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※ 今回は心臓の弱い方、暴力的表現を嫌う方等には嫌悪感を持たれる可能性のある内容が含まれている可能性がございます。上記に当てはまる可能性のある方は次回更新までお待ち下さる様、お願い致します。
よし、世間様に対する義理は果たした(おおい!)
結果だけを見ると、キャシーはほっとして秋水は残念そうな顔になっていた。
見える所にラーカイルはいないが、どうやら捕り物は終わっていたらしい。らしいと言ってもドーンにしては珍しく完全勝利と言うわけにはいかない様で、何やら足元に「びちっ! びちっ!」と元気よく跳ね回っている物体がある。
はっきり言って……見て楽しいかと言われれば全力で否定するだろう。
キャシーの場合、主に「掃除をしてもきりがありません」とか言うかも知れない。
ただ、明かりが少ないためによくは見えないのだが立っている二人はそれぞれ「やれやれ」と言った感じがある。けれど、びちびちと跳ね回っているらしい何かを見つめて会話をしている姿は「どちらがソレを回収するか」でもめているのだろうか?
「二人とも、どうしてここに?」
現れた事に気が付いたレンが、厳しい瞳を秋水とキャシーに向ける。
そうされて当然の事をしているのではあるが、ドーンが通常運行な為かあまり迫力がない。
とりあえず、暗い中で足元ではねてる謎の物体は空気の不気味さを増長させている。
「お答えします、レン・ブランドン様。
秋水様はどうしてもレン・ブランドン様とドーン様の御身が心配であるとおっしゃられ後をつけると仰せになりましたので、私は護衛として参りました」
間違っては居ない……間違ってはいないが、何やらその物言いには危険なものを感じるのは秋水の気のせいだろうか?
「……へえ?」
笑顔なのに笑っていない目を向けて来ている時点で、秋水は己の選択に対してレンが怒りを覚えている事を知った。と、同時にやはりキャシーは色々あって不満が募っていた為に非常に怒りやすくなっていたと言う事を学んだ……スパルタにも程があると言うべきか、体で覚えろとばかりに放り出された気がしたのは。恐らく、間違っていない。
どう見ても、キャシーはレンが秋水に何かをしても多少の事ならば動くことはないだろう。何かよく判らないけれど、確実にそんな気がして。
「シュースイは、そんなに僕らがどうにかなるとでも思ってるの?」
心外だなあ、などと言いながらほの暗い笑みを浮かべているのは。
……もしかしたら、八つ当たりというのではないだろうか?
「え、何かあったの? なんか目的を果たそうとして、うっかり自滅したかの様な顔してるけど……てえっ?」
秋水は、最初に色々と問われた時に言った事がある。
運動能力に関しては、全く自信がないから期待しないで欲しいと。
実際問題として、秋水の運動能力以前に生命力に関して検討するのはこれからの計画だと関係者は思っていたりする。キャシーもその方が良いと言っていたのは、まだ3回に1回は風呂に入るだけで眩暈を起こして倒れかけるからだ。浴槽に座り込んで、頭から倒れると言う程では無くなったがぜいぜいと座り込んでいる姿を見るのはすでに見慣れた光景となっている。
ちょっと出かけただけで、その後は物を食べるのが辛いと思わせるほどの体力の低下を発する空気が訴えている。本人は聞かれなければ「疲れた」とか訴える事は基本的にないが、歩いている途中で倒れる事があった際にキャシーが「可能でしたら、事前にお知らせいただければ対処の幅が広がり幸いでございます」と言ってからは倒れる直前まで我慢するなどと言う事はない。それ以前に、キャシーもそのあたりの事は判断する幅を広げてくるらしくて疲労感を覚える前に休憩を促すようになっていた。
だけど、そんな秋水が。
見た。
視界はあまり利かず、どちらかと言えばほとんど視界は遮られていると言っても良い。
秋水は後を追うことを決めたがキャシーに先導されていたし、長旅の後で少し休んだとは言っても疲労度は回復していないだろう。顔色だってよくはないままだ。
なのに、走り出した。
速度と言えば、いかに秋水の体力がない事を聞いていたとは言っても本来ならばレンの身体能力で秋水の動きを目で追えないなどと言った事はない筈だった。本来ならば。
「秋水……様……?」
キャシーが見たのは、一陣の風が過ぎ去ったと思ったら守るべき、そして監視対象の主の姿が掻き消えたと言う事だけ。
その姿を目にしたのは、単に次の瞬間に訪れるであろうと推測から導き出された結果として長年培った経験と勘に素直に従ったと言うだけ。
別に、その展開を予測などしては居なかった。
これは、もしかして失態になるのだろうか?
