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31 遠い惑星から来た犬

先にネタバレをしてしまいますと、新キャラの名前はすとんと何の意味もなく突然にぼたもち的な感じで現れました。

正確には、新キャラの本名というか戸籍上の名前を考えている時というのが正しいですね。

新キャラに関しては一つ二つばかり可能性的オチがありますが、どこに落ちようとしてるのか正直判りません。

気分はガラスのロープを目隠し渡るどっかの宇宙世紀系なEDです。

 その人物は、静かに泣いていた。

 理由が判らない。

 今の今まで、自分達を目にする瞬間まで少し困った様な笑い損ねたかの様な顔をしていた。


 身長は、少し高めと言えるだろう。決して小柄ではない。

 状況を考えると、それでも体格は良い方だと言えるだろう。体力テストをした方が良いかもしれない。

 言語は問題なく通じると、すでにこの家に居た者から聞いていたから意志の疎通は問題がない筈だ。

 髪の色は焦げ茶と言った所で瞳の色は黒。特筆すべき事は何もない。

 どこにでも居る村人その1だといってしまえばそうだし、街中にいたら紛れる事に苦労はしないだろう。

 ただ、どこまで常識が備え付けられているのか判らないと言うだけで。


「どうしたんですか?」

 状況的に、レンが最初に口を開いた。

 ドーンは基本的に自発的に言葉を発する事がしないのは判りきっているし、キャスレーヌ女教師は状況が判らなくておろおろとしている……頼もしい目でレンを見る視線を全く感じていない辺りレンの図太さ加減は知れるというものだ。

 見たことのあるメイド姿の人物も、聞いた話では「ほぼ完璧」に仕事をこなす事はあっても決して仕事として敷かれた境界線を乗り越えようとする事は滅多にない人物だと言う。と言う事は「出来る使用人」を気取っている場合、主人から命令がない限りは補助以外の自発的行動を一切行わないと見て良いだろう。

 つまり、他に出来る者がいなかったと言う事になる。

 彼に、泣いている理由を問いかける事が出来る人物が。

「え……と、俺、どうしたんですか?」

「いや、こちらが聞いてるんですが……君は?」

 えぐえぐと泣き始めてしまった青年を前に、戸惑いや困惑を覚えないと言ったら嘘になる。

 元々、レンの場合は女性相手に会話をする方が圧倒的に多いので同年代や少し年上と言った感じがする男性を相手にする事は決して多いとは言えない。

 何しろ、実家を出るまでは家人くらいしかまともに男性と会話をする機会などなかったくらいだ。

 幾つかある理由の一つとして、これもレンがギルドを毛嫌いした理由の一つでもあったりする。

「キャシーとでも、お呼び下さい。レン・ブランドン様」

 家の入り口で出迎えてくれたのは、レンの記憶が確かならば「あの場」に居た女性の筈だ。

 取り立てて記憶して置く事もないだろうと判断したので記憶が曖昧だが、ドーンが止めない以上は間違っていないだろう。キャスレーヌは気が付かなかったみたいだが、何故気が付かないのかが理解出来ない。

「では、キャシーに問いかけよう。

 あの青年は、一体何に対して涙を流している? 我々は何か、彼に対して非礼を行っただろうか?」

「お答え申し上げます、レン・ブランドン様。

 それは「不明」であると。そして、皆様は決してご主人様に対してお詫び申し上げなければならぬ様な行いを室内に入ってからは行っていないと」

 何やら遠まわしな言い方ではあるが、キャシーの言っている事は間違っていない。

 まず、この部屋に来るまでキャスレーヌが相変わらず自分勝手な物言いでヒステリーを起こしていた。個々まで来ると、どうやらキャスレーヌの見聞きした全てが気に食わないと言う状況になっているのではないかと言う気がする。

 加えて、この部屋で少し待たされたと言う事実がある。

 と言うのも、キャシーは最初から危惧していたが「彼」は身支度を整えようと風呂に入った所。案の定、貧血を起こして倒れた。回復を待った上で脱水症状も起こしていたので、ある程度の胃腸に良い食事をさせて回復を待っていた事もキャスレーヌにはぶちぶちと文句を垂れる理由となった。

