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38 知らない事を学ぶ方法

若い頃と言うか、学生で居る間は学生の視点でしかものが見えないので「やだなあ」と思う事は普通にある。ま、ある意味では当然。

やっていると「これって人生で何の役に立つの?」と思う時があるだろう。

でも、それは当然のことなのだ。

なぜならば、「求めて始めたわけではない学生の視点」でしかものを見ていないのだから。

先駆者の言葉は、その時には何の事か理解出来ないのだから。


 唐突ではあるが、ここに一人の人間が居る。

 一応の自覚衝動もとい自覚症状的には人間だが、実際の所を言えば人間と分類して良いのだろうかと一瞬思いつき、即座に「別にいいか」と納得させる。


 とんでもない配合率で、うっかり自立稼動してしまった人形のようなもの。


 それが、自称を秋水と呼ばれる人物を分析したと言う結果から導き出された結論だった。

 とは言っても、人形みたいに動く事が出来ないとか、眠らなくても平気とか言う機能はついておらず生態燃料的な位置として血液を持っているのが人類ならば、供給元不明の魔力で動いている体だと言う。ただし、柔らかいし刃物で傷つけようと思えば傷つく。筋力や反射速度は元の記憶より遥かに向上しているし、素材の組成成分の大多数がこちらの世界の品物の特殊な配合による予想外の展開を起こした事もあって言葉や文字に不自由していないのではないか、と言うのが出されたレポートに書いてあった。

 一般常識らしい一般常識は残念ながら持ち合わせて折らず、されど地域によるものとか学者の知識的な部分とでも言えば良いらしいと思われる部分の知識はある。

 例えば言うならば、こっちの方面に行けば寒い地域でこんな動植物がある。けれど、その地名やどんな人種が住んでいるのかは判らないと言った感じだ。

「まるで世界の代弁者みたいだな」

 そう言って笑ったのは秋水ただ一人だけで、思わず周囲を凍りつかせたと言う事に言った本人は気が付かない。

 もっとも、誰もがそれについては自然と緘口令を敷いてる状態なので秋水の耳に入る事がないのは仕方ないと言うものもあるのだが。


「と言う訳で、学校に行きたい……ちょっとばかり年齢を考えたら恥ずかしい様な気もしないでもないけど、そこは社会人学習とか言う事で自主的に納得させたからOKという事で!」

 ひどく良い笑顔で親指を立てながら言われても、キャシーに意味は判らなかったらしく軽く首を傾げられてしまった。

 こういう動作をした場合、外すと立場がなくなって少しばかり勇気を奮い立たせなくてはならなくては困るものだが、立ち直りが早いのか次の瞬間には頭を切り替えたようだ。

 別の見方をすれば「なかった事にした」と言う言い方も出来るのだが。

「学校……でございますか?」

 その台詞は、ある日突然というわけでもなく唐突と言うわけでもなく言われた。

 秋水曰く「なんでこうしてぷらぷらとプー太郎よろしく日々を遊んで過ごせるのかは知らないけど、いつまでもこうしていられるわけではないだろう?」と言う建設的な意見が出たのは、秋水がレンやドーンと会ってから三日ほど。それからギルドから調査員が対象者本人でる秋水の預かり知らぬ所で現れたりはしたらしいが、基本的な社会的知識を全く持っていない秋水には人の形をしている己の世界にかつて存在した人物達と似たような格好をしていると言う事くらいしか想像がつかない。

「そ。せっかく言語能力は問題ないし、生活費もいつまで出してもらえるか判らないし?

 キャシーだって、お金出してる人が契約を打ち切るって言い出したら明日から俺を追い出すわけでしょ」

「……乱暴な物言いではごさいますが、否定はいたしかねます」

 実際、もしも学園都市やギルドのお偉いさんが「その人捨てて、明日から通常業務に戻っていいよ」と言われたらキャシーはこれまでと同じように過ごす以外に行動の選択肢は存在しない。

 現状から考えるとありえない状況にはなるだろう、何しろドーンやレンが関わっているのだから今すぐ猫の子よろしくぽいっと捨てると言う事はしない筈だ。だが、それは逆を言えばドーンやレンが関わることを止めた場合に即時適応されると言う危険性がある。

