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43 そんなこんながありまして

冒頭は割りと有名らしい「名探偵、皆を集めて『さて』といい」からの転用です。

今回は十数話ぶり?の登場のあの方です。

意外じゃなく、僕はこういう人嫌いじゃないですよ、こっちに上から目線の居丈高でなければね。


 さて、と手を打つのは名探偵と相場が決まっている。

 誰がなんと言おうと譲らない。

 などといった台詞は、出てこなかった。


「ねえ、時期外れの転校生って王子がからんでるって本当?」


 もはやと言うか、最初からと言うか、爆弾投下は趣味な御仁は今日も絶好調と言えただろう。

 皆の頼れるマリア<姉御>ビルカの最近のノットマイブームは「お姉様」と言う所はさて置き。

 どうにも先日の教室内における精神的な爆弾投下事件以来、どうにも一部男子からは恐怖心と微妙な憧憬交じりの視線を。一部女子からも似てるけどあからさまな視線を向けられている。豪の者になると「お姉様と呼ばせてください!」と言い出すものも居るが、なぜか言い出すのは明らかに年上ばかりだ。いや、別に年下だったら

「姉御」とか「お姉様」とか「女王様」とか言う本人的に面倒くさいと認知する名称で呼ばれたいなどとは欠片も思わないけれど。


「だから王子は……別にいいですけど」

「そうそう、諦めが肝心よお?」

 他人には幾らでも諦めろとは言えるが、それが己のみに降りかかると思えば全力で回避する。

 それがマリア・ビルカである。

「でも、これは差し上げませんよ」

「うわ、ドけち! 王子の癖に生意気! 金持ちの癖に心が狭すぎる!」

 にこやかな笑顔で目が笑っていないレン<王子?>ブランドンは、僅かに眉根が動いたのを感じた。

 今、レンはドーンと同じテーブルの席でお菓子をつまんでいる所だが。本来ならば周囲をレンの顔に引き寄せられた女の子達によって埋め尽くされているのもおかしくないのに、遠巻きにじっと見つめてくるだけなのは不気味と言えば不気味だ。

「どう言われても、貴方の分はありませんから」

「あら、女の子を相手にフェミニストな精神は持ち合わせていないと言う事かしら?」

「僕と間接でも接触したいと言うのならば……少し考えますよ?」

 間接的な接触、と言われてしばしマリアは頭の中で言葉を変換する。

 別に東西南北のどちらも現地の言葉もあるが、共通の言語が発展しているのだから言っている言葉の意味が判らないと言う素敵なオチはない。

「それはごめんこうむるわね」

「偶然ですね、僕もです」

 しかめっつらを隠そうともしなかったマリアとは違い、レンは完全に笑顔だ。

「そこはあえてうそ臭い笑顔でも何でも使って少し儚げで寂しそうな笑顔を傾けながら『残念です……』とか言うのが紳士だと思うわ、そのお詫びにお菓子を寄越せばパーフェクトよ」

 凝り性なのか、わざわざポージングまでしてマリアはレンの物真似なのかよく判らない事をする。

「いやいや……ご心配いただかなくても、このドーンお手製今日のおやつはきちんと僕が責任を持っていただきますから。問題ありませんよ」


 ちっ。


 上流階級の子女にあるまじき事ではあるが、マリアがやると妙に舌打ちが様になるのは恐らく家庭環境のせいに違いない……と周囲の生徒が遠い目をしながら思ったのは仕方ないだろう。

 ただし、今の一連のやりとりを別口で僅かに火傷しそうな熱い眼差しを向ける人達がちらほら居るのだが……すでに慣れっこなのか誰もツッコミの一つも入れないのだから平和なものだ。

 もっとも、この学校自体は上流階級の子女が多い割りに貴族階級の為の学校ではないのだが。

 ある意味からすれば、この学校そのものはあぶれ者の養成学校とも言えるし。特異的な人材が何故か集まりやすいとされ、別の見方をすれば極々普通の一般的な学校とも言われる事があるのは、偏に貴族から貴族と呼ぶには憚れる生活事情を持つ者や平民が普通に入り混じっているからだろう。