キャシーの心が疑問符を表示したのは、どれだけの時間がたってからだったのだろうか?
じゅるり、じゅり、ちゅうちゅう、ぐしゃ、びちょ。
「え……?」
その音を聞いたことは、あったと記憶していた。
音は、表していた。
常にとは、流石には言わない。音としてはたまに聞いた事があるけれど、それは毎日ではない。
自分自身で発した事はあるだろうか? あるかも知れないけれど、そんなの人生で1度か2度あるかないかではないだろうか。少なくとも、毎日聞いていたらもっと早く思い出す事が出来ただろう。
レンは、そう思っていた。
「ドーン!」
ただ、とレンは何かどこか空ろになっている自分自身を感じながら。
世の中のほとんどの人が「胡散臭い」とか「怪しい」とか言って、中には嫌っている存在を。
真っ黒い塊としか見られず、あらゆる功績すら利用する事しか考えてもらう事が出来ない存在を。例え、そうさせたのが自分自身の責任であると言う事を差し引いても何より優先すべき存在に。
「平気」
危機が迫ったと思った、だから守ろうと思った。
だけど、次の瞬間に拒否されてしまった。
「……え?」
レンは知っている。
ドーンは決して負けない、傷つく事くらいはあるかも知れないけれど。本当はそれすらも許容できないけれど、それでも負ける事はない。それだけの守りと実力をレンはつけられるように画策して、自分達以外の誰もに距離を置かれ、嫌われ、石持て追われたとしても逃げ切るだけの守りを誓った相手だ。
傷くらいはつくかも知れない……そんなのは許せない。だけど、つく事もあるかも知れない、それが現実。
でも、ドーンは。
「大丈夫」
長衣の下に隠された、眼鏡の奥に存在しているドーンは。
本当のドーンが。
平気だと、大丈夫だと言うからには。
無いのだと言う事を、知っている。
問題など、何一つないのだと。
知っている。
「……しゅー……すい?」
そう、ドーンは大丈夫だ。その為に作った長衣で、その為に作った眼鏡だ。
あの二点の品物さえあれば、大抵の荒事には耐えられる。でも、それは体の話だ。
ドーンの心は、硬く堅牢な檻に閉じ込められていて、けれど皆無ではない。
「秋水様……一体、何を」
「動くな」
状況についていけない、二人。
キャシーも、それまでの間近で見ていた秋水の言動から導き出される結果とは大いに予想を裏切っていると言う事実に目を丸くしている。それを気づいたのは眼鏡で補正しているドーンだけだろう、キャシーの存在さえ気にかけていないレンも、どこかで見ているだろうラーカイル医師は距離があり、そして。
「ドーン様……?」
「待て」
犬を躾けるかの様な台詞を前に、レンもキャシーも一歩も動くことは出来ない。
それでも、何とか心を奮い立たせて足を僅かにずらしていつでも飛び出せるようにするだけで精一杯の事は行う。行わなければならないと、キャシーは判断する。
上位者とは、あらゆる局面に即時対応をしなければならない存在なのだから。
でも、それが杞憂である事をこの時点のキャシーは知らない。レンは知っているけれど。
「どう言う事、ドーン……説明、してくれるよね?」
こくりと、ドーンは頷いた。
ただし、次の言葉はない。
キャシーは全身に粘りつくような汗をかいているのを感じていたけれど、それでも警戒を怠ってはならないと言う気持ちと。警戒したところで、どういう対応が出来るかを想像して板ばさみにあっていた。
動くなと言った以上、今は動けないと言う事なのだ。