「正直だからキャシーって割と好きだよ、歯に衣着せない感じって言うの?」

 褒めているわけではないだろうとキャシーは判断する、決して。

 信用しているだろうか? キャシーならばしないだろう。

 信頼ならどうだろうか? そもそも信用と信頼の違いが判らない。

 嫌ってるだろうか? 嫌いになられるほど親しくはないし逆もしかりだ。

 キャシーだとて、秋水の事は感情をもてるほど何かを知っている気はしないし本人が混乱しているのか、あるいはキャシーに言っていない事や隠している事もあるだろう。本人の意識無意識は別として。

「だから、俺は一人ででも生きていけるようにならないといけないと思うんだよね」

 ドーンの報告書によれば、秋水は天文学的な数字をぶっとばすくらいの数字の確率で「なんでこいつ自意識があって普通の人みたいな言動が出来るわけ?」と言う世界中の学者が首をひねりたくなるような存在である事に代わりはないのだ。次の瞬間に消えるのか、爆発するのか、溶けるのか、それとも……と言う可能性が否定出来ないが、それでも普通の人みたいに普通に生きて普通に死ぬ可能性だってある。

「今だって色んな事をキャシーに教えてもらっているし、それが不満ってわけじゃない。

 ただ、一人では学習仕切れない事だってあると思うんだ」

「それは……はい、当然ございます」

「授業料とかは出してもらえないとか?」

「奨学金制度もございますが、いかんともし難い事は確かでございます。

 今の私に即答の権限がない以上、ご主人様には少々お時間を頂戴いたしたいとしか申し上げる事は出来ません」

 秋水と言う人物は、決して頭の悪い存在ではないのだろう。

 どちらかと言えばバイタリティ溢れる、沢山の事を常に考えている様な人物。

 ギルドに加入する様な人と言うのは、大抵がこう言う人物かと言えばそうでもない。脳みそまで筋肉で出来ている様な、宵越の金を持たず刹那的に生きるものだって少なくはない。

 今「だけ」を生きようとする者が多いのは、どうしようもない。ギルドにだって長期戦で構えなければならない、普通にしていれば命の危険などとは程遠いものなど幾らでもある。けれど、そうではないものだって事実存在する。

「そうそう、キャシーはどうやって報告とかしてるの? どこかに手紙とか出しに言っているとか言う感じはしないし、かと言って毎日家に誰か来てる様子もないし」

「……それをお尋ねになる、理由を問いかけても構いませんでしょうか?」

「単なる好奇心って言うのもあるし、出かける予定があるなら町をついでに見て回りたいなって思って。

 この町にどう言うものがあるのかとか、やっぱりまだ見たりしちゃいけないかな?」

「……さようでございますか。いえ、報告に関しては多岐に渡っておりますのでお屋敷から出る必要はあまりございません。ですが、ご主人様がその様にお望みであると言う事を伝える事は可能にございます」

 言葉の開始に、幾つかの間が生じる時は考えてから言える範囲を模索しているからなのだろう。

 替わりに、即時に答えが返ってくるのは人として生活するのに必要な基盤的な質問に対する事柄ばかりだ。

「そう、じゃあお願いするね?」

「かしこまりました」

「このあたりは、とても良い所だと思う。

 のんびり出来るし、牧歌的……なのかな? 余計なわずらわしさって言うのがまるっきり感じられない。建物も少し風合いが出ている感じがするし、でもちょっと大きいかな?」

「はい、こちらの建物は常でしたらギルド幹部の会議や保養所として使用されている建物となります」

 普段は滅多に使われないと言うのもあるが、その理由は地の利にある。

 この建物は、秋水が発見された地域と学園都市から見ると正三角形の位置にある。つまり辺境と一言で言い切ってしまえるほどの距離がある。とは言っても、この学園都市の敷地の大部分が島々で繋がっており、学園都市理事会も据え置かれている中央の島は大陸と言うほど大きくはないので何十日も何ヶ月もかかると言うほどの距離はないのだ。

「そんな所を使わせてもらってるんだ……今、この建物に居るのは俺とキャシーと、あとは?」

 食事に関しては見えない所で何かをしているかも知れないので何とも言えない所だが、この家の掃除や洗濯だけでもなかなかに骨が折れるのではないかと言う気がするが故の疑問だ。

