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36 秋の水は澄んでいる

もし、世の中に秋が無かったらどうなっていただろう。

灼熱の真夏の次の日が、いきなり極寒の冬となっていたら。

もし、世の中に春が無かったらどうなっていただろう。

極寒の冬の次の日が、いきなり灼熱の真夏となっていたら。


ほんの僅かな季節が。

もしも存在しなかったとしたら。

 アインスがあっさり解放されたのは、単にドーンを呼び出すためだけに足止めをされていたのだ。

 捕まっていたのはドーンを呼び出してもらう為で、ギルド登録者経由ではなくドーンの研究室経由によるところによる。説明すると長くなるので省くが、つまりはそう言う手段を持っているとだけ理解しておけば話は早いだろう。

 そして、逃げようとしたところで逃亡不許可が出されたのは「もしかして魂の双子じゃね? こいつら」的な同調率を果たしていたからに過ぎない。即座にドーンとキャシーの視線を感じた二人は降参したのでアインスは事なきを得たわけではあるが……次にまた、いつ同じ事態に陥るかと思うと当分の間は……だろう、他方面的に不幸である。もっとも、事情を知らない一部の方々からは素晴らしくも冷たい瞳でじっと見つめられると言う得点が着く事がこの先決定しているのは……合掌。

 アインス本人は色々な意味から決して口を割る権利は持っていないが為に、この先で延々と続く不幸だったりする。更合掌。

 少しだけ幸運だったのは、この件で少しだけアインスのギルドランクが上がった事と口止め料的報酬がすずめの涙程度出た所だろう。小さな依頼をコツコツこなす事よりは良いお小遣い稼ぎになったことは確かだが、同時に失いたくなかった何かも失って気がするアインスだった……合掌。

 と、ここに来てアインスの不幸話だけで終わってしまうのもどうかと言う所なので少し話を戻そう。否、進めるのだろうか?


「こほん……秋水様」

「あれ、覚えてないんじゃなかったの。キャシー?」

「ご主人様のご要望とあらば、人道に外れぬ限り可能な限り叶えるのが女中としての勤めでございます」

「仕事熱心なんだね、キャシー……」

 何やら「可哀想な子供を見る目」で見つめられた気がして居心地が悪い事この上ないのだが、キャシーは不屈の精神で無視した。

「で、何?」

「お茶のお替りを御所望でしたら注文に行って参りますが、いかがいたしましょう?」

 確かに、見れば秋水のカップの中身は空になっている。

「いや、構わないよ。ほしかったら言うし」

「さようでございますか、差し出がましい事を致しました」

「別にいいんだけど……二人は? もう食事したの?」

 くるりとキャシーから視線を離した秋水の目は、笑っている。

 顔も、笑っている。

 もしも、今の秋水の顔を見て何かを企んでいると思う人物が居たら「なんで?」と思うかも知れないが。一部の存在にとってはある出来事から除外される思考となった。


 レン・ブランドンと息が合うなんて!


 先日の最前線への侵入により、レン・ブランドンの評価は上下しながらも揺れている。

 悪い事をしたと言う意味ではそうだし、実力があると言う意味でもそうだ。

 基本的にギルドは縦横のつながりが重視される世界である事は確かだが、中にはあえて繋がりを持たないほうが良い場合の存在もいる。

 今、ギルド上層部はそのあたりについて頭を悩ませている所だろう。

 ただし、そんなものは机の上ではんこを押している様な偉い人たちが考えれば良い事であって現場に置いては臨機応変を重要視されるので気にしない者も多い。

 そういう意味からすれば、今ホットな話題を提供しているといっても過言ではない。

 更に言えば、どちらの要注意人物にもいまやギルド期待の星と言われている二人がそれぞれについているのだから渡りに船というのはまさしくこの事だろう。

 これが意外な行為による結果だと思えば……それぞれ思う所はあるのだろうが。

「いやだな、もう何時だと思ってるの?

