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55 科学的かも知れない状況説明

かつて、戦時中の人々は体臭が良い香りだったと言う。

今の日本人は、体臭が臭いと感じると言う。

その違いは食生活だといわれている。

長い時間をかけて粗食で生きてきた人々は常に死に掛けていたから、異性を惹き着ける為に良い香りがしていたと言う。肉食になった日本人は肉の匂いが体臭に現れているとも……熊の美味しさに似ている気がする。


「せんせえ、質問がありますう」

「はい、シュースイ君。なんですか?」

 にこやかで和やかな質問の時間が始まったのは、あのままレン・ブランドンVSキャシー戦が始まりそうだと認識した直後だった。

 ちなみに、珍しくアインスは早く戻ってきて居たりする。

 今回はどうやら、以前から考えている事でもあるのだろう。

 まあ、物理的なダメージを受けたわけでもなかったからと言うのもあるのだろうが。

「今朝からすっごく体調が良いんですけど、なんでだか判りませんか?」

「お答えしましょう」

「え、判るの?」

 ここで「ええ、判りません」とか言われたら立ち直れないだろうなどと秋水が思っていたりするのは、言わないほうが良いのだろうか? さほど付き合いがあるわけではないが、それでも親しくなると毒舌系に笑顔で叩き落される気がしてならない。

「想像の範囲でもよろしければ、ある程度は出来ますよ。説明」

「え、まぢですかっ?」

「シュースイ君……君、人の事をなんだと思ってるんですか?」

「いや、別に意味があるわけじゃ……」

 ここで咳の一つでもしてごまかしたいのは山々だったが、なんだか誤魔化せば誤魔化すほど墓穴を掘りそうな予感がひしひしとしていたりする。

「だって、昨日の今日じゃないですか? それに俺の事は何があっても明日動かなくなってもおかしくないって言ってたじゃないですか?」

「ええ……ですが、流石にここ暫くを無駄にすごしていたわけではありませんよ?

 ドーン君やキャシーさんからいただいた力添えのおかげで、幾つかたてて置いた仮説があるんです。で、今回はそのうちの一つがどうやら当てはまる様だと思ったわけです。

 そういう言い方をしてしまうと、なんだか偶然かよって言われる気がしないでもないんですけどね」

 確かに、まさしく「偶然かよ」と言いたくなったりした秋水だったりする。

「言っておきますが、別にあてずっぽうと言うわけではありませんからね。一応」

「うぁ、はい……」

 なんでこの人達は一様に人の思考回路読んでるかの様なタイミングで突っ込みいれてくるのかと思う秋水ではあるが、そんなのは当然と言うものだ。

 聞けば、秋水は世の中に出る前から様々なものから背を向けて一人で完結できる世界に可能な限り逃げ込んでいたのだから対人的な技術に関して言えば小学生レベルと言っても良い。ただ、本人曰く「本だけはやたらと読んでいた」と言うだけあって色々と頭の中での回転率は良いみたいだ。しかして、その差異に本人は気づいていない。

 本来、人の成長として対人に関する項目は対人でなければ理解など出来ないし相手によって状況は刻々と変わるのだからいちいち誰かに助言をしてもらったりとか言う問題ではないのだから本の世界で勉強したからと言って必ずしも使えるとは限らないのだ。

 故に、誰一人としてそのあたりは言ってあげようなどと不親切な事は思わない。

「そういえば、質問とはなんですか?」

 本当は、ここで「なんで皆さん人の心読めるんですかねえ?」などと秋水は続けたかったのだろうが、そんな事をしていたら何時までたっても話は進まない。アインスですら「話の続きはどうしたんですか、奴らはどんな味なんですか、食べても大丈夫なんですか」などと言った感情を駄々漏れにさせながら目線で聞いてくるくらいだ。普段ならばそんな視線などものともしないのがギルドの上位者の意地と言うものだが、別に下手に状況を長引かせたところで良い事など一つもないと言う事実の前には状況を進ませるのが一番楽だ。

「ああ……ええと、今朝から妙に体が軽い件について?」

 なぜ疑問系になったかと言えば、思い切り走ろうとして寸止めを食らった気分になっていたからだろう。

 恐らく、秋水本人も3割くらいは質問の内容を忘れかけていたに違いない。

「それは簡単な事です、栄養が回ったからですよ」


 は?


