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27 思えば遠くへ来たのかな

『女中王』VSマルグリット・キャスレーヌ。

ドーンは完全に超空気。

言うまでもないこの対戦カードの行く末は……。


ま、皆様の想像通りですよね。


前の話で情報ギルドが情報を仕入れてきたのは、現代社会におけるスパイカメラの様なものを展開させていたからです。だから、ある程度の情報は入ってきました。

アインスが「場所は遠い」と言っていたのはその為です。

疑問に持った人っているんですかね?


 道中は、別に対して面白くも楽しくもないと言うのは判っていた。

 キャスレーヌはずっとヒステリックに怒鳴り続けていた為にのどを痛めたらしく、暫くすると声が聞こえなくなった。振り返る事もなく、二人は気配に距離が開いたのを感じて「流石に荒野にピンヒールはね」とどちらともなく思ったのは言うまでもないだろう。

 加えて、現場に近づく度に強くなるぴりぴりとした波動を感じる。

 波動と言っても正確には違うのだろうが、例えば水面に沸き立つ波紋が空気中に広がる感じとでも言えば想像がつくだろうか?

 それが、水面ならば小さなものではあるが前進にぴりっと感じる。しかも、断続的に。

 正直な話、これがよくある事ならばともかく慣れない感覚には辟易すると言うものではあるが、ドーンも『女中王』もそれぞれ意匠を凝らした製品を身に着けていると言う訳ではない。ぱっと見ただけでは別に、入手困難と言う風には見えないが見た目で判断するのがおかしいのは言うまでもない。。

 要するに、二人はファッション性よりも実を取ったと言うだけの話であり。

 キャスレーヌは、こんな事態を想定していなかっただけの話と言う事になる。

 確かに、普通に考えればキャスレーヌの様な上級でもない存在に緊急招集がかかる方が珍しいのだから同情の余地が皆無と言うわけではないが、教職員としてはそれは少しではなく問題だ。そもそも、緊急時用の支給品だってある筈なのに事もあろうに生活に困って売払ったと告げられた時には学園都市理事会から派遣された者とギルドから派遣された者は揃ってため息をつきたくなったと言うのだから無理もない。

 実際、行動に移さなかっただけでほとんどの者は同意権だったのだ。


 まぢか、このアマ


 同時にドーンと『女中王』のいずれかは思ったのだろう……「まあ、こんな事もあるし。こんな人だって世の中には存在する」と。

 そもそも、緊急時用の支給品のほとんどは毎年使用期限が残っていても支給される。多くは災害時の避難用の物だったりするがギルド関係者しか使えない様なものだとて存在する。しかし、ギルドにしてみれば緊急時が起きて支給品が突発的に使えなくなっていたら困る関係で使用期限が残っていても新しく支給するのが基本の慣わしだ。使用期限さえきてしまえば、それらの品々は単なる置物だったり紙っぺらだったり布だったりになってしまうのだから、そうなったら廃棄処分しか使い道はない。

 なので、上級の者でも幾つかの品々を残してお小遣いに当てることも決して珍しい事ではない。ないのだが……流石に生活に困窮して所持品のほとんどを売払っていたとは思わないのが普通だろう。

 だが、それでもやるのがキャスレーヌ。

 彼女もまた、恋する乙女の一人なのは違いないのだから。

「どうかしましたか、『夜明』? 何か異変でも?」

 流石に「解析」の使い手を完全に放り出すわけにも行かず、最初からトップスピードを出しているわけではなかったが速度を低下させた事で『女中王』には余裕が出来たのだろう。一種不快にも感じるだろう感覚は断続的にまだ襲ってくるものの、かと言って慣れれば何とかやり過ごす手段を勝手に構築するのが人類と言うものだ。

「……それは、まあ。そうですね、ずいぶんとトウの立った乙女だと言いますが」

 キャスレーヌの実年齢など知る必要はない。知る必要があれば当の昔に調べているだろうし、別に大した情報ではない。その気になれば学園都市の教職員には年端の行かない子供から死に掛けた老人、政治家からおばちゃんまで多種多様に分かれているのだから。

