表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/108

2 君の知らない事

貴族階級のことなんて一切存じません。

彼らの世界も地球世界とは関係ありません(魔法がある時点でお気づきだとは思いますが)

好きな言葉は「人は見かけによらない」です。


 ドーンと言う人物について尋ねれば、代名詞は一つしかない。


 うさんくさい。


 その一言に尽きる。

 別に、側に光か宝石の様にきらきらと効果でもかかっているのではないかと思われるほどの権力と美貌を兼ね揃えた次期公爵閣下が付きまとっているからではなく……ちなみに、周囲に言わせればドーンが付きまとっていると思っている人も掃いて捨てるほど存在する。単に、その外見からの問題だ。

 ドーンは、この学園に所属する魔導師だ。見習いですらないが、その事実はあまり公にはなっていない。

 学園に所属し、学園や私的に依頼を受けて魔法的な分野。またはそれに付随したりしなかったりする項目によって料金を稼ぐフリーの何でも屋と言っても過言ではないだろう。だから魔導師と言うのもある意味おかしい、通常は教職にでも付いていない限り魔導師ではなく魔道士と呼ばれるのが普通だし、外聞的には学生や冒険者と言うのが正しいだろう。


 そう、ここは一つの学園都市。

 あらゆる産業、文化の発生と発展の種を生み出す町。

 多くの国から援助を受けて成り立ち始めた都市は手出し無用の不文律の中心地でもある……とは言っても、まったくの介入無用と言うわけにもいかないのが現実ではあるが、その当たりは無駄に権力を持っている狸や狐が馬鹿騒ぎをしていれば済むだけの話であり、実際にその「中」で生きている人たちにとってはさほどの問題でもない。

 もともと、この地には神話に繋がる伝説がある。

 その伝説そのものは世界をひっくり返すようなものではないが、何事も使いようと言うものだ。

 何しろ、この世界には魔法が存在するのだから。

 魔法は自然の理を読み取ったり、利を生かしたりするもの、または使用者の精神や生命に関わるものまでバラエティに富んでいる。

 ある意味、最も可能性があり。また、まったく可能性がないのが魔法と言えた。

 何故、と問われれば魔法に携わる者は口を揃えて言うだろう。

 魔法は基本的には調べつくされてしまったのだと。

 あとは、使用者がそれぞれの独自的発想を以って応用に活用する「しか」ないのだと。

 間違っているわけではないが、決して正しくも無い。

 それが、世界における魔法の概念である。


「レン、15分」

 ドーンは手に持っていた鈍い色をした入れ物をレンに渡すと、少しばかり酷な事を言った。

「え、混ぜるの? 手でやんの?」

 入れ物は中身が空で、レンの持っているガラスの入れ物がそのまま入る仕様になっているらしい。

 大人の男性が片手で何とか持てる程度ではあるが、まだレンの手はそこまで成長していない。加えて、多少の重さを感じる……質感からすると金属にも思えるのではあるが、そこまでの冷気を感じない。

「どうしろと?」

「いや……ほら、確かお菓子作りの道具とかでもあるじゃない? 手を使わなくてもかき回す奴」

 流石にレンは男性であり貴族だから撹拌機の名前までは判らない……町に出歩いて遊びまくったりしていることはあるので、製品は知っていても使ったこともないから知識が偏っているとも言う。

「ある」

「じゃあ……」

「無い」

 あるのか無いのかどっちなんだよ、と思ったけれどレンは流石に口にはしない。

 話の流れを推理すれば、持っていないと解釈するべきなのだろうとは思う。

「で……これ何なの?」

 硬いし冷たくはないけれど、片手で持ちきれない程度の大きさと体を鍛えるにしてはもち手がつるつるしている気がする物体。

 とりあえず、投げて当たったら痛そうだという程度の印象しかない。

「ドーン?」

 へそを曲げてしまったのだろうかと言う気もするが、逆に静かになってご機嫌なのかと言う気もする。

 本来、ドーンもレンもこういうしゃべり方が普通なのであって一から十まで懇切丁寧に解説をする様な性質は持ち合わせていない……ドーンはともかく、レンは周囲の女の子達から引っ付かれてる事が日常なので、流石にそこまで自分勝手に過ごすことはあまりないのだが。

「口はいい」


 つまり、手を動かせという事ね。

 言わないと言う事は、もしかしたら何か可愛い企みでもしているのだろうか?