 そのあたりの事は知らなかったのか、レンとキャシーとアインスの視線がラーカイル医師に集中する。当然、秋水の視線も問答無用で釘付けだ。

 やはり、相変わらずの通常運行はドーンだが……この場合、ラーカイル医師とドーンから説明があるとキャシーーは言っていたのだから。その点についてはあまり驚かない。もっとも、主に口を開いているのはラーカイル医師だけでありドーンは実際のところ、口を開いているのかいないのかすらよく判らないけれど。

「皆さんは、シュースイ君の抗生物質がどんなもので作られているかご存知ですね? おおよそ、魔力が絡む事によって合成されたり精製されたりと、まあよくこんな状態で動けたものだと感心してしまうほどの偶然が生んだ、ある意味奇跡です」

 もっとも、その自覚は本人にはない。

 痛覚だってあれば感覚だってあるのだ、普通に生きている様な気はする。

 倒れたり殴られたりすれば体に痣だって出来ない事はない……回復速度が速いかどうかは、ちょっと判らないけれど。

 ただし、体を流れる本来ならば赤い体液の筈のものはそうでもない。色と言うより、そもそも液体ですら無かった。

「魔力の流体とでも呼ぶべきですかね……つまり、その体の維持にはべらぼうな魔力量が必要なわけです。

 以前から、キャシーさんにお願いして食事の内容については日々変化を入れてもらっていたので推測が出来るわけですが……味以外で特に不都合などありませんでしたか?」

「ラーカイル様、私の名は……」

「キャシー、ちょっと後にして。

 ラーカイル先生、味も申し分なかったですよ。まさか、キャシーがそんなところで手を抜くわけないじゃないですか」

 本当は、もっと早くに止めようと思えば止められた。止めなかったおは秋水の勝手な所であり、別に本人達が嫌なら止めるだろう程度の気持ちではあった。

 ツケと言えば、ツケかも知れない。

 けど、邪魔されたくは無かった。そんな気持ちが読み取れたのか、ラーカイル医師は意外な事に「おや?」と言う顔をしている。

「もしかして、不愉快になりましたか?」

「いえ、特には。そういう意味ではキャシーは腕の良いメイドだって知ってますから」

 信じるとか、判るとかは言わない。

 ただ、淡々と事実だけを受け止めている。

 そんな物言いは、場合によっては冷たいといわれる事もある。実際、秋水の過去にはそう言われた事があって、けれど感情ではなく結果だけで物事を口にする事を秋水は止めなかった。

「当然でございます」

 今回助かったのは、キャシーもまた似たような事を思考の一つとして考えていたと言う事だろう。

 言葉のどこか、説明のしにくい所に誇らしげな感情が見える様な気がするが気にしたら負けだと己に言い聞かせてみるが……どこの何が負けなのかと言う疑問は気にしない事にする。

「一流を目指すと言う事は、常に最善を目指す者であると言う事をご記憶に留めていただければ幸いです」

「……判ったけど、あまり期待しないで」

「承知いたしました」

 言葉の外側に、こっそり「常に完璧であると思い込まないで下さい」とキャシーが呪いに近い祈りを込めていたのを想像はしたが、確かめると怖い事になりそうだと感じる。

「先生! ちなみに何味ですか!」

 なんだか別の意味で怖い台詞が飛び出したのは「将来確実にカッコイイ、イケテル顔だとモテモテになりそうな気配はあるんだけど残念な正確と生活なメンズ」と言う事で、略して残メンと思われているアインスの台詞だ。