 でも、それは「彼」にとって「客人」に対する非礼とはならない。

 こうなる事を予測し、知らせがあり、承知の上で三人は訪れた筈だったし、レンもドーンも何も言わなかったのだからキャスレーヌが一人できーきー言っているのがおかしいのだ。

「あんた、キャシーって名前なのね」

「偽名ですが」

「偽名なのっ?」

「仕事で実名を名乗る者は一流とは呼ばれる立場にある者ではありませんので」

「はっ! あんた……」

「マルグリット・キャスリーヌ様とて、実名はすでに失われておりますので大差ございません。

 ギルドの二つ名とは、その為のものでもあるのでございます……ああ、これはレン・ブランドン様に申し上げるべきでございましたね。失礼を致しました」

「キャスレーヌよ! 人の名前もまともに覚えられないわけっ?」

「おや、これは失礼を致しました」

「あんた……欠片も思ってないわね」

「いえ……まさか。個人的感情を仕事に持ち込むほど未熟でありたくはないと常より感じております」

 ギルドに関わる者はよほどの事がない限り過去の名前を捨てる風習があると言うのは、レンにも聞いたことがあった。けれど、その意味をレンは知らない。

 ふと、誰に何を言われたわけでもされた訳でもないのにレンは。

 腕の中に居るはずの、その人物を確かめたくなった。

 けれど、腕の中に居るはずの人物は常と何ら変わる事はない。


 腕の中に今はいる筈なのに、腕の中に居る様な気がしない。

 声をかければ反応するのに、自分自身に対して反応したのか確信が持てない。

 手を伸ばせば届いている筈なのに、その確信が持てない。


 全ては、跳ね返りますよ。


 苦い過去の言葉が素敵なフルカラーと音声で脳裏に蘇ってしまい、珍しくレンは苦虫を噛み潰したかのような顔をしていた。

「私に関してはいいのよ!」

 まるで、レンの思考を遮るかのように響いた声のおかげでレンは我に返る。

 もし、今このままレンの思考が突き進んだとしたら……一体どうなっていたのかと思うとぞっとする。

「それに、そんな事を言うならドーンはどうなるのよ」

「ドーン様、ですか……」

「在学中の生徒の名前を変えるなんて、聞いたことないわよ。結婚でもしない限りはね」

 当然と言うかなんと言うか、学園都市には様々な事情を持った生徒達がおり。

 リリィやアンレーヌ、レンの様な貴族しかり、カーラのような一般市民しかり。

 中には、家庭の事情で婚姻や離婚の為に名前が変わる事も滅多にないわけではないが。かと行って年間でゼロと言うほどでもない。また、諸事情が絡んで養子縁組とか言う話もまったくないわけではないが、ドーンがそういう事になったと言う話は聞いたことがない。

「ドーン様には、学園都市に入学される前からすでに二つ名はございましたので問題がございません」

「「え?」」

 キャシーの言葉に、キャスレーヌとレンの言葉が重なった。

 どう見てもまだまだ若い……ように見えなくもないドーンが、入学前に二つ名を持つほどの実力だったと言う話は滅多にあるわけではない。

 勘違いされる事もままあるが、ギルドの二つ名は伊達ではない。

 確かに、ある程度の年数を重ねて特に大きな失敗もない場合に送られる場合もあるが。かと言って年端もいかない若造扱いされているドーンやレンの年齢で、しかも学園都市の生徒と兼業で得られるほど二つ名は生易しいものではない。

 若ければ若いほど取得しにくいのが、二つ名の特性なのだ。

 かと言って、無駄に年齢があがれば取れるかと言えばそうでもない。ギルドに所属すると言うのは、トラブルに自ら飛び込むのも同じ。はっきり言って、数年でも無事に済むと言うものではない。

「ご存じないのも無理はありません」

 フォローと言うわけではないが、キャシーは話を続けた。

 ギルドに所属するからと言って名前が変わるだけであって、生まれや育ちが変わるわけではない。過去が変わるわけではない。

 別に、それだけが理由ではないが「正式なフルネーム」と言うものが一般的ではない事は大いに役立っている。

 そして、二つ名を得られるようになると言うのは名前が増えると言う事や権力を持っている事を含めて立場を確立させると言う意味もある。だからこそ、二つ名を求める者は決して数が少なくはなく、そして求めない者は知らないか変わり者と言われるのである。

