32 忠犬と駄犬の違いについて
突然ですが、僕はわんこ大好きです。
にゃんこも好きです。
鳥さんも好きです。
お魚も好きです。
ねずねずも好きです。
いっぱい好きです。
でも、皆先にいってしまうのは寂しい事ですよ。。。
第31話 忠犬と駄犬の違いについて。始まります。
馬鹿な子も、かしこい子も皆可愛いんです。
「失礼致します」
芳しい匂いをさせながら並べられたのは、お茶のセットと数種類の軽食を含めた焼き菓子だ。
たった今焼いたと言うわけではないだろうが、漂う香りにくすぐられる鼻腔が空腹だとありもしない幻覚を訴えてきて困る。
「すごいですね、いつ焼いたんですか?」
「ご主人様がお休みになられている間に、些少ではございますが用意をさせていただきました」
角度はびっちり60度と言った有様なキャシーは、愛想の欠片もない状態で提供をする環境に対して何ら思う所はなさそうだ。
逆に、先程「秋水」と呼ぶように告げた青年は居心地が悪そうに見える。
恐らくは、今は何もかもが困惑の対象なのだろう。
色鮮やかなお茶も、一口大の並べられた数々のお菓子も、視界的にはそう見えるだけで実情が伴っていないのだろう。もしかしたら、手を伸ばしたら消えてしまう幻にでも見えているのかも知れない。
「不思議ですね……さっき、ちょっとばかり信じられないほど沢山食べたんですけど。なんだかお腹が減ってきたんじゃないかって気がします」
「そう言う事も、ままあるものですよ」
比較対象がないのでなんとも言えないのは確かだが、本人も驚くほどとはどれだけ食べたのだろうかと言う気がしてならない。が、その当たりは華麗に無視した。
「無いっちゃあ……無いというか、あると言うか……」
どっちなのだろうかと、言った本人が誰よりも悩んでいるのだから余計な事は言わないほうが良いだろう。
「えっと……?」
「ああ、僕の事はレン・ブランドンと呼んで下さい。シュースイさん、でしたか?」
ホストと客が逆転したかのように見えるが、少なくとも秋水は最初から自分が招いている側だとは思っていないのは確かだし。かと言って、他に音頭を取れるものも居ないので苦肉の策といえばそうだった。
本来ならば、この場を取り仕切らなければならない筈のキャスレーヌは先程の一見以来大人しいものであり。
「そうです。秋の水と書いて秋水……屋号なんですけどね」
「屋号? 店名や愛称の様なものですか?」
「まあ、そんな感じです」
秋の水とやらに、一体どんな意味があるのかをレンは知らなかった。
だから、反応としてはそんなものだった。
「レンさんは、外国人の方ですか?」
ぴくりとレンの眉が反応したが、ただそれだけだった。
「あの、レンさん……」
「ご主人様、差し出がましい事を申し上げる事をお許し下さい。
こちらの方のお名前は「レン・ブランドン」様ですので途中でざっくりと切り落とすのはいかがなものかと……例えて言うならば、ご主人様のお名前を「うす」と呼ばれるのと同程度の失礼さ加減ではないかと思われます」
その言い方も認識としてはおかしなものではあるが、レンからの反応はなかったので然程の間違いと言うわけでもないのだろう。正しいともいえないが。
「キャシーさん……ええと、そうなの? ありがとう」
「いえ、礼は必要ありません。
それから、私はメイドですので敬称は不要でございます」
「でも……」
必要な事だけを行動し、必要な事だけを口にしたキャシーはなんというか、まるで次の瞬間には飾ってある彫像の様だ。もしかしたら、放っておけばそのままピクリともしないで立ち尽くしているのではないかと言う気がする。
当然、秋水も給仕をしてから控えたキャシーに同席を申し出たが「仕事ですので、お気遣いは無用に願います」と言われてしまうと強くは言えない。
「では改めて……あの、ここはどこなんでしょうか?」
秋水がこの屋敷に現れて、目覚め、支度をしている間にキャシーと交わした会話は決して多くはない。
その間に秋水が持った疑問は、キャシーの事でも家でもなく「キャシーが何をしているか」と言う事と「どうしてここに居るのか」と言う事だけだった。
理由として考えられるのは、恐らく混乱の真っ只中に居たことで何をどうこう言う状態ではなかったと言う事に過ぎないのだろうとは思われる。
実際、眠っていたり気絶したり貧血を起こして倒れている時間の方が今のように落ち着いて話が出来る状態より全然多かったのだから、そんな余裕がなかったと言う見方もある。
「ここは学園都市と呼ばれています」
さらりと言われた言葉……その際、口元に傾けられたカップを持つ姿の美しさにぽうっとなる人物が皆無ではなかったのは、果たして計算なのか偶然なのか。
「学園都市……ですか、呼び名じゃなくて地名を知りたいんですが……と言うか、言葉が上手ですね」
その瞬間走った何かを、秋水は感じたのだろうか?
