同じジュースの様だ。

 正直、食べてもあまり栄養になるのかどうなのかは不明だと秋水は思っている。味がわかるだけに残念な気持ちはあるが、体内を形状している要素が一般の人とは酷く異なる物質で構築されている以上は致し方ない気分と、同時に味は判るだけの残念感とが混じっている。


 秋水がぼうっと座りながら飲み食いしていると、ふと「こう言う乗り物の中って飲食いいのかな?」とは思ったが、特にこれと言って注意書きがあるわけでもないし何か言われたらドーンに責任を押し付けてしまえば良いだろうと、我ながら「セコイかな?」と思わないでもない。しかし、この世界の常識そのものが欠如している以上はどうしようもない、肉体の中にある知識と世間の常識が必ずしも当てはまるわけではないのだからと開き直るには、少しばかり罪悪感もないわけではない。

 ふと見れば、珍しく暇を持て余したのかドーンが色々な人から貰った荷物を漁っている姿が見える。

 中には、秋水の知識では何を使うのか全く理解出来ない形状や物質があるけれど体に悪そうなものはない……のではないかと言う気がする。

 もう少し、世間の常識と言うものも理解出来る知識が肉体に含まれていてくれれば驚くような事は少しでも減るだろうにとは思うが。こればっかりは選んだわけではないのだからどうしようもなく……そう、例えばこんな風に。

「あれ……お前、ギルドの『夜明』じゃねえか」

 どう言う作りになっているのか、船はあちこちを回っては一時停まり。体感的に1分前後程度の時間で次の船着場を目指していると言う感じで、理由は不明だが乗り込んでくる人が誰も居なかったので何とも思って居なかったのだが、ここで初めて乗客が現れた。

 その人物は、小柄なのか大柄なのかよく判らない。

 判っているのは、全身が毛むくじゃらである事、毛のついた耳が頭の上についている事、手足が長く狭い部屋の中で億劫そうに折り曲げている事、手が肉球である事、服は着ていないが軽装鎧の様なものを身に着けている事。

 そして、顔が犬っぽい事。

「相変わらず反応が乏しいなあ……お前、『夜明』のツレか?」

「え……ええと……?」

 さて、こう言う時の反応し方など打ち合わせしていなかったから困ると言うか。何一つ一切の説明などされていないのだから、そう言えば反応も対処も何もあったわけではない。

「まあいいけどな……お前、観光客なら良いタイミングだったな。大抵の奴らは小遣い銭で船を出すが、こう言う公営な移動する為の乗り物もある。そりゃ、一般市民がやってるみたいに自在にとか観光案内つきってわけでもねえが、少なくとも庁舎に用事があったりする場合には結構便利だ。とは言っても、役所も面倒を嫌って派手な宣伝とかしないしなあ、無料って所は魅力的だと思わねえか?」

「ええと……そう、ですね」

 そう言えば、秋水が気が付く前にドーンは懐から貨幣の様なものをさらりと出して船に乗り込んだりしていたのを記憶の片隅で思い出すが、どちらにしても秋水は金など一枚も持っていないので結果的には変わらない。

 話しが好きなのか、犬のような顔をした男はアレコレと話のついでと言っては関係があるんだか無さそうな話をしてくるので「よく話題が尽きないなあ」と感心するばかりだ。

「けど、こんな時に観光に来るなんてお前らも変わってるよなあ……」

「こんな時って……何かあるんですか? と言うより、僕ら学園都市の……」

「ああ、課題って奴か! 学生さんは大変だなあ、アレだろう? 金のある奴が道楽してるか金のない奴が体売ってるんだろう!」

 そんなキメ顔で妙に爽やかに言われるのが、そんな台詞だなんて嫌過ぎる。

 と言うより、学園都市に対しての誤解もさる事ながら思い込みと否定しない自由発想と言うか無勝手流のおかげである様に見えてたまらない。

「行方不明者が多発しててなあ……って言っても、あんまり夜遅くに出歩いたりしない限りは大丈夫だろうけどな。親方が動いてないって事は、まだ大丈夫だって事だし。おかげで、水路ツアーが今は停まってるって噂が信憑性がうなぎのぼりだ」

「……親方の事、信用してるんですね?」

「まあなあ、ここ何年……何十年? 見てないけどな、偉い人が替わったって話は聞いてないから親方は元気なんじゃね?」

 一般市民らしい考え方ではあるが、その当の本人が庁舎の塔の最上階付近で日夜まずい食事と仕込まれる毒と不味い食べ物に攻められて「空腹で死ぬ方がマシ」とか言ってる、ロリ顔にしか見えない実際にはショタな外見年齢8歳児の長寿族だなんて残念すぎる。

 人間、知らないで居ても良い事はあるものだと思われる。

「それもそうだけど、あれ? 今、なんて……水路?」

 秋水の知っているだけの範囲だと、依頼の内容は「怪異が起きている」と言う事と事態を収束が希望だった筈だ。勿論、ギルドに所属している三人や貴族など上流社会に伝手があるレンは別の情報を得ている事だろう……という事は?

「泊まってる宿で注意されなかったか? ここん所、夜中に出歩くと行方不明になるって。あと、たまに変な死体が出るから気をつけろって……おかげで、めっきり夜中は静かになってなあ……」

「えぇっ?」

 思わずドーンを見つめてみるが、相変わらずの無反応だ。

 ふと見れば、膝の上で広げていたお菓子は食べつくされていたのでゴミを一まとめにする。ゴミ箱など見当たらないので元の袋に戻すが、それも半分は無意識だ。飲み物を口に含んでから、また同じ様に袋に入れる。

「おう、じゃあまたな兄ちゃん!」

 とか言われて、己が船から下りていたのを気が付いたのは少したってからだ。

「え、何時の間に……てか、ドーンっ?」

 訳がわからないが、いつの間にか船を降りた秋水はドーンの後を歩いていたらしい。

 全く持って意識がなかっただけに訳が判らないが、手に袋を持ったままだと言うのは確かなので今までの事は夢では無かったと言う気もしないではない。が、やはり秋水には理由が判らない。

 置いてきぼりを食らわなかっただけ良かったと思うしマシだとは思うが、かと言って無意識での行動が増えるのは精神衛生上で良いとは限らない。

「……これ、何?」

 やはり長衣から出したのか、ドーンはカンテラにしか見えない物を差し出してきた。

「て言うか、ここどこ? どうやって使うの? てか、ここに来ていいの?」

 混乱しているのは理解していたが、どうして理路整然とした混乱をしているのか秋水には判らない。


 かちり

 ぷわん


 カンテラのスイッチを入れると明かりが灯り、ドーンが手を離すとカンテラはぷわんと浮かんだ。

「うぉおっ?」

 そのまま、通常仕様のドーンは先に進んでしまう。

「ええと……ここって、もしかしてべたな展開だと水路とか言いませんかねえ……?」

 持たされたカンテラのスイッチを同じ様に入れてから、ぷわんと浮き上がるのを確認した秋水は。

 そのまま、一言も話さないドーンの後を追うしか手立ては残されていなかった。


ミイヤさんが言っている事に、嘘は一つもないって事だけ申し上げておきます。


では、次回予告。

「君たちどっから出てきたの、て言うかお前はうざいんだよってのは本人が言わないだけで……な事実なのかも知れない?この話には己を理解していない人が沢山いるのは今更な話です」

ま、自分自身を見ることは出来ないといいますしね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