35 とある学生の憂鬱
世界と言うものを巨大な機械であると仮定した場合、そこには様々な部品と言う名の「存在」が絡んで来ると認識をする事が出来るそうだ。
人の一人ずつが歯車だったり螺子だったりする。
どこかの銀河鉄道の最終回では「機械惑星を構築する重要な螺子」を幾つか破壊した事も崩壊の原因のひとつになっていたので、これはコレで間違いとは言い切れないんじゃないかと思う。
小さな問題は、それだけでは終わらない。
時に、その問題を放置する事で存在そのものの崩壊に繋がる可能性だってないとは言えない。
これは、どこかの不気味な泡みたいな思考になるのかな?
突然ですが、学園都市に一風変わった格好の男性とメイドが現れました。
ギルドの上位者の中で走った戦慄を思うと、この一文については変更をした方が良いのではないだろうかと事情を知っている者は思った。らしい。
らしいとは言っても、その「事情」を知ってる者はほぼ皆無なのだ。
だから、その「一風変わった格好の男性」はともかくメイドに関しては一部で有名な存在だったりする為に人の目が多く向けられるのは致し方が無いと言うもので。
「あのう……なんで俺、こんな目に合ってるんですかね?」
「偶然による結果でございますので、申し訳ございませんがご辛抱いただける様にお願い致します」
一人の少年がいる。
ここ暫くは幻影の中で漂っている様な、そんな目に合っていた少年。
名をアインス・ツヴァイン。
ここ数日は引きこもりもかくやと言う有様で研究室にもいけずにいたと言う現実に気が付いて、ようやく部屋から出てきた時には周囲の人達から漸く安堵の息が漏れたくらい、死相が漂うほどの顔になっていたのだから当然というものかも知れない。
自宅としている寮を出てから、およそ10歩ほど歩いた所で声をかけられた。
ここまでは良いだろう。
問題は、その人物だ。
情報ギルドに所属しているだけあって、アインスは一般人より情報に精通している。簡単で無料の範囲ならばギルドで公示された情報も、大抵のところにいても入ってくるようにはなっている。アインスの研究は、これをもっと一般的に普及させる事ではあるが、その道のりは果てしなく遠い。
最も大きな壁となって立ちはだかっているのは、その「一般の人々」の情報に対する意識の低さによる所にある。利便性を追求する為には何よりも情報が大切だと思っているアインスにとって、周囲の人々の意識の低さは絶望的だが、ドーンと知り合って研究室に入って意識は斜めにずれた。
これは、アインスの人生を変えたと言っても過言ではない……が、これは斜めに行き過ぎていて涙が出そうになる。
どうして、アインスは今ギルドの上位者とその警護対象者と一緒に喫茶店で食事をしているのかさっぱり判らない。理解出来ない、知りたくないのだ。
「あの……『女ちゅ……メイドさんくらいの方ならば、直接連絡を取る事は可能ではありませんか?」
アインスは街中でうっかり『女中王』と呼びそうになってしまってから慌てて言い直す。別にギルドの二つ名を恥ずかしいとか、口止めをされているとか、そう言う事はないが名前は大事だ。
「アインス様、恐れ入りますがキャシーとでもお呼び下さい」
「はあ……」
「キャシーは仕事に対して徹底しているね」
「はい、恐れ入ります」
目の前に座っているのは、アインスの情報が正しければ先日起きた件の被害者だ。
基本、犯罪者でもない限りは人が護送される事はない。大貴族や国王であろうと「勉学の徒にあっては皆平等(ただし出来の良し悪しと意識の差はあり)」なので、どんな国の王が視察に来たとしても徒歩が基本だ。
アインスの知る限り、何度かあったらしい取調べ的な何かは終わっている筈なので危険人物とは見做されていないという事なのだろうと判断する。何より、ギルドの上位者が側にいて何かがあると言う方がおかしい。