 別の方面から見れば、ブレのない安定の残念感である。

 無理やり善意的な褒め言葉とするには「生活能力が高い」と言う言い方もあるが、そんなものはサバイバルな状況にでもならない限り利用価値が高いかと言われれば当然低い。

 周囲の環境に比べれば、この職人都市もそうだが学園都市は尚文化レベルは高いのが自慢の一つだ。

「はっはっは……食べた事がないから知りません。食べたいんですか?」

 もしかして、暗に「実験動物になるなら止めませんよ、命の保障はありませんけど」と言っているのだろうか。否、思い切り顔は言っている気がする。

 と、誰もが思ったが誰も口にはしなかった。

 何だか、あまりにもアインスが哀れな気がするのは気のせいでもなんでもない。

「口に入れた瞬間に爆惨とか即死とかでなく、確実に生き延びる手段が構築された上で動物実験が済んでおり学園都市から許可が出て販売統制が取れているのであれば、ついでに無料でしたら是非!」

「寝言は一昨日夢野中で言いなさい」

 さっくりとラーカイル医師はアインスの夢想をぶった切る……時間的にも、そんなの無理じゃないかと秋水ですら思ったのだ。物理的に不可能である。

 そもそも、この都市に来たのはつい昨夜の事で謎の物体に遭遇したのも昨夜だ。

 まさしく昨日の今日で、ラーカイル医師に一体何が出来ると言うのか……。

「はい、先生」

 ぴしっとあげられた手を。

「はい、シュースイ君」

 さらりと指した。

「んじゃ、なんで俺は生きてるんですか?」

「良い質問です」

 横目でちらりと見るとアインスはシャーレの様な透明の入れ物に入った謎の物体の欠片的尻尾にしか見えない何かを見て、なんとなく後ろ髪を引かれる想いをしている様に見える。すると、なんとなくだが謎の物体はアインスの視線など感じるはずもないが先ほどより振動率が上昇している様に見えなくもない……まさかとは思うが、捕食されるとでも怯えているのだろうか?

「先ほども言いましたが、シュースイ君は主に魔術的な要素で駆動系は構成されています。

 腕や足は普通の有機物で出来ていますが、これは中にある人形としての主軸に有機的な物質が張り付いてる形だと思っていただければよろしいかと思います。本来、普通の人であれば神経やら筋肉やらで構成された物質と体中に張り巡らされた血液やらなんたらで繋ぎまくっているわけですが、その血管が血液ではなく魔力の液体的なもので構成されているわけです。本来であれば、そんな不可思議なものは液体などと言わずに空気中に溶けたり地中から世界に還元されたりするのが普通なんですが、どうやら直接肉体の部位にあたる部品を繋げているのではないか、と言うのがドーン君の意見です」

 つまり、体中の部品を見えない糸で繋がっている操り人形的な存在とでも言えば良いのだろう。

 想像してもあまりぴんとこないし、何より気分の良いものではないが。きりつけても血液が出ないと考えれば少しは気楽な様な、逆に見慣れないものが流れてきて怖いというべきか悩む。

「で、本題ですが。

 そう言う肉体の組織構成をしている為に、通常の食事や空気中における魔力濃度では肉体の維持ができないのではないかと言う追加推論もあります」

 つまり、味より質と言う所だろう。

 もし、黙ったまま座ったり寝ているだけであれば大した魔力も使わずにいられるだろうし。いつかは魔力が切れて体である器も壊れるかも知れない。そう言う事を、ドーンは最初に襲い掛かったときの状況と対応と、何より秋水を切りつけたときの感触から判断したのだと言う。

「ええと……ちなみにこの状況ってどれくらい続くんですかね?」

「少なくとも、その体の中に居る間はずっとそのままだと思います。今は調子が良いと言う事ですが、あれだけのものしか食べていないとなるといつまで動ける事かは想像も出来ないのが正直な所です」

「ちなみに、ああいうモノって簡単に手に入ります?」


現在、夏バテをしている作者とリンクしているわけではありませんが。書いている方が影響を受けている可能性もあり。いや、電化製品に影響があるのは真面目な話です。

ちなみに、作中でアインスが最初は視線をそらしていたのに途中からじっと見つめてしまっているのは「気持ち悪さと不信さと好奇心」が混じって喰らい着くのを防ぐ為です。今の所は食べると命の保障はないのですぐには食べません。


では、次回予告。

「謎の物体を調理しちゃうぞクッキングレシピは生は厳禁の方向性で、て言うかこのネタまた引っ張るの?とか言ってもどこにでもある井戸」な感じで。

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