44 お仕事ですよ!
そろそろ章ごとに分裂させるべきなのかしらと感じてしまうほど続いている今日この頃。
新しい展開の、始まりです。
けど、始まりは常に……ね?
どうしてこんな事になったのだろうか?
ちなみに、こんな感情を持ったのはここ最近では3回目である。
様々な人種が色々な意味で集まる学園都市で、こうにも面倒が起こる事は「よくあるけど珍しい」と言えた。
彼の名前はアインス・ツヴァイン。
「君……あまり荒事に向いてないんだねえ……」
同情するなら黙って早く治してください。
「そう言う事を言うと、このまま放っておきますよ?」
すみません、もう言いませんけどなんで人の思考読むんですか?
「一応、ラーカイル先生もギルドの上位者だから……ね、ドーン?」
「へえ、そうなんだ? キャシーは知ってた?」
「左様でございます、ご主人様。
彼は学園都市医療部に所属しながら冒険者と言う二束のわらじを履く『聖なる魔剣』と言う二つ名をいただいております」
人の頭の上で煩いんですけど……。
「恐れ入ります、アインス様。
では、アインス様がお静かになる様に……」
「ちょっと待ってくれない、キャシー? その振り上げたモップで何をするつもり? てか、なんでモップ?」
「はい、レン・ブランドン様。
私共の会話が耳障りである様子ですので、アインス様をお静かにしていただければ状況的には少ない労力でアインス様のご希望を叶える事が可能かと。あと、モップは今回において適切と思われるので装備しております」
すちゃ
構えられたモップは、普通のモップだ。
とりあえず水は漬けられていないで乾燥しているから異臭を放つなどの事はないし、まるで新品同様の輝きは心なしかモップが自らの存在を誇っているかの様に……見え、なくもない。
「やらなくていいから、むしろ人の仕事を増やさなくて良いから」
「失礼を致しました、ラーカイル様」
どこから出したのか判らないモップが次の瞬間、まるで今までそこに無かったかの様に姿を消したのは目を見張りたくなるほどの素早さだ。
「あれ、今のモップってどこに行ったの?」
「はい、ご主人様。収容出来る様になっておりますので、どうぞお気になさらず」
「ふうん、メイドさんってすごいんだね?」
「いやいや、シュースイ。普通の一般的なメイドとキャシーを同列に扱うのは普通のメイドさんに対してどうかと思うって一応言っておくよ?」
「え、そうなの?」
「ご主人様にレン・ブランドン様……それは一体、どういう意味であるかを尋ねても?」
「少なくとも、僕の知ってる限りではそんなメイドなんて見たことないよ」
「あれ、レンの家にもメイドさんっているの?」
「いい加減にしなさい!」
話は、遡る事そうでもない時間。
事の始まりと言えば、異世界からの様々な偶発的事情から訪れたとなっている異世界人の秋水の「学校へ行きたい」と言う希望からである。
とは言っても、ギルドのトップクラスで上層部にこそ覚えのめでたいドーン。『夜明のクリムゾン』に「手出し厳禁」のシールをぺたりと貼られている状態ではどの学校も事情を知っているだけに入学に対して難色を示すのは当然と言うものだ。かと言って、秋水の身の安全と秋水に手を出した場合の後に起こるゴタゴタが予測される現在としては入学拒否と言う立場もとり辛い。別の意味からすれば、殺すのも影響がどう出るか判らないし放逐しても同じ事だし、加えてどこかの他所で「これでもか!」と言う被害が出た場合に人の口につけられない戸から学園都市が関わっていたとか言う話になってしまうと評判に関わってくる。