 例えば、レディ・リリィやアンレーズは貴族階級の者しか存在しない別名を「ぷち社交界」と呼ばれる不穏当な学校だだが。中身は親の権力を上手に使い分けて相手に擦り寄っていこうとする者達の温床と言っても良いだろう、その中には権力を握って君臨する者もあるが実家は貧乏貴族だったり。苛められっこではあるが実家は大公家だったりする生徒も少なくない……あくまでも学校内だけの制度になっているので、卒業をした場合はあそれぞれ身の安全を保障されないという。在学中より卒業後の方が危険度が高い学校だったりするのを、通っている生徒の何人が知っているかは定かではない。

 例えば、カーラが通っているのは専門職を育てる為の学校である。もちろん経済を専門に扱う学校や帝王学などを扱う学校もあるので意外と思われるかも知れないが、カーラは現在と未来の自分自身とリッツ商会を考えて専門職の学校を選んだ。つまり、今はまだ卵の殻も破れないひよっこでもない彼らの現在の実力と伸び率、将来性を踏まえた上で内側からスカウトをする為である。これは意外と他の商会などでは行われていないので現在はカーラの一人勝ちではあるが、いずれはその手法を見抜く者もあるだろうし。何より、これはカーラの見る目が問われる危険性の高い行動でもある所が何とも言えない。

 マリアもレンも上流階級の、しかも次期当主筆頭とかそこに着実に近づいているとか言う出るところに出れば下にも置かぬ扱いを受ける人物達だ。それなのに、ある種の変人の巣窟、ある種の天才養成所ともお言われるこの学校に居るのだから只者である筈がない。

 何しろ、二人の会話は聞くものがあれば「なにそれ」と突っ込みたくなるほど普段とのイメージにギャップがありすぎる。はっきり言って「夢だといって、むしろ殺って」といいたくなった事だろう……理由はともかく、遠巻きに見ているクラスメイト達はドーンを挟んで笑顔で応酬する二人を見て顔を赤くさせたりする者も普通に居る……若干、一部の生徒は一心不乱に何かを書き付けてる様にも見えるが元来、人に噂されたり見つめられたりする機会が嫌になるほど多い二人には大した事ではないと黙殺される。

 要するに、二人の会話を聞いているのはたった一人だけ。

 二人に挟まれてお菓子を前に鎮座ましましていると言う学園都市一の変人と名高いドーン、ただ一人だけ。

 美しい顔二つが揃っている生徒達は気が付かないが、ドーンの前には手作り感満載の焼き菓子が幾つかとお茶が用意されている。ドーンが周囲には「どうやったかは判らないけれど、どこからともなく取り出した」と評判の行動ではあるが、お茶とお菓子を取り出す瞬間を目撃した事がある者は今のところ存在しない。


「レン」


 本音を口にする事が許されるのならば、ドーンは常に声を大にして言いたい事がある。実は、一つだけ。

「ああ……ごめんよ、ドーン。

 まさか、二人のお茶の時間に無駄だと知って割り込んでくる者がいるとは思って居なかったんだ。本当に僕はいつも結論を急ぎすぎてドーンを困らせてしまうね……許してくれないかい?」

 どんな特殊効果がなされているのかと問いただしたいほどのキラキラと無駄に振りまかれたものが一体なんだったのか、それが媚薬と呼ばれるものや麻薬と呼ばれるものだと言われても納得するかも知れない。

 実際の所を見るものが見れば「無駄に駄々漏れてるフェロモンが視認できるだけじゃね?」と言ったかも知れないが、そんな目を持ってる人物は残念ながら居ない様だ。

「ドーン、あんまりにも甘やかしすぎるのはよくないわ。

 この王子の事だから、もし万が一王子より先にドーンが『結婚します★(きゃっ)』とか言ったらお小遣い全部賭けても勝てる自信があるわ、死んでも阻止されるわよ」

 ジト目にして胡乱気な表情を同時に作ると言う起用さを発言させたマリアは、次の瞬間に顔面神経痛かと疑われるほど顔を引きつらせる羽目になる。

「なんだって……」

 疑問系でもなく放たれた言葉は、常とは違う重さと温度を乗せている事に気がついたのは。

 大変残念ながら、言われた当のマリアだけだった……もしかしたら当事者の一人と言えなくもないドーンの耳にも入ったかも知れないが、そんなドーンは通常運行だ。もはや悟りのレベルで人類を止めたとしても驚かないかも知れないと見に行った者は思う事もある