でも、人は限界のある生き物だ。小さくなる、想像すると恐ろしい音は少しずつだが小さくなっている。
恐らく、ドーンはこの音が消えるまで待てと言いたかったのだろうと言うのは待っている間に何となく想像がついた。
果たして、長かったのか短かったのか……決して長い時間ではないだろうとは思いたかったが、それでも短かったと言うには原初の記憶とでも言うべき本能の部分が拒絶していた。
ぴちゃ……どすん。
居たのだ、そこには。
真っ黒い人の形をわずかにして、立っていたドーンの前に。うずくまっていた秋水が。
「ああ、大丈夫ですね……少々気絶しているだけみたいですが、今起こすのはあまり得策ではないかと」
「ラーカイル先生、これは一体……」
「お二人とも、もう動いて結構ですよ。シュースイ君は私が運んでおきますので、貴方達はご一緒に部屋まで戻って下さい。流石に、もう今夜は動きがないと思いますので……どちらかと言えば、ドーン君の重石として」
音もなく、猫のような動作で現れたのはラーカイル医師だ。白衣姿だから少しは見えるけれど、もし全身が黒尽くめだったらさぞかし見分けがつかなかった事だろう。
「重石、でございますか?」
「ドーン君、君も無茶してはいけないよ? そりゃあ、好機は逃さないほうが良いと思うし君の実力は評価しているつもりだけど」
ちらりと、気を失ったらしい秋水を担ぎ上げながらもレンとキャシーに視線を向けてから続ける。
「ドーン君は、あのお二人に説明をする義務があるのでしょう?」
何がどうしてそうなったのかは判らないが、流れてくる空気的にはドーンは何か不満を訴えているのではないかと言う様に見える。流石に、距離がある事もあってキャシーにもレンにも二人がどんな会話の果てにそんな事を口にしているのかは判らないけれど。
「言っておきますが、まだこちらの話自体は正式な契約を交わしたわけではないんですよ? 確かに、第一段階であるレインを職人都市に送り届ける事は終わりました。けれどアインス君が倒れたままの今、情報ギルドに伝手はあると言っても正式なパーティー・リーダーではないドーン君が勝手に動くことは許されません」
そう、今回は秋水を拾った時とは状況が異なる。
あの場合、緊急性が高かった為に上位者はある程度の自由な行動を許されていたが。そもそも、ギルドの下位ランク者がパーティーのリーダーを務める事がそもそも稀で、それでもパーティーのメンバーは基本的にリーダーの指示に従わなければならない。
緊急時と言うのが、いかに特殊性を帯びているかと言うものだ。
「ラーカイル先生、まさかその為にアインスがまだ目覚めてないって事……」
レンの言葉は、そこまでは大きくは無かったけれどラーカイル医師には聞こえていたらしい。
にやりと、常に笑顔である筈のラーカイル医師はそれでも理解出来るほどの笑顔で一言だけ言った。
「何の事ですか?」
さて、今回ですが。
可能な限り直接表現を避けたのは、きっと書いた問いに眠かったからです(そんな理由!)
次の次の話でペースダウンしていてちみっと不味い状態なのは、短編に心を奪われているからです。頑張ってペースを戻さなくては!
ちなみに、この展開は「最初から考えていたその1」です。
その2については、いずれまた。
では次回予告。
「一晩空けて夜が明けて、え。こんな展開ありなんですかね!?てか実はこいつらよく似た人達です。いや、本当に?てな一コマシーンでお送りします」
てか、この後の展開を一気に行くかどうかは書いてる本人が一番わかりません。。。あとは体力と時間との勝負だな。