「常時と言う意味でしたら、他の滞在者はございません。

 昼間、多少でしたら出入り業者の方やキーパーの方がおいでになる事はございますが。夜間は私とご主人様の二人のみの滞在でございます……私の存在も疎ましく思われるようでしたら、敷地こそ離れるわけには参りませんが対応策を講じさせていただきますが?」

 どんどん目が丸くなる秋水の表情に、何かまずいことでもあるのかとキャシーが思ったのはおかしい事でも何もない。

 キャシーの経験から言っても、どれだけ大きな屋敷でも眠る時は他の者がいるのを嫌がる雇い主と言うものは確かに存在した。逆に一間のアパートの集合体の様な屋敷を好む雇い主もいた。

 求む好みがあると言うのであれば、可能な限り最大限の力を持って主人の願いを問題のない範囲で叶えるのがメイドの務めだとキャシーは思っている。

「いや、そうじゃなくて逆。キーパーさんって言うのは……お手伝いさん?」

「そうですね、簡単な手伝いと言う意味で使われています。

 私一人でこの屋敷を管理するのも吝かではございませんが、ご主人様の体調を慮った場合はお近くで控えさせて頂く事が得策であると判断したのですが……問題がございますか?

 実際、最初に貧血を起こして倒れてからの秋水は何度も眩暈などを起こした。

 低血圧な所がもともとあるといっていたので、恐らくは体力と運動が不足している事が最大の理由だろう。

 本人も、その当たりは自覚がある様で否定はしなかった。

「いやいやいや……つまり、俺がもう少し元気になれば付きっ切りにならなくていいって事だから……申し訳ない」

「お気になさらないでください、仕事ですので」

「それもあるけど、キャシーの評判に傷がついたら困るなあと思って。困るのは俺の勝手だけど、気にするなと言われても直接的な原因が自分自身にある事で気にしないのは無理ってもんでしょ」

 ここで、秋水は一つ気が付いた事がある。

 基本的には聞かれたことしか答えず、本当に困っている時は方法はどうあれ手も出せば口も出すキャシーではあるが、本人が無意識なのか疑問符が浮いた時の彼女は必ず瞬きをする。一度だけ。

 普通に過ごしていれば、瞬きをするのは当然だ。けれど、なんとなくだが「わざとらしい」と言う感じがするのだ。秋水には。

「キャシーが俺みたいな若い……? 男性と二人きりで暮らしていると、夜のお世話とかもしてるんじゃないかって邪推する人が居るかも知れないでしょって事」

 こういう時、秋水は己の勘を信じるように心がけている。

 心や想いが全てとは言わない、けれど自分自身を信じなくても自分自身に訴えかけてくる何かがあるのならば。それを信じてやる事は出来るというのが秋水の持論だ。

 聞かれないので、応える気はないけれど。

「夜は結構お盛んみたいだし?」

 応えは無かったが、秋水には確信めいたものがある。

 別に、何を見聞きしたと言うわけではない。特に何かおかしなものを発見したわけでもない。

 おかしい事など、何一つ存在しない。

 だからこそ、おかしい。

 おかしいものを排除すると言う一つに目が行っているキャシーや、その背後に居る人達……ギルド上層部や学園都市理事会と言う人達はなかなかに狐狸妖怪の集合体でありながら一枚岩ではないんだな、と秋水は一人ごちる。

「だって、夜中に戦闘……戦闘? 多分戦闘? してて、それで翌朝には何食わぬ顔でいられたら、やっぱり気になるってものでしょ」


年齢を重ねて経験が増えていくと、過去に想いを馳せる人は割りといると思う。少なくとも、一度も「もっと勉強しておいても良かったんじゃないかな」と思わない人は少ないだろう。いないとは言わない。

職業が研究や教育に携わっている人にしてみれば、一生が勉強かも知れない。

生きている間に出来る事は、案外少ないと思う。

感が得る事が出来る間に出来る勉強は、案外少ないと思う。

知らない事は沢山ある、世の中に無数にある。

試験と言う試練さえなければ、それは楽しいことだって科学は証明してるらしい。


さて、今回の一言はレン・ブランドンからです。

「……判ってるよね?」

そのあたりはネタバレだから沈黙にて返答させていただきます!

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