 ゆうらり


 まさしく、学園都市一の将来性抜群な美貌の少年剣士風の男の子は。

 恐らくは人として、何か垂れ流してはいけないんじゃないかと言いたくなるほどのえげつないものを背後からせっせと流している様に見えたが……恐らくは気のせいだろう。

「見た目は十分怪しすぎるほど怪しくても、その手腕は王子を盾にしている事が判っていればおつりが来るわ。ほとんどの人が知らないって事は、少しは知っている人達がいるって事くらい判ってると思ってたけど?」

 周囲の人達も肌で感じる程度に体に悪そうな空気にきょろきょろと周囲を見回している顔があり、他にも同じようにキョロキョロと見回している顔を見てお互いで不思議そうだ。

 マリアと言えば、至近距離で体に悪そうな空気に身を晒して少々不機嫌な面持ちにはなるものの表情には表れていないので結果オーライだと自分自身に言い聞かせる。

「ドーンは見かけが怖いし言葉は少ないし、倒れてる女の子が居ても手を差し伸べるような繊細さはないに等しいし近づくのも怖いけど、でも別に優しくないわけじゃないわ。それに、それ以上に優秀な能力の持ち主だ……って聞いた事があるわ」

 最後の最後で言葉を濁してしまったのは、マリアの言葉が重ねられれば重ねられるほど「接触したら体に悪そうな何か」がどんどん深みを増していくのが判ったからだ。

「……へえ?」

 綺麗な顔が凄みを増すと、綺麗さ故の鋭さが出るものだなんて。どこかの誰かが言っていたものだとマリアの脳裏の片隅には思い出される言葉があったのは、視界の外側で一部の女生徒が大騒ぎをしているからだ。その大騒ぎについては中身を言及しない方向にするか、それとも突き詰めて懇々と説教を垂れてやるかの方向性で困ってみるのは単なる現実逃避にすぎない。

「どう言う事かな、それ?」

 内心では「笑ってない、笑ってないから、その顔!」と突っ込みを入れたい衝動になっている。正直、お茶に割り込もうとして追い出されたのは幸運だったといえるだろう。この場合、もしお茶のカップなどを手にしていたらガタガタと震える手で中身が零れていただろう未来がくっきりと想像がつく。

「あら、単なる一般論よ?」

 にっこりと微笑む事が出来た自分自身を褒めてあげたい、いや今日はじっくりと甘やかしてやろうと決意するほどの良い笑顔が出来たと思ったが……実際の所はどうだったかはよく判らない。

「そんな事はないでしょう、そこまで言うのならばもっと詳しい話を聴きたいんだけどな?」

 ここでいつもだったら「女の子の笑顔に騙されないなんて、なんてかわいくない男なの!」とでも叫んでいたかも知れない。そうなったら「可愛いなんて男には褒め言葉でもなんでもないんですよ」とか返されておしまいになるのが会話のパターンの一つで、ここで更に盛り上がるかのように続けると我に返った頃にドーンの不在に気づいたレンが話の途中だろうが何だろうが切り上げて去ると言うパターンもある。

 が、今回は少し様子が違った事でようやくマリアはレンの機嫌が常よりまったく悪い事を知った。


と言うわけで、今回登場したのは皆さん大好きマリア<姉御>ビルカでした。

マリアもレンも、普通ならば本来はリリィと同じ貴族階級専門の学校に行ってもおかしくないのですが行きませんでした。

これには「つまらないから」と言う本人達の意思と「つまらないから」」と言う親御さんの一致した意見の結果だったりします。似たもの親子ですね。


一言ネタはなくなったし、特に質問もないので次回予告。

「新しいキャラ、新しい土地、新しい展開。そこに待ち受けているのはなにものなのか、そしてこのぱーてぃで彼は生き残れるのか!」

うん、間違ってない。

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