 僕らはとうの昔に食事を済ませているし、今日の授業だって終わってるよ」

「授業? 君達は学生なのかい?」

「それはそうだよ、ここは『学園都市』だもの」

 実際、レンは嘘をついていない。

 取得する講義によっては朝から夜まで入りっぱなしというのもあるし、もちろん年齢制限が掛かっている授業などもあるので限りではないが、だからと言って一日で一コマしかない日だって取り方によっては存在する。

 今回の件でドーンは授業を受ける必要が色々な意味からないのだが、それでも学校に行く事を止めない。別に行かない理由もなければ、いく理由もないわけではない。これまでと同じような事は暫くは出来ないとしても、だからと言ってキャシーが日がな一日くっついているのにドーンが張り込む必要はそうそうない。何より、レンはこの件に関して置いてきぼりを食うのを非常に嫌がった。

 普段のレンと言えば、ドーンがギルドの仕事で留守にしても多少は気にかけているように見えるだけで嫌がったり拗ねたり止めたりはしない。けれど、今回は違う。

 事あるごとに一人での行動を制限するのだから、少々ドーンは困っていた。

 妥協案なのか、一緒に行動する分には渋々ながら同行をするのだが一人で行動した場合にバレた時が少し怖いかも知れない。場合によっては全面抗争が勃発する危険性があると言う、あるんだかないんだか判らない可能性を考慮して同行を許可したのはそれほど昔の事ではない。

 本来ならば、ギルドに加入もしていないレンを同行させるのも。契約もしていないドーンが付き合うのも問題とされてもおかしくはないが、そこは家庭環境の問題なども含めて考慮されて静観されていると言えば良いだろう。

「へえ……じゃあ、俺も通わないといけないかな?」

「どうだろう? 学びたい事があるのならば登録は出来ると思うよ?」

「でもなあ、この年で今頃学生やるというのも気恥ずかしいし……」

 どこまで本気なのか嘘なのかは判らないが、まんざらでもなさそうな顔をしている。

 この年でということは、かつて学生だったのか、それともなかったからの台詞だろうか。

「別に問題ないとは思うけど……少なくとも、僕らより年上なんだから。あんまり子供すぎたら入れないけれど、大人すぎて入れないってのは聞いたことないかな? そのあたりどうかな、キャシー?」

「はい、レン・ブランドン様の仰られる通り。6歳を下回る子供が入学する事は出来ませんが、それ以上であるならば試験に合格さえすればあらゆる方に門戸を開いております」

「し、試験があるのかあ……じゃあ、授業料とかも必要だよな? でもなあ……」

 一体何にそれほど困っていると言うのか、突然真面目な顔になった秋水は頭の中で必死に色々と考えている様だ。

 正直、あまりの百面相に少し見守っていた周囲の人達は引き気味な状態ですらある。

 あらゆる意味で企画から外れている面々からすれば「どこ吹く風」とばかりにそ知らぬ顔をしていたりもするのだが。

「何か学びたい事でも?」

「ああ……ここは、どうやら俺の知っている世界ではないみたいだ。となると、俺はこの世界にいきなり大人の状態で生まれたも同然だからな、日常的な事くらいは一人で過ごせるように学んで起きたいんだが……何しろ、いきなりメイドさんなんて雇ってる状態みたいだし?」

 ちらりと秋水は視線を向けたが、やはりキャシーは素知らぬ顔をしている。

 別に意地悪をしているのではなくて、最初に色々と質問には答えてあるのだから今更いちいち入れるフォローはないと言うのがキャシーの言い分だ。後から聞いた時はずいぶんとスパルタだと思ったものではあるが、それも合わせて試していたのだろう。

 人として、外見的大人としての常識の範囲を。

「確かにね……向上意欲があるんだ?」

「別にそういうわけじゃないさ、単にこの間みたいにいきなり襲われても怖いし? 自分自身がナニモノなのか、ナニモノにもなれないのかも判らない状態ならば、とりあえず下手な考え休むに似たり。頭の中くらいは忙しくして置いたほうがいいかなって思って」

「……ふうん?」

 言っている言葉の意味はいまいち不明点も多かったが、とりあえずレンは下手なことを言わないほうが良いと判断したらしい。言っている秋水も、どちらかと言えば言葉にしながら頭の中で考えを構築していくタイプなので付き合い方としては間違いでは無い。