絶対の信頼感があるのは、ギルドに加入しているからだ。
「でも、たまには力を抜いても良いんじゃないかな? 一般のお店でそんな風に控えられると他のお客さんの視線が気になったりしない?」
「……配慮をいただき、ありがとうございます。
これは仕事ですので、どうぞお気遣いなく。置物か何かと認識していただければ幸いでございます」
そう言われて「そうですか、判りました」などとあっさり認識できる人などそうはいないに決まっている。
この間はこの間で、単に上司からの許可を得た上で任務を果たしただけだと言うのにレンに「悪夢」を見せられるし、あげく復帰した途端に今の状態だ。はっきり言って、何とかして欲しいと泣きついた所で慰めてもらう事はあっても虚仮にされたり見捨てられたりする事はない……と、思いたい。
「ご主人様、注文の品が届きました」
「出来ればだけど……その呼び方もどうかと思うんだけど……」
「仕事ですので、気になさらないで下さい」
「名前」
ふと、割り込まれた第三者の言葉に一斉に視線が向く。
店内はまさに混沌、一部の者は混乱の憂き目にあい。別の者は目を輝かせているし、ある者に至っては逃げ出すかの様な行動に出ている。
「ドーン……」
「お呼びたてして、申し訳ございません。ドーン様」
極普通の店だ。
時間もまだお昼時と言って良い、明るい日差しの指す店。
半分はオープンテラスになっており、人々が町を行き交う姿が見える。
はっきり言って、いきなり見た事もない格好をした人が客として来たり。その人物が一部で有名なメイドさんを連れ立っていたり、ついでに学園都市一妖しい事で有名な人物がぽんと現れたりする様な店ではない。談じてない。
そういう意味からすれば、アインスよりも店の方が余程不運なのだろう。
おまけに、学園都市一の美形生徒までついてるのだから叩き売りでもここまでサービスはしないと言うものだ。
「その言い方は、どういう意味なのかな? アインス?」
「俺が何か言いましたかね、レン・ブランドン?」
気分としては「負けるもんか」と「負けてるけど」とを行ったり来たりだ。
個人的な恨みという点では躾が該当するだろうが、アインスとてドーンが蒙っている迷惑の半分以上はレンが原因だと決め付けている……実際のところ、その認識は大変甘くて9割を超えていたりするが、そのあたりは知らないのだからどうしようもない。
「今のは、どういう意味?」
手で座るように示した後、男性は言葉にした。
一瞬の間があってから、座っている面々と立っているキャシーの間でアイコンタクトが成されていたが内容までは男性にはわからない筈だ。
「覚えていない、覚えない、覚える気がない」
「な……ドーン様……!」
明らかにうろたえた感があるのを頭上に感じた面々のうち、反応はそれぞれだった。
今の一言を考えると、つまるところ以下の通りになる。
キャシー(仮名)は「仕事」として人に仕えている→「仕事」である以上は終わりが来る→売れっ子メイドである以上は様々な人に仕える事になる→ギルドの仕事を併用しているので渡るおうちの数は沢山ある→渡りすぎて記憶力崩壊→いっそ名前を統一してしまえば面倒が減るんじゃないだろうか?
「ああ……だからかあ……」
「キャシーさん……」
「そう言えば「キャシーとでもお呼び下さい」って言ってましたね」
三者三様の言葉をつむぐのは、それぞれ感想が顔に駄々漏れである。
レンですら苦笑交じりになっている以上、それが褒められた事ではないと言いたげだ。
しかし、キャシーにもキャシーなりの言い分というものはある。そもそも、他家に仕事で出向いている間は元の家に仕えていたことを忘れていたわけではないのだ。
「皆様……」
「では、俺の名前は覚えていますか? 覚えていないんじゃないですか?