 そんな風に想像をめぐらせる事が出来る人物は、少なくとも学園の中でレン程度のものだろう。

「あれ、ドーンはどこに行くのさ?」

 別の作業をするのであれば奥の作業台にいるだろうが、ドーンが向かったのはレンの背後……扉は外へ出る事が唯一出来る。

「止めるな」

 こんな会話がなされたと三人娘が知ったら、恐らく鬼のような形相になるのだろうと言う事をレンは知っている……と言うより、過去数度は起きた現実だ。しかも、割と生々しい記憶だ。

 ぶっきらぼうで必要な事の3割程度しか口にしないドーンが昔さながらに普通にレンと相手をするのだから周囲の主な女の子達はドーンへ鬼の首でも取ったかのように言葉で襲撃する。後日は手が出たり足が出たりもする……流石に直接的な妨害等は多くはないけれど、湾曲的なものであれば思い出すだけでいやになる程度はそこかしこにあったものだ。

「はあい、いってらっしゃい……」


ーーーーーーーーーー


 ドーンは、常に全身をフード付きの長衣を身にまとっている事が最大の特徴だ。

 下手するとろくに顔も見えない程度に覆われているのではじめてみた人は幽霊か何かと勘違いしてしまう事も少なくはなく……レンの側に居るから大変なんだろうというのは一部の人の意見であって大体の人はレンの側に居るのは相応しくないと大不評だ。

 それでも、ドーンにとってそんな事は些細なこと……頭の中をほとんどが考え事で埋め尽くされているドーンの中に他人からの評価なんてものが入り込む余地はない。

「ドーン、大丈夫だったか?」

「……いつもとおりだ」

「それ、大丈夫とは言わないんじゃないか?」

「どうだろうな?」

 ドーンに声をかけたのは、続き部屋の研究室の面々だ。

 意外かも知れないが、どこか似たような気質を持っているせいかドーンはこの部活の部長をしている。部長権限と学校側からの依頼を数多くこなすことが多い事もあって個室を持っているのはドーンだけだが、もともとがそこまで研究室を個人で持つような作業をする者は多くない……他の人たちとやっていれば、問題があれば逐一丁寧に教えてくれるし。また、人に意見を聞くことも出来るからだ。

 別の意味で意外だとは思うが、彼らは研究者であるよりも研究者の卵。

 最初に研究の道を開いてくれたドーンの事を尊敬し、仲良くしてくれる数少ない人物達……とは言っても、、この部屋の中でだけではあるが。

「どうだろうって……」

「面倒」

 翻訳するならば、手立てがないわけではないが実行をするに当たって手順を脳内で構築しただけでもため息物だと言うのに実際に行動を起こすなんて鬱陶しいことこの上ない事をするほど暇じゃないんだけどな。

 と言う事になる。

「面倒って……」

 付き合いの長いレンでさえ、正確に読み取るのは至難の業だ。恐らく検証こそしたことはないけれど正解率は7割といった所だろうとドーンは思っている。

 言葉の表面上しか読めない普通の一般人にいたっては、本当に額面どおりに受け取るだろう……流石に、この部屋の入出を許され研究の許可を出されている彼らには多方面の意味でその限りではないのだが。

「そうだよなあ、それに効果があっても家に対してであってあいつらには効き目なさそうだもんなあ……」

 何の作業をしているのかは判らないが……彼らの研究分野にはあまりにも光や温度に影響を受けやすい物質を取り扱うことが多い事もあって、常に室内は薄暗い状態だ。それでも手元だけ光をやんわりと灯したり暗闇でもある程度は物を見る事が出来る眼鏡をかけたりして研究に勤しんでいる彼らにしてみれば、研究者どころか人の研究の邪魔しかしない三人娘は天敵も良い所。だというのに、無駄に権力と財力を持っているのだから出入り禁止にしたいのが本音ではあるが……あのレンがこの部屋に来るのに付いてこないというのはなかなかに難しい。

 彼らはよく知らないが、一度ならずとも三人娘は奥のドーン専用研究室でも揉め事を起こしており。一度、何やら物凄い状態になって学長にまで話が通ったときなど一ヶ月近く三人はこなかったりもしたのだが……流石にトラウマは植えついた様だが、にも関わらずレンが来るからと言うだけの理由で再び現れる気になった根性だけはこっそり尊敬しても良いかもしれないけれど死んでも言わない。