「何しろ、このキャシーってスーパーだから手を出す余裕が無くて」

 ちなみに、そこには学園都市の常識がない故に手を出せないと言うのもあればこの世界の生活水準に慣れていないが故に手が出せないと言うのもある。

 レンには判らないが、どうやら秋水の居た場所というのは学園都市やこの世界とはかなり異なる生活基準なのだろう。水準というべきかも知れないが。

「個人的に……どんな生活をしていたのか気になるね?」

「とりあえず、いきなり襲われるって言うケースはあまりないかな?」

「その説はうちの(・・・)ドーンが申し訳なかったね、ドーンにもドーンなりの行動理由があると言う事だけは理解して欲しい」

 にこやかな笑みを浮かべるレンと、穏やかな笑みを浮かべる秋水と。

 もしかしなくてもこの二人、かなり似たような腹黒さを内に秘めている様に見えてならない……見た目よりも年齢が年上だというのが判って、お互いは別の意味で内心は複雑な様だが。

「理解ね、理解……どうなんだろうね? 俺はこの状況も、この人達の事も、君達の事も、何も知らない。

 正直、どうやったら理解出来るかちょっとばかり想像がつかないって言うのはどうしようもないかな?」

 うそ臭いと言うか、笑顔なのに笑ってるように見えないとか、そういうのを感じるのは何故だろう?

「て言うかね……君達の常識ではどうだか知らないけど、俺の常識では悪い事をしたら本人がお詫びとかケリとかつけたりするものなんだけどね、どうなのかな? そのあたり」

 ちらりと視線を動かしたのを理解したのか、キャシーが「はい」と答える。

「ご主人様のおっしゃられる様に、犯罪の実行及び加担した者は当事者が罰せられるのが原則です。

 ただし、その者にパトロンがついている場合は当事者のみならずパトロンにも罰則が科せられます」

「パトロン……俺の居た所だとあんまり良い意味合いでは使われないんだけど、こっちではそうでもない?」

「そうですね……後見人という意味合いで投資を行っている方々が多いかと思われます」

「なるほど、ありがとう。

 つまり、そのドーンさんのパトロンがレン・ブランドン君って事なのかな? ところで、なんでキャシー俺を見えてないのによく応えてくれたね?」

「恐れ入ります、仕事ですので」

 そう言う秋水も、キャシーの事は先程以外では目線すら向けない。

 確かに、会って突然攻撃を仕掛けてきたと言う意味でのドーンの行動はあまりにも身勝手だ。これはギルドに関わりがある無しとは無関係だし、人として社会的生活を送る立場としても同じ事。

 普通ならば、ほぼ初対面の相手に攻撃をしかけてドーンと言えどただで済むと言うものではない。

 だが、今のドーンは平然と普通に通常の生活を行っている。一般的かどうかは別として。

 ドーンの起こした行動に関しては、当人がどう思っているかは別としてキャシーに報告義務がある以上は秋水の言動の逐一は記録され送られているのだから隠すと言う選択はない。加えて、ドーンを庇い立てる義理も理由もないし、その挙句でレンに何かあったとして、公爵家に何かあったとしてもキャシーには何の関係もなければ何の意味もない。


 でも、ドーンは実行した。

 けど、ギルドは黙認した。


 止めようとして止め切れなかったキャシーは報復手段に出るわけでもないし、やはり止められなかったレンもあの後に何があったかは不明だが今は常と変わらない。

 そう言えば、唯一変わったと言えばキャスレーヌで自ら志願して通常の教職の業務と現場に報酬無用で出向いていると言う。まだまだ始まったばかりだから結果が出るのはこれからだろうが、何かが変わる事があれば良いと知っている者は思っている。


不憫キャラと言うわけではありませんが、アインス・ツヴァイン君が二話にまたがり再登場。やったね。

アインスの方向性は「アイスブルー」と言う感じです。でも「クールミント」ではないのが不憫属性の理由です。意図したわけではないのですが、黙って立っていれば「俺様」や「鬼畜」や「眼鏡と白衣」の妄想を成り立たせる事が出来るかも知れません……7年くらい後に。


では今回の一言は、彼が出たら彼女も出なきゃいけないねって事でヒルデガルド・リヒテンシュタインちゃんです。

「将来の夢は玉の輿に乗った相手のお金で世界中を冒険して、お姉様の事業を拡大するお手伝いをする事です!」

カーラとは4つ違いですが……しっかりしたお子様です。入学許可を得る事が出来る年齢ではありますが、別に6歳を過ぎてから入るのも有りです。


※ 誤字脱字の指摘を受けましたので一部改正しました

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