これは個人的観測に過ぎないのですが……きっと、貴方の過去にも何かがあったと言うことなのでしょうね」
何も知らない筈の男性が、何かを知っているかの様な事を言う。
これは、誰の心にも落とした一筋のしずく。
波紋を呼ぶ、一滴のしずく。
「秋水」
学園都市一の変わった風貌をした存在、それがドーンと呼ばれる存在。
「なんだい、ドーン?」
彼は知らないだろう、「学園都市一」と呼ばれる事が世界にとってどんな意味を持っているのか。
ギルドの上位者というのが、一体どんな存在であるのか。
そして、この学園都市に存在すると言うことの意味を知るはずがない。
何故ならば、誰もそんな事は教えてなどいないのだから。
「調子」
けれど、秋水と呼ばれた存在は笑う。
元から少し笑ったような顔を常にしている部分があるが、それが仮面なのか心からの笑みなのかは判らない。
そう。
誰も彼もが、秋水と呼ばれる存在とそこまで親しいわけではないのだから。
なのに。
「うん、不満とか不足はないね。
この服もありがとう、これは俺の居た世界の民族衣装で『和服』って呼ばれてるんだ。
最初にこっちに来たときの服も着ないわけじゃないけど、俺は普段は和服で通してるから用意してもらってすごくありがたい」
ぷいと顔を背けられたのは、別に特に意味があるわけではない。
聞きたい事だけを聞いたドーンが、いつの間にか用意されていたお茶を飲むために視線をそらしただけだ。だが、知っている者は欲しい答えが齎された事で満足している事を理解している。
「へえ……珍しい服だね、西法のものかと思ったけど少し違うかな?」
ちらりとレンがキャシーを見上げると、意図を汲み取ったのか意識を復帰させたキャシーは元の「出来るメイド」然として冷静な顔を作り上げていた。立派であり見事である。
ある意味、女性の方が精神的タフと言われる所以かも知れない。
「あれは、どっちかと言えば俺の居た国よりもっと西寄りの大陸で着てる人が多かった気がする。やっぱり民族衣装ではあるけど、日常的な普段着って感じでも着てたかな? こっちの人は洋服っぽいのが多いみたいだけど」
「へえ、僕達みたいな服装の人がシュースイ殿の世界にも居るんだ?」
「ああ……まあ……ね?」
歯切れの悪い言い方は、あまりにもあからさまだ。
恐らく、何か言いづらい事でもあるのだろう。その原因や理由というのを追究しても良いが、こんな日常牧歌的な周囲の目がありありな喫茶店の片隅の様に見えたど真ん中でする話ではない。逆に別にしてもかまいはしないが秋水と呼ばれた人物の人となりや背景と言うものが一般の人々に露見してしまう恐れもある。
とりあえず、今はまずいと言える時期だ。
何しろ、メイド最強のギルド上位者がほぼ一日付きっ切りになっているとは言っても状況的に秋水は「得たいが知れない」と認識されているのだ。ドーンとは異なり、秋水には何一つ安心できる要素がない。
「おや、アインス。ずいぶんとシュースイ殿と打ち解けたみたいだね?」
「え……いえいえ、そんな事は……」
「困ったな、そんな一気に固まられてしまうと僕が何か悪い事でもしたのかなって気がするんだけど」
「え……いえいえ、そんな事は……」
「それともアレかな? 僕に何か含むところでもあるのかな?」
「え……いえいえ、そんな事は……」
「さっきから同じことしか言ってないけど?」
しかも、目に見えてどんどん顔色は悪くなるわ、ガタガタと震えてきているわで、どう見てもこれ苛めてるようにしか見えないけど苛めてるようには見えないと言う無駄に細かい高い技術を用いているのだから、まともな神経の持ち主が見ていたら頭痛の一つや二つは簡単に覚えるだろう。
趣味が悪い、と言う見方も出来る。
「あれだね……レン・ブランドン君ってもしかして苦労性?」
きゅぴん!
何か、おかしなものが発動したような気が。した。
「……判ります?」
「細かい所までは判らないんだけど……なんとなく?」
「これは……僕もまだまだ修行が足りないみたいですね、気取られてしまうとは思っていませんでした」
「いやいや、これは年の功だと思っていてくれていいんだよ」
なんだろう、この人達やけに寒い。
もし、まともな……以下同文。
幸か不幸か、それを声に出す人は居なかったが思った事は唯一つ。
「あのう……俺、帰ってもいいですか?」
半泣きになっているアインスが逃げようとするなんて、そんな……ねえ? という意味で。
「「駄目」」
あからさまに良い笑顔で放たれた駄目出しについて、キャシーは僅かに視線をそらし。
ドーンが通常運行だったのは、言うまでもない。
いきなり、レンと秋水の高感度がどかんと上がってます。間違えました好感度です。
こいつら、どうやら類似点が多いみたいです。
まあどちらも親の権力とか財力とかはあるみたいですがね。
方向性は違う二人なので、同じ学校の幼馴染とか言ったら話はまた変わるかも知れませんねえ。
と言うわけで、今回の一言はテールトーマス君です。
「姉上ともども、よろしくお願いします」
両親は尊敬しているけれど、それよりも双子のヒルデちゃんと姉上のほうが大事ってあたりブレがない子です。でもカーラの2Pカラー。