 これは、研究室共通の公式見解だったりする。

「次はやる」

 ドーンの口調は基本、抑揚が少なめで静かな言葉だ。

 だが、それ故に感情的になった時のドーンがどんな反応をするのかは好奇心半分、恐怖心半分と言うのも研究室の共通した公式見解……これは本人には流石にバレてると思われるが、実際に誰かが行動に起こすわけではないのだからなんとも言えないのが現状だ。

「次があるんだ……」

「あいつら、何をやったんだ?」

「てか、ドーンはあいつらどうするつもり?」

 流石に顔面が引きつったのを感じた面々が、詰め寄る事こそしないものの好奇心半分、恐怖心半分と顔に張り付かせて……若干と言うか半分以上は好奇心が上回っているような気がするのは気のせいなのだろうか、果たして?

「……秘密」

 白い。

 意外な事だと誰もが思うが、ドーンの指は白く滑らかで細い。

 長衣にぐるぐる巻きになっているのではないかと勘違いしたくなるほど包まれまくっている……もはや長衣の中に人が居ると言う感想を抱くものがほとんど存在しないと言うのは、何やら問題なのか都市伝説なのか判らない状態だったりするのだが。それでも、ドーンの皮膚を見る事が出来るケースが稀である事を研究者達は思い出した。

 人差し指は、恐らく唇があると思われる顔の辺りに添えるように触れている。

 ドーンは長衣で全身を包んでいるし、垂れた前髪が顔を隠し、その上で大きな眼鏡が余計に顔を隠しているから誰もが素顔を聞かれたら長衣と眼鏡しか思い出すことは出来ない。

 いっそ、あまりの徹底振りに感嘆の息を漏らすものが過去に何人かいたそうだ。

「出かけるのか、ドーン?」

 言葉の外側には、まだ三人娘が扉の向こうにいるんじゃないか。居たらどうするのかと心配をしているように聞こえて、こっそりと内心で暖かい感情が沸き起こるのをドーンは感じる。

 良くも悪くも、彼らは研究者だ。

 この研究室は学生であるにも関わらず学園に貢献しているドーンの功績によって与えられた箱庭であり遊び場であり、彼らにとって理想に近い環境で、まさにチャンスがごろっごろ転がっている素敵空間だ。

 だから、ドーンの身に何かが起きればダイレクトに研究室に影響が出る。

 彼らにとっては居心地の良い研究室を守る為の行動と言う事なのだろうが、それでも研究者気質を持った彼らにそう思ってもらえる事は悪くないとドーンは思う。

 一つだけ訂正をすれば、彼らは決して研究と言う心惹かれる素材が無ければ。こんな広くもなく薄暗い部屋で一日中篭りっぱなしになどなりたくはないのだが。

「お茶」

「手伝おうか?」

「外」

 ドーンの言葉に、手伝いを申し出た研究者は残念そうな顔を隠さなかった。

 彼らは確かにドーンのおかげで素敵な研究室で好きな研究をする権限を与えられて、そういう意味からすればドーンを尊敬もするし好意的ではあるが……だからと言って、この部屋から出てまで仲がよいと思われたいわけではない。

 もし、ドーンがもっと社交的……レンの様な駄々漏れフェロモン系とまではいかなくても、一般的な。夜道に出会っても即効で逃げ帰りたいと思わない程度の社交性を身に着けていたのならば、少しは違ったのかも知れないとは思う。

 だが、現実問題としてドーンは学園一怪しい存在として不動の地位を確立している……これが本人の意図するところであるならば「どんな趣味だ」と突っ込みの一つや二つしたくなるし、実際に本人にはいえなくてもレンを相手に「どうなってるの?」と聞いた人が皆無ではない……が、その理由が明らかになっていないという事は。

 つまり……そういうことなのだろう。

「後で」

 扉を空ける直前、ドーンはそう言った。


研究室には色んな学校の色んな専門分野の人達がいます。

あまり公になっていなけれど職員や一般人などもいます。

門戸が無駄に広いという意味では人気がありますが、学園都市一うさんくさいので実際に来る人は多くありません。ちなみに、女の子もいます。


※ 忘れていましたが誤字脱字の習性じゃない修正を行いました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