 しかも、ドーンは二つ名の話を幾度となく拒否して何とかギルド長達が連携して受け取ってもらえたのだと言うのだから驚くにも程がある。

 そういう意味からすれば、いかに結界の外側の9割を感知しない仕様になっているとは言ってもドーンにとってほとんどの出来事と言うのは子供の児戯に等しいと感じてもおかしくはない。

 幸いな事に、キャスレーヌはそこまで考えが至らなかったのか何も言わなかったが。

「つまり……ドーンは……」

 何を言いたいと思ったのか、レンには言葉にして置いてよく判らなかった。

 ただ、考えるよりも先に体が勝手に言葉を発していたに過ぎない。

「現在確認しうるギルドランクでは、最高峰にあると認定されております。表向きは公表されておりませんが」


 でも、ギルドに所属している者が調べようと思えば判らないわけではないのですよ。


 そっと続けられたキャシーの言葉に、半ば放心状態なのかキャスレーヌは何も言わない。

 いかにキャスレーヌと言えど、上位ランクの相手にキャスレーヌが居丈高で居る事が良い事だとは思って居なかったが、相手は生徒である事もあって対等くらいまでなら対応も許されるだろうとお思っていた。増長していた事も気が付いていないわけではないが、まあ仕方ない部分もあるだろう。誰も止めなかったのだから。

 だが、流石にギルドの最高峰とまで言う相手に今までの罵詈雑言の数々を思うと今の自分自身が無事に過ごしている理由が全く判らない。

 温情をかけられたのだとは想像がつくが、どうして温情をかけられたのかも想像はつかない。

 そこまでの縦社会ではないが、実力者におもんばかるのは当然の事だ。幾ら恋に狂ったキャスレーヌでもそこまで狂った判断などは出来ない。命が危うい。

「ドーン?」

 すっと動いた毛布の塊……ソレを、頭の中では蔑むべき毛布の塊だと思っている反面。とんでもないものを相手にとんでもない対応をしていた自分自身を思ってキャスレーヌは混乱した。

 混乱したあまり、がくがくと震える体を自覚していなかったけれど一歩も身動きなど出来ない状況になっている事だけは判った。

「……君は?」

 ドーンがしたのは、泣いたまま放置されていた男性に差し出された手だった。

 手には、一枚の布地がある。ハンカチだ。

 真白いハンカチは一点の汚れもない。

「ありがとう」

 答えはなかったけれど、男性は泣きながら笑みを作ろうとして失敗していた。

 受け取ったハンカチを見て、また涙が余計に溢れ零れ。

「ドーン」

 すっと、ドーンの体が後ろに引っ張られた。

 ようやく、男性は己の手が無意識に長衣と眼鏡で顔もわからない不可思議な人物を相手に手を差し伸べているのが判った。ついでに言えば、差し伸べた手をどうするつもりだったのだろうかと更に不可思議な顔をしながら、置き場のわからない手を左右に振っていた。

 どうやら、本気で自分自身でも手をどうするつもりだったのか判らなかったらしい。

「ドーンさん、って言うの?」

 受け取ったハンカチで顔をぬぐい、それを手にどうしたら良いのか迷っている風だった。

 一通り顔をぬぐったところで、ハンカチについた涙の染みを相手にどうしたらよいのか。

 そのまま返せば良いのか、それとも洗って返すべきなのか。

「そう言う貴方は?」

 ドーンを引っ張ったのは、ある意味言うまでもなくレンだ。

 レンは男性以外には見えないのを承知で険しい顔をして、それで居てまとう空気を剣呑なものには可能な限りさせていないと言う器用な事をしていた。成功しているかどうかは別だが。

「ええと……じゃあ、俺の事は秋水と呼んでくれ」


新キャラの名前は「秋水」と書いて「しゅうすい」と読みます。

最初に検索して出てきたのは「ドイツのメッサーシュミットを日本で改造した戦闘機」だったのでこけそうになりました。ナニソレ。

てか、日本軍の名前の付け方風流だなあ、おい!

流石は和紙気球で太平洋越えただけあるわ!!(という作戦があったそうですよ)


今回の一言は、早速の新キャラな秋水です。

「あれ、いきなり俺が登場していいの?」

どうせ偽名ですから。


2012-10-14:単語にルビをふりました。

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