あらゆる国の権威に対して頭を垂れないのが建前であるとは言っても、やはり建前は建前にすぎないと言う事だ。今後の経営状態を考慮した場合は各国に印象をわざわざ悪くする必要などないのである。
「ちょっとシュースイ殿とキャシー」
とある日の午後にしては早い時間に、秋水はキャシーと一緒に庭でささやかなお茶をしていた。
まだ完全回復に至っていない秋水は様々な問題点から休息は必要で、同時に日光の光も大切だろうと言う観点からだ。家の中に引きこもりになってしまうとよくないと言う意味も当然あり、何度か学園都市の中枢にも出向いた事はあるものの、あまり移動距離が長くなると疲労から立てなくなる事も同じだけの回数があった事が引きこもりのそもそもの原因である。とは言っても、以前よりも体力は多少ついたらしく倒れこんだり座り込んだりする回数は減少している。
「ようこそおいで下さいました、レン・ブランドン様」
そんな午後の麗らかな時間、突然の訪問者に秋水は驚く。
「ドーンから連絡は行ってると思うけど?」
「はい、うかがっております」
「え、何どう言う事?」
普段、キャシーはトイレ以外には常にひっついている。風呂にまでくっついて来られるのは如何ともしがたいが、今でも気を抜くと数回に一度は風呂場で倒れかけるのだから危険なことこの上ない。
だが、何をどうしているのか不明だが「来客」関係になると「どうなってるの?」と言いたくなる程度に敏感に反応しては報告をしている。必ずしも報告されているわけではないのは、夜間の来訪者についてはノーカウントだからだろう。
「申し訳ございません、ご主人様。
今回の件につきましてはギルド上層部及び学園都市理事会より意向がある関係で、お二人に仲介をお願いされた状態となっております」
「……ふうん?」
ちらりと秋水はキャシーを見たが、相変わらずキャシーは眉の一つも動きはない。
まるで、仮面を被っているかの様だ。
否、被っているのだろう「仕事中のメイド」と言う仮面を。
「俺は何も聞いていなかったけど?」
「気分的に半々だったから……かな?」
少し思案気味なレンの言葉に、秋水も反応する。見えないだけど、キャシーも聞き耳を立てて居る事だろう。もっとも、この近距離で立てる聞き耳と言うのもおかしは話ではあるが。
「半々?」
「お茶の時間に押しかけるってのと、決定事項を伝えるのと両方って感じかな?
ドーンはギルドの用事として純粋に来てるかも知れないけど、僕はギルドとは何の関係もない。学園都市の上層部とも関わりがあるのは基本ドーンだけで、僕の場合は家が絡んでいなければ何の意味もないからね」
つまり、レンにとってこの訪問は遊びに来たと言うだけの話だと言う。
「どうにも想像が出来ないんだが……」
考えながら、ティーカップを手元に寄せて更に考え込む。
元々、テーブルの上にはアフタヌーンティーくらいの軽い食事程度しか並んではいないし、それも半分は無くなっているのではあるが。一度に口に入れる分量も少なければ時間もかけ、しかも全部食べきらない事も慣れてしまう程度に普通にあるらしい。
体の大きさから考えると、この食事分量は効率が良すぎるのか。それとも貧血や眩暈で倒れるのが何度もあるからプラスマイナスでイコールのゼロになるのか、よく判らない。
「レン・ブランドンは公爵家の人なんだろう? で、ドーンはギルドの偉い人? で、合ってる? 間違ってる?」
「はい、ご主人様。正しくもあり、間違ってもおります」
秋水の視覚の外側で、恐らく現れた客になるだろうレンとドーンのお茶の支度をしていたらしいキャシーが答えるが、お茶の支度をしている筈なのに全く物音がしないのを誰も何も言わないのは何故なのだろう? 秋水からは死角になっているが、二人からは見えていると言う事なのだろうか?
