表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/108

42 無駄な矜持(プライド)は捨てればいい

タイトルですが、僕は男性に限って言えば泣くのは人生で赤ん坊の頃と。女の子に告白した後の時と。大切な人が亡くなった時だけで十分だと思います。

そして、無駄なプライドは5cmくらいで十分。

普段はヘタレでもいいじゃない、必要な時にガッツを見せろ、野郎ども!


 レディ・リリィにしてみれば、カーラ・リヒテンシュタインは目の上のたんこぶに近い。

 上流階級の上級に位置する自分自身と比べて、たかだか平民風情の男と見まごうばかりで実家が展開してるリッツ商会の一部責任を任されていると言うのだから「生まれる性別を間違えたのですわね」などと揶揄される事もある。けれど、カーラに命じて品質の良いものを提供させるのは色々な意味で気分が良かった。

 いやな言い方をすれば、リッツ商会もカーラもメイドと同じ扱いだ。

「でも、どんな貴族でもお金がないと生きていけないよね」

 少し面白くなさそうな顔をしているのは、これまでと違う態度だ。

 商人としての顔と言うより、まるで……そう、年齢相応の顔。

「リリィの生意気な態度は可愛いけど、商人としてはツケは支払ってもらわなければならない。

 これまでは学生である事と私の一存で分割支払いをマイソロジー侯爵家にはしてもらってたけど、学生を辞めるなら一括清算で綺麗な体になってからの方がいいよね?」

「な、どう言う事ですの!」

「だから……あれ、もしかして今までリリィが無茶言って用意させたものとか無料で貰えるとか思ってた?

 そんなの、全部実家に請求書出してるに決まってるでしょ」

「……これだから、平民は困りますわ。

 貴族に献上する事は平民として当然の……」

 怒髪天をつくと言う言葉を知っていたら、まさにそうだったと表現できるだろう。

 リリィの形相は鬼の様だ、恐らく今まではカーラから搾取していたとも思って居なかったのだろう。しかし、そんな事を商人の顔を持つ相手がすると思うほうがおかしい。

「でも、そうしたらご実家のお兄さん? 大変喜んでうちに融資を申し込んできたよ」

「な……ん、ですって……?」

「リリィは特待生になるほどの頭もなければ、外に出て無駄にお金を使うようになってしまってマイソロジー家としても財政を圧迫し始めてるんだって。だから、うちに資産運用と融資を依頼されたんだ。

 あ、ちなみに返済計画の中には学園都市の同じ生徒だからって言うちょっと無理した利息をつけてるんだけど、もちろんその中にはリリィのツケも入ってるから」


 安心してね?


 心の底から安心出来ない台詞をはかれてしまい、レディ・リリィは状況についていけない。

 でも考えれば簡単な事で、自分は上級貴族ではあるがお世辞にも金があるとは言わない。つつましく暮らしていればそうでもないかも知れないが、王都などに比べれば田舎者と言われても否定出来ない。

 カーラは大商人の一部とは言え権限を任された自立している責任者で、貴族ではないが貴族の間でもリッツ商会の話は話題に出る事は少なくない。そこにはレンの公爵家が経由しているドーンの発明品を取り扱っている数少ない商会だからと言うのもあるが。

 レディ・リリィはカーラに貴族の令嬢である事を良い事に高価な品物を納めさせて、本人に返済能力がない事を見越して実家に請求書を回したのだ。請求書を回されたマイソロジー侯爵とその息子は二重の意味で仰天した事だろう、娘が妹が平民を相手に恐喝まがいに高価なものを奪い取り、その相手が名高いリッツ商会だ。

 そこで侯爵親子は考えた。このまま悪戯にレディ・リリィを叱り付けても右から左どころか耳にも入れない上に言い負かされてしまう可能性は非常に高い。それならば、リッツ商会にパイプが出来た事に着眼点を持って支払いと融資を同時に言い出してみた。

 カーラとしては半ば呆れる部分もあったが、こう言う柔軟な考え方が出来るのは学園都市で学んだ功績なのだろうと先輩に経緯をあらわす事も含めて了承した。もちろん、マイソロジー侯爵の返済能力や資産についてはがっちり計算した上での事だから、もしかしたら先方にとっては思ったよりのお金にはならなかったかもしれないが。そこにはレディ・リリィの言動を差っぴいているのだから我慢しているのはこちらの方だとカーラは思う。