もしくは、判ってて口にしたのだろうか?
学園都市と呼ばれる場所に、もはや地名らしい地名など存在しない。
かつてはあったかも知れないが、歴史からは遠く離れている。
「それは……どう言う意味ですか?」
ちらりとレンがドーンを見て、それからキャシーを見る。
ドーンは相変わらずで何を考えているのか正直わからないが、キャシーは秋水からは見えない位置にいるせいか目まぐるしく計算と判断を行っている様だ。
「どう、とは?」
あまりにも危うい言葉を口にしていると、秋水は気が付かない。
知らないのか、それとも判っているのか、まだレンには判断がつかない
これは慎重に話を持っていかなければならない、と思った時。
「違う」
ドーンのぽつりとした言葉が、決して大きくはない声が、室内に響いた。
「……違う?」
おずおずとしながらも、レンの動作につられたのかお菓子やお茶を口にし始めた秋水が訝しげな顔をする。
そこで、やっと初めてそこに人が存在するのだと認識したかの様だ。
つい、今し方。その人物にハンカチを差し出してもらったばかりだと言うのに……それとも、そこまで神経が回っていないのか。恐らくはそうだろう。
「どうやら……話はずいぶんと大きく、複雑な様ですね。
失礼ですが、シュースイ殿の覚えている限りの記憶を教えていただけませんか?
確実とお約束するわけには参りませんが、ある程度のお役には立てるかと思います」
はっきりとは言わないあたりに作為を感じるが、逆に好感を持ったのだろう。または、悪意を悪意として認識していないのか、大抵の事は何とかなると思っているのかのどれかだ。
「大きく複雑って……そんな大した事じゃないと思うんですけど」
「それを判断するのは、こちらです。
何しろ、シュースイ殿は明らかに許可されて学園都市に居る存在ではない。かと言って、どこの人なのかも判らないのであれば無許可で立ち入ったシュースイ殿を送り届けるにしても、抗議をするにしても場所が判らなければね」
内心は激しく焦っていたが、そんな内面をレンは欠片も出さなかった
涼しい顔をしながら話を進めるレンの姿は、やはり次期公爵として教育されただけはある。
これは政治的な判断が必要なのだと言う言葉の外側の意味を、どうやら秋水も理解したらしい。元々、お互いが「あれ、なんかおかしくないか?」と言う想像はある程度していたのだ。
「そうですか……それもそうですね。
俺の記憶、ですかあ……目が覚める前ですよね。多分、あの時も普段と変わらなかったんじゃないかなって思うんです。ちょっと記憶が曖昧なのはサラリーマンやってるからじゃないんですけど」
「学生ではないのですか?」
「いや、流石に俺の年で学生やってる人って。いないわけじゃないけど、社会人学習とかそういう感じになると思うし。とか言っても、今の経済じゃ社会人を企業が金出してまで就学させたり出来る会社ってあまりないと思うんだよね。せいぜい語学研修とかくらいで」
「失礼ですが、シュースイ殿の年齢は?」
「俺は二十歳は超えてますよ、と言ってもここ暫くは半分引きこもりみたいな生活してたんで……えっと、今って何年ですか?」
あまりにも童顔と言って差し支えない童顔さ加減に、流石にレンの目が一瞬だけ動いた。
キャシーも可能な限り我慢しているみたいだが、全身がぴくりと動いたのは見る者が見れば理解できただろう。
どう見ても、秋水の年齢はまだ10代にしか見えない。
「レン……ブランドンさんは、お幾つなんですか?」
「御恥ずかしながら、若輩者でして。まだ成人もしておりません」
「へえ、お若いのに貫禄があるんですね」
にこにこと微笑まれるが、別にレンが老け顔と言うわけではない。
どちらかと言えば、レンの顔も十分童顔の部類には入る。