「レン・ブランドン様は公爵家の次男にして時期当主。ドーン様は冒険者ギルド及び各所ギルド団体と統括する通称をブリッジの中で名誉幹部と言う立場にございます」
「え、何それ? 僕知らないんだけど?」
秋水もそうだが、レンも驚いた顔をしている。正確には、顔には出ていないが瞳孔が一瞬開いた事で驚愕を表していると言うべきか。
ちなみに、いつの間にか用意されたテーブルには。これまたいつの間にかドーンが先についていた。
マナーとしては褒められたものではないが、男性二人が惚けた状態ではあるし、キャシーはメイドとしての立場と答えている最中なので勧めるに勧められないと言う制限がある。
「ご主人様を始め、レン・ブランドン様が存じ上げないのは当然の事でございます。
元々、ギルドは各々が組織する小さな団体に過ぎず全てのギルドを統括すると言う事は構想こそございましたが亀の歩みの方が早いと言うべきものでした。利権が絡む故に致し方のない事もございます。
ブリッジと言うのも正式な名称ではなく、古参の力あるギルドの関係者及び退任者が宴会で集まっている時に付けられた名称に過ぎません。俗称と言うものですね。ただ、他の方々には円卓会議にも似たイメージがついてしまったと言う解釈になっております」
「「えんたくかいぎ?」」
同調した二人は、見かけも育ちどころか世界さえ異なる二人だというのに似ている部分がある。
それについては考慮の度外視をするとして、二人があまりのタイミングに戸惑った姿を一瞬見せてからキャシーに向ける目は何と言うか……。
「はい、かつて各地で戦乱が起きた際に被害の拡大を防ぐ為に地方の実力者達が集いました。
この学園都市の発祥の神話にも一部触れている歴史ではありますが……その際に「ブリッジ」と名乗る集団が居たと言う歴史的背景から、円卓会議やブリッジと言う言語が使われます。ただし、集団で名乗るのは許可されておらず名乗ったら最後だと言われております」
学園都市発祥の歴史に関わると言われてレンは少し戸惑った様子を見せていたが、それについては誰も何も言わなかった。今や、学園都市の歴史に関してはその筋の専門家の研究対象ではあるが一般的な学問とは言えないからと言うのもあり、さりとて覚えておいて損はないと言うのが通説だ。
「そんなに歴史的な名前だったら、誰もが箔をつけるために使いたがっただろうにねえ?」
「詳細は情報ギルドでもトップでなければ判らないかも知れませんが、過去に幾つかブリッジの名乗りを上げた集団が壊滅されたという話は風の噂で聞き及んでおります。ただし、これにも穴がございまして」
普通、飲んでいる最中のカップにお茶を注ぎ込んだりすると言う真似はあまりしない。
マナーが悪いにも程があると言うものだが、キャシーがそんな真似をしたのは集中していたらしい秋水のカップが徐々に傾いてきていたからだ。恐らく中身は半分以上が減っているだろうし熱もすっかり冷めてしまっているだろうとは想像出来るけれど、明後日の方向に差し出したままでカップの中身が零れるよりは遠まわしの主張と言う所だろう。
案の定、注ぎ足されたカップの中身を秋水は慌てて口に含む。
「おかしな事に、自ら名乗りを上げた集団は壊滅させられるのですが。元々は別の名前があり、本人達も名乗らずにブリッジと認められた集団に対してはその限りではないのです」
これについては、単に元々は別の名前だったからだろうと言われているが実際のところは不明だ。
「ふうん? よく判らないな……?」
「大丈夫、僕にも判らないよ。
で、今日僕らが来た理由もそこに少しひっかかるんだ。別にブリッジや円卓会議は絡んでないから安心して欲しい」
優雅な仕草でお茶菓子を口に入れ、お茶を口に含んだ姿は年齢こそ若いがどこぞの王子だと言われても納得してしまいそうになる。などと秋水が考えている事は関係ないだろう。
「シュースイ殿、せっかくだから仕事を見てみないかい?」
最近、すっかり不幸キャラが定着してしまいました。
最初は単に限りなくモブに近いキャラだったのですが……一体どこから話が崩れて行ったのか、恐らくマリア姉御の話からですね。
では次回予告。
「新しい土地、そこで起きる事件、見知らぬ人はここへ至る。
ところで、彼の受難はまだ続くようですよ?」