「仕事に私情を持ち込む時点で『乙女』だと認識してよいのかも、個人的には判りかねます。

 全世界の乙女の皆様には大変無礼である事が否めないのは、確かですが」

 この場合、乙女=子供と言う認識になっているのは言うまでもないだろう。

 つまり『女中王』はドーンが何らかの手段を用いて「恋する乙女は可愛らしいね、甘い砂糖菓子の様な夢見がちで羨ましい限りだ」とでも告げた事に対して、やはり何らかの手段を用いて読み取ったのだろう。もしかしたら、勝手にドーンの声ならぬ声を拾ったりしたのかも知れない。

「はっきり『ガキ』とか『屑』とか申し上げても宜しいのは確かですが、アレでもまだ人の子を教える立場です。教えられるお子達の哀れさを思うと、今から落とし込むには少々心苦しさを覚えます」

 あくまでも、恋に狂った女を哀れむ事はないと言い切るあたり『女中王』の潔さが垣間見える。と言うより、隠す気はさらさらないようだ。

「第一、あの程度に人生を狂わされている時点で教職員としての評価はいかがなものかと……あくまでも私権と言う事ですが……ああ、ありがとうございます。そうなんですか」

「な、何を独り言を言ってるのよ、あんた……怖いわよ!」

 先程より、遥かに疲労が見えるのは当然かも知れない。

 道は確かに道として存在しているが、学園都市と言えど城壁の外側まで完全整備されているわけではない。特に、境界線ぎりぎりの区域は一歩外れれば学園都市がわざわざ保存管理までしている自然環境が整っているのだから道路だって舗装されていると言うわけではないし、公共機関だってここまでは通っていない。

 仮に授業の一環で来るのならば学園都市の移動用の道具で様々なものは用意される。先程の一時指揮所的な簡易拠点も学園都市からの支給の一つで、あの場所までは関係者は全て運んでもらったのだが現場の最先端まで運んでもらえると言うわけではない。

 斥候と見張りを兼ね揃えているだけあって、この三人と言う人数は最低ラインだ。

 通常の冒険であるならば単独や二人組みと言うのも珍しくはないが、こう言う機関からの要請を受ける場合は諸々の状況を想定しているが故の三人。その為の人員であり、当然要請した側も人員の実力は把握している。

 ただ、キャスレーヌがドーンと『女中王』の実力を知っているかと言えば噂に上っていればともかく。自分自身で調べ上げようと思わない限りは難しいし、何よりキャスレーヌの実力では二人ほど相手の情報を得るのは難しいのがギルドと言うものだ。

「では、そろそろ参りますか……」

 別に座っていたわけではないが、立ち止まっていた分だけドーンも『女中王』も体力を回復させたと言う事なのだろう。もっとも、傍目には疲れた様子は全く見られないが。

「ちょっと待ちなさいよ! 貴方達は休んでいたから良いでしょうけど、私を労わりなさい。私を!」

「何故です」

「何故って……このパーティのリーダーは私! このパーティの要は私よ! それなのに労わる事もしない、休ませもしないで「解析」をしろとでも言うの!」

「仕事ですから」

 さらりと言う『女中王』の言葉は、あまりにも当然過ぎてキャスレーヌは絶句する。

 確かに、『女中王』の言っている事は正しい。いかに緊急招集がかけられたとは言っても上級でもないキャスレーヌはギルドや学園都市理事会から、きちんとした説明をされた筈だ。これが上級者ともなると事件の概要と簡単な依頼内容だけを知らされてほとんどが独自の判断を求められるのだから、なかなかに狐と狸の化かしあいにまで発展する。

「あなた……待ちなさい、二人とも!」

「待ちました」

「……よ、ようやくこの私の偉大さに気がつい……!」

「どうやら、あちらの様ですね」

 独壇場を形成してリーダーシップをとりたかったのか、それとも単なる教職についている者としての性なのかは判らないがは判らない。が、ほうほうのていで追いついた「洗練された都会の美女」をコンセプトにしている筈のキャスレーヌも荒野に近い郊外では「ただいま逃亡中」と言った感じだ。