学園都市には様々な地域から様々な人種が集うので当然だが、顔だけで年齢を判断するのは早計と言わざるを得ない。そう言う意味からしてもレンの様な童顔の者は特殊な状態で無い限りは軽く見られる事も少なくはないが……経験の差なのか、それとも。
「いきなり何をなさいますか、ドーン様!」
それは、突然起きた。
あまりにも突然すぎて、考え事をしていたレンも当事者である筈の秋水も身動き一つ取ることは出来なかった。ようやく動く事が出来たのは、全てが終わってから……否、全てが始まってからだった。
「違う」
一体どこに隠していたのか、ドーンはいつの間にか先端に飾りのついた棒を手にしていた。
それを、いきなり振り上げて秋水へと襲い掛かった。
ドーンが本気ではないのか、それは判らない。判っているのは、秋水へと襲い掛かったドーンの前にキャシーが立ちはだかり、手にしていた箒でドーンの攻撃を防いだ。
その間、およそ2秒。
男二人が事態を把握する事が出来たのは、それからたっぷり30秒はたってからの事だった。
「ドーン!」
振り上げられた最初の一撃を止めたキャシーは、テーブルの上に載っていた。
ただし、テーブルの上にセッティングされたお茶は一滴たりとも零れていないし焼き菓子は一つたりとも落ちていない。
テーブルから静かに下りたキャシーは、視線をドーンから外さぬまま秋水の腕をつかんで立たせる。
「ご主人様、ここはお下がり下さい」
「……え」
「理由は判りませんが、ドーン様からご主人様は攻撃を受けております。
ご主人様をお守りするのは私の契約上の役目、ここはお下がりいただき必要であるならば学園都市のギルドへ救援をお求め下さい」
とん、とキャシーは立ち上がった秋水を軽く押しのける。
「正直な話、私の腕でドーン様を確実にお止め出来る自信がございません」
内心、キャシーは複雑だ。
己の実力を熟知している以上、ドーンを相手に完全勝利は無理だろう。
そもそも、どうしていきなりドーンが攻撃をしてきたのかが全くわからない。
あれだけの日々の嫌がらせ等を身に受けて、それでいて全く反応をしない様に見えるドーンが何故。
一体、秋水の何が気に食わなくて突然攻撃を仕掛けてきたと言うのか、キャシーには想像もつかないのだ。
「ドーン! 一体何が……どうしたって言うんだ!」
一撃をかわされた後、ドーンは一歩下がる。
距離を測っているのだとは判ったけれど、レンにもどうしていきなり秋水を襲い掛かるようになったのか全く理解出来ない……秋水を発見した時の事を思えば、どす黒い何かが心の中を広がってゆくのをありありと思い出す事が出来るのは確かだ。カーラの時の事だって思い出すと腹が立つのは確かだ。
けれど、今までのドーンは突然誰かを襲ったりはしなかった。
「先生! キャスレーヌ先生!」
はっとなって、キャスレーヌは呆然としながらも視線をレンへと向けた。
レンの瞳が自分自身を見ていると思うだけで心が蕩けそうな気がしてしまうのは、これはもう本能レベルでどうしようもないので脇に避けて置くけれど。
必死になって、自分自身を見てくれるのは嬉しいけれど。
「な、何?」
言葉を交わすだけで天に昇るような気持ちにすらなるけれど、でも。
「早く! 教師権限でドーンを止めてください!」
だけど。
「……ごめんなさい」
わんこ、にゃんこには、人で言えば5歳児程度くらいの知能があるといいます。
わんこは寝てる間に一日の記憶を反芻している事があるといいます。
どうやって知ったんですかね?
何度か、寝ていたわんこが泣きながら吼えたりして目を覚まし、ほっとしたのか再び眠るという姿を見た事があります。
一体、わんこはどんな夢をみていたのだろうか?
きっとバウリンガルでは判らないのでしょうね。
さて、今回の一言はアンレーズ・フォン・ブーリン伯爵令嬢です。
「あなたってえ、人のこと舐めてるでしょー」
て言うか、初期設定ではヤンデレだったんですが…てか、ヤンデレってどう書けばいいんですかね?




