28 真打でなくても後から来る者はいる
学園都市に在籍している人の大部分は個性的です。
ギルドの関係者となると超個性的の集合的です。
ギルド所属でもアインスはレンにしこたまボコられる程度ですが、彼もクラスとか一般的な中ではマイペース・マイウェイな方です。
と言うわけで、ギルドの上位ランク者も個性的な人達です。どちらかと言えば「超」が着くほど個別主義ですが、だからと言って人間関係が冷たいってほどではないです。単に、共闘したり共同戦線するだけの「理由」がないだけです。
え、僕の実の姉兄の関係性は関係ないですよ、本当。
ないったらないですってば。
表向きはともかく、『女中王』と呼ばれた外見ミス・オールドミスは内心こう思った。
「なんて面倒くさい」
聞かれないし、言う義務もないので口にこそ出す事はないが仕事でなければあっさりと「なかったこと」にして逃亡をしても許されるだろう。むしろ自分自身が誰よりも許す、と思う。
無論、今の状況は仕事なので実行する気は毛頭ないが。
そういう意味から考えたら、この状況の渦中に問答無用で放り出されている『夜明』と言う存在はもしかしなくても学園都市一に不憫で、哀れで、素晴らしいのではないかと言う気が思い切りする。
少なくとも、こんな状況に放り出されたら三日も持たない。仕事でも持たない。
ましてや、いかに家庭の事情であるとは言っても状況に対して逃げ出す事もせずに過ごしてきたと言うだけで『女中王』にとって元々低くはなかった評価は『夜明』に対して格段に上がる。
無論、学園都市一の変人としての名を欲しいままにしている『夜明』は性格も言動にも難はある。その場では理解出来ない事も多々あるが、結果として後にそれが周囲にとって役に立ったり「そういう事だったのか」と認識する事が出来る事も一度や二度ではなかった。しかも、本人はそれを他人に対して恩着せがましくさせるでもなく、諭すでもなく、ただ淡々と「やるべき事をやりましたが何か」とばかりに、一種の孤高を貫いている様に見えるのだ。当然、その言動を自分達の都合の良い様にしか取らない輩は存在するし良し悪しの中で利用するだけ利用する者も存在する。けれど、それにだって何一つ反応しない。
時折、何故かそう言う行動をした者に対して何らかの「現象」が起きるのは天の采配だとギルドのこっそり流れている噂の一つだ。
ふと『女中王』が視線を向けると。
本来、ここには居てはならぬはずの一般生徒のレン・ブランドンが『夜明』に張り付き。
レン・ブランドンに言い寄っているのは恐らく現状の置かれた立場をすっかり忘れたのだろうと思われるキャスレーヌが、どうやら混乱しながらドーンにけちをつけながらレンに言い訳をしており。
とうのドーンと言えば、通常運行とばかりに無言で立ち尽くしている。
あまりにも、混沌とした状況だ。
少なくとも『女中王』はこの三人に近づきたいとは思わない。が、だからと言って放置して置いた所で状況も話も続くわけでもないので頭痛を覚えて仕方がない。
「『女中王』」
珍しく、ドーンが小さいが声を上げた。
レンは聞こえたらしく目を剥き、キャスレーヌは聞こえなかったみたいで一人で何かを喚いている様に見える。まあ、聞こえていて記憶から削除した可能性はあるが。
そして、当の『女中王』本人も驚いた。
ある程度の術に心得があれば、ドーンの様に特に口を利かないようにしていたり事情があって口を利けない人との意志を疎通させる様な事は出来るものだ。故に、それで特に不便がない人にはそのまま続ける人も少なくはない。なのに、あえてここで口を開いた。
これに、意味がないと思うのはなかなか豪胆な考えだろう。
「すまない」
これには、言われた『女中王』は外見はともかく内心は果てしなく混乱していた。
一体、ドーンの身に何があったと言うのか。
心当たりは幾らでもある、本来この場にいてはならない人物がいたり。その人物が居る事によってこちらの状況を力づくで変わる事が簡単に予測出来てしまうとか。
「この件に関しては報告させていただきます……少なくとも『夜明』あなたの責任下において動いてください」
一体、それ以外に『女中王』に何をいう事が出来ただろう?