 さしずめ、追いかけてくるのは借金取りだろうかと邪推したくなるほどの様子だ。

「ひどい有様ね……聞いていたより酷いのかしら?」

 流石の『女中王』も「それを調べるのが貴方の仕事です」とまでは言わなかったのは空気が読めるからだ。

 ただし、ドーンが何も言葉にしなかったのは通常運行だからなのは言うまでもない。

「ちょっと、どこに行くのよ。貴方達は私の下僕兼盾が仕事なのよ!」

 僅かに浮上したのか、キャスレーヌに声に多少の張りが出てきている様な感じがする。

 無論、まだまだ先が見えない距離をピンヒールで舗装もされていない道を歩くのと。多少は距離がありそうだが仕事を始めるだけの場所に近づいた様な気がしたのであれば確実に後者の方が気持ちは高揚するだろう。

「言葉が過ぎますよ、二つ名も持たない一教師ごときが私達ギルドの上位者に対して命令できるとでも思っているのですか。勘違いも甚だしい。

 先に言っておきますが、私達は貴方の生死については言明をうけていません。つまり、貴方が貴方の職務を放棄して尊大になると言うのであれば見捨てたところで私達には何ら問題がないのです」

「な……「解析」を行えるのは私だけなのよ!」

「だから、なんです」

 最初に会ったときと同じ、デッキブラシを手にしてこちらをひたと見据えてくる姿は感情の篭らない表情だ。

 構えすらしないでこちらを見据えているのは戦う意思がないと言う表れではあるが、まったく感情を乗せない小さな眼鏡の奥からじっと見つめられるのも怖い。

 例えば、好意を受ければたいていの人は悪い気はしないだろう。恐怖心の目で見つめられても少々困るかも知れないが理由さえ判れば、大した問題ではない。蔑んだ目で見られたとしても、対処方法さえ模索出来れば気持ちとしてはかなり楽だ……が、こう言う目で見られると言うのはあまり経験がない。

 興味のない目をされると言う事は、嫌悪すらされていないと言う事。

「な……!」

「説明されたでしょう、私達の邪魔をするなと。

 その時点で、貴方に私達を使うですか……出来るとでも思ってるんですか? 本気で?」

 僅かも動かなかった表情が、やはり僅かも動くことはない。

 『女中王』は、あまりにも冷静だ。冷静すぎると言っても良いのは髪の毛一筋も見られないからというのもある。

 替わりとばかりに、キャスレーヌは顔を真っ赤にしている。常の洗練された都会の女を意識した格好はずたぼろだし、ピンヒールは見なくても靴底はぼろぼろだろう。汗をかいて落ちまくっている化粧も、感情に任せたせいかぼさぼさになっている髪形も、風に晒されてどこか薄汚れた感のある服装も常とは全く異なる。

 唯一、風上に立つ事があれば鼻が曲がるかと思うほど強くにおってくる香水だけは変わらないかも知れないが。

「……無駄話は止めましょう。貴方には判らないでしょうが何者かが……まったく、無駄な話をしているから『夜明』が先行してしまったではありませんか」

 やれやれと言った風に片手で額を押さえ、軽く疲れたように首を振る仕草。

 まるで、駄々っ子を相手にして困り果てた女教師であるかの様に見えなくもない。

「いつのまに……どう言う事!」

「人の話はお聞きなさい、貴方は貴方のなすべき事をなさい。

 それとも、その程度の事も出来ないとかおっしゃるのであれば今すぐ帰りなさい」

 心底うんざりした顔をされて、キャスレーヌの我慢の限界は当の昔に切れていた。

 日常的に「教師」として「生徒」の相手をしている事が普通だったから、外の世界で依頼を受けたりして世間を見る事もなかったから。

 そうかも知れない。

 少なくとも、キャスレーヌの人生は3行で終わるようなものではないと思っているのは当の本人だけと言えた。

 ただ、残念な事に本人だけがその事実を知らない。


見た目が30代前後のキャスレーヌと、見た目だけなら50代と言っても疑問がない『女中王』ですが、当然の事ながら二人とも見た目どおりの年齢ではありません。

この二人の過去も色々とあったりするのですが……そのあたりは機会があればいずれ。


と言うわけで、今回は冒険者ギルドの長から一言。

「あの後大変だったんだけど、今も大変なんだよ~」

ノリの軽い口調ですがロマンスグレーの独身貴族。でも表向きはスマートなので評判は良い人です。商工ギルドの長とは10歳くらい年齢が離れています。

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