 つまりは、それだけの事。

 カーラに言わせれば、融資も支払いもレディ・リリィが同期の学生だからこそ免罪符として卒業までの猶予を持たせる契約を交わすが、それも退学や卒業すると言うのであれば一括による返済を求めるつもりなのだと言う。

 この学園都市では、望むのならば何歳になろうと入学する事は出来る。

 基本的には12~20年前後で卒業するのが一般的ではあるが、飛び級もあれば研究者への道を進んで学生でもあり指導者と言う立場に着く者もそこそこ居る。

 つまり、マイソロジー侯爵にとっては少しでも長く学生で居てもらったほうが都合が良いに決まっている。

 そうでなければ、一気に支払いをしなければならないと言う現実が押し寄せてくるのだ。


 目の前が真っ黒になると言うのは、こう言う事だろう。

 さっきから真っ白になったり真っ黒になったりして忙しいが、当事者である本人が一番忙しいと思っている。

 今すぐ出来るのならば、倒れて気絶したいのは山々であるが勿論そんなのは出来ない。

「そんな戯言……耳に入れるだけ無駄ですわ、今すぐ何とかなさい」

「何とかって?」

 レディ・リリィの心情的には何が一番効率的で何が一番正しくて、何が一番最善なのかと言う事をめまぐるしく計算した上で目の前の人物に支払期限を延ばさせるとか、実家に連絡するとか、カーラの親に子供の教育をどうしてるのかと難癖をつけるとかしてやりたくて、たまらなかった。

「上級貴族である侯爵家へ融資をする栄誉を与えられながら、一括返済を迫るなどと言う愚かしいことを言う責任者は首にでもしなさい。無論、全ての融資は返済義務などないものとなさい」

「無茶を言うなあ……そんなのが出来ると思ってるあたり、リリィは可愛いよね」


 馬鹿な子ほど可愛い。


 そういわれた気がして……そして言葉ではない部分で言われたのが判った。

「なんですって!」

「借りたものを返すのは、社会的生活を営む者として当然の事でしょう。

 それとも何、北邦では貴族は平民から借金をしたら踏み倒してよいって法律でもあるの? まさか、貴族の軍隊を差し向けて融資をした平民を皆殺しにして後から罪状を突きつけるとかするつもり?」

「馬鹿にしてますの!」

 実際、割と近年まで貴族が平民からお金を借りて貸し手の金貸しを惨殺してから「適当な罪状」をでっちあげて借金を棒引きにさせたと言う話はある。流石に、今の北邦になってからは他国からの監視の目もあるのでそんな事をすれば一発で国際問題になるので表立っては行われない。

 あるとすれば「通りすがりの盗賊に裕福な平民が襲われ一家惨殺の憂き目にあった」程度の事だ。

 その為、北邦では近年の平民はハーレム作りより小規模な軍隊を配置する様になって来たと言う展開まである。

「馬鹿にしてるのはそっちでしょう、貴族は平民の為に存在するとでも思ってるの?」

 そうではない、と即答したい気持ちと。そうである、と即答したい気持ちに挟まれたのは久しぶりだった。

 レディ・リリィとて、昔はここまで酷くは無かった気がする。けれど世界が広がって、自分自身が取るに足らない人物だと思ったらやるせなかったのだ。

「その平民がいなかったら、貴族であるリリィはどうやって生きていくの。その服も食べ物も貴方が一人で何を出来るって言うの」

 簡単な服程度ならば一人で着られるけれど、ドレスとなると話は別だ。けれど、真の上級貴族は下着一枚ですら自分自身の手を煩わせる事がないのだと聞いて衝撃を受けた。

 実家から使用人を連れてこなかったのは、家族から「勉学に励む」事を前提として送り出されたからだ。でも、実際には使用人をともにつけるほどのお金が無かった。本当に、最低限を用意するだけでマイソロジー侯爵家は背一杯だった。

「男を落とすほどの美貌も、奨学金が出るほどの能力も、制御が難しいほどの魔力も持っていない、そんなリリィは何を持ってるって言うの」

 だから、カーラがリッツ商会の者だと聞いて用意させたのだ。

 幸いにも住む所は学生寮ではなかったから、使用人を手配させた。その費用を請求された事がなかったから、貴族に仕えられる喜びだけで従事しているのだろうと思ったのは一瞬だったけれど。

「う、煩い!」

「それとも、その貧相な体でも売りに出すつもり?」

 言葉の意味を、知らないわけではなかった。

「大体さあ、考えた事あった?」

 貴族の学校と言えど、色々な所から色々な人が来るのだ。

「リッツ商会もリヒテンシュタイン家もリリィの領民でもなんでもないんだよ? 支店すらないんだから従属も隷属義務なんてあるわけないじゃない」

 当然、下世話な話だとて普通に横行する。特に貴族階級の学校は男女が別の棟である為にノリはまさに女子高生、柄の良いのも悪いのも頭の良いのも悪いのも、要領が良いのも悪いのも居る。

「そ……」

「ああ、ごめん……ちょっと苛めすぎたかな」

 突如として雰囲気ががらっと変わった姿を見て、心がほっとするのを感じた。

 なんだか。

 世界がひっくり返ったかのような気がした事で、どうしようもなくて。

 混乱もそうだけど、同じだけ悪いことを考えそうになっていた自分自身が居て。

「リリィは退学にはならないよ、ドーンさ……ドーンが警備部には連絡したけど侵入されて寮長室の扉を破壊された『だけ』でこちらにも手落ちがないとは言い切れないからって進言してる。実際はそれって物凄いことなんだけど……どっちの意味でもね。でも、無期限で全ての学生寮への出入り禁止くらってるけど」

「え……?」

 退学は免れた、と言うのは判った。

 それをドーンが進言したからだと言うのは、すぐには脳みそに染み込まないのだろう。

「あ、でも融資と支払いの問題は事実だから。

 お兄さんが柔軟な思考の持ち主なのは、一応は学園都市の出身だからって言うのが大きいんだろうね」

 マイソロジー侯爵家がリッツ商会に借金を申し出たという話にについては……今の止まった脳みそでは少しどころではなく許容量を超えまくっていて考えたくない。

 学生寮への出入り禁止と言うのも、真面目に考えれば少々痛い話ではあるのだ。用事のある場合には。

「寮長権限って……どうして、ドーンが……?」

「あの学生寮の寮長だから」

「……はあ?」

 間抜けな顔にはなっていたが、空気を読めるカーラは口には出さない。

「しかも、あの学生寮は成績優秀者しか入れない上に『始まりの宿』を模して作られてるから学生寮の中では一番権限持ってるらしいよ」

 学生寮と一口に言っても、その寮にはそれぞれランク付けがある。

 最初のうちは学生寮=所属校に近い→応募者多数→条件付け入居だったのだが、中には言葉にするのが難しい問題を抱えた建物も少なからず存在する。

「それ、なんですの……」

「少しは自分で調べればいいと思うんだけど、私も詳しいことはよく知らないんだ。

 これから学生寮に入るからって事で、ちょっとパンフレット読んだだけだし」

「知らないのに、偉そうですわ……ね」

「そう? 気をつけないとな……」

「カーラ、あなた少し変わりまして?」

 落ち着いたのか、レディ・リリィの口調はひどく静かだ。

 カーラが変わった様に見えたと言った、当の本人が変わったからだろうとカーラは思う。

「そうかな、これと言った自覚はないんだけど……でも、変わったのかも知れない。

 うちの可愛い弟と妹も言っていたから、そうかもね?」


 でも、変わったと言われる今の自分自身は割りと嫌いじゃないよ。


 空気を読みすぎるカーラは、笑顔の一つだけでそう語ったので。

 もちろん、言葉として聞いていないレディ・リリィには通じなかった。


ちなみに、捨てるなら燃えるごみの方が良いと個人的には思いますが空気に混じっても嫌なのでロケットにつめて彼方まで飛ばしてしまうとベターかも知れません。どっかの青色猫型自動自立進化型機械の分裂するまんじゅうではありませんが(判る人はわかる)

以前と比べてカーラのキャラが少し変わりましたが、カーラ自身は受け入れています。と言うより、レベルアップして男前度が上がって商会の売り上げが上がって本人はほくほくです。あれ?

常識が破壊されたら、人は再構成をする強さを持っている。

それは以前と違う姿形かも知れないけれど、それがその時に持てる当事者の形なのです。多分ね?


今回の一言は、夫が出たなら妻も出なきゃねって事で回想にだけ登場のドーンの執事なお母上です。

「おかえりなさいませ、お嬢様」

あれ、男性読者に対しては?てかいるのか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