考えても、幾つか想像は出来たけれど実際には無理だと判断をした以上は無難な事しか口に出来なかったに過ぎない。
「承知」
「ちょっと待って下さい!」
ドーン本人にはその意味が通じたのだろうが、その背後におんぶお化けよろしく引っ付いているレンには意図が伝わらなかったのか即効で反応されたのは舌打ちしたい衝動にかられていた。
このガキ、人が仕事中だってわかってんのか?
もしかしたら、ドーンを挟んで人に擦り寄ろうとして回避されているキャスレーヌの事もあるのだろうが。
『女中王』にしては珍しく、表面にいらいらと悪意が浮かび上がりそうな気がして戸惑う。
普通、学園都市一のモテ男のレン・ブランドンを相手にしたらキャスレーヌのようにきゃあきゃあ騒いで何をしても「仕方ないわねえ」と頬を赤らめて許してしまうものだ。昔から数こそ少ないけれど、男にもそう言う輩はいたりする……昔より表立ってそう言う人物がクラスメイト以外には増えてきた気がしないでもない。
けれど、中には稀にレンの魅力が通じない人と言うのも存在する。
筆頭としてはドーンが上げられるが、ドーンに関して言えば幼い頃から共にしてるから慣れていると言う見方も出来てしまう。
「ドーンは悪くないんです、押しかけた僕が……!」
「レン・ブランドン君を悪く言うなんて、なんて女なの! 恥ずかしい二つ名持ちの癖して次期公爵たるレン・ブランドン君になんたる非礼をするのよ、信じられない!」
信じられないのはオマエだ!
顔にはぴくりとも動きはなかった筈だが、何かを感じたのかドーンの視線を『女中王』は感じた。
ここで、安心させるように微笑んだりすると言うのも一つの手段なのかも知れないがドーンにも『女中王』にも柄ではない。
「いい加減になさい、マルグリット・キャスレーヌ。
上級ギルド権限の執行、『女中王』の名に置いて命じます」
言いながら『女中王』は懐から一枚の札を出し、言葉と共に光り輝く札を掲げながら続ける。
「『汝のなすべき事を成せ』」
どう言った効果なのか、キャスレーヌは札と同等の光に包まれてから強制的に体を引き剥がされ、そのまま一定の距離を開かされていた。何故強制かと言えば、その顔が苦痛に歪んでドーンを憎々しげに見つめているのだ。
ここでドーンを見つめているのは、単に日ごろの恨みつらみとかがあるからだろう。もしくは、全身を強制的に引っぺがされているので首を横に向かわせるだけの労力が使えないかのいずれかだ。
「あと……レン・ブランドン君については今のとおりです。理由はどうあれ『夜明』は一般市民に過ぎない貴方をここまで連れてきてしまった事実は報告の義務が生じます」
ここで「一般市民に過ぎない」と強調したのは、レンの背後の関係は何の意味をこの場では持たない事を意識しての事だ。仮に、レンがその事を現時点で重々承知していたとしても何の力もない事を意識させなければならない。権力を持つ者は大体が勘違いしてしまう事も大いにあるが、権力があれば何でも思うとおりに行くと思い込んでしまう事は往々にしてあるのだ。
その事を『女中王』はいっそ哀れだとすら思うけれど。
だからと言って、それだけの話だ。
恨みもつらみもない、憎しみもない。
「でも……心配だったんだ」
「貴方が心配、ですか……笑わせてくれますね」
善人であるが故のエゴ。
『女中王』はそう思った。
ギルドの上級職と言うのは、その程度だと思われていると言う見方もある。
しかし、実情は少し違う。
だが、レンの思惑も『女中王』の思惑もお互いはお互いを知らない。
双方を知っているのはドーンただ一人だけだが、ドーンもその事に気が付いてるものの何かを口に仕様とは思わない。言った所で意味がないというのもある。
「とりあえず、今は貴方に関わっていられるほど時間がありません。
キャスレーヌ、確かに札は貴方の行動を強制するものではありますが精神状態までは安定して貰えるものではありません。
判っていると思いますが、貴方が術に成功しても失敗しても、私達には影響が……『夜明』?」
「ドーン!」
またか。
そうは思うものの、突然走り出したドーンを相手に『女中王』はちらりと札が作用している事を確認する。
札は「作業を始めた対象者が一定の効果を出す」までは効果を持続する。もし、今のままで心を乱してドーンへの嫉妬心だけで効果に逆らい続けていれば、いずれ札の効果かキャスレーヌの体力のいずれかがつきるまでは今の状態のままだろう。
「仕方がありませんね……」
滑らかに、すべる様に走り出したドーンとは違ってレンの走り方は粗野と言うべきかも知れない。だが、相手は別に「そう言う事」を求められていると言うわけではないのだから顔をしかめる様な事はしない。
仮に『女中王』がよく要請される「行儀作法」の最中だとしたら、恐らくは減点対象となるだろうが。
「お待ちなさい、レン・ブランドン君」
後方からキャスレーヌだと思われるきーきーとが成り立てる声が聞こえたような気はしたが、幸か不幸か『女中王』とドーンに与えられた任務は「調査」であって「護衛」ではない。ギルドからの依頼には非公式的に「出来たら彼女は無傷で返してくれるといいなあ」と言う感じのニュアンスも確かにあったけれど、ギルドにしてみれば出来たら幸運程度の事くらいしか思ってはいないだろう。確かに、キャスレーヌの様に「解析」に情熱を燃やす者は数こそ多くはないのだから、ある程度の実力がある人材を見捨てるのは後々を考えると面倒くさい程度の事は思うだろう。それでも、本人のここ暫くの言動から考えて「別になくてもいいか」程度の解釈になったと思われるのは致し方ないと思われる。
多少の実力程度では、本人の資質を陥れる様な言動をする者の為にギルドの足を引っ張るような存在を必要だとは思わないのは、別にギルドでなくてもよくある事だ。
「……出来たら、いい加減にしてもらえると嬉しいのですが」
逆を言えば、ドーンの様に表立ってさえいなくても功績を認められているのであればギルドは擁護する気まんまんなのだ。
現時点おいては、ギルドの天秤はどう見てもドーンに傾いている。
今回の仕事の成果次第では、その天秤がひっくり返る可能性だとてあるし事実を隠し立てもしてはいないのだが……キャスレーヌの反応を見るだに想像もしていないだろう。
けれど、目の前の光景は『女中王』にとって頭痛しか呼び起こさないものだ。
この情景も報告しなければならないのかと思うと、どうして今まで誰も何も言わなかったのか。いな、逆を言えば恐らく誰も報告できなかったのだろうと想像する。
間違っていないだろう、きっと。
目の前の現実を拒否したくて、けれど出来なくて。今までのドーンの評判を考えれば、そうなった人達の気持ちも想像がつかないとは言わないが……。
「え、何か言いました?」
「……『夜明』この状況の説明をお願いします」
棒の様に突き立った毛布の様な物体に、絡みつくかのごとく抱きついている美男子。
目の前の光景は、確かに言語にするのならばそれだけの状況だ。頭痛がする。
ドーンは手を目の前に突き出しているらしく、その手には魔力が集っているらしい事が感じ取れる。
「『解除』」
まるで人の話を聞いていないかの様に紡ぎ出された言葉は、その余裕がなかったのだろう。
虚空に向けられると言うよりは目の前に差し出された手の先にあったのは、まるで水面に一滴落とされた色つきの水のように空気が震え。
そして。
横たわる人が。
いた。
『女中王』が使っているのは魔法と言うより、呪符とか呪布とか呼ばれるものです。登録された使用者が明記された権限を執行したりとか、簡単な明かりの魔法くらいだったら一般的に使われている一回こっきりの使い捨てです。でもギルドの支給品は似たような内容のものがあったとしても全然効力が違います。
作中で『夜明』と何度も出てくるのは、メインが『女中王』の内心だからです。
ドーンがラストでやっているのは、某アニメのATフィールドの相互干渉→反転を連想していただければ想像しやすいかと思われます。実はこれ……。
と言うわけで、今回の一言はマリア<姉御>ビルカ嬢です。
「いいこと! 男だろうが女だろうが本気で相手を落とすには胃袋をつかむのが一番の早道。グルメな男は経済にも通じるって所は試験に出るからね!」
試験って……?
2012-10-14:一部文字及び単語の改定を行